ギルド登録
次の日の朝、僕達は僕の冒険者登録と、三人でのパーティ登録の手続きをする為に冒険者ギルドへと向かった。
本来はクエストが張り出される早朝に来る予定であったのだが、皆なかよく寝坊してしまい、少し出遅れてしまった。
そのせいで少しセラの機嫌が悪い。
寝坊の原因は「レナの記憶がなくて話し合いが長引いたせい」って言われても困るよセラ……。
気を取り直してギルドを見渡してみると、今は時間帯的にギルド内には数人の冒険者しかおらず、幾らか閑散としている。
ギルドの内装はどこの町でも似たようなもので、受付とクエストの掲示板、他には、報酬を受け取る窓口など、このギルドも僕の記憶と大差ない造りだった。
冒険者ギルドは勇者だった僕にも少しは関係がある。
勇者といえどもお金は必要だ。僕達勇者はお金を稼ぐ為に、ギルドで優先的に仕事を斡旋してもらえるのだ。
ちなみに、僕が行ったクエストは低級の魔物退治や薬草採集ばかりで、大したことはしていない。
僕以外の勇者は結構派手な成果を上げているらしいが、よそはよそ、うちはうちだ。
「あんたは受付に行って、登録して来なさい。私達は適当なクエストがないか見て来るから」
「……レナ、向こうで待ってる……」
そう言って、二人は依頼の掲示板の方に、歩いて行ってしまった。
幾つかある受付に目を向けると、一人の妙齢の女性と目が合う。
そうなると、別の受付に行くのもおかしい気がするので、僕の足が吸い寄せられるように彼女の元へと向かっていく。
「あの……冒険者登録をしたいんですけど……」
「はい……この用紙にご記入をお願いします」
不思議な雰囲気を纏った受付嬢に少し気圧されながら、要件を述べるが、 僕の内心を測ることもなく、受付嬢は事務的に仕事をこなす。
女性に慣れていないとはいえ、意識しすぎても良くないな……。
気を取り直し、受け取った用紙に意識を向ける。
紙には氏名、年齢、出身地、使用可能な技能などの記入欄があるが、必須なのは氏名と技能のみだ。
技能欄は特に決まった書き方は存在せず、例えばセラなら『攻撃魔法』だとか、『魔術師技能』だとか、そういった曖昧な表記で大丈夫らしい。
僕は氏名の所に『レナ』技能の所に『剣術』と書いて提出する。
「はい……大丈夫です。他の所のご記入はよろしかったですか? ファンクラブができた時に便利ですよ」
「……いえ、結構です」
何、ファンクラブって……そんなのもあるのか。
でも、僕にそんなのできるはずないし関係ないかな。
「……剣術とありますが、どの程度か分からないので、流派の中で結構ですので、どの程度の腕前か教えてもらって良いですか?」
「……一応段持ちです」
結局聞くのなら、最初からきちんと書き方を定めておけばいいのに……と思うが、口には出さない。
「……分かりました。冒険者証の発行まで少々時間がかかりますので、もしパーティ登録をなさるのでしたら、この仮登録票を持って先に済ませておくことをお勧めします」
「はい、ありがとうございます」
仮登録票を受け取り、セラ達がいる掲示板の元へと足を運ぶ。
ん……? どうしたんだろ?
何故か掲示板の前でセラが職員へと詰め寄っている。カータは隣で見ており、セラを止めようとはしていない。
「申し訳ないですが、そういうことなので……」
ペコペコと頭を下げながら、逃げるように職員がセラから離れていく。
「ゴーラの奴……!」
「どうかしたの?」
声をかけるとセラは僕を睨みつけ、まくしたてる。
「どうもこうもないわよ! 手頃なクエストが全部ゴーラとその仲間達に独占されているの! 残っているのは、私達じゃ手も出せない危険なモノや、一週間続けてもお金がたまらない低賃金のモノばかりよ!」
なるほどね、それがセラの怒りの理由……金の工面をさせないようにするあいつらの作戦か……!
正直こういった妨害はあまり予想していなかった。
ギルドで表立ってこういった独占行為をすれば、なんらかの罰則を被る可能性もある。
おそらく規定ギリギリのところで許容されたのだろう。
「あいつら、どこまで根性が腐ってるのよ! これだから男は嫌いなの、 女を道具か何かとでも思っているんだわ!」
さて、どうしようか……。このまま諦めるわけにもいかないし……。
とりあえず、状況を把握する為に掲示板を一度じっくりと眺める。
確かに難易度が高いモノは、僕達で太刀打ちできるようなものは一つもない。リヴァイアサン、ドラゴン、巨大ワームなど、名前だけなら誰でも知っているような危険生物が名を連ねている。
これは論外、僕達には絶対無理だ。
上級冒険者推奨のクエストばかりで、自棄になってこんなモノを受けるのは自殺行為に他ならない。
頭を切り替え、別の手段を探ることにする。
次は低賃金なクエストに目を通す。
採集系、討伐系、雑用系等多種多様なクエストが陳列してある。
稼げないだけあって人気がないようで、ずっと貼られたままなのか、他のより貼り紙が劣化しているものもある。茶色がかった紙を指でつまみ、隠れた名クエストが無いかを探すが、全く見つからない。
絶望的だ。
この中にあるクエストじゃ……いや、これを利用すれば、どうにかなるかも……。
「……セラ、僕に考えがある。とりあえずパーティ登録をしよう。確か、色々特典があるんだったよね?」
「考えって言ってもね……!」
僕を睨むセラの目を真摯に見つめる。
信じて欲しいという気持ちを込めて。
「……分かったわよ、もう!」
セラは赤い顔をして僕から目を背ける。
怒りは収まっていないようだが、なんとか納得してもらえたようだ。
「……私はレナを信じているから……」
そう言ってカータは僕の手を握ってきた。
ドキリと胸が高鳴りながらも、心に生まれた「期待を裏切りたくない」という気持ちに報いる為に、僕は気合を入れ直すのだった。
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