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無し

アザレア王国の城下町にその店はあった。

一番通りから少し外れた暗い路地裏で一つのランタンが店を照らす。まだ昼過ぎと言うのにその通りはやけに暗かった。店の前に立てられた看板に貼られた紙には掠れた筆文字で【武器売ります】とだけ書かれている。

重厚な木の扉を開くと、チリンという音と共にふわりと花の匂いがした。何か香の物を焚いているのだろう。

左右にガラス張りのショーケースが並び、中には銃や刀剣等数々の武器が並んでいて、正面のカウンターには古びたキャッシュボックスだけが置かれていた。

カウンターの奥から大きな新聞紙がこちらを睨んでいる。

ふとその新聞紙が目を逸らしたかと思うと影からメガネを掛けた少女が現れた。

桃色の髪の毛をハーフアップに結び、赤色の目をこちらに向けている少女はひとこと「いらっしゃいませ」とだけ言ってすぐに目線を新聞紙に戻した。

あまり喋るのが好きではないらしい。しかし今日は武器を買いに来た訳ではない、お話に付き合ってもらわないといけないのだ。

「女王陛下からの使いである。店主、ハルカゼはいるか。」

そう尋ねると少女は再びこちらに目を向けると何も言わず奥の扉へ消えていった。

しばらくすると少女は杖をついた一人の老人を連れて戻ってきた。

その老人は杖こそついているが別段足が悪いわけではなく、背筋も伸びて、老人と認識させるのは白髪と少し老けた顔が頼りだった


「もう、そんな時期か」

老人が口を開いた。

「ええ」

相槌を打つと店主は頷き扉の奥へ案内してくれた。

部屋は質素だった。暖炉の前にロッキングチェアがあり、その横には木箱が1つ置かれていた。

そこから少し離れて座高の低い椅子とそれにあった机が鎮座している。4つある椅子の1つに座ると少女がお茶を持ってきてくれた。

「それでいつになるのだ」

対面して老人が座ると前触れもなくそう切り出した。

「明日には」

「早いな」

短絡的な情報のやり取りではあるがそれで伝わるだけの付き合いはある。老人の横に立つ少女は猫のようにどこか虚空を見つめている。

老人は少し目をふせると浅いため息をついてからやがて少女に目をやった。

「陽花莉、店を閉めてきなさい」

そう伝えると少女(陽花莉と言うらしい)は小さく頷き来た道を戻っていった。

「彼女が?」

私はそれを見送りながら聞いた。

「私よりも鋭い娘だ」少し自慢げにそう言った老人は口に笑みを浮かべた。

「親バカですな」

「かもしれんな」

そんな下らない会話をしてると扉が開き陽花莉が戻ってきた。と、そこで自己紹介がまだだったことに気づく。

それは老人も同じだったようで、こちらに手を向けたかと思うと私に変わって紹介をした。

「アザレア王国第二秘書室のニコラスだ」

老人の紹介を静かに聞いていた陽花莉はここで初めて声を発した。

「春風の娘、陽花莉です」

軽く会釈を交わす。初めて聞いた彼女の声は、静かな水の流れを想起させるような透明感のある声だった。

「それでは、行こうか」



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