6. 拷問器具調教
男が姉妹達を見つけたのは偶然であった。
刑を終えた男は監獄で知り合った仲間のつてをたどって奴隷商の雑用係として働いていた。
お世辞にもまっとうと呼べる職場ではなかったが、それでも元罪人というだけで雇ってもらえない状況においてましであった。
あるとき、運び込まれた新しい奴隷としてあの姉妹の姿を男は見てしまった。
「……きれいな娘たちですね。これは高そうだ」
「そうだな。双子の姉妹ということもあるから、こいつらはまとめたほうが付加価値もつけられるだろう。まあ、金貨で200枚といったところか。貴族にうらみのある商家ならもっとふっかけてもよさそうだ」
「オレには一生かけても拝めそうもない値段ですね」
元貴族令嬢として高値でさばけると奴隷商の男はうれしそうに笑う。
姉妹は自分達を値踏みする視線と、そしてやってくる未来に表情を暗くさせていた。
奴隷商が口にしたとおり子爵へ恨みをいだいているものは多く、男はそのうちの一人に話を通しにいった。
高利貸しを営むその男は、子爵の計画した新大陸への投資に一枚かんでいた。それなりの額を投資していたが、子爵の失敗によって大損をこうむった。
男が屋敷で働いていたことを話すと、二人はひとしきり領主への恨み言で盛り上がった。
そして、男は姉妹が奴隷として売りに出されていることを高利貸しへと教えた。
「その話、本当か!?」
男からもたらされた情報に、高利貸しは目の奥に暗い光を宿した。
そして、男は一つの提案を口にする。
『姉妹と生活を共にして、姉妹がだんだんと憎しみ合うように仕向ける』
それは、牢獄で考えていた復讐方法のひとつであった。
高利貸しはにやりとイタズラを思いついた子供のような笑みをうかべ、男の話に乗った。
高利貸しは姉妹を購入すると、計画に必要だという男の言葉に従い、生活のための屋敷と使用人も用意していく。
姉の待遇を良くし、そして妹に過酷な仕打ちを続ける。その格差によって次第に妹から姉への憎しみを引き出す、これが計画の内容の―――はずであった。
現在、男は路地裏にある石造りの建物を訪れていた。そこは計画の協力者である高利貸しの住まいであった。
年季を感じさせる重厚な机にどかりと足をのせた恰幅のいい男が高利貸しであった。男は葉巻の煙をうまそうに吸い込む。
「よう、おまえはいつも時間通りに来るから助かる」
「約束ですからね」
「契約は大事だからな。特に、借りた金を返そうともしないやつが俺の一番許せない人間だ」
男は定期的に計画の具合を報告するために高利貸しの下へと足を伸ばしていた。この日も高利貸しへと姉妹の様子を報告する。
「購入していただいた拷問器具はいい感じです。妹のシアに使っていますが、いい声で鳴いてますよ」
「ほう、それはいい。くくくっ、元貴族のお嬢様がいいざまだな。それで、姉との関係はどうだ?」
「それはもうひどいことになっています。二人の寝室を一緒にしているのですが、部屋の中からは苦痛の悲鳴が聞こえていますよ」
男の報告を聞いた高利貸しはますます気をよくしたように、すぱすぱと煙を吐き出す。
ウソはついていない。
拷問器具の中には苦痛だけを与えてなるべくケガをさせないように設計されていると、獄中の仲間から聞いた男はただ単に試してみたかっただけであった。
実際に改造して使ってみると、それはいい感じに筋肉に負荷を与えてくれ、男のお気に入りの道具となっていた。
「おまえに頼んだ1ヶ月もそろそろ終わりか。最後に、甘やかした姉のほうを俺がいたぶり、それを妹へと見せる。はははっ、実に楽しみだ」
甘やかされていた境遇から一転して絶望に叩き落された姉と、自分と同じところに堕ちた姉を見て暗く歪んだ笑みを浮かべる妹の姿が高利貸しの脳裏に浮かぶ。
高利貸しの高笑いが部屋に響く中、男も片頬を上げてにやりと皮肉げな笑みを浮かべた。