ラトの慰め
今回は少し過激な描写がございます。(エロの方で)
「びっくりしたよ、全身びしょ濡れで尋ねてくるんだもんね」
「ごめん……」
「良いんだよ……何かあったんだろ?」
「うん……」
どうやってここまで来たかについては語ることなどない。だって覚えていやしないのだから。
それでも、僕は無意識のうちに自身の目的を果たす為、ラトを頼ってきたのだろう。
「まあ聞きはしないけどね……とりあえず服を着替えなよ、貸してやるからさ」
ラトは鞄からタオルをとり出し、僕に渡してくる。
「私は水を貰ってくるから、服は脱いどきなよ」
それだけを告げて、ラトは部屋から出ていく。
「……脱ごう……」
僕は自身の服に手をかけ、ひと思いにめくり上げるが、体のラインが分かるほどに肌へと張り付く布のせいで、脱ぎづらくて仕方がない。
今日はレアンの町でカータが選んでくれた、黒い布地の上下の下着をつけていた。
これを見ると、先程のカータの顔が思い浮かび、目から雫がこぼれそうになる。
ひと思いに全部脱ぎ捨て、見えないように服で隠す。
自分でこの道を選んでおいて、まだ未練があるのか……。
優柔不断な自分に、本当に嫌気が差す。
「お待たせ……って、なんか意外だね。レナには、もう少し恥じらいってモノがあると思っていたよ」
僕の体を楽しそうに見つめ、ラトはそう告げた。
まあ、確かに少し気恥ずかしいが……それ以上に今は、気落ちしているようだ。
「そう……かな……?」
「……相当重症だね」
一つため息を吐き、ラトは呆れながらそう言った。
持ってきた桶を床に置き、ラトは魔法を使う。
どうやら火の魔法で、水をお湯に変えるようだ。
「……ラトは火の魔法が得意なの?」
「ん? ああ、この髪は一応火の魔術適性の天職相でね……それと、剣術も混じってるから、あたしの髪も目も、他の相を持つ人間より色が濃いんだ。まあよく綺麗って言われるし、かなり気に入ってるよ」
確かに綺麗だ……まるで、カータと同じくらい……。
「どうしたんだい……? 今にも泣きそうな顔してるよ?」
「……! ごめん……別に何でもないんだ」
僕は髪が張り付いた顔を腕で拭い、力なく微笑む。
「……今のあんたはほっとけないね……ほら、後ろ向きなよ、あたしが背中拭いてやるからさ」
「……うん、ありがとう……」
ためらいは一瞬だけ浮かび上がり、すぐ奥底へと沈んでしまった。
おそらく、今は人とのふれあいを欲しているのだと思う。
「それにしても……きれいな肌してるね、惚れ惚れするくらいに……」
ラトは、ついっと僕の背中を指で伝い、僕の体がそれに反応してびくんと跳ねる。
「んっ……! ラ、ラト……くすぐったいよ……」
「可愛らしい反応するじゃないか……」
僕の肩に頭をのせ、ラトは僕の耳元で囁く。
「随分と……感度がいいんだね……? 誰かにでも仕込まれたのかい……?」
「ラ、ラト……んぅ……耳元は……だめぇ……!」
ラトの少しハスキーな声が、僕の耳から入り、頭の中を侵略していくような錯覚を覚える。
「……もしかして……あのセラ嬢ちゃんと、よくこういうことをやってたのかい……?」
「……んっ……そんなこと――!」
僕の言葉はそこで止まる。
ゴーラから助け出した後の、あの甘美で淫靡な逢瀬を思い出したからだ。
「……やっぱり、気持ちいいコト……ヤッてたのかい……?」
言葉と共に、再度僕の背中を指でなぞり、もう片方の手が、僕の前にある膨らみに触れる。
「ぅんうっ……っくぅ……!」
体が自分のモノではないと感じるほど、激しく跳ね上がる。
「……ん? どうだい……? セラ嬢ちゃんのと比べて……さ……」
耳元でささやく声は、更に僕の頭を満たし、その上彼女の舌が、僕の耳を直接侵食してくる。
『ちゅるっぴちゅっちゃちゅっ』
「んんっんうぅ、ラトぉ……んぁっんんぅぅんっ、やめぅっ……!」
その水音が、僕の体の神経を全て耳へと集める。
跳ね回りそうな体をラトが全身でガッチリと固定し、僕に逃げ場を与えてくれない。
僕の体がおかしくなっていく……まるで、ラトに作りかえられていくかのように。
「ほら……レナ……答えてよ……?『ちゅっぴっちゃちゅぴちゅるっちゅぷ』セラ嬢ちゃんと、どっちがイイんだい……?」
ラトの意地の悪い質問と、神経を直接舐められるかのような、彼女の舌使いが、僕を抗えない快楽の底へと誘う。
そして何より――
「今は……あの子の名前……聞きたく、ないよぉ……!」
僕の感情も――この快楽で――今は全てを忘れたいと訴えかけているのだ。
「……! レナ……あんたは天然なのかねぇ……? こういうときの相手の興奮のさせ方でも知ってるのかい……!」
「えっ? ……ん!?」
僕の体が力強く押され、近くにあったベッドへあおむけに押し倒される。
「レナ……あんたが悪いんだからね? 可愛い声であたしの心を煽るような真似するんだからさ……」
ラトは太股辺りにのしかかり、汗ばんでいるのか、その温かくも湿ったような感触を僕になすりつける。
野生の獣のようなラトの眼光で、僕に少しだけ冷静さが舞い戻ってくる。
「あ、あの……! ラトにはガイさんが……! それに僕達、女同士だし……!」
「……ん? あ、ああガイは……別にいいのさ、どうせ付き合ってるわけじゃない……一夜だけの関係ってやつだよ。それに……あたしはどっちもイケるクチなのさ……!」
ラトの猛獣のような瞳と、口角のみを上げた獰猛な笑みに、僕の体は金縛りにあったように動かなくなる。
ラトは片手のみで僕の手を拘束し、僕のお腹の辺りに顔を近づけ、舌でへその辺りをなぞる。
「んぅんっ!」
「面白いほどいい反応してくれるからさ……『ぴちゅぺちゅぅっ』んっ……これで興奮するなっていう方が無理だよ……?」
ラトの舌が――お腹から胸へ、そして頂の周囲を念入りに這わせ、頂を征服し、首へと吸い付き、肩をあまがみし、脇に息を吹きかけ――まるで、ナメクジのように体中を這いまわり、僕の体を蹂躙していく。
そして、舌が動き回るたびに僕の体は、震え、跳ね、潤み、声を出し、熱を持ち、力が抜け、溺れそうになり、墜ちそうになり、受け入れそうになり、深く浅く快感を覚えていく。
「どうだい……?『ぷぴちゅぷぴっちゅ』もうあたし以外を見ないでいいんだよ……?」
「ふぁ……はぁ……ふぅぁ……ふはぁ……」
僕は激しい運動をした後のように、荒く熱っぽい息を吐き、眠気のあまり溶けてしまいそうになっているように、瞳はトロンとしている。
ラトはそんな僕を見て体を起こし、僕の顎を掴み、固定させる。
「いいかい……もらうよ……?」
僕は体を動かす気力も失い、ラトの顔が近づいてくるのをただ黙って見ていた。
「……っ!」
唇まで、後、数ミリメートルというところでラトの動きが止まる。
僕の目から流れる一筋の光……それが彼女を押しとどめたのだ。
「……うーん……流石に無理矢理は……あたしもイヤだねぇ」
ラトは僕から体を離し、いつものような快活な笑みを僕へ向ける。
「……ごめん」
「はは……謝るんじゃないよ。むしろ謝るのはこっちだよ……悪かったね」
「ううん、僕がはっきり断らなかったのが悪いんだよ……」
大体、女同士だとセラ達の為にならないと思ったのも、パーティから外れた要因の一つだったのに、ラトとそういう関係になったら本末転倒だよね……。
「それでさ……今日はラトに、一つお願いしたいことがあって来たんだ……」
「……え? なんだい、改まって……」
ラトは僕の言葉に真剣さを感じたのか、居住まいを正し、真面目な顔つきになる。
「……その、ラト言ってたよね? ロビアン領主の家の鏡のこと……」
「あ、ああ……そういえば、森の中で話したかね。真実を映す鏡のことだよね?」
「うん……。それでさ……僕にその鏡を見ることってできるかな?」
僕の言葉を聞いて、ラトは少し考え込む。
「……難しい話だね……。確か見るだけでも、金貨百枚は必要だって話だしね……」
やっぱり、それだけ凄い効果があれば、利用しようっていう人間がいるよね……それをタダで開放は流石にしないか……。
「それにしても……レナ、どうしてそんなモノを見たがるのさ?」
「……それは……」
言っていいのだろうか……。
信じてくれるのだろうか……。
そういった不安が、どうしても僕の口を堅くする。
「内容次第では……あたしが協力してもいいよ」
「えっ?」
「別に見る方法がないわけじゃないんだよ……。ただ、少し危ない橋を渡らなきゃいけないけどね……どうする?」
僕の事情にラトを巻き込むのは忍びない。
だけど、ここで諦めれば……僕がセラ達にあんなことをした意味すら失ってしまう。
悩んでいる僕に気づいたのか、ラトは優しい声で僕に告げる。
「あたしのことなら、気にしなくていいさ……その代わり、きちんと事情を教えてくれれば……だけどね」
そうか……結局は打ち明けるか、打ち明けないかってことか……。
「……わかったよ。信じてもらえるかは分からないけど、ラトに教えるよ。だから……お願いします。僕と一緒に危ない橋を……渡って下さい……!」
僕はベッドに座ったまま深々と頭を下げる。
「……いいよ、そんなに改まらなくても。あたしはレナが、どっちの胸の方がイイのかも知ってるんだからさ?」
「そ、それは、忘れてよ!」
ふふふ……と笑いながら、ラトは僕の隣に座る。
「それじゃあ、教えてもらおうかね……!」
「レナが本当は、男……ねえ」
僕の顔をラトはマジマジと眺める。
「信じられない?」
「……いや、信じられるね。最初に会ったときに行ったと思うけど、レナの視線は男のそれだったからさ。今はそうでもないけど……」
「そっか……ラトは信じてくれるんだね……」
「ん? 当たり前だろ。本当のことっていうのは、最初から疑ってるやつには分からないモノさ」
セラは信じてくれなかったからね……まあ、あのときは出会ってすぐだったからしょうがないけどさ……。
「それで……それ以外に隠していることってないよね?」
「……うん、僕が男ってこと以外は特に何も……」
流石に勇者のことは伏せておこう。
その内バレる可能性はあるが、わざわざ教えるようなことでもないだろう。
「……そうかい……」
ラトは何故か一瞬悲しそうな顔をしたが、僕がそれに言及する前に、彼女はいつもの人懐っこい笑みをうかべる。
「よし……! それじゃあ、作戦を教えるとするかね……」
気のせい、だったのかな……?
気を取り直し、僕もラトの笑顔に応える。
「うん、どうやって鏡があるところまで行くの?」
「……実にシンプルな話さ。今あの鏡は山賊に狙われている……つまり、警備の人出が必要ってことさ」
「それって……僕達が警備として、あの鏡を守るってこと?」
「そうさ、確実に鏡に近付くことができる手だよ」
「……でもさ、それってそんなに危ないことかな?」
鏡の警備は、確かに山賊と戦うことになる可能性はあるが、所詮人の集団。ドラゴンと戦えということでもないし、数さえ注意すれば問題なく対処できそうだ。
「危ない橋っていうのはね……領主側の問題さ」
「領主側?」
「ああ、領主が警備に抜擢する条件……それは、もし守るべき鏡が盗まれた場合、警備の者を奴隷に落とすっていう契約を強制的に交わさせるのさ」
「そんな不条理な……!」
「言いたいことは分かるさ……でもね、給料自体はかなり高額だし、わざわざ領主の館に、危険を冒してまで忍び込もうってやつはいないんだよ」
なるほど、それは確かに危ない橋だ……。
もし失敗すれば僕は奴隷に……なんか、セラみたいだ……。
「あんたがこの話を受ける気なら、あたしが話を通してくるよ。一応知り合いに伝手があるんだ」
……考えるまでもない。
僕はセラ達を傷つけてまで、ここに来たんだ。
ここで男に戻れなきゃ、全てが無駄になってしまう。
最後のセラとカータの幻を思い浮かべ、僕の胸が軋む。
今頃は……きっとリリアンが元気づけて、僕のことなんて忘れようとしてくれているはずだ……きっとこれで良かったんだよ……。
「……受けるよ、僕は必ず男に戻る……戻って見せる!」
「……そうかい、あたしはレナが男に戻っても、戻らなくてもレナの味方でいるよ……言ってくれれば、男に戻った後は、さっきの続きをしても良いよ?」
僕の肩を抱き、ラトはいたずらっぽく笑う。
「な、何を言ってるの……!」
そんな彼女の温かさに、僕はどぎまぎしてしまう。
「やっぱりレナはそうでなくちゃね。からかい甲斐がないと面白くないからさ」
「……僕で遊ばないでよ……!」
でも僕は彼女のことをありがたく思っている。
彼女のおかげで、色々と落ち込んでいた感情を、少しだけ吐き出せたようだ。
「あたしはレナが私を裏切らなければ……絶対に味方でいるよ」
「ラト……うん、僕も味方だよ」
……僕はラトに心の中で感謝し、言葉に出すことはなかった。
でも、このときに真実を口にしていれば……もしかしたら、この先の僕の運命は変わっていたのかもしれない……。
今回の投稿でストックが底をつきました。
これからの投稿は更に不定期になると思います。
活動報告でも書かせていただいたので、理由は詳しくは申しませんが、これからも応援いただければ幸いでございます。




