4.寂しがり男子が近くに
走ったり慌てることと、運動神経の無さに因果関係はありません。というのは、決して言い訳じゃないです。
「いっつも走ってるのに、遅くね?」
「関係ないし」
「あ~あれだ。普段の方に体力とか使い過ぎて、運動の時にバテるタイプだ! そうだろ?」
「知りませんね」
「中々に個性的な奴め。だけど嫌いじゃないな、オレ的に」
「あ、そうなの? 嫌いでもいいよ」
「ならねえよ!」
クラスの男子に、何故か気安く話しかけて来られるわたし。友達などでは無いのにも関わらず。普段の行動が男子の興味を惹いてしまう何かがあったのだろうか。廊下を走って、誰かにぶつかってしまうだけなのに。
ちなみに言うと、先輩以外の男子とはぶつかったことはなくて、せいぜい避けるのを何度か躊躇したくらい。何度も目が合うくらいにバッタリと進む方向が重なっただけの事であって、別にその男子と波長が合ったとかそんなはずはないわけです。それを多分、大きくいい方向に持って行きたいらしい。
「男子に人気がある香音か。不思議すぎる上に、目が合う率が高いから?」
「納得できない」
「そう言ってもそれが現実。さっき話しかけて来たのって、カッツでしょ? 割と人気ある」
「カッ? え、何それ……」
「カッツこと、勝木つかさ。少しは同じ学年の男子に興味を持て、マジで」
「そう言われても。や、別に先輩にも興味あるわけじゃないぞ! 勘違いしないで欲しいなぁ」
「傍から見てるとそんなでもないけど?」
「それはクミ目線じゃん」
「めんどい奴め! 性格にも難がある……と」
「そこ、メモるな!」
そんな感じで中学からの友達であるクミは、何度もからかいつつ何故か世話焼きさんでもある。先輩にしてもそうだけど、わたしは別に男子とどうこうなりたいとか一言も言ってない。好きも嫌いも無いです。
入学してから今日の3カ月目くらいになるまでに、あの先輩とは2,3回会った程度。名前をお互いに名乗った程度の関係だった。先輩でもそんなもんなのに、同じ学年の男子だってクミを通してじゃないと名前すら知らないっていう、そんな感じ。
何となく一度聞いたら覚えとこうってなって、カッツだけは覚えることが出来ていた。だからなのか、わたしとクミだけで話をしてる所に、何の意味も無しに割り込んで来たりするようになった。
「二人は中学からのダチってやつ?」
「たぶん、それ」
「多分じゃなくてそうだから。カッツは仲いい男子は?」
「俺は……」
「ぼっちって奴?」
「おい、そういうこと言ったら駄目だってば」
「ぼっちってわけじゃないけど、男友達より女友達のが多いってだけ。名前が女子っぽいしな」
「つかさだっけ? クミよりも可愛いね」
「なんつった、今? それ、名前の事だよね? そうだと言わないと許さないよ?」
「仲いいんだな。俺も仲良くして欲しいんだよな」
何てことは無い。ただの寂しがり男子だった。恋とかそういうのじゃないみたいだから、話するだけなら一緒にいてもいいかもって思えた。話すだけなら誰でも、何とでも。
何てことない日に、寂しがり男子と友達になりました。その日から3人で話すことが増えた。それと同時に、先輩とも中々会えなくなっていた。会いに行く理由なんて無いけど、何となく気になった。