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秘め事……覗く女

悪夢を見たレナは、体を拭き、身を清めた。


昨日投稿したつもりが、実行ボタンを押し忘れていたようです…… 

楽しみにしていた方は申し訳ありません!


今日はもう一話投稿するのでお許し下さい……

 食堂を利用しようと、階下に降りたときのことだった。


「昨夜は大分激しかったみたいだな」


 そう言って、ある一人の男がニヤケながら近づいてきた。


「……何の話ですか?」


 僕はセラと違って、男の人が近づいて来たくらいでは怒りはしない。

 でも流石に、そんなにニヤついてこられると、少々イラっとする。


「まあそんなに怒らないでくれよ」


 男はあまり気にしていないようで、僕の顔を見てまだ笑っている。

……まあいいや、早く話を聞いて会話を終わらせよう。


「それで、なんの話なんです? 昨日は部屋に戻ってすぐに寝ましたけど、何が激しかったんですか?」

「いや、昨日俺はお前達の部屋の隣で寝ててさ……何か苦しそうな声が聞こえてきたから……な?」


 何が、な? なのかは分からないが、心当たりならある。


「ああ……昨日悪い夢を見たので、うなされていたのかもしれませんね……。すいません、眠れませんでしたか?」

「なんだ、そうか……なら別に良いんだ、それじゃあな」


 男は興味を失ったようにどこかへと去っていった。

 一体何だったんだ?

 いや、それよりも、隣の部屋でも聞こえていたのなら、同室の二人は余計にうるさかったんじゃないかな?


「二人は大丈夫だった? 僕の声がうるさくて、眠れなかったんじゃない?」

「……私は、大丈夫、よく眠れた……」


 カータはそう言って、サムズアップするが、セラの返事はない。


「セラ……聞いてる?」

「え……? なに、お姉様……?」


 話を振りつつ、セラの顔を見ると、彼女の顔は隈ができており、目も虚ろで、とても眠そうだ。


「いや、ごめん……僕のせいで眠れなかったんだね……」


 申し訳なく思ってそう聞くと、セラは慌てて頭を振って僕の言葉を否定する。


「ううん、お姉様は悪くないわ! ちょっとお姉様の声が……」

「そんなに僕の声うるさかった?」


 カータは眠れていたみたいだし、さっきの男も怒ってはいなかったから、そこまでのモノではなかったと思ってたんだけどな……。


「声が可愛すぎて……ちょっとだけ、夢中になり過ぎて……」


 声を聞いてたから眠れなかったっていうこと?


「良く分からないけど……そういうときは僕を起こしても良いからね?」

「それって……! お姉様も私に……!」


 セラがそう言って、満面の笑みを浮かびかけたところで、カータが僕とセラの間に、体を割り込ませる。


「……セラ、それ以上言うと、お姉ちゃんでも、どう思うか分からない……」


 カータにそう言われて、セラはハッとする。

 そして、冷静さを取り戻すように、セラは一度だけ深呼吸をして、カータの方に向き直って、礼を言う。


「……ごめん、ありがとね」

「……別に、いい……」


 やりとりの意味が全く分からず、僕は二人の顔をただただ見比べるばかりだ。


「えっと……よく分からないけど、御飯食べようか?」

「ええ、行きましょう」

「……お腹すいた……」


 気を取り直し、僕達は再度食堂へと向かう。


「ん? あれは……」


 食堂の入り口が見えたところで、昨日一緒に夕食をとったラトさんが、壁に寄りかかって立っていることに気づいた。


「ラトさん、おはようございます」


 僕が挨拶をすると、ラトさんは手を上げてそれに応える。


「おお、待ってたよ! それより……次会ったら、ラトって呼ぶように言ったじゃあないか……レ・ナ!」


 ラトさんはそう言って肩を組み、体を押し付けてくる。

 朝から少しむらむらしてるから、あまりひっつかないで欲しいんだけどな……。


「な、何を言ってるんですか、ラトさん……! 大体ラトさんも、考えとくって、言ってただけでしょう?」


 あまり他の人と仲良くし過ぎると、セラ達の機嫌も悪くなるし……。

 そう考えて、セラ達の顔を確認すると、やはり少しぶすっとした顔をしている。


「考えた結果、そう呼ぶことにしたのさ」


 特に何も気にした様子もなく、ラトさんはそう言ったが、僕としてはここで呼び捨てにするとマズイ気がする。


「ラトさん、待ってたって……何かあったんですか?」

「つれない子だね……まあいいや、あのさ、頼みがあるんだよ」

「頼み?」


「ああ、ドグーの騎士のことなんだけどさ……昨日あの後、もう一回飲み直したんだけど、そのときそいつと話をしたんだ」


 女性は一人で飲むなって言ったのに……。

 まあ個人の自由を奪うことなんてできないし、仕方がないけど。


「あれ? でもあの鎧って呪いとかの類で外れないのでは?」

「いや、教会に行けば一週間くらいなら外せるんだとさ……まあそれは良いんだよ。それで本題なんだけど……あの騎士……名前はガイっていうんだけどさ……あいつと一緒にロビアンに行ってやってくれないか?」


 あの騎士と?

 まあ確かにどうせロビアンには行く予定だし、あの騎士なら一緒に行っても僕は構わないけど……。


 だが、彼が信用できるとは思っていても、それは僕の主観でしかない。

 セラ達に同意を強制することは、リーダーとして看過できないし、彼自身の思惑を知らないで、共に行動するのは危険過ぎる。

 理由くらいは訊いておかねばならないだろう。


「その……ドグーの騎士……ガイさんは、どうしてそんなことを?」


「いや、それがね……ガイもロビアンに行きたいらしいんだけど、あの鎧は一人だと悪目立ちするだろ? だから護衛を装って街まで行きたいらしくてね……私が行ってもよかったんだけど、ちょっと用事があって行けないから、あんた達を紹介しようかなって……」

「そういうことなら、僕は構いませんが……」


 チラリとセラとカータを見てみる。


「私も構わないわよ、お姉様がよければね」

「……同意……」


「……分かりました……それじゃあ、お引き受けしますよ。伝えておいてもらえますか?」

「ああ、恩に着るよ。報酬って訳じゃないけど、旅の間の食事はあいつが用意するらしいから、最低限のモノだけ持っていけばいいと思うよ」

「それは助かりますね、分かりました」


 荷物はなるべく少ない方がいいからね。

 でもあの人、鎧の上に荷物まで大量に持って行くんだね……すごい力持ちだな……。


「それじゃあ、出発はいつにするんだい? ガイはアンタ達に任せるって言ってたけど……」

「え、あ、そうですね……できれば食事が終わったらすぐに出発をしたいんですけど……」

「すぐか……分かった、伝えてくるよ。すぐに戻ってくるから、昨日みたいに私の分の食事も頼んでおいてくれないかい?」

「はい、良いですよ。……あっ、道中気をつけて下さいね」


 僕が了承したのを見届けると、ラトさんは嬉しそうに笑い、後ろを向いて走り去っていった。


「……よし、それじゃあ、ご飯を食べようか?」


 笑顔でセラ達の方を振り向くと、二人は僕にジトっとした視線を向けていた。


「ど、どうしたの……?」

「私同意してないわよ」

「……同じく……!」


 え、さっき鎧の人と一緒にロビアンに行っても良いって言ってたよね?!

 僕はセラとカータの発言に激しく困惑してしまう。


「お姉様、分かってないみたいね……私はラトって女と御飯を食べることを言っているのよ」

「……私も、カンカン……」

「あ……」


 失念していた。

 自然な流れだったから、つい同意してしまったみたいだ……。

 でも今更、あなたの席はないです。何て言ってしまったら、思考を疑われてしまう。


「……そ、そうだね、ごめん……でも、食事は大勢で摂った方がいいから……ね?」


 僕は手を合わせて二人に謝罪する。


「……もう、聞いてくれれば私達だって、三十回ほど却下してから、引き受けると思わせて、やっぱり断るくらいはするわよ」

「それって結局断ってるよね?!」

「……大丈夫、百一回ほどで、了承する……」

「回数に開きがあり過ぎない?!」


「ふふ……冗談よ、浮気性なお姉様を持つと苦労するわ」

「……浮気は甲斐性、でも許すかは別……」


 彼女達の言葉にツッコミを入れたいが、今は僕自身の旗色が悪いので、両手を上げて降参する。

 その僕の姿を見て、セラとカータは僕の腕をギュッと力強く抱きしめてきた。


「それじゃあ、行こうか……」


 そうして三人横に並びながら、僕らは食堂のドアを潜ったのだった。






「ガイが今から一時間後に門のところに来てくれってさ」

「はい、わかりました。わざわざ部屋まで教えにきてくれてありがとうございます」

「いいんだよ、元々あたしが頼んだことだしね」


 朝食を終えて、部屋でゆっくりしていると、ラトさんが鎧の人との集合時間を伝えに来てくれた。


「それでも、何度も連絡係みたいに、行ったり来たりさせてしまってますから……」

「はは……! レナは律義だね、まあ気にしなくていいさ。それじゃあ確かに伝えたからね」


 そう言ってラトさんは部屋へと戻っていった。

 後一時間か……。

 帯に短したすきに長しというか……微妙な時間だね。


「二人とも、出発の前に何か忘れていることとかない? 必要なモノとか何かあったら、早めに宿を出て買いに行こうと思うけど……」


 二人は視線をさまよわせ、何かあったか思い出しているようだ。


「そうだわ……!」


 セラが何かを思い出したようで、そうだ! と言わんばかりに手をポンとたたく。


「お姉様の下着がないわ!」


 僕の下着って……!


「い、いや、今あるやつで十分だから!」


 今はいている下着は、男女兼用の簡素なモノで、コレを穿いている冒険者は割と多い。

 どこででも手に入るし、洗濯すればだれでも使える為、荷物をかさばらせないという理由から、重宝されているモノだ。


「今持っているやつはダメよ、色々と足りなさすぎるわ。お姉様はやっぱりきれいで、凛々しくて、美しくて、そして、色気がないといけないの!」


 僕はそんなモノを求めていない!


「……セラ……」


 カータが溜め息を吐いて、セラに向き直る。

 表情は呆れかえっており、きっとセラの発言があまりに突拍子もないモノだから、苦言を呈そうとしているに違いない。

 そうだよカータ、言ってやってよ。僕にそんなモノは必要ないって!


「……なんで、もっと、早く言わない……? ……すぐに、お色気ムンムンなやつを、買いに行く……!」


 カータ、そうじゃない……! そうじゃないんだよっ!


「僕はいらないと、思うな……」

 僕は囁くような弱弱しい声で、ささやかな抵抗を試みてみる。


「お姉様! 早く行きましょうよ!」

「……いつも、準備が遅いくせに、よく言う……」


 しかし、もう二人は僕の話を聞くような雰囲気ではない。

 こうなると、僕の意見はすべて棄却され、姉とは名ばかりの、虐げられた存在になってしまうのだ。


「……先に選んでて……僕はチェックアウトしてから、後で行くから……」


 僕はもう諦めた。

 ならせめて……下着を選ぶという行為だけは避けよう……。

 多分、僕の目に光は灯ってない。



「そう……? サイズは……隅々まで知ってるから問題ないわね!」

「……セラ、その発言は、流石にひく……」


 二人は荷物を持って立ち上がった。

 買い物が終わった後、そのまま門へと向かう為だ。


「……「行ってきます!」……」


 その言葉だけを残し彼女達は去っていく。心に冷たい風が吹く僕だけを置いて……。






「そろそろ行こうかな……」


 もう十分以上、部屋の隅っこで三角座りをしていたが、そろそろ行かないとセラ達が心配するかもしれない。


「……っと、そうだ……! ラトさんに挨拶していこうかな! うんそうしよう! そうすればセラ達に遅れた言い訳ができるしね!」


 どんな手を使ってでも、僕は時間を引き延ばしたい。

 ラトさんをダシに使うのは忍びないが、下着も手段も選んではいられないのだ。

 すぐに荷物を持って、ラトさんの部屋に向かう。


「ここだったかな」


 僕はコンコンとノックを試みるが……。


「……あれ、留守なのかな……? それとももう出ていったのかな?」


 一応念のために、ドアノブをひねってみる。


「ん? 開いてる……」


 一瞬マズイかな? と思ったけど、、少し考えて、部屋の中の様子を窺うことにする。


 ラトさんが、もし荷物を置いているなら不用心だし、部屋の中にいるとしても女性なら鍵をかけてないと、やっぱり危ない。

 それに、もし引き払っているなら、別に部屋に入っても構わないだろう。

 ギイッ……という木の軋むような音と共に、扉を押しあける。


「ラトさーん……? いないんで――えッ……!」


 ドアを開け、仲の光景を見た瞬間、僕の時間は停止して、動かなくなった。

 僕はそこでラトさんを見つけた。やはり彼女は中にいたのだ。

 いや、今はそんなことはどうでもいい……!

 僕はやってしまった、取り返しのつかないことをしてしまった!


 ドアを開けて僕の目に飛び込んできたのは、下着姿でベッドの上に馬乗りになっているラトさんの艶やかな姿であった。

 下の方は布団で隠れており、全く見えないが、そばに見覚えのある鎧が散乱している。

 下にいるのはおそらく――


 ベッドの方に視線を下ろしていたラトさんは、ドアが開いた気配に気づいたのか、素早い動作でこちらを見た。

 ラトさんは僕の方を見て、一瞬あぜんとした後、その表情を豹変させた。

 その表情を見て、僕の時間はやっとのことで動き出す。


「え、あえ、あ、す……す、すいませんでしたッ!」


 僕はドアを思い切り閉めた。バタンという音が妙に耳に残る。

 目が合った……! 目が合ったよ!

 あの表情は多分すごく怒ってるよね……!

 憎い仇でも見たかのような鋭い瞳に睨まれた……いつものラトさんとは全然違う表情だった……。


 心臓がバクバクとうるさいほどに鼓動している。

 謝って許してくれるかな……? いや、許されなくても心から謝らないと……!


「す、すいませんでした!」


 ドア越しにラトさんへと謝罪すると、すぐに彼女の怒鳴り声が聞こえてくる。


「見たのかい?! ベッドの中を!」


 やはり相当に怒ってる……!


「本当にすいません! ここで見たことは絶対に誰にも言いませんから!」


 これはもう誠心誠意謝って許してもらう他ない……。

 僕はドア越しであるにもかかわらず誠意を以って頭を下げる。


「……やっぱりベッドの中を見たのか……!」


 ラトさんの殺気がこもった声が、ドアの隙間からにじみ出てくる。

 まるで、目の前のドアが、猛獣を隔離する鉄の檻のようだ。


「あ、え、いや、ベッドの中は見えませんでしたけど、その……ガイさんと、そういう関係だったんですね……。……すいません! ここで見たことは誰にも言いませんから!」


 もう一度全力で頭を下げる。

 しばらく沈黙が流れる……耳鳴りが、なぜだか妙に大きく聞こえた。

 そしてそれを破ったのは、ラトさんの吐いた深い溜め息だった。


「ハア……そうか、そういうことか……いや、いいよ。私も鍵を閉め忘れていたんだ……その代わり、ここで見たことは絶対に言わないでくれるかい?」

「はい、言いません……! 本当にすいませんでした……」


 どうやらラトさんは怒りを治めてくれるようだ。

 僕は胸を撫で下ろしつつ、しばらく無言でドア越しにラトさんを見つめる。


「でも……そうだね……私のことを名前で呼んで、言葉づかいも直してくれたら……許そうか」


 それくらいで良いならお安い御用だ。


「……わかりました……いや、分かったよ、ラト。これで許してくれる?」

「…………ああ、このことは許すよ。だから、そろそろ、どこかに行ってくれるかい? その……恥ずかしいからさ」


 声色はどうやら怒ってはいなさそうだ。


「うん、分かったよ。僕はもう宿を出るから……。それじゃあ、また縁があれば……」

「……ああ、達者でね」


 僕はラトさんの見送りの言葉を聞き届け、後は無言で、ただその場を後にした。






「お姉様、遅いわ!」

「……お姉ちゃん、迷子……?」


 レアンの町にある商店街、その中の婦人服の店で彼女達は僕を待っていた。


「ごめんね、少しトラブルに巻き込まれてさ……」


 まあ詳しいことは、約束だから言えないけどね。


「そうなの? 大丈夫だった?」

「……平気……?」


 少し不満げな表情だった彼女達は、一変して心配そうな顔になる。

 ちょっぴり心苦しいけど、誤魔化すしかないかな。


「うん、もう大丈夫だから……それより、そろそろ行かないとね」


 彼女達を探している間に大分時間がかかってしまったので、そろそろ門へ向かった方が、時間的にも良さそうだ。


「もうそんな時間なのね、分かったわ」

「……遅れるのは、マズイ……」


 よし……なんとか誤魔化せたね……。


「あ、そうだ! はい、お姉様の下着! 私とカータで一品ずつ選んでおいたから」

「あ、ありがとう……」


 僕は下着の入った袋を受け取り、門へと向かう道中に中身を確認してみた。


 その下着は、黒と、スケスケのピンクで……理由は言えないが、黒い方はラトを彷彿とさせるものだった……。

続きが気になると思った方は、ブックマークなどよろしくお願いします!

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