2、レッツパーティー
僕は女王様の側近とのことで、舞踏会の方へ行くことになった。なぜだ。女王様はパーティー用のドレスに着替えるから、先に楽しんでおけと僕に言って去っていった。なぜだ。僕は少しでも貴族っぽくなるように、女王様が僕に見合う上着を探して着せてくれた。なぜだ。ちなみに貴族のことを僕や一部の平民は知らなかった。まあ、あんなに好き勝手に「絶対王権なのじゃ!ひゃっひゃっ!」って言ってたら、税を取り立てる位の貴族なんてのよりも、王様を恨むよな。あの人達、貴族だったんだ。というのも、本来の貴族は女王様の家来として領地を治める人や王族の家臣のことで、暫くあのニセ王様の尻にしかれ、税を取り立てるマシンとしてしか使われないというその頃の平民と同じかそれ以上の辛い状態にあったらしい。
「おい、お前、どけ」
ふと、頭上から声が聞こえた。
「なんでしょう?」
見てみると、髪をぼさぼさに生やしたおじさんが。ただ、ぴっちりとした紺をベースにした少々高級そうな服を着こなして、胸元に薄い紫色の地のネクタイをしめているから、一応貴族なんだろう。あ、顔見えた。…くそ、イケメンだ。そいつは、いかーにも嫌そうな顔をして、僕を見ている。多分、なんでこんなザ・平民な僕がここにいるのか分からないのだろう。うん、僕も。
「なんでしょう?じゃねえよ。平民は広場に行け」
そうぼさイケが僕に言ったところで、新たな貴族が現れた。今度はさっきのぼさイケとは正反対に、髪をぴちっとワックスか何かで固めてあるような…イケメンだ。こちらの貴族さんは琥珀色のフレームのメガネをかけ、オレンジ色のタキシードを着こなしている。ふむ、知的なイケメンか。…って、分析してんじゃない!自分!くそっ、なんなん?!なぜ、なぜこうもイケメンぞろいなんだ?!
「おい、やめとけ」
「は?」
んん、どうした?ワックスイケメンがぼさぼさイケメンに…肩にチョォーーーーップ?!?!?えっ、何?僕、何見せられてんの?!
「うおっ?!ぃってえ…!…お前、王がいなくなったとたんにSが戻ったな?!」
…最後の一言は、聞かなかったことにしよう。
「こいつは、女王様の新しい側近になった勇者だぞ。こんな所見られたら、無礼罪として処罰が下っても不自然じゃない」
えっ?!待って待って、僕ってそういう扱いなの?!ていうか無礼罪って、ちょっかい出されただけで大げさじゃね??
「っ、嘘だろ?!」
「本当だ」
「いや、そういうことを言ってるんじゃなくて、コイツが??新しい側近???しかも元勇者?????」
うん、疑問に思うだろう。僕も。て言うか、言い方が大袈裟じゃなあ。疑問符が大量だ。まあ、気持ちは分かるつもりだ、名も知らぬぼさイケ貴族よ。
「…まあ、そうならしょうがないか……」
そう言うと、ぼさイケ貴族は釈然としない顔で去っていった。さらばである。
ぼさイケ貴族を見送ると、僕は改めてこの御披露目──貴族パーティーを見回した。やっぱり貴族だけあって、平民でしかもその中でもある意味最底辺だった僕には、凄く煌めいて眩しい世界だ。フリルがふんだんに使われながらもシンプルさを留めているドレスや、あんな豪華なスーツがあるのかと思う洋服が、舞い、絡み合い、鮮やかな旋律を創りあげている。天井には蝋燭の光を反射して、見事に広い会場全体を明るく照らすシャンデリアが鎮座していた。綺麗に掃除されて広い会場の上で視線を動かす度に視界のどこかで貴族達がダンスをし、ワインを飲み、見たことのない料理を口に運ぶ。
僕は圧巻され、軽くよろめいた。
「どうだ、楽しんでいるか?」
振り向くと、女王様が先程のベージュ色のドレスとは一変した真っ赤なドレスをその細い身に纏って立っていた。
「…楽しんでいるもなにも、僕には敷居が高すぎて参加することが難しいです」
「はっはっは、そうか。では、カシ、今すぐ貴族の礼儀作法や王族の礼儀作法を叩き込まなければな」
「えっ、ちょっ、マジですか?!」
「冗談だ」
「…ほっ。てか冗談なんですね?!心臓に悪いですよ?!」
「本当にやった方が良かったか?」
「…できれば止めていただけると」
「ふふ、まあそうなるな」
僕が一通りつっこんで息切れしていると、女王様がぽろりとこぼした。
「…まあ明日から叩き込む事になりそうだな」
「ちょっと今聞き捨てなりませんねぇ?!」
いやまあ、早めに覚えた方が僕も貴族になることなんだし、しょうがないんだろうけど。やばいよ、僕、自分の体が心配になってきた。貴族の礼儀作法とか、勇者時代(時代って言っても最近だけど)の僕の特訓より大変そう…主に精神が。小さい頃お母さんからちらりと聞いた話だと、椅子の背にナイフの刃を寄っ掛かったら刺さるようにセットするって言ってたし…。怖い。やばい、めっちゃ怖い。まあ、しょうがないことなんだろうけどね!しょうがないことなんだろうけどね!!
「まあまあ、ここにある食材はアイツから隠してきた貴族達のものだが、美味しいぞ」
そう言うと女王様は、近くにあった肉料理を持っていたトレーにとり、もぐもぐと咀嚼する。そして、フォークにもう一回刺し、僕に向けてにっこりと微笑んだ。えっ…?えっ…?
「いやいやいやいや!!!そそそそんな貴重なもの?!?!?!」
僕は動揺しながら赤面する。だ、だって、あれって…あーんだよね?赤ちゃんとか新婚カップルとかがやるあーんだよね?!?!
僕はズザザザザザと音が鳴る勢いで下がると、顔を真っ赤にして声を上ずらせて叫ぶ。
「いやあのっ、間に合ってるんでっ」
「?カシはあまり口にいれないものだと思っていたが、ダメだったか?」
そう言いしょぼんとする女王様。寝癖のようなぴょこんと出た癖毛が、しなりと下がって…ああっ、違うんです!ちょっと非リアには無理なんです!無理じゃないんですけど!
「えと、あのっ、じょじょ女王様が軽々しくそのっ…他の人にっ…あーんは……」
あまりの恥ずかしさに、僕の言葉は尻すぼみに。ああもうっ、何言わせるんですかぁ!
「…っ、ま、まあ、そうだな」
「自分でやったくせに何照れてんですか」
「ほら食え!カシ!お前は少し太りすぎだぁ!ダイエットしろ!ただこれは食えぇ!」
「むちゃくちゃですーーー!!!」