3、パーティーの醍醐味
…疲れた。なんていうか、精神的にも身体的にも疲れた気がする。会場に掛けられた大きな時計を見てみると、まだ二十分くらいしか経っていない。解せぬ。もう、なんなんだ。…これも全て女王様がいけないん…
「ごふっ」
次の瞬間、僕の口にサーモンとグラティナスソースのサラダ~甘エビを添えて~という非常に長い名前の料理が突っ込まれる。
「もがもがもが…ごくん」
僕は嚥下する。僕の記憶によれば、この動作をしたのは大体十回目だったはずだ。
「ほらカシ!今度はあれが美味そうだぞ!」
女王様が僕の手を引っ張っていった先は、こってり系の肉料理だった。料理の名前をチラッと見てみると、サステムティジニーという謎の名前。…これ、大丈夫だよね……?
「んぐっ」
「もがもがもが…ごくん」
ああもう、だからいい加減僕にエサを与えるのをやめてえ…!謝るから!ごめんなさぁい!お願いしますぅ!
「…あの平民、なんだ?」
「しっ、確か、女王様の新しい側近よ」
「は?あのあいつが?」
「…うん、まあ、そうなるわよね」
ほらぁ!なんかひそひそと怪しまれてるじゃないですか!!ちょっと女王様!なんとかしてくださいよ!ロイヤルスマイルとかで!ロイヤルスマイルとかで!!
「もがもぐ…じょうほふはま、そほそろ、はめへ…」
「…はっ?!…ご、ごほん。すまんな。ちょっと興奮してしまった。後、私のことはアルラ様と呼べ」
ちょっとどころじゃない勢いで僕にエサ与え続けてましたよね女王様。
「げほっ、ごほっ…み、水……」
エサが与えられなくなった今、僕はよろよろとよろめき、近くのテーブルの端に弱々しく手をつく。僕が水を求めて右手をぎこちなく上げると、女王様がすぐにカップを手渡してくれた。軽く咳き込みながら水を飲み干すと、視界が少しクラクラしていることに気付いた。
「女王s…アルラ様、さっき僕に与えられたエサ…げふん、料理の中にお酒って入ってまひたかぁ?」
う、噛んだ。当てずっぽうだ。ただ、何となくそうかもしれないな~と思っただけだ。すると、女王様はついと目をそらす。
「入ってたんですね!?」
「……あ、ああ。すまん、カシは酒を口にするのは始めてだったんだな」なんということだ。僕は、知らず知らずのうちにお酒デビューをしてしまったのだ。…こうして、大人へと成長してゆくのだな。すいません調子に乗りました、なんか軽くクラクラします。ついでに頭が重くなった気がするし、舌が口に軽く張り付いた感覚がする。
「…じょ…アルラ様ぁ、なんかちょっとクラクラするんですけどぉ」
女王様はにへっと笑い、僕に言った。
「酔ったんじゃないか?」
「えぇっ…。ちなみにぃ、お酒の量はぁ、……」
「ほんの五㍉位らしい」
「……僕ぅ、お酒弱すぎぃ…………」
あまりの自分のお酒への弱さに軽く眩暈を覚えていると(そもそも元々眩暈を覚えてるのだけど)、女王様がそれはそれは爽やかで嫌な予感がする笑顔を浮かべ、僕に告げた。
「ところで、カシはダンスはしないのか?」
「い、いぇ、でひないのでぇ」
お酒が回ってきたのか呂律が回らなくなってきた舌でなんとか言うと、女王様は
「私が教えながらなら大丈夫だろう?」
などというとんでもないことを言ってきた。
「…ぇ?」
「ダンスは、パーティーの醍醐味だろう?楽しむなら、やっぱりダンスだ」
女王様は、それはそれは楽しそうに言い切った。女王様はダンスがとても好きなのだろう。魔王にさせられた期間は一人だからダンスを出来なかったのだろう。ただ。女王様よ、忘れてない?僕、今酔ってる。%$/storage/emulated/0/NovelNote.sn.jp/images/20200325150341122$
女王様は僕の手を引っ張って会場の真ん中に僕を引きずっていった。あー、千切れそう。僕の腕、千切れそう。助けてぇ。…あれぇ?なんでだろ、いろんな人が僕を見てる。
「じゃ、まずは手の基本位置だ」
女王様はそう言って僕の右手を女王様の左肩に載せさせた。僕の左手を女王様の腰に近づけさせられそうだったため、急いで引っ込めた。
「…どうした?」
「シェクハラでしゅし」
僕がそう言うと、女王様は何故か吹き出した。
「…ぷっ。まあ、こうゆう型なのだ。私は大丈夫だから、心配せずに私の腰に当ててくれ」
「…?」
なんかよく分からないけど、女王様は僕にセクハラされたいのかな?
「過度のシュキンシップはぁいけにゃいとぉお母しゃんに言われてますけどぉ、何やらうとしてるんでふきゃ?」
あっ、やばい、呂律が回らな過ぎて噛んだ。しかも噛んだの口内と舌、同時にどっちもだし。痛い。めっちゃ痛い。
噛んだ瞬間、酔いが覚めた。どんだけ軽い衝撃で酔いが覚めんだよって話だけど、事実だからしょうがない。
「…はっ!じょ、アルラ様、今僕…」
「あ、すまん、カシは酔っていたな」
「忘れてたんですか?!」
「無視していた」
「酷い!」
女王様の無責任な発言に軽くショックを覚える。ま、まあ、女王様ならしょうがないよね(?)、うん。
すると女王様が僕の手をとり、
「では、酔いも覚めたことだし改めて」
と僕に言った。
………。
「左手はここに、右手はここに。ワルツでもなんでも大体基本この手の位置は変わらないからな。それでステップは、私と合わせて。ゆっくり、はい、一、二、三、四、二、二、三、四、…やはり少しぎこちないな。まあこれは慣れだからな。あっ、カシ、姿勢を崩すな!ピシッとな。ピシッと。そうそう、そんな感じだ。いいじゃないか、結構様になっているぞ、カシ」
それから、女王様の猛烈なダンスレッスンが始まったのは言うまでもないことで、それからしばらく、パーティー会場には僕の悲鳴が鳴り響いた。