治療行為
長く暗いトンネルを抜け、やっとのことで明るい場所へと帰還したレナ達はーー
「……セラは、無事……?」
泣きやんだカータは、セラを心配そうに見上げる。
目が腫れているのが恥ずかしいのか、カータはフードを目深に被っている。
「薬を飲まされたみたいなんだ……。解毒できないかな?」
セラは未だに薬が利いているようで呼吸が荒い。
暑さを感じているのか、とめどなく発汗しているし、偶にピクンと痙攣しては、その度に艶めかしい声を発している。
「……セラ、苦しそう……。……とりあえず、応急処置……」
カータの手が届くように僕は少し屈む。
彼女がセラの顔に手をかざし、力を行使すると、少しだけ容態が安定した。
「とりあえず、宿に帰ろう」
セラも休ませてあげたいし、ちゃんとした治療も施してあげたい。
「……うん、帰る……」
宿屋に向かう道で、僕は考え事をしていた。
もしゴーラの話を信じるなら、受付の女が黒幕と言うことになる。
彼女は何の為に僕の邪魔をしたんだ? 恨みを買った覚えもないし……。
「……セラは、何の薬を飲んだの……?」
僕が思考の海を泳いでいると、カータが心配そうに質問してくる。
「……お姉ちゃんが来る前に、セラの悲鳴が聞こえた……。……もし、毒を飲まされたのなら、命に関わる……」
一言で治療と言っても、症状によって施す治療は違う。
それは毒も病気も同じことだ。
彼女が飲んだのは媚薬だし、命にまでは関わらないとは思うけど、ある程度薬の種類が分からないと、解毒術の種類を絞り込めないしね……。
でも、媚薬って直接言うのも、カータへの教育的にどうなのかな……。
うーん……そうだ! ぼかして伝えよう!
僕は頭をフル回転させ、どうにかオブラートに包んで伝えようと試みる。
「その、何ていうか毒じゃないんだ……。感覚が鋭くなる……っていうのかな……」
「……もしかして、痛覚を、敏感にする薬……!? ……ショックで、死に至ることもある……!」
カータの顔が青くなる。
なんか悪い方に考えてるな……。何て言ったら良いんだろ……?
「いや、体の芯が熱くなって、快感を覚える、と言うか……」
「……それは、幻覚作用のある薬……!? ……体が熱くなるのは、人間の体温を、限界以上に、上昇させる作用のある猛毒……!?」
カータの顔が白くなる。
はっはっはっ……カータは想像力がたくましいな。
「……セラが、お姉ちゃんが、死んじゃう……!」
カータが、しゃくりを上げる。
「いや……! 僕はまだ死なないよ!?」
僕が盛大な勘違いをしている間に、カータは今にも泣きだしてしまいそうになっている。
こうなったらしょうがない! 本当のことを言おう!
「び、媚薬だよ! 強力だとは言っていたけど死ぬことはないよ!」
「……媚薬……?」
真実を知ったカータは、涙を拭い、注意深くセラの容体の確認を行った。
「……媚薬でこの症状なら大丈夫……。……お姉ちゃん、知ってるなら、ちゃんと言って……!」
「ごめんなさい……」
カータに睨まれた……。
まあ、それだけセラが心配ってことか。
とりあえずこれだけは言える。
性教育って難しい……。
この後、少し機嫌の悪いカータに、媚薬でも強力すぎると死ぬこともあるとか、治癒師にはきちんと状態を詳しく伝えないと危険だとか、色々なことを延々と説教された。
でも、怒っているというより照れ隠しに近いのかも知れない。
そんな話をしている内に宿屋に着いた。
いつもの部屋に戻り、ベッドにセラを寝かせて布団をかける。
「……すぐに、解毒する……」
カータはベッドの傍らの椅子に腰かけ、セラに手をかざして治療を施す。
僕は宿の店主に水をもらいに部屋を出た。
「どう? 大丈夫そう?」
水を持って部屋に戻り、今も尚、治療を続けるカータに、セラの現状を尋ねる。
「……とりあえず、術で、ある程度の、薬効は消せる……。……でも、最後に、ちょっとしたプロセスが、必要……」
カータは深く息を吐き出し、自身の袖口で額を拭う。
どうやら、施術は完了したようだ。
「プロセス、ってどういうこと?」
もらって来た水をコップに注いでカータに渡す。
「……術で、打ち消せないモノを、解消しないといけない……。……お姉ちゃん、手伝ってもらえる……?」
「僕で良ければ、何でもするよ!」
カータはコップの水を一気に流し込み、深呼吸をした。
「……じゃあ、お姉ちゃん……セラと、寝て……?」
「分かった! 僕は、全力でセラと寝るよ!」
言ったあとで気付く自分の発言の違和感。
「……はいー?」
この時の僕はさぞかし間抜けな声を出していたと思う。
「……大丈夫、天井のシミを、数えてる間に終わる……」
「はいー?」
僕は彼女の言葉を未だに処理しきれず、九官鳥のように、同じ言葉で聞き返すだけだった。
えっと……次回は、おそらく今までで一番のサービスシーンだと思います……。
多分消されることはないと思いますが、自信ありません。
まあ、もし、消されたら少し手直ししますので迷惑をかけるやもしれません。
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