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長く暗い三日間 ――最終日、破(カータ)――

申し訳ありませんが、今回から少し更新ペースを下げます。(目標は一日一話)

作者のコメントを見たという方は知っておられるかもしれませんが、現在予定の最終話を『第一部、完!』として、更に続きを描くつもりです。

これからも私の作品を応援していただけたら幸いです。



豹変したセラをカータは救えるのか……?


「……お姉ちゃんは来るよ……!」


 私は体を起こし、夕暮れに染まるベッドの上で腰掛けるセラに断言する。


 私には確信があった。

 今見えたヴィジョンは、お姉ちゃんがゴーラの部下達を叩きのめし、走ってこちらに向かっているというモノだった。


「……さっきまで、不安だったけど、必ず来る……! ……だから、セラ……諦めないで……!」


 セラを安心させたくて、私は彼女に必死に語りかけていた。


 しかし、私のそんな思いを受け入れるでも、拒絶するでもなく、セラは自身の気持ちを語り始める。

 でももしかしたら、これがこの三日間で初めてのまともな会話かも知れない。


「私ね……もし、それが本当だとしても、許せないの」

「……なんで……? ……お姉ちゃん、悪いことしてないよ……?」


 悲しそうな笑顔で、セラは笑った。


「違うのよ……私は、自分が許せないの」

「……なんで……? ……セラ、悪いことしてないよ……?」


 セラはゆっくりと首を横に振った。


「私は、レナを信じられなかった……信じてあげられなかったの……。私達の為に必死になって、戦ってくれた彼女を……。与えられることに慣れてしまったのかしらね……私は、レナに、何も与えられなかったっていうのに……」

「……そんな事ない……! ……セラといるときのお姉ちゃん、楽しそうだった……!」


 そう……私が嫉妬するくらい、お姉ちゃんはセラのことを思っていた。


 一瞬、セラは考え込む。


 おそらく、お姉ちゃんと共にいたときのことを考えているのだろう。

 過ぎ去った思い出に、セラは少し微笑んだ。


「足りないわ……。与えられるモノが多過ぎて、そんなんじゃ、全然……。だから、これは罰。レナを信じられなかった、私への罰なの」


 本気だ。

 彼女は本当に全てを受け入れているのだ。


 このまま行かせてはいけない!

 私は何としても、どんな手を使っても、彼女を、止めなければならない!


 私は、自身で封じ込めた感情――まだ幼かったときの、彼女への純粋な想い――を呼び起こす。


「……い、嫌、行かないで……! ……セラ……セラお姉ちゃん……!」


 照れ隠しだったのかも知れない。思い出に突き動かされたのかも知れない。

 自分でも全く理由は分からない。

 ただ、私は衝動的にセラの体に思い切り抱きついていた。


 見上げると、彼女は目を見開いていた。

 今日初めて感じた、セラお姉ちゃんの、彼女らしい感情の発露だった。


 しかし、それも、すぐに消えてしまう。


 暗い洞窟を、マッチの火で照らすことができないのと同じように……。


 何もかも、遅すぎたのだ。

 彼女がこの境地に至る前であれば、あるいは救えていたのかもしれないのに。


「……久しぶりね、その呼び方」


 セラはただ私を受け入れ、頭を撫でる。


 また私は泣いた。


「ありがとう……ごめんね……」


 私は泣きじゃくった。

 自分の無力さに……。自分じゃ彼女を救ってあげられないことに……。


「でも、私、分かったの。私はレナのことが大好きなんだって……。本当は騙されていたとか、どうでもいいの。レナの為なら純潔だって差し出せるの……。私は、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考え抜いて……。それで良いって、やっと辿り着いたの……。だから……良いの……」


 セラは私を安心させる為に、自分が、どれだけレナを愛しているかを、どれだけ今の状況に納得しているかを、彼女は幼子に諭すように、私に語った。

 例え、その思考への誘導自体が彼らの罠だったとしても、今の彼女には関係なかった。



 その答えに至れたことは、彼女にとって、本当に幸せなことだったのだから。



 外はもう、暗くなり始めていた。

 夕食の時間は……もうすぐだ。


「……私、そろそろ行くわ。カータ、これを――」


 彼女が私に渡してきたのは、今日の夕食の代金、銅貨二十枚だった。


「好きな物……ハンバーグでも食べてきなさい……」


 それは、私が小さな子供の頃に好きだったモノ。


 彼女の家で保護されていたときには、彼女自ら作ってくれた。


 彼女が初めて作ってくれたハンバーグは、焦げていて、とても苦かった。


 それでも、私は、涙を流しながら、美味しいと言って食べたのだ。

 その時の私は、ただ彼女が自分の好物を覚えてくれていたことが嬉しかった。


「……い、いや……! ……私、もう……ハンバーグ、好きじゃ……ない……! ……セラ、お姉、ちゃんの……作った、モノ、以外は……食べたく、ない……!」


 しかし、今の私は子供のように泣きながら告白する。彼女の優しさを守る為に言わなかった真実を。


 何故言ってしまったのか、自分にも分からない。


 どうすることもできない現実に対する、ただの八つ当たりだったのかも知れない。

 でも、そんな私の感情を受けても、彼女はただただ、哀しそうに微笑むだけだった。


「……知っていたわ。最初に、あなたに持って行ったときに微妙な顔をしていたから――」


 自分の子供じみた癇癪を、受け止め、彼女もまた秘密を告白する。


「――でも、ごめんね……美味しくないのに、美味しいって言ってくれた、カータの気持ちが、嬉しくて……好きじゃないって、知っていたのに、ずっと、作っていたのよ?」


 彼女は真実を知っても尚、自分の気遣い――優しさを守ってくれていた。


 それに気付かず、私はただ衝動に身を委ねて言ってしまった。

 彼女の優しさを踏み躙ってしまった。


 この苦い感情は、彼女が初めて作ってくれたハンバーグの、何十倍も苦くて……それを食べたときの、何十倍も涙があふれてきた。


「……ごめ、んな……さい……! ……セラ……お姉ぇ、ちゃん……! ……ごめんっ……なさい……!」

「良いのよ……」


 ただ、謝り続ける私の頭を彼女は撫で続けてくれた。






 そして、セラ自身が望む、罰の執行時間がもうそこまで迫っていた。


「……今日はあの食堂には、来てはいけないわ」


 それだけ言って、彼女はベッドから立ち上がった。

 ドアの方へと歩いて行く。

 何か言いたいのに、私にはもう何も言えなかった。


 ドアので一度立ち止まり、彼女はこちらを振り向いた。


「それじゃあ……ね……」


 その言葉だけを残して……彼女は出て行ってしまった。


 一人残された私は、彼女の名前を呼びながら……ただ泣くことしかできなかった。

ヴィジョンは距離が離れると伝わり方に齟齬が出ます。

特に勇者じゃない側はその影響が大きいようです。

だからセラはレナのことを疑うようになってしまったのでしょう。


ちなみにハンバーグのくだりは、彼女達の食糧事情で言及されています。

覚えてくれていた人はいますかね?

覚えてた! という方は感想に書き込むと、作者のやる気も上がるんじゃないですかね……?|д゜)チラッ


続きが気になるという方は、感想、評価、ブックマークなどよろしくお願いします!

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