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エピローグ ーー三人の門出ーー

戦いの末、勇者の力を以て魔族を撃退したレナ達は……。


今回で第一章の本編は終了とします。

今後の活動がどうなるかは、前話の前書きと後書きをご覧下さい!

「準備はできた?」


 僕は二人に声をかけた。

 今、僕達は宿屋で荷造りをしている。

 何日も滞在したこのメラン・コリーの町とも今日でお別れだ。

 僕はあの時、大樹のそばで魔族を倒した。

 その記憶もしっかりと残っているのだが、彼女達には上手く説明することができなかった。


 ボコボコにリンチされていた僕があいつを倒したと言っても、彼女達は信じられないだろうし、勇者の力についても彼女達に知られないようにしたかったからだ。

 だから、あの魔族はいきなり現れた誰かによって、倒されたということになった。

 そして、理由は言えないが、魔族が僕達を狙うかも知れないということも伝えておいた。


 二人は、そんな不足しきった説明でも、僕の言葉ならと無条件に信用してくれた。

 今の彼女達なら、もう僕を疑うことは一切ないだろう。

【勇者の恩恵】で感覚を共有しているから――という要因もあるが、一番の理由は、僕達の間に確かな絆が存在し、お互いを疑うような心が、完全に消え失せてしまっているからだ。


 最後にあいつを倒したのは実際には僕の力ではない。

 あの時、僕の体は一時的に男の姿に戻っており、僕の体なのに、他の誰かから体を動かされているような……そんな不思議な感覚だった。

 操られていた……ではない訳は、あれをやったのは間違いなく僕の意志だったからだ。


 予想になるが、僕の中で覚醒しつつあった勇者の力が、あの時だけ完全に覚醒し、呪いから解放され、勇者の意志とでも言うべきような存在が、力を貸してくれたのだろう。


 口調も変わっていたしね……。


 この町には悪い思い出も多いが、良い思い出もある。

 パン屋のオジサン、フェアリーコロニーの人達、ブッシュウルフの情報をくれたおじいさん――この人達を僕の事情に巻き込まない為にも、僕達はこの町にいる訳にはいかない。


 今言った人達は、いつのまにか僕達のファンクラブ(本当に需要があるとは思わなかった……)に入っているらしく、これからも遠くから、僕達の活躍を応援し続けると言ってくれていた。

 昨日は、彼らにお礼とお別れを言って回った。

 特にパン屋のオジサンには凄くお世話になったので、要らないと言われてしまったが、今までの朝食代を少しだけ受け取ってもらった。


 やはり二人はオジサンが故意に朝食を分けていたことに、全く気付いてなかったみたいだけどね……。


 元々この街に借金返済以外の目的があった訳ではない。

 今までの滞在理由もなくなったし、今後はカータの姉、サレナを探す為に旅をすることになった。

 これからの僕達は、冒険者として活躍し、サレナと胸を張って会えるような存在になり、見つけた彼女を心置きなく殴ってやる――というのが旅の目標になっている。


 表向きの、ね……。


 これはセラには内緒であるが、もうカータはサレナに拘っていない。

僕という姉ができ、既に本当の姉のことは、彼女の中で折り合いがついたようだ。


「……私には、お姉ちゃんがいるから、平気……」

 

 彼女が言ったこの言葉は、僕をとても幸福な気持ちにさせた。

 セラに内緒な理由は、彼女が旅を始めた動機が、カータの為であったからだ。そのカータがサレナのことを気にしないのであれば、セラが旅を止めてしまうのではないかとカータは心配しているのだ。

 そして、もう一つ内緒にしていることがある。


 これは逆にカータに内緒にしていることだが、セラはサレナに会いたくないと思っている。

 僕と一緒にいることで幸せそうなカータが、サレナに棄てられた事実と直面するのを嫌がっているのだ。


「私達はお姉様さえいてくれれば……幸せなの……」


 彼女が言ったこの言葉は、僕をとても満ち足りた気持ちにさせた。

 カータに内緒な理由は、それでも会いたがっている彼女の気持ちを踏みにじりたくないとセラが思っているからだ。

 お互いを思い合うこの二人の気持ちを聞いて、僕はこの優しいすれ違いを、見て見ぬ振りすることに決めた。


 僕のそばにいれば危険な目に遭うかも知れないが、僕はもう二人から離れられない。

 多分、彼女達も同じ気持ちだと思う。


「……私は、準備OK……! ……セラは、遅い……。……もう、置いて行こう、お姉ちゃん……!」


 カータの荷物はそんなに多くなかった。

 既に荷造りを終え、セラに呆れた顔を向けている。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! しょうがないでしょ! 私の荷物が一番多いんだから!」


 セラの荷造りが終われば、すぐにでも出発というところなのだが……。


「お姉様は私を置いていかないわよね!」


 作業を中断し、僕に縋ってくるセラ。


「うん、待ってるから速くね……?」

「……お姉ちゃんが、置いて行くはずがない……。……セラ、そんなことも、分からないの……?」

「む、ムカつく……!」

「まあまあ……」


 喧嘩より前に早く準備して……。


 セラに興味を失い、カータは隣にいた僕を見上げた。


「……仕方ない、お姉ちゃん……セラを待つ間、私と、チューして、待っていよう……?」

「ぶおほっ……!」


 カータのいきなりの発言に思わず噴き出してしまう。


「な、何言ってんのよ! あんたは!」

「そ、そうだよ? そういうのは……本当に好きな人ができたときに――」

「……セラみたいに、もたもたして、機を逃し、愛のない行為で、失うのはバカのやること……。……それに大丈夫、もう、私の大事な初めては、お姉ちゃんに、捧げてある……」


 は、初めてを捧げた? な、何を言っているんでしょう、この子は……?


「あんた……! 言ってはならないことを言った上に、いつの間にそんなことを……! お、お姉様ぁ……!」


 そんな風に言われても、僕にも全く身に覚えがない……。


 セラの疑問に、モジモジと恥ずかしそうにカータが答える。


「……お姉ちゃんと、同じ布団で寝た、初めての日……ベッドに寝てる間に、ぷちゅっと……。……レモン味……」


 おじいさんの家に行った日か! そ、それに――


「ぼ、僕のファーストキス……」


 そんな呟きを聞いた二人は両極端な表情だ。

 セラはこの世の終わりみたいな顔で、カータは勝ち誇った顔だ。


「わ、私が最初だって……!」


 驚愕するセラに、更に追い打ちをかけていくカータ。


「……セラ残念だけど……いつから、自分が最初だと、錯覚していた……?……それは、幻想……!」

「な、なん……ですって……!」


 今まで信じてきた現実が、セラの中で音を立てて崩れていく。


「で、でも! 私はお姉様に舌を入れたのが最初だもん!」


 それでも、セラは最後のプライドを守るため、プルプルと震えながらも、自分の優位(?)な要素をあげる。


「……所詮、二番煎じ……。……初めてを、捧げることも……奪うことも、できやしない、哀れな女……」


 しかし、カータの容赦ない一言によって、セラの最後の砦も今、陥落せんとしていた。


「カ、カータぁ……! わ、私だって……わたしだってぇ……! 終いには泣くわよぉ……」


 ボロボロの彼女に残された最後の行動は、泣き落としだった……。




 そんなこんなで、また更に出発が遅れてしまったが、とうとう僕達はメラン・コリーを発った。


「……セラ、そのマント凄いにおい……!」


 町を抜け街道を歩いていると、カータが鼻を押さえながらセラへと話を切り出す。

 話題の原因は、購入してから今まで一切洗濯をしていない僕のマントだ。

 セラをゴーラの魔の手から救ったあの日から、彼女がずっと身に着けているのだ。


 彼女のその姿はまさしく黒百合のようであり、一般的に受け入れられないにおいという部分もまた共通していた。

 街中ではセラの周りから人が離れて歩いていた程だ。

 カータも暫くは我慢していたのだろうが、限界が来てしまったようだった。


「あんたにはこの芳しい香りが理解できないの!? お姉様の匂いが染み付いた素晴らしいモノなのよ!」


 セラはカータの文句を受け、意味の分からない主張を繰り出した。


「……毎日、セラが股の間に、擦りつけてるから……もう、お姉ちゃん要素皆無……」

「失礼ね! 毎日じゃないわよ! 精々週9よ!」


 何それ恐い……。大体、そういう問題でもないし……。


「セラ……次の機会には必ず洗ってね……?」

「お姉様までそんなこと言うの……!?」


 セラが泣きそうな顔でこちらを見ている。


 いや……駄目だ駄目だ……。ここで下手に出るとセラの為にならない……。

 ここは心を鬼にして……。


「洗った次の日はそれ着てあげるから……ね?」

「……お姉様……! 大好き!」


 ふう、鬼の心は難しいな……。こんなに厳しくしたのにカータに睨まれているよ……。


「……お姉ちゃん、それじゃあ、私には添い寝……!」


 拗ねた様に、ねだってくるカータ。


「はいはい……今度ね」

「……嬉しい、お姉ちゃんの声、凄く安心して、良く眠れる……」


 ここで突っぱねると、また喧嘩になるし、素直に了承しよう。


「あんた、ずるいわよ!」

「……ずるくない……。……淫乱セラとは違う……! ……私のは純粋な添い寝……!」


 了承してもこれだ……。一体どうすればいいの?


 なんだかんだ言っても、僕達は仲が良いのではないだろうか?

 適当に付けようと最初に候補に挙げた「仲良し三人組」というパーティ名だって、今ではしっくりするだろう。

 でも今、僕は悩んでいた。


 彼女達に打ち明けるべきか……僕が元勇者であり、元男であるということを。

 それとなく遠まわしに聞いてみるか……。


「ねえ……セラ?」

「なーに? お姉様?」

「もし……例えばだけど……僕が男だったらどうする?」


 彼女は少し考える。


「……お姉様が男だったら、私、耐えられないわ……!」


 そうか……やっぱり駄目か……。


【勇者の恩恵】の影響でいつかは分かってしまうことだろうけど、僕はもう少し、このことを内緒にしておこうと思う。

 でも、いつか自分の口から話したいとも思っている。彼女達に隠し事をしたくないから。


 それでも……。

 ずるいかも知れないけど、まだ二人と一緒にいたいから……言えないんだ……。


「お姉様……私子供はたくさん欲しいな。お家では犬を飼って……」


 ちょっと意味が分からないですね……。


「そ、そう? 頑張らないとね……?」


 どう答えれば良いか分からず、適当に応じる。


「……お姉ちゃん、私も、欲しい……」

「ダメ! カータにはまだ早い!」


 カータはまだ、お嫁にやらないよ!

 僕の気持ちも知らず、何故かカータは泣き出しそうになる。


「あ、いや……カータが大切だからだよ?」


 すると機嫌が良くなり、僕の腕に絡みついてすり寄ってくる。

 それを見て対抗してくるセラ。


 女心って難しいね……。


 僕は二人の体温を感じながら、先へと続く長い道を二人と共に歩いて行く。

 三人ならこの先の旅路も、きっと楽しいものになる。

 そして、僕は一つの秘密を心にしまい込んだ。



 セラ、やっぱりすぐに、マントを脱いでくれないかな……と思ったことを。

次回の『Black Lily』は一応キャラクタープロフィールのようなモノを考えております。


ただ乗せるだけのもアレなので、ちょっとした茶番を用意しております。

強さの数値化のようなモノもやっておりますので、そういったモノが好きな方は、どうぞご覧下さい。


最近伸び悩んでおります。

まだまだ描くんだよ! という方は、目に見える評価を何卒よろしくお願いします。

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