超能力の少年
登場人物
森山碧泉…ややおっとりした性格の高校3年生。4月20日生まれ。
八月翠…天真爛漫な性格。碧泉とは小学生の頃からの友達。8月11日生まれ。
大槻紅葉…碧泉のクラスメイト。剛花の幼馴染。
桑名剛花…紅葉の幼馴染。スポーツが得意。
鷹宮隼人…碧泉たちが通う高校で学年一の人気者。勉強もスポーツも得意。
瀬川賢清…知仁と昭仁の双子の父。研究者。
瀬川知仁…昭仁の双子の兄。穏やかな性格。
瀬川昭仁…知仁の双子の弟。活発な性格で父に反抗しがち。
昼は春を感じさせるほど暖かいのに、朝はまだまだ寒いです。布団から出たくないけれど、今日は小学生の頃から付き合いのある友達とバレンタインチョコレートを買いに出かける予定です。
モゾモゾと布団から出た私は、エアコンのリモコンでスイッチを入れ、顔を洗いに階下にある洗面台に向かいます。水の冷たさに全身がブルッと震えます。水が少し暖かくなったのを確認したら、顔を洗って歯磨きを済ませます。部屋に戻って着替えます。
「翠ちゃんとお出かけが楽しみだわ。どんな服にしようかなぁ。」
30分ほど悩んで、トップスはシンプルな白のフリル袖、スカートは春らしいペールグリーンのストライプ柄、アウターにトレンチコートを選びました。
メイクもばっちり。最後にショルダーバッグの中身を確認します。
「お財布、スマホ、コスメ、ハンカチっと。準備出来たっ!」
バッグを持って部屋を出て階段を降りていると、トーストの焼ける美味しそうな匂いがします。母が朝食を準備していました。
「おはよう、お母さん。」
「おはよう、碧泉。翠ちゃんとの待ち合わせの時間は大丈夫?」
少しおっとりとしている私を心配する母。
「まだ大丈夫よ。」
「そう?まだ車の免許をとったばかりだから、浮かれすぎないように気をつけてね。」
「うん。気をつけるわ。」
翠ちゃんが自動車学校の割引があるからと誘われて、12月から一緒に通いました。そして1週間前に取ったばかりの初心者です。軽自動車を父が買ってくれたので、納車された日に両親と近くのスーパーまで運転しました。でも、今日は友達の翠ちゃんとなのでとても緊張します。
さっと母と一緒に朝食を済ませて、お茶碗を洗いました。
「それじゃあ、行ってきます。」
「気をつけて行ってらっしゃい。」
母の声を背中に聞きながら玄関へ向かいます。靴をはいて、コフレピンクのラパンに乗り込むと、車庫からゆっくりと発車しました。
翠ちゃんは家の前に、ネイビーのVネックニットとクラシックなオレンジ系の花柄ショートパンツにショートブーツ、ミニリュック姿で待っていました。
「翠ちゃん、おまたせ。」
「ううん、さっき出てきたところ。今日は運転よろしく!」
「うん!任せて!」
翠ちゃんが助手席に乗ってシートベルトを着けたのを確認して走り出します。
「もう車を買ってもらっていいな〜。碧泉ちゃんパパ優ししすぎ〜!」
そんな他愛もない会話をしながら目的地へ目指します。
「翠ちゃんは、誰に買うの?」
「そりゃ勿論、鷹宮君じゃん!碧泉ちゃんは誰に買う?」
鷹宮君は、スポーツも勉強も出来るイケメンの同級生です。気さくで男子も女子も友達が多くて、学校で一番人気があります。
「私は…お父さんと友達かなぁ。」
「もう青春なんだから、男の子の一人や2人に渡しなさい!気になる人いない?」
翠ちゃんに背中を叩かれました。
「急にそう言われても…気になって渡す人なんていないわ。」
そう答えると、翠ちゃんは隣で盛大な溜め息をつきました。高級チョコレートから可愛い手頃なチョコレートまでたくさん見て回りました。ショッピングを済ませた後、疲れた私たちはカフェで休むことにしました。
「剛花ちゃんも紅葉ちゃんも試験で大変ね。」
翠ちゃんも私も受験生。でも、推薦入試で合格が決まってゆっくりする時間が出来たので、気分転換も兼ねてのお出かけでした。
「そうね。2人の合格が決まったら、卒業旅行に行きたいわ。」
「それいいじゃん!楽しみっ!」
いくつか行き先の候補を話し合った後、私たちは家に帰ることにしました。
翠ちゃんを自宅前で下ろして、自分の家に帰ります。交差点で信号待ちをしていると、少年が立っていることに気付きました。
ちょうど目の前にある車用信号が青になり、私の車の前に停車中の車が順番に走り出したので、私は車のアクセルに少しずつ力を入れました。交差点に立つ少年が徐々にハッキリしてきて、濃い栗色の柔らかそうなストレートヘアに可愛さの残る顔立ちが分かってきました。その横を通過した時、目の前に交差点の少年がいました。
(あ、ぶつかる!)
あまりスピードは出てなかったとはいえ、車はすぐに止まれません。そのまま少年にぶつかってしまいました。少年は道の脇にうずくまっています。私は急いで車を脇に停車して、車から降りて少年の傍に行きました。
「ケガしてる?」
その少年は無言のまま、右膝を指差しました。指の方を見ると、ズボンに血が滲んでました。救急車を呼ぼうとしました。だけど、車の中にあるバッグに入ってる事に気付きました。
「ちょっと、車の中からスマホを取ってくるから、待ってて。」
少年から返事はないけれど、急いで私は言い置いて離れました。車に戻り、スマホを掴んで振り返ると、少年の姿が見当たりません。さっきまで確かにいたはずなのに。事故の場所に行って辺りを見回しても、怪我をした少年の影も形も見つけ出せませんでした。
母にすぐ事故の事を話しました。母が心配して事故の場所に来てくれました。
「ここで間違いないの?」
「うん。」
その後、警察に電話をかけてくれました。2人の警察官が来て、一人の警察官は調べながら、ずっと首を傾げています。
調べてもらってる間、もう一人の警察官に状況説明をしました。2人の警察官が何かのやり取りをした後、尋ねられました。
「本当にぶつかったの?」
「はい。」
2人で見直してる様でした。しきりに首を傾げ合ってます。
「お母さん、首を傾げてどうしたのかな?」
「わからないわ。」
しばらくして、2人の警察官がこちらにやって来ました。
「ぶつかった跡も、何も痕跡がないんですよね。もう一度聞くけど、人にぶつかったんだよね?」
「はい、間違いありません。」
まるで私を疑われている気がして、悲しくなりました。
「今回は、人身事故になります。けが人をこちらで探します。もし見つけたら、連絡をください。」
その後、解散になりました。
―――1週間後
今日は、私と翠ちゃん、紅葉ちゃんと剛花ちゃんの仲良し4人で卒業旅行の計画を立てようと集まることになりました。
15時に駅前のカフェに集まる事になりました。
待ち合わせの場所に行くと、みんな集まっていて、こちらに手を振ってくれます。私は手を振替しながら、みんなのいるテーブルに急ぎます。
「お待たせしました。」
「集合時間まで少し時間があるから大丈夫〜」
翠ちゃんの言葉に他の2人も頷きます。
「碧泉さんの事故の事を翠さんから聞いて心配していましたけど、お元気そうで良かったです。」
気遣わし気な表情で紅葉ちゃんが心配してくれます。
「それで怪我をしていた少年は見つかったのか?」
剛花ちゃんは男兄弟の中で育ったせいで少し男の子の様な口調です。
「まだ見つかりません。あの時、名前を聞いていたらと思うと、後悔しきりです。」
項垂れる私の背中を翠ちゃんが優しくなでてくれます。少しの沈黙のあと、翠ちゃんがバッグをのぞいてゴソゴソし始めました。
「はい、碧泉。」
翠ちゃんは、可愛いラッピングの包みをみんなに手渡しました。
「バレンタインチョコよ☆」
慌てて私もチョコを取り出し、みんなに手渡します。みんなとのチョコレート交換会になってしまいました。
「紅葉のとこの料理人、今年はどんなチョコ菓子にしたんだ?」
紅葉ちゃんは、毎年料理人が作るチョコレートです。去年はアルファホール、その前はチョコレート・ファッジでした。幼馴染の剛花ちゃんに毎年贈っているので、だんだんと海外で親しまれているチョコレート菓子になったのだとか。
「開けてからのお楽しみですわ。」
控えめだけど、イタズラっ子の様に紅葉ちゃんは笑ってます。
「毎年、知らないお菓子だからびっくりするけど、美味しいですよね。」
「うんうん。世界旅行してる感じ!」
剛花ちゃんの様に翠ちゃんも私も楽しみにしています。
「そういえば、翠ちゃんは鷹宮君に渡したの?」
すると、いつも明るく元気な翠ちゃんがシュンとし始めました。私は慌てて謝りました。翠ちゃんは、すぐに顔を上げて悲しげな笑顔で顛末を話しました。
「気にしないで。好きな子がいたなら仕方ないじゃん!卒業旅行で新しい恋を見つけるっ!」
翠ちゃんがガッツポーズをしながら、旅行計画について提案し始めました。
「3月初めならいいよ。」
「そうですわね。合否もわかると思いますわ。」
「じゃあ、それで決まり!場所はどこにする?」
北海道、沖縄、広島、大阪と色んな場所が挙がるけど、なかなか決まりません。なので、自分の挙げた場所の各自旅行プランを立ててプレゼンしようということになりました。
帰り道、あの交差点が気になり通る事にしました。あの事故以来、自転車移動に戻っています。
歩行者のいない交差点。
(やっぱり見つかりませんね。)
そう思いながら通過していると、目の前にあの少年がこちらを向いて立っていました。急ブレーキをかけてなんとか少年にはぶつからずに済みました。
「危ないわ!この前も私の車の前に飛び出したでしょ!警察に行きましょう。」
少年は、警察の言葉にビクッと反応しました。
「この前は俺じゃない!知仁だ。あいつが勝手に転んだだけだ。」
「ふ、双子だったの⁉それで知仁君はどこにいるのかしら?」
「こっち。」
そう言うと、少年は先に歩き始めました。私は自転車から降りて後を追いました。道すがらの会話でこの少年の名前が昭仁君ということ、お父さんと3人暮らしということがわかりました。そうしてるうちに閑静な住宅街の中にある1軒のお宅に着きました。
「ここ。父さんの研修室もある。」
昭仁君の言葉に、私の視線は昭仁君と眼前の家を何度も往復しました。そのお宅は、どこでも見かける外観で研修室があるとは思えない、どう見ても普通の家でした。そんな事を頭の中で考えている間に、昭仁君は玄関前に立ってドアを少し開けて待ってくれていました。
「入らないの?」
我に返った私は、急いで玄関に行きました。ちょうど白衣を着た3、40代くらいの男性が、こちらに歩いて来ているところでした。とても気難しそうな顔が歳を重ねている様に見せているのかもしれません。
「ただいま。」
昭仁君が白衣の男性に声をかけました。眉間のシワを深くするだけで、返事はありません。すると、奥から昭仁君にそっくりな少年が出てきました。
「あ!」
その声にみんなの視線が向きました。
「あ、あの1週間ほど前に私が車を運転しているところに知仁君いてケガをさせてしまいました。名前を聞く前に姿が見えなくなって、謝罪が遅くなりました。ごめんなさい。」
私は急いで頭を下げて謝りました。頭の上から、落ち着いたテノールの声が降ってきました。
「帰れ。」
その一言だけを告げると、踵を返して家の奥へ向かって足音が遠ざかっていきます。
「警察の方でケガをした少年を探していて、見つけたら連れてくるように言われているんです!」
私は慌てて叫びました。すると、白衣の男性が足を止めました。
「警察には私が対応する。もう関わるな。」
こちらを見ずに告げると、再び歩き始めて奥へと姿を消しました。
「この前はごめんなさい。お詫びにお茶でも飲んで行ってください。」
呆然とする私に知仁君が声をかけました。
「あなたたちのお父さんに帰るように言われたから、かえ…」
言い終わる前に昭仁君が私の手を引いてきました。
「気にすんなって。研究の時以外は俺たちに無関心なんだ。」
寂しそうに言う昭仁君の言葉に知仁君も同意する様に頷きました。私は恐る恐る靴を脱いで揃え、2人に案内されてリビングに行きました。
「そこに座って下さい。」
私は、知仁君が指を差したソファに腰を下ろしました。知仁君たちは、オープンキッチンへ向かい、3人分のオレンジジュースとお菓子を用意して、それぞれ持って戻って来ました。そして、2人がテーブルを挟んで向かい側に並んで座りました。
「こんなにありがとう。」
お礼を言うと、知仁君は笑顔になり、昭仁君は照れ笑いをしました。顔がよく似た2人だけど、反応が違いました。
「顔は似ているのに、反応が違うのね。」
私がそういうと、2人は顔を見合わせました。思わず笑ってしまいました。
「お姉さん、笑うなんてひどいです。双子だから似てるけど、違う人間です。」
2人の少し拗ねた表情にクスリと笑った後、私がまだ名乗っていないことに気づきました。
「あのね、私は碧泉って言うの。」
「「あおい、お姉さん。」」
2人が確認する様に私の名前を口にしました。
「そうだ。2人はチョコレートは好き?」
「「うん。」」
2人は元気に頷きました。
「友達から貰った物だけど、沢山あるから一緒に食べようよ。」
私がバッグからチョコレートを取り出すと、2人は年相応に見える目に輝いていました。チョコレートを分け合って食べながら、私は知仁君にケガを尋ねました。
「あれはびっくりして転んだだけで大したことありません。」
そう言って持ち上げられた左膝には、小さい絆創膏が貼られていました。
「驚かせてしまって、ごめんなさい。大丈夫ですから、心配しないで下さい。」
知仁君が頭を下げました。
「頭を上げて。知仁君が交差点にいた事に気づいていたから、私がもっと気を付けていなきゃいけなかったの。」
そう言うと、知仁君が頭を上げました。それから、気になった彼らのお父さんの研究について尋ねてみました。
「よくわからないけど、超能力の研究みたいです。」
「俺たちは、少しだけど瞬間移動が出来るんだ。」
「すごいね。私もそんな力が欲しいな。」
そういう私の言葉に対して、2人の表情は暗くなりました。
「気味が悪いって遠巻きにされるだけです。」
知仁君がそう答えました。
「そうなのね。よく知らずにごめんなさい。でも、素敵な力だと思うのは本当よ?」
「「ありがとう。」」
2人が声を揃えて言いました。
「力といえば、私のおばあちゃんが言っていたの。言葉には口にした人の力があるって。」
「「どんな力?」」
「言霊と言って、発した言葉どおりの結果を現すの。私の友達が高熱を出して休んだ時にお見舞に行ったら、熱で辛そうだったの。『早く熱が下がったら、苦しくないのに。』って言ったら、スーッと熱が下がったらしいわ。」
2人は興味津々で聞いてました。
「他にはある?」
昭仁君が身を乗り出す様に聞いてきました。
「そうねぇ。友達と学校からの帰り道に男の子たちが野良犬をいじめているのを見たの。友達と『犬が可哀想だよ!意地悪すると、罰があるよ!』って言ったら、どこからか大きな犬が現れて男の子たちを追いかけて行ったこともあったよ。でも、いつも言ったことが上手くいくわけじゃなくて。」
「へぇ。言ったことが本当になるって魔法みたいで面白いな。」
他にも学校の話をせがまれて話しました。あっという間に2時間近くが経とうとしていました。
「もうこんな時間。帰らなきゃ。」
そう言って、私はソファから立ち上がりました。
「今日は色んな話を聞かせてくれてありがとうございました。」
知仁君が笑顔でお礼を言ってくれました。2人に手を振り別れを告げました。
2日後、警察の方から連絡があり、「人の横を通るときは気をつけて通る様に。」との注意と、事故は人身事故でもなくなったとのことでした。きっと瀬川さんが警察に行ったのだと思います。
旅行の行き先が決まり、準備のために買い物に出かけることにしました。その帰り道、誰かに後をつけられている様な気がしました。怖くて走り出しましたが、すぐに追いつかれてハンカチで口を押さえられ、首を絞められました。怖くて、苦しくて目が開けられないまま意識が遠くなっていきました。
どれ程の時間が経ったでしょうか。意識が浮上してきて目を開けると、どこかの部屋のベッドに寝かされてていました。ゆっくりと体を起こして、周囲を見回すと、たくさんの書類と本が積み重ねられた木製のデスクと天井まで本がびっしりと詰まった本棚がありました。ドアが一つあるだけで、窓はありません。ドアに近づきノブを回してみましたが、予想通り鍵がかかっていました。ドアを叩いてみようかとも思いましたけど、誘拐した犯人を刺激した時の危険を思うと、怖くて思い留まりました。私は、所在無くベッドに腰掛けていると、鍵を開ける音がしてドアが開きました。相手は予想外の人物でした。
「瀬川さんが…?」
混乱していた私は、その先の言葉を口にできませんでした。瀬川賢清さんから私の質問に対する答えはなく、無言で近づいてきます。私は思わず後ずさりました。すぐに壁に背中がぶつかりました。瀬川さんが足元まで来ると質問をしてきました。
「君の力について知りたい。」
「ち、力?私は力なんて持っていません。」
「そんなはずはないだろう。ではなぜ、友人の熱が君の言葉で解熱したんだろうか?」
私が知仁君と昭仁君に話をしましたが、瀬川さんには話をしてません。あの時に話を聞かれていたのでしょうか。
「わかりません。」
しばらく沈黙が流れている時でした。
ぐるぐるーっ
私のお腹が大きな音を立てました。瀬川さんはドアから出て鍵を閉めました。少しして戻って来た瀬川さんの手には食べ物がありました。
サンドイッチの載った皿を差し出されました。私が受け取ることをためらっていると、ズイっと押し出されました。
「毒は入っていない。危害は加えるつもりはない。」
そう言われたのですが、恐る恐る受け取りました。私はそっとサンドイッチに口をつけて食べ始めました。それから3食の食事が出ました。その間は超能力についての質問を受けました。私が答えられるのは、祖母から言霊と言って言葉には口にした人の力が込められているから、大切にする様に教えられていたという事だけでした。
ちょうど一人になっていた時に声が聞こえてきました。
「ねぇ、誰かいるの?」
すると、こちらに子どもの足音が近づいてきました。
「誰?」
聞き覚えのある声でした。
「知仁君?昭仁君?」
二人の名前を出してみました。
「昭仁だよ。その声はあおいお姉さん?」
「そうよ。昭仁君のお父さんに連れて来られて、超能力について尋ねられているの。」
流石に誘拐されて監禁されているなんて言えませんでした。ふと、2人の力が瞬間移動だった事を思い出しました。
「ここから出たいのだけど、瞬間移動って出来ないかしら?」
「僕は他人を瞬間移動させる事は出来るけど、自分は瞬間移動出来ないんだ。」
私がそう言うと、外から昭仁君がドアノブを回している様ですが、解錠していないので開きません。
「待ってて。」
そう言い残して走り去る足音がしたと思うと、すぐに2人分の足音が聞こえました。
「昭仁、ここにあおいお姉さんがいるの?」
疑わしそうな知仁君の声がします。
「そうよ。外に出たいけど、鍵が開かないの。」
すると、2人は相談を始めました。
知仁君は自分だけなら瞬間移動ができるそうです。知仁君が私のところに来ることができても出すことが出来ません。また、昭仁君を連れて来ることも出来ません。名案だと思ったのに無理でした。
「2人の超能力が一緒だったら良かったのに。」
思わず心の声が口から出てしまいました。
「役に立てなくてごめんなさい。」
知仁君の声に気づいて、急いで謝りました。
「知仁、力を合わせてみたら出来るかも!」
「昭仁はそう言うけど、方法は分かる?」
「う、うっ…」
昭仁君は言葉に詰まってしまいました。
「と、取り敢えず何かやろうぜ。」
「取り敢えずって何をするの?」
2人がドアの向こうで一生懸命に考えています。私も何か協力できたらいいけど、出来そうもありません。
「じゃあ、手をつなぐのは?」
「そんな事で力が合わさるの?」
「分かんないから、やってみようって言ってるんだろ!」
今にも喧嘩しそうな様子でした。
「2人とも仲良くして。力を合わせるなら、仲が良くないと出来ないと思うの。」
そう伝えると、2人は落ち着きました。
「あおいお姉さん!」
次の瞬間、声と気配に振り返ると手を繋いだ2人が私の後ろに立っていました。
「2人とも力を合わせられたのね!すごいわ!」
私が2人を褒めると、先日と同様に似ている顔で似ていない反応が返ってきました。
「今から外に出られるね。」
再び2人が力を合わせて瞬間移動をさせると、沢山の機械と水槽の様なものが並んでいる場所に移動しました。その水槽の様なものの中には、それぞれ人の様な動物の様なものがチューブやコードにつながれて漂っていました。私はすぐに出口を探しました。急いで呆然と立っている2人の手を引き部屋から出ました。
「僕はあそこにいた記憶がある。」
ポツリと知仁君が呟きました。
「俺も。」
昭仁君もその記憶があると言います。
「どう言う事?」
2人に尋ねると、わからないと言う様に首を左右に振りました。そこに瀬川さんが現れて険しい表情でこちらに近づいてきました。
「見たのか?お前たちは見たのかと聞いている!」
大きな声に竦んでしまいました。2人も同じでした。そんな私たちに瀬川さんが掴みかかろうと手を伸ばしてきました。とっさに目を閉じると、瀬川さんに掴まれる感覚は来ません。
「き、君はいつからここに?」
私はそっと目を開けると、そこが警察署という状況に混乱していました。
「その子は、3日前に行方不明届が出された子じゃないか?」
「あぁ、そうだ。見つかった事をご家族に連絡だ!」
次々と飛び交う言葉に益々混乱しました。警察署管内の一室に通され、お茶が出されました。そして警察の方と経緯を話しました。その後、駆けつけた両親と数日ぶりの再会を果たしました。
数日後、警察の方が私の自宅に来て瀬川さんが逮捕された事を知りました。そして、あの双子について尋ねると、詳しい事は教えてもらえませんでしたが、保護された後に引き取ってくれる親戚がいないため、知人に引き取られたとのことでした。
春になり、双子から手紙が1通届きました。手紙には2人は元気にしているから心配ないという事と、桜の木の下で笑顔を見せる2人の姿が写った写真が同封されていました。
「超能力少年」を読んで頂きありがとうございます。
小説を読むことは好きなのですが、まさか自分で小説を書き上げるとは思ってもみませんでした。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
レビューをお待ちしています。
著者プロフィール
雪野英 Hana Yukino
8月16日生まれ。熊本県出身。