4. 姉妹いっしょに
夜中、寝室で寝ていた男はなにかの気配を感じとり目を覚ました。
明りを落とした部屋の中、扉がゆっくりと閉じられるところだった。暗闇になれない視界の中、月明りを頼りに侵入者の姿を探す。
長い髪をした女の姿していた。
男は薄目のまま寝ているふりをしながらその動向をうかがう。
女は忍び足でベッドの脇まで近づくと、じっと男を見下ろしためらうようにそっと手がのばされた。
「寝込みをおそうとはやるじゃないか」
「お、おきてたの!?」
細い手首をがっちりとつかみとると、侵入者の顔を拝見する。
唐突に起き上がった男に、驚愕を顔にはりつけたリアの顔がそこにあった。
「ち、ちがうの! 襲いにきたわけじゃなくて。ああ、でも、襲うってことになるのかな……」
「なにをぶつぶつと、この状況で言い逃れできるわけがないだろう。さて、どんな方法でオレを襲おうとしたか説明してみろ」
手首をつかんだまま部屋の隅においつめ詰問する。
リアは顔をうつむかせて黙っていたが、意を決したように男の顔をまっすぐに見た。
「あ、あんたの夜の相手をしにきたのよ! あんたを満足させるからシアに手をださないで!」
顔を赤くしながら一気に言い切ったリアの前で男の動きが止まる。しかし、数秒後、男は片頬を皮肉げに持ち上げる。
「ほう、おまえがねぇ」
すっと伸ばされた男が手がリアの顎にそえられる。ビクリと体をすくませたリアからは、指先を伝って細かい震え男に届いた。
そんな少女の様子を見ていた男は、つまらなそうに鼻をならすと解放する。
「部屋に戻れ」
「な、なによ。毎日、獣みたいにシアのことを弄んでるくせに……あたしが怖いの?」
「同じ事を二度言わせるな」
挑発にまったく応じる様子のない男に、リアは怒ったように乱暴に扉を閉めて出ていった。
朝になったが、いつもの時間になってもリアは姿を見せなかった。
「えっと、おねえちゃんはおなかが痛いってうなってて、遅れてくるっていってました」
「ふむ……、セバス、部屋までいって様子を見てきてくれ」
「だ、だいじょうぶです! しばらくすれば治るっていってましたから」
シアが慌てたようにセバスを押しとどめる。
男がじっとシアを見ていると、シアはだんだんと落ち着かない様子で視線をあちこちに向ける。
「まあいい、では今日も始めるぞ」
「はい……」
先に進む男を追うシアの足取りは重く、廊下の奥の部屋へと入ろうとするが、そこにはどこかためらいがあった。
「なにをしている、いつもどおりさっさと入らないか」
「……はい」
少女は部屋のなかに並べられた器具を見て、ごくりと生唾をのみこみ体を硬くする。
そんな少女の前で男が服を脱ぎ、鍛えられた上半身をさらした。
「どうした? おまえも脱げ。そんな格好じゃ動きづらいだろう」
「……い、いや」
少女は恐怖に顔をひきつらせあとずさる。
男がにじりより手をのばすと、少女は目を固く閉じ体を強張らせた。目の端から涙がこぼれ、頬を伝いおりた。
「リアよ、昨日の夜の勢いはどうした? ん?」
「どうして……」
男の言葉を聞くと、少女は糸がきれた人形のようにストンと床に崩れ落ちた。
そこに、慌てたように扉をあけて入ってきたのは、リアの服をきたもうひとりの少女であった。
「申し訳ありません、ご主人様! おくれてしまいました!」
入ってきた少女はリアの服を着て、そして、室内にいる自分の服を着た少女の姿に目を丸くしていた。
「おねえちゃん、どうしてこんなことを……」
「なにがあった、話せ」
朝起きると、体が縛られていたこと。そして、自分の服が持っていかれたことを話すシアの前で、リアは体を縮こまらせていた。
「あたしがシアの身代わりになればいいって思って……。最近のあなたは様子がおかしかったし、言っても聞かないと思ったから……」
ぽつぽつと心情を吐き出す姉の前で、妹は哀しそうに目をふせる。そして、姉を許してくれるように男へ懇願した。
「シア、おまえはリアの補助をしてやれ。初めてでなれないだろうからな。今日はリアとシア、姉妹一緒に相手してもらおうか」
「かしこまりました。ほら、おねえちゃん、立って」
「シア……」
妹に抱き起こされたリアは自らの軽率な行動がより事態を深刻にしてしまったと、絶望の色を浮かべた。
飛び散る汗、乱れる息、薄着のままぐったりしたリアがだらしなく床に横たわっていた。
裾がめくれ彼女の太ももがあらわになり、普段の彼女だったら絶対にとらない姿であった。
「もう、無理……」
「大丈夫です。続けていけばだんだんと気持ちよくなりますから」
「シア、いいぞ。もっと激しくするからな」
額から汗をしたたらせながらリズムよく腕をうごかしていたシアは、隣で同じ動きを見せる男と息を合わせるように体を動かし続ける。
「……ねえ、シアは毎日こんなことしてたの?」
「はい、そうですよ。最近ではなんだか気持ちよくて頭が真っ白になっちゃうこともあって。屋敷にいたころは、こんなこと知りませんでした」
いかによかったか、自分の気持ちをうれしそうに話すシア。そこに演技はなく素直な表情が見えた。
そこにはリアの知っている守るべき弱い妹の面影はなかった。
「まさか、筋肉の鍛錬なんて……」
がっくりとうなだれたリアを休ませるために、セバスはリアをそっと外へと連れ出していった。