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夢幻包容

「ねえ、なんでそんな寂しそうな顔するの?」


ある夜、ベットの中で彼女は僕にそう聞いてきた。

「ん?そんな顔してる?」

僕は彼女に聞き返した。

「ええ、いつも。」

「そうかな。自分ではそんなふうに思ってないけど」

と誤魔化しつつ、内心僕は焦っていた。


あぁ、ついにこの時が来たんだ。


誰かと深い関係になると、一緒にいる時間が長くなると必ず言われるセリフ。

そして本音を話すといつも距離が離れていく話題。

その度に傷ついていく僕は、

その度にシャッターを下ろしていく。

仮面をかぶる。


そして、本音を話すことを止めた。

理解してもらうことを諦めた。


そうすると、人と長く付き合っていけることが解ったから。

変な目で見られることがなくなったから。


だから話題を変える術だって学んできた。

ただこっちが勝手に話を変えるとかではだめ。

話したくないのがバレバレで、さらに追求される。

これは経験済み。

ポイントは相手に気付かれないように、相手自身が話を逸らしていくこと。

だから今回も、

「もしかしたら、君と会ってると、会えなくなる時間のことを考えちゃってるのかな?」

とか言ってみる。

こういう気障なセリフを言うと、女の子は必ず笑う。

そして、恥ずかしいからか「ばか。」なんていいながらこの話題をやめる。

もしくは、この話を冗談半分に続けていく。

そのどっちか。

彼女も例外ではないらしい。

ずっとクスクスと笑っている。

もう一押ししておくか、と次のセリフを考えていると、

一通り笑い終えた彼女は、笑顔のまま、話しかけてきた。

「ねえ。」

「ん?」

「訳を聴きたいな。」

「会えなくなると寂しくなる訳?」

「ううん。寂しそうな顔の訳。」

「・・・えっと、そうだね今のも結構本気なんだけど、他の原因と言うと・・そうだね

実は前に付き合ってた子みたいに、いつか君とも離れてしまうのかな?なんて考えちゃってるからかも。」

「本当の訳を、聴きたいな。」

「・・・・・・。」

「・・・。」

僕はため息をつく。

どうやら彼女は許してくれないらしい。

「少しだけ、長い話になるけど・・・。」

「かまわないわ。」

「・・・例えばね、あそこにテレビがあるよね。」

「ええ。」

「それ、どうやってわかったの?」

「えっと、それは・・・見たから、じゃない?」

「そうだよね。でも逆に言うとね、君にとって、あのテレビは見ないと存在しないってこと解るかな?

それと一緒でね・・・

君の姿は僕の眼を通さないと確認できないし、

君の声は僕の耳を通して初めて伝わってくる。

君の頬は、僕の皮膚感覚を通して存在しているって考えられるの。いや考えてしまうの。

だとしたらさ・・・

もし仮に、僕の目や耳や皮膚が感じることをできないとしたら

ねぇ君はここにいるの?本当に僕の前に存在しているの?」

彼女は不思議そうに僕の顔をじっと見つめ、僕の言葉をただ黙って聴いている。

もうこの辺で呆れているのかもしれない。

だってこんなこと普段言っていたら、そうなるのは眼に見えているから。

でも彼女が求めたことだ、だから自分は話さなければならない、と自分に言い訳して言葉を続けていく。

「僕だってそう。

君が目を逸らしても、僕はそこにいるのかな?

耳を塞ぐと声はとどかないだろう?

それに、その感覚でさえも嘘をついてるかもしれない。

君が触れる僕の腕は本当に僕のものかな?

ねぇ僕は君の前にいる?本当にここにいる?」

全ての物事がそうだ。僕たちはあらゆるインプットの器官を駆使し、自分の世界を知ろうとし、自分たちを安定させようとする。

だけどその器官はよく幻を見せたり聞かせたりする。

それに同じ空間、同じ次元でも、僕らじゃ見えない世界、聞こえない世界、感じ取れない世界なんて、あまたに存在している。その世界は確かにそこにあるけれど、僕には見えない。

そんな不確かな、不安定な世界で生きている。

どこにも人がいたり、僕がいたりする証拠はない。

ともすれば、

生きていると言うことが幻想なのかもしれない。

もしくは今の僕は誰かの夢かもしれない。

僕は本当にここにいるんだろうか?

彼女はここにいるのだろうか?

常に孤独を感じてしまう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ねえ、私はここに居るよ?」

彼女の答えに僕はため息をつく。最も典型的なタイプの回答、最も現実的な回答、そして・・・・・・

最も僕の嫌いな答えだった。

話さなきゃよかった。後悔とともに、僕は今まででこの話題になって、最も多くしてきた返答を彼女に届ける。

「うん。そうだね。君は確かにここにいる。でもたまにこういう風に考えちゃうから、寂しそうなのかも、なんてね。」

微笑みながら、相手の意見に同調する。

僕にとっては、笑い事じゃないけれど、本音を仮面の内側に。

これが一番の解決策。僕の本音のバックアップ。

こうしておけば、冗談だってとらえてくれる。

ちょっと変わったやつぐらいの認識で終わらせてくれる。

そう考えていると、突然


シュッと絹ずれの音の後


ぐっと彼女は僕の頭を自分の胸元へ引き寄せる。

「ねぇ、私はここに居るよ。あなたにとって私は、あなたの感覚を通してしか存在していないとしても、

でもあなたのその感覚には、たしかに私はそこに居るわけだし、

あなたの心にも私はここに居るでしょう?

それは本物。

それに私の感覚はあなたを感じているし、私の心にはあなたが居るよ。

それも本当。

だから・・・だからね、

私はここに居るよ。

あなたと一緒に。」

とても強引な理屈

そんなんじゃ答えになってないよと苦笑しつつも思う。

トクトクと聞こえてくる彼女の音。

温かい彼女も、

僕はこの感覚がなければ見つけられない・・・・・・。

だから君がここにいる確証なんてどこにも見つからない・・・・。


だけど

だけど

・・・・・・・・

あぁ今だけ、せめてこの一夜だけは信じてみたい。

この熱が

この音が

感じ取れるから

僕と彼女は確かにここにいる。

僕は彼女を思い、彼女が僕を思ってくれているから

僕らはここにいる。

たとえそれが一抹の夢としても、

この存在を信じたい。




夜はあらゆるものを隠してしまう

だけどそれとは反対に、夜は心を解いていく

時に乱暴に、でも優しさにあふれて

それはなすすべもなく、すべての人を

建前から

虚心から

強がりから

理性から

ほどいてしまう

あらゆる壁をすかしてしまう



僕が君を感じる。

君が僕を感じてくれる。それが証明

僕は一人じゃない。

年末の大掃除も終わり、後はのんびりするだけのトリガー・ハッピーです!!

ご覧頂ありがとうございました。

今回は、今までみたいにひねくれず、素直に書いてみました。

懐疑論については、デカルトとの繋がりでかじった程度なので、こんな認識をしていいのかどうか、少々不安です・・・。

ご意見やご感想等ありましたら、是非お願いいたします。

それでは、よいお年を♪


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