妖精の集落でのクエスト 後編
更新遅れて申し訳ありません。
今回の更新のあと、閲覧数を少しでも上げる為に、タイトルやプロローグの内容などを変更します。
と言っても、主題を変えるつもりはありませんので、すぐに分かると思います。
それと、今後の更新は少し間を開けた後、毎日ではなくなり、おそらく基本的に隔日になると思います。
ですが今後も見ていただけると嬉しいです。
「また来るがよい……次代の契約のときは近い……(訳・近いうちにまた来て下さいね!)」
ふう、この挨拶も慣れてきたな……。
迷い人を見送り、次の仕事に取り掛かろうと店内を見渡す。
すると、ターニアさんがこちらへと近づいてくるのが見えた。
「お疲れさまでした。本日の業務は終了です」
「……え? まだ、外も明るいですし、お客さんも残ってますよ?」
もう一度店内を見渡すが、やはりまだそこそこの人数が、席に座り何事かを談笑している。
「彼らはお客さんではありませんよ」
「お客じゃない……?」
なら何でここにいるんだろう?
「ふふ……すぐに分かりますよ」
「え……うあっ」
ターニアさんに腕を抱きしめられ、店の中央へと誘われる。
そこには既に、ティータとナンシー……ではなく、セラとカータが椅子に座らされていた。
「お姉様……ニヤニヤしちゃって……そんなに大きな胸が良いの?」
「……握り、潰す……?」
セラは少し不貞腐れているだけのようだけど、カータ……その目に光を灯さないやつはやめなさい……怖すぎるから……!
ターニアさんもカータの表情を見た瞬間に、僕から離れ、逃げるようにどこかへ行ってしまった。
ふう、マズイマズイ……。
最近、女性には慣れて、胸を見ることはなくなってきたけど、感触には抗えなかったみたいだね……。
僕は表情を引き締め、二人を見る。
「二人とも、お疲れ様。……ところで、これから何かあるのかな?」
「……分からない……」
光を取り戻したカータが応じてくれるが、答えは出ない。
「セラは分かる?」
「え……? さ、さあ? 分からないわ……」
「……?」
セラの反応がおかしい……何か隠してる?
「『Black Lilies』ご苦労だったな」
「え……?」
「今日はクエストを受けてくれて感謝する」
突然後ろから声をかけられ、すぐさま振り返ると、そこには社交界のダンスパーティに出るような正装に身を包んだ紳士が頭を下げて立っている。
えっと、この人……誰だっけ?
どこかで見たことがあるような気がするんだけど……。
「店長、頭をあげてよね……そんなことされるとお姉様がかしこまっちゃうでしょ?」
て、店長!
店長ってあの変態だよね?!
こんな普通の格好なんてするの?!
そんな失礼なことを考えてしまうほど、今の店長は紳士にしか見えない。
「そうだな……」
ゆっくりと頭を上げる所作など、一つ一つが紳士的だ。
「それでリャナ……お前達、しばらくしたらこの町から出ていくんだろう?」
「え、あ、はい……僕達の目的を叶えるためにも必要なことなので……」
僕はセラとカータに目を向ける。
彼女達も揺るぎない目を店長に向けていた。
「……別に止めたりはしないさ。だがな……やはりファンには目を向けるべきだろう?」
「え、ファンですか……?」
「ああ、ファンクラブのファンだよ」
僕の頭の中にパン屋のオジサンの顔が浮かぶ。
「目を向けると言われても……すいません、ファンクラブって言うのが、まず良く分からないんですよね」
不勉強で申し訳ないです……。
「……ファンクラブって言うのはな。その冒険者を心から応援し、活躍を見守る者達の集まりだ」
「応援し、見守る……」
「そうだ。そして、あるときはその身を助ける……お前らにもその辺りは身に覚えがあるだろう?」
「はい……」
美味しいパンには、何度も体と心を救われた。
オジサンの思いを知ったことで、余計にありがたい気持ちにもなった。
「ファンという存在は別に見返りが欲しいわけではない。ただ、共に喜び合いたいだけなんだよ」
「そうですよ」
「ターニアさん……」
いつの間にか店長の後ろにいたターニアさんが、前に出てくる。
「ですけど、今ここにいるファンくらいには、きちんとお別れの言葉をかけてあげてください」
ターニアさんが顔を向けた方向を、見渡してみる。
おじいさんに、パン屋のオジサン……。
その他にも、見覚えがあるような人達がたくさんいる。
これはもしかして……!
「ええ、そうです。この方たちは、みんなあなた達のファンですよ」
ファンって……こんなにたくさんいたんだ……。
「それじゃあ、今日はこの為にクエストを?」
「そうですね。ティータに手伝ってもらって、場を整えさせていただきました」
セラの方に目を向けると、彼女は申し訳なさそうに、上目づかいでこちらを見ている。
「ごめんなさい、お姉様……ターニアがどうしても驚かせたいから伝えるなって……」
「……いや、いいんだ。驚いたけど、むしろ嬉しいよ」
セラを安心させる為に彼女に微笑みをむける。
「それでは、今からはファン交流会ということで、ささやかながら食事を用意しています。……三人とも存分に楽しんで下さいね」
「一応言っておくが料金はいらないぞ。元々今日の売り上げはこの為のモノだったからな。もちろん金貨三枚の報酬も渡す」
「で、でもそんなに……!」
流石に気が引ける。
金額的な話はもちろんのこと、流石に恩を受けっぱなしという訳にもいかない。
「いいんですよ、店長が良いと言っているんですから」
「でも……」
これは金額ではなく、気持ちの問題だ。
金貨三枚の報酬だって、おそらくファンクラブの人達の寄付で払っているモノだ。
この依頼もただの寄付だとお金を受け取らないだろうと、わざわざギルドに申請して、僕達へと回したのだ。
推測でしかないが、ここまで周到だとほぼ間違いないだろう。
「リャナ……いや、レナ……。受けた恩って言うのはな……これからの行動で返していくモノなんだ。だから今は受け取っておけ」
店長は僕の目を真っ直ぐに見つめている。
「冒険者なんてモノはな……いつ死んでもおかしくないんだ。その日暮らしをしてしか生きていけない者、あっけなく魔物に殺される者、犯罪に手を染め、国に断罪される者……まあ、悲惨な最期を迎える者は少なくない」
僕達も覚悟はとっくに決めている。
それは、セラもカータも一緒だ。
僕達は生きるも死ぬも……ずっと一緒なんだ。
「だからこそ、こういうときは楽しむだけでいい。そして、言うんだよ『ありがとう』ってな……」
「店長……」
「だが、それでもお前が納得できないのなら……お前達が有名な冒険者になって、再びこの街に戻ってきたとき……そのときにこの店を貸し切りにしてみんなに奢ってやればいい。それだけを楽しみに俺もファンを続けるさ」
男らしい無骨な微笑み……口角を僅かに上げただけのそれは、あんなおぞましい格好をしていた人物とは思えないほどだ。
僕がなりたかった男性像は、正にこう言う感じであったなと思い出した。
まあ、あの格好は真似したくないけどね。
「店長? レナさんを口説いてると、後ろの二人に刺されますよ」
ターニアさんが店長にそう耳打ちした。
口説くって……そんなつもりないに決まってるでしょ……。
二人だって分かってるに決まって――
「……ねえお姉様……やっぱりこの店燃やさない?」
「……そうしよう……? ……あのときは、忘れていた……お姉ちゃんの望みは、私の望み……」
二人とも目から光が……消えてる……!
「は、はは……僕が口説かれるなんてあるわけないでしょ……! それよりせっかくの料理が冷めちゃうよ? ね、ねえターニアさん?」
「あ、そ、そうですね。さっきのは冗談ですから気にしないで下さい……!」
本当に……ターニアさんも不用意過ぎだよ。
それからターニアさんは話の流れを変えるように、ファン交流会の司会を務め出した。
「えーそれでは、今よりファン交流会を始めます。それではレナさん挨拶をお願いします」
挨拶なんて聞いてないんだけど……。
ターニアさんを恨みがましく見つめてみるが、目を逸らされてしまう。
しかも、何故かみんなが期待の眼差しを向けてきている。
とても拒否できる余地はなさそうだね。
仕方なく僕は立ち上がり、ファンの顔を見渡す。
「えっと……皆さま今日はここに来ていただいてありがとうございます。皆さまの応援のおかげで僕達はここまでやってこれたのだと思っております。僕達はもうすぐこの街を出立する予定ですが、この街であったことの全てが、忘れることのできない思い出です。これからも皆さんの応援を胸に、冒険者を続け、有名になったとき、またここでこうして会えるような場を作りますので、どうかそのときまで応援をしていただけたら幸いです」
僕が礼をすると、盛大な拍手が起こった。
面白みのない挨拶だが、いきなりでここまでできれば、問題ないだろう。
「だから燃やすのはなしだよ、二人とも?」
「分かってるわよ……お姉様が言うならそうするわ。お姉様を嘘つきにするわけにはいかないものね」
「……お姉ちゃん、冒険者、頑張ろうね……?」
「うん、それじゃあ早速食べようか? せっかくの奢りなんだからね」
僕達は三人並んで料理のあるスペースへと歩いていく。
こうして、楽しい初めてのファン交流は始まりを告げ、僕達の旅への決心もより強いモノとなるのであった。
お疲れ様でした
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