3. 野外プレイ
太陽がのぼり穏やかな気候の下、リアは木々の間を通り抜けてきた風を受けていた。
その日、男に連れ出された姉妹は小高い丘の上に来ていた。
一見すると、それはピクニックのようであった。
男の意図がわからず警戒するリアの前で、セバスが木陰の下に休憩用の席を用意していく。
「では、セバス、そっちはたのんだぞ。最高のもてなしをしてやれ」
かしこまりましたと一礼するセバスを背にして、男は丘に広がる林に足を踏み入れていく。歩き出した男の後をシアが軽い足取りでついていった。
「ちょっと! シアをどこに連れて行くつもりよ」
「外でしかできないこともあるからな。それをこれからシアとしてくるだけだ。貴様はそこでセバスのいうことを聞いていろ」
「ご主人様、早く行きましょう!」
シアはいやがるどころか積極的な様子すら見せていた。
「うそでしょ、外でなんて」とつぶやきながら、木々の間に消えていく二人の姿をじっと見つめていた。
残されたリアは、セバスの講義をききながらもチラチラと妹たちが消えていった先に視線を向ける。
「気になりますかな?」
「そりゃあ、まあ……」
「いいでしょう。このまま続けても頭に入ってこないですから」
リアは「え、いいの?」と困惑しながらも立ち上がった。
セバスに案内され、リアは本当にこのまま進んでいいのか迷っていた。
でも、この前見てほしいっていっていってたし……。
リアは自分を納得させるための理由を考えていると、茂みの先から妹の声が耳に入ってきた。
それは声というよりも、荒い息遣いであった。
妹の乱れる姿を見た後どうやって接したらいいのだろうかと悩みながらも、リアは木の陰から首だけをだしそっと様子をうかがう。
シアは、長距離を走りきったあとのようにすっきりとした爽やかな笑みをうかべて、手近な木の幹に背を預けていた。
休憩中のようだったかと、リアは緊張で止めていた息を吐き出す。
しかし、額に汗をうかべ艶をおびた妹を見ていると、リアの胸の内にいままで知らなかった感情が生まれていく。
「リア様、お声をかけないのですか?」
「むりよ、むりむり!! どうしてこの状況で声なんてかけられるの!?」
セバスからの問いかけに答えるリアの声はうわずり、静かな場所で男とシアの耳に届いていた。
「お、おねえちゃん!? いつから見ていたんですか」
「えっと、ごめん……」
シアは今の自分が汗だくでひどい姿なことを気にして、背中を向けた。
恥ずかしそうにする妹を前に、リアは気まずそうに目を背ける。
「見てほしいとはいいましたが、こういうところは見られたくなかったです……」
「な、何がちがうの!? むしろ、事後よりも、やっている最中を見られるほうがいやじゃないの?」
「だって、汗とかにおいとか気になりますし」
「そ、そこぉ!? そりゃあ、あたしだってそこは気になるところだけど、もっと重要なところがあるでしょう!!」
騒ぐ姉妹をよそに、男は汗を吸ったシャツをぬいで上半身を外気にさらす。そよいでくる風を受けて男は気持ちよさそうに目をほそめた。
箱入り娘であったリアにとって、異性の裸は父以外にみたことはなかった。頬を赤らめながら、慌てて視線を男からはずす。
「ちょっ!? いきなり何脱ぎだしてるのよ!」
「問題があるか? 外で脱ぐことなど何度もある。特に激しい運動の最中はだいたいこの格好だな」
「何度もだなんて……、乱れているわ……」
男の言葉をきいて、リアは頭を抱えて悩み始める。
そんなリアをみて、男はバカにしたように鼻を鳴らす。
「ふん、お貴族様は暑いからといって脱ぐことはないのか。まったく、まずはプライドという服を脱ぐことから覚えることだな」
「服なんて関係なく、外でなんてするわけないじゃない! 絶対におかしいわ!」
結局、大声を出すリアにうんざりした男から、「うるさい」という言葉で追い出された。
リアは妹の常識と自分の常識が大きく離れていることに混乱しながらも元来た道を戻っていく。
「どうしよう……、早くしないとシアが手遅れになってしまう……」
頭がいっぱいなせいで、前を歩くセバスが笑いをこらえていたことに気がつくことはなかった。