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5.好きなんじゃないの?


「――え? うそ!? 何で?」


「絶対そうだと思う。だって、急に接近して来た感があるし。香音かのんはどう思ってるの? 眼中は無い? やっぱ夢をいつまでも追いかけたい感じ? そこはハッキリさせようか」


「えー……そんな決めつけは良くないと思うけど。好かれる要素はそもそもどこにあったっていうの?」


「態度でバレバレ。何より、友達になりたいとかって言いに来た辺り」


 クミが言うにはカッツこと、つかさというぼっち男子が、わたしを好きだというぶっとんだ妄想を言って来たのが事の始まり。や、それは無いでしょ。なんて思いながらも、そう言われたら何故か意識をするようになってしまった。


「おす。なに? 俺の顔になんか付いてる?」


「ほくろが付いてる」


「そりゃそうだろ。そういうお前は……前髪が垂れている。似合ってるけど」


「それはどうも。それ、褒めてないでしょ」


「褒めてる。可愛いんじゃないかな、と素直に思っただけ」


 わたしはひねくれ者。これは自覚していて、たぶん目の前のつかさはわたしに意識してそんなことを言ってくれた。だけど、わたしは逆な感情を出してしまう。つまりは素直じゃない。今まで特に意識も気にも留めていなかった男子限定だけど。


「褒めても何も起きないけど、それはカッツに得はあるの?」


「いずれ、そのうちある……と思う。たぶん」


 勝木つかさ。格好いい男子だけど、それでもわたしは特別な意識を抱きそうにないかも。だって、わたしが追いかけているのは、向こう側の校舎を歩いている先輩だから。


「がんばれ?」


「あ、うん」


「わたしも頑張ってみる。ってことで、行って来る!」


「え? どこに……って、走ったら危ないぞ!」


 理由も無しに学年の違う校舎に行くはずも無くて、もし出会えたら今度こそぶつからないようにしよう。そんなことを思いながら、廊下を走って向こう側の校舎かつ、下の階に下りて行くと誰かの話し声が聞こえて来てた。


 二度も同じ失敗はしない。そう思って、足にブレーキをかけたのはいいけれど、これがかえってバランスを崩す結果になっていて、気付いたら誰かに体当たりをしていた。


「いってぇ~……ったく、誰だよ……いや、俺にぶつかって来る奴はもうお前しかいない。なぁ、後輩」


 わたしのことは先輩の中では、そういう人物として認められていたみたいで、いいこと? なのかもしれなくて、思わずニヤついてた。わたしの眼前には先輩の胸元があって、体当たりの衝撃を少しばかり受け止めてくれたおかげで痛みとかは無かった。


「あ、あまね、大丈夫? というか、どうして下級生がここに?」


「あ、あぁ……と、とりあえず、俺が注意するからお前は先に教室に戻っててくれるか?」


 などと、もしかして彼女なのかな? そうは思いたくない。だからその人の顔を見ることなく、しばらく先輩の胸元の感触をずっと味わっていた。


「……行ったぞ。そろそろ正体を見せたらどうだ? 確か、香音だったか?」


「正解です、先輩!」


「……で? 今度は何しに来たんだ?」


「え、えーと……あ、その前に、決してぶつかろうと思っていたわけじゃなくて、気付いたらぶつかっていたんです。そこは誤解をして欲しく無くてですね、えと、いるかなぁ……と思いまして」


 もうこうなったら正直に言おう。そう思ったのは、一緒に歩いていた人がもしかしたら先輩の彼女なんじゃないかという危機感を持ってしまったからであって、この階と校舎に来たのは会いに来たとかそんな直接的な想いを伝えに来たわけじゃ無いってことを言い訳したい。


「なるほどね。まぁ、何だ。これだけ俺にぶつかってくる時点で、そういうことなのかなと俺自身がいくら鈍くても気付くわけだけど、それで合ってる?」


「はぁ、まぁ……たぶん、それです」


「そっか。そう思われてたのは何となくだけど、分かってた。だとしても、それがお前……いや、香音のアプローチってのは、余りにも痛すぎるぞ? 痛いってのは物理的にな。でもま、印象はバッチリだな」


 あれ、もしかしてこれっていい感じになりそうな言い方? でも、モテすぎてる先輩にはこんな体当たりな後輩がいても不思議じゃなくて、単に言い寄る誰かと同じ印象を持たれるのかな?


「……アレは彼女じゃねえよ? 一緒に歩いているだけでそう見えたか?」


「――あ」


「はははっ、そっか。香音もウワサを信じていたってわけか。言うほどモテてないから、安心していいぞ。それと、これだけ俺にぶつかって来た奴は今までいない。いるわけないけどな。後輩が先輩に体当たりとかあり得ないし。俺に会いに来るためにぶつかってるわけだから、俺がお前に会いに行くってのはどうだ?」


「へ? えーと……ごめんなさい、事情が呑み込めないです。もしかしてわたし、告られてますか?」


「違う。告ってない。ぶつかられるのが嫌だから、俺が後輩の校舎を歩く。それだけのことだよ」


 なんだ、大いなるわたしの勘違いが炸裂しちゃった。でも、会いに来てくれるっていうのは前進なのかな。それこそ先輩が後輩の校舎に来る時点で嫌な予感を抱く人がいそうではあるけれど。


「何しに来るんですか?」


「いや、だから……まぁ、いい。とにかくもう俺に会いに来なくていいから。俺が後輩の様子を見に行けばぶつかってくることもないって思っただけだよ。それ以外に聞きたいことはあるか?」


「や、ないです」


「じゃあ、もう戻った方がよくないか? というか、どこも怪我はしていないんだろ?」


「あ、はい。周先輩も平気ですか?」


「ああ。じゃあまたな、香音」


「あ、ども」


 どうやら先輩には相当なダメージを与えてしまったみたいだった。精神的にも肉体的にも、わたしという体当たり女のイメージを植え付けてしまった。


 これっていいことなのかどうかと言うと、どちらとも言えなくて、だけどわたしからは会いに来るなとも言われてしまったので、少なくとも好感を持たれたわけでは無いということは理解出来た。


 何にしても、今回の体当たりで会いに行くという行動は消滅。その代わり、何故かは分からないけれど先輩の方から後輩の校舎に来るという、よく分からない約束を取り付けてしまったので、それはそれで一歩前進かもしれない。


「あ、おかえり……って、あんた顔赤いけど、熱でもあるの?」


「何でもないし。のぼせただけ」


「ふぅん? カッツが気にしてたけど、なにか言った?」


「何も。何か言う前に下の階にダッシュしたし」


「あぁーそれでか。やっぱ、確定かも。だとしても本人には分からせるのは酷だなぁ……」


「何が?」


「あんたは気にしなくていいよ」


「うん、そうする。わたしも前進させたっぽいし、頑張るって決めたしね」


 んー、先輩が上に上がって来る。それだけでドキドキするのはどうしてなのかな。なんてことを思った日だった。

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