表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/61

ギルド登録

 次の日の朝、僕達は僕の冒険者登録と、三人でのパーティ登録の手続きをする為に冒険者ギルドへと向かった。

 本来はクエストが張り出される早朝に来る予定であったのだが、皆なかよく寝坊してしまい、少し出遅れてしまった。

 そのせいで少しセラの機嫌が悪い。


 寝坊の原因は「レナの記憶がなくて話し合いが長引いたせい」って言われても困るよセラ……。


 気を取り直してギルドを見渡してみると、今は時間帯的にギルド内には数人の冒険者しかおらず、幾らか閑散としている。

 ギルドの内装はどこの町でも似たようなもので、受付とクエストの掲示板、他には、報酬を受け取る窓口など、このギルドも僕の記憶と大差ない造りだった。

 冒険者ギルドは勇者だった僕にも少しは関係がある。


 勇者といえどもお金は必要だ。僕達勇者はお金を稼ぐ為に、ギルドで優先的に仕事を斡旋してもらえるのだ。

 ちなみに、僕が行ったクエストは低級の魔物退治や薬草採集ばかりで、大したことはしていない。


 僕以外の勇者は結構派手な成果を上げているらしいが、よそはよそ、うちはうちだ。


「あんたは受付に行って、登録して来なさい。私達は適当なクエストがないか見て来るから」

「……レナ、向こうで待ってる……」


 そう言って、二人は依頼の掲示板の方に、歩いて行ってしまった。

 幾つかある受付に目を向けると、一人の妙齢の女性と目が合う。

 そうなると、別の受付に行くのもおかしい気がするので、僕の足が吸い寄せられるように彼女の元へと向かっていく。


「あの……冒険者登録をしたいんですけど……」

「はい……この用紙にご記入をお願いします」


 不思議な雰囲気を纏った受付嬢に少し気圧されながら、要件を述べるが、 僕の内心を測ることもなく、受付嬢は事務的に仕事をこなす。


 女性に慣れていないとはいえ、意識しすぎても良くないな……。


 気を取り直し、受け取った用紙に意識を向ける。

 紙には氏名、年齢、出身地、使用可能な技能などの記入欄があるが、必須なのは氏名と技能のみだ。

 技能欄は特に決まった書き方は存在せず、例えばセラなら『攻撃魔法』だとか、『魔術師技能』だとか、そういった曖昧な表記で大丈夫らしい。

 僕は氏名の所に『レナ』技能の所に『剣術』と書いて提出する。


「はい……大丈夫です。他の所のご記入はよろしかったですか? ファンクラブができた時に便利ですよ」

「……いえ、結構です」

 何、ファンクラブって……そんなのもあるのか。

 でも、僕にそんなのできるはずないし関係ないかな。


「……剣術とありますが、どの程度か分からないので、流派の中で結構ですので、どの程度の腕前か教えてもらって良いですか?」

「……一応段持ちです」


 結局聞くのなら、最初からきちんと書き方を定めておけばいいのに……と思うが、口には出さない。


「……分かりました。冒険者証の発行まで少々時間がかかりますので、もしパーティ登録をなさるのでしたら、この仮登録票を持って先に済ませておくことをお勧めします」

「はい、ありがとうございます」


 仮登録票を受け取り、セラ達がいる掲示板の元へと足を運ぶ。


 ん……? どうしたんだろ?


 何故か掲示板の前でセラが職員へと詰め寄っている。カータは隣で見ており、セラを止めようとはしていない。


「申し訳ないですが、そういうことなので……」


 ペコペコと頭を下げながら、逃げるように職員がセラから離れていく。


「ゴーラの奴……!」

「どうかしたの?」


 声をかけるとセラは僕を睨みつけ、まくしたてる。


「どうもこうもないわよ! 手頃なクエストが全部ゴーラとその仲間達に独占されているの! 残っているのは、私達じゃ手も出せない危険なモノや、一週間続けてもお金がたまらない低賃金のモノばかりよ!」


 なるほどね、それがセラの怒りの理由……金の工面をさせないようにするあいつらの作戦か……!


 正直こういった妨害はあまり予想していなかった。

 ギルドで表立ってこういった独占行為をすれば、なんらかの罰則を被る可能性もある。

 おそらく規定ギリギリのところで許容されたのだろう。


「あいつら、どこまで根性が腐ってるのよ! これだから男は嫌いなの、 女を道具か何かとでも思っているんだわ!」


 さて、どうしようか……。このまま諦めるわけにもいかないし……。


 とりあえず、状況を把握する為に掲示板を一度じっくりと眺める。

 確かに難易度が高いモノは、僕達で太刀打ちできるようなものは一つもない。リヴァイアサン、ドラゴン、巨大ワームなど、名前だけなら誰でも知っているような危険生物が名を連ねている。


 これは論外、僕達には絶対無理だ。

 上級冒険者推奨のクエストばかりで、自棄になってこんなモノを受けるのは自殺行為に他ならない。

 頭を切り替え、別の手段を探ることにする。


 次は低賃金なクエストに目を通す。

 採集系、討伐系、雑用系等多種多様なクエストが陳列してある。

 稼げないだけあって人気がないようで、ずっと貼られたままなのか、他のより貼り紙が劣化しているものもある。茶色がかった紙を指でつまみ、隠れた名クエストが無いかを探すが、全く見つからない。


 絶望的だ。

 この中にあるクエストじゃ……いや、これを利用すれば、どうにかなるかも……。


「……セラ、僕に考えがある。とりあえずパーティ登録をしよう。確か、色々特典があるんだったよね?」

「考えって言ってもね……!」


 僕を睨むセラの目を真摯に見つめる。

 信じて欲しいという気持ちを込めて。


「……分かったわよ、もう!」


 セラは赤い顔をして僕から目を背ける。

 怒りは収まっていないようだが、なんとか納得してもらえたようだ。


「……私はレナを信じているから……」


 そう言ってカータは僕の手を握ってきた。

 ドキリと胸が高鳴りながらも、心に生まれた「期待を裏切りたくない」という気持ちに報いる為に、僕は気合を入れ直すのだった。

読んで下さり、ありがとうございます。

よろしければ感想や評価などお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ