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ーーここで終わってしまった!

タイトル変えました。

「……あの子、大丈夫かな?」


 でも、お姉ちゃんを呼ぶって言っていたし、すぐに戻ってくるよね……。


 そう結論付け、しばらく待っていると、いささか乱暴な足音を響かせながら、誰かがこの部屋へと近付いてくる。


 バタン!


 荒々しく開けられたドアから、先程の少女とは違う女の子が飛び込んでくる。


 金でできた糸と言われても騙されそうなほど、高貴な輝きを放つ腰まで届く金髪のツインテール。

 黒を基調とし、フリルやレースをふんだんにあしらったゴスロリファッションは彼女の真珠のように白く美しい肌を際立たせているようだ。


 奇麗な女の子だ……。


 その姿を見て、僕はただただ茫然としながら、目を奪われていた。

 海のように深く青い瞳は全てを包み込むようであり、少し鋭い目つきは強固な意志を感じさせる。

 まるでその姿は絵画から飛び出した女神のようだった。


「起きたようね! 私の名前はセラ・ミアーレよ!」


 彼女は部屋に入ることなく自身の腰に手を当て、大きな声で名を告げる。

 その瞬間彼女の神秘的な雰囲気は薄れ、僕は我に返った。

 彼女の仕草と言葉に歳相応の少女らしさを感じたからだ。


 僕は内心動揺しながらも、名を告げようと口を開く。

 しかし、僕が言葉を発する前に、彼女はビシッと音が鳴りそうなほどの勢いで人差し指を僕へと向ける。


「早速で悪いけど、一つ質問させてもらってもいいかしら?」

「し、質問? 別に良いけど……」


 セラの勢いに押されつつ了承する。


「あんた剣は扱える?」

「まあ、一人旅をしているし、それくらいは――」

「そう、それさえ分かれば良いの! あんたには私の冒険者パーティに入ってもらうわ!」


 拒否権はないと言わんばかりに彼女は高らかに宣言した。


「え? そ、それは無理だよ」

「なんで? せっかく助けてあげたのに」

「なんでって……あのね、僕はこう見えても勇者なんだよ」


 セラがきょとんとした顔で僕の顔を見つめる。


 驚いているのかな?

 確かに僕は昔から勇者っぽくないと言われていたけど……僕が勇者なのは紛れもない事実なのだ。


「君も冒険者なら知ってるでしょ? 力の悪用を防ぐ為、勇者の仲間になれるのは、国に認められた冒険者だけだって……。それに、僕を仲間にしても、条件を満たさなければ【勇者の恩恵(ヒーローズギフト)】は与えられないよ?」


【勇者の恩恵】とは、勇者が勇者である為の能力だ。


「条件さえ満たせば、パーティに勇者がいるだけで強くなれる。そんな力、誰でも欲しがるだろうけど、勇者が直接王都に行かなければ、【勇者の恩恵】の発動条件は開示されない。だから僕はまだ何も知らないし、知っていても教えられない。国のトップシークレットだからね」


 勇者に指名されてから幾度となく聞かされた注意事項だ。

 許可なく誰かを仲間にすれば、刑罰は免れない。


「……というわけで、僕は君達の仲間にはなれないんだ。助けてもらったことには感謝してるけどね」


 懇切丁寧にセラに説明するが、彼女の顔は訝しげだ。


「あんた……冗談にしては笑えないわね。勇者を騙るのは極刑に近い厳罰を食らうわよ?」

「騙ってないよ……! 僕は本当に勇者なんだから」


 信じないのはまだ良いけど、可哀想な人を見るような目を向けるのは勘弁してほしいよ……。


「……確認されてる女勇者は全部で四人。あんたと同じ黒髪の勇者は一人いるけど、あんたとは特徴が当てはまらないわ」


 女勇者?

 確かに僕は女顔だってよく言われるけど、間違えられることなんて――いや、何回かあったかな……。


 昔を思い出し、悲しい気持ちになる。


「……僕は男だよ」


 不機嫌になる気持ちを抑え込みながら、なんとか返答する。


「……あんた本気で言ってるの? 倒れた時に頭でも打ったのかしら……」


 セラの表情が徐々に心配げなモノへと変化していく。


「どういう意味さ? 僕は事実を言ったまでだよ」

「さっき、あんたに服着せてあげたけど、間違いなく女だったわよ」


 そんなはずないよ。僕には君みたいな大きい胸も付いてないし。

 そんなことを考えながら目線を自身の体へと向けると、僕の目に二つの滑らかな丘が映る。


 え? ナニコレ?

 疲れているのかな……僕の体が女性的になっているように見えるよ……?

 目を擦ってもう一度確認するが、間違いなく僕の胸は膨らんでいる。


 う、嘘だよね……?

 衝動的に自身の体に触れる。


 これ何なの!? 柔らかい、柔らか過ぎる……。

 初めて触れた異性の体――それがよもや自分のモノになると誰が予想できただろうか。

 しかし、そんな経験をしても僕の心は喜びに支配されることはなかった。むしろ絶望に近い。

 僕はそんな現実を受け入れる事ができず、最後の希望に縋るように布団の中に手を入れる。


 な、ない……!

 ぼ、僕は本当に女になったっていうの!?


「う、嘘だあぁぁ!」


 無意識に僕は叫んでいた。

 しかし何をどうしようが、後に残るのは〈僕が女になっている〉という事実のみだ。

 そんな僕の様子をセラは心配そうに見つめている。


「記憶が混乱しているのかしら……? とりあえず、もう少しゆっくりしてなさい。とりあえずあの子を残しておくから……」


 放心した僕はセラが部屋から出て行くのを黙って見送る。


 どうしよう……。

 今思えば、あの魔族の言っていた「次の人生」って、こういう事だったの?

 僕は自身の生は諦めたけど、性は諦めてないよ!

 命が助かっただけでも、よかったのかも知れないけどーーいや、ちょっと待って。


 僕の思い描く未来の中に結婚したいと言うモノがあった。


 この体で結婚ってことは僕の結婚相手って……男!?

 そんなの嫌だよ! いくら女顔でも精神は男なんだから!

 くそぉ……! 所詮どうあがいたって、僕が考えていた人生なんて歩めやしないじゃないか……!

 大体勇者の力なんてモノがあるから……って……あれ……?


 自身の境遇に憤りを感じながらも、ふと自身の体のもう一つの変化に気付く。

 今まで意識せずとも感じられていた勇者の力。

 あって当然で、最近は意識すらしていなかったその力が……今は()()()()()()()()のだ。


 勇者は仲間がいなくても一人で戦う力を持っている。

 僕は大した強さではなかったが、それでも一人で並みの冒険者パーティと同レベルで戦えていた。

 剣術を失っている訳ではないので、それなりには戦えるが、一人で王都へ向かうのはおそらく無理だ。


 はあ……命は助かったけど、僕はこれからどうすればーー


 未来への思考を始めた僕に一つの疑問が浮かぶ。


ーーいや、これからとはどういうことだ?


 勇者の力を失った僕が王都に行ってもどうしようもないし、さっきのセラと同じように僕が勇者だと言っても、信じてもらえないかもしれない。


 僕は今まで勇者として生きてきた。

 そのおかげで、僕はそれ以外の生き方を知らないし、それ以外のことをしようともしなかった。

『勇者であること』以外の価値を放棄し続けてきたのだ。


 それなのに、あの魔族に敗れた時、僕は勇者であることを後悔し、人を助けるべき勇者が自身の使命に疑問を持ち、否定してしまった。


「他人など助けたくない。勇者になりたくない」と……。


 それなのに、今も勇者として行動しようとしている厚顔無恥な自身の思考に嫌気が差す。


 最初から僕に勇者の資格なんてモノはなかったのかもね……だから勇者の力も失われてしまったのかな……。

まだまだ先は長いですが、よろしければ今後もお見守りください。

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