長く暗い三日間 ――最終日、破(レナ)――
トラブルに見舞われつつも、なんとか帰路についたレナだが……。
心地良い馬車の調べが、激しい振動と共に止まる。
「誰だ、お前らは!」
御者をしていた男が乱入者に問いかける。
「誰でも良いだろ! それよりも……この馬車にレナって名前の冒険者が乗ってるだろ? そいつを、ここに置いて行けば何もしねえよ」
その言葉だけで、僕はこいつらがゴーラの手先だと理解した。
「……僕が出ますから、貴方達は逃げて下さい」
馬車のドアを開け、乱入者と対峙する。
馬車は足早に僕達の横を通り過ぎ、彼方へと走り去って行った。
「へっ! かっこつけやがって」
「おい、隊長よ……。この女、好きにしていいのか?」
「ああ、ゴーラさんはセラさえ手に入れば良いらしい」
全部で三人……一番手前の男との距離は大体五メートルくらいかな?
相手の力量次第だけどやれないこともないって感じだ。
「おい、言っておくが……セラなら、もう手遅れだぜ?」
一番手前にいた男がニヤニヤと笑いながら僕に語りかけてきた。
手遅れ……? どういうこと?
「分かんねえって顔してんなぁ? 良いぜ、どういう訳か教えてやるよ……!」
僕の表情を見て、笑みを深くし、上機嫌に男は続ける。
「お前、アウステルダーに向かう初日に、変に足止めくらっただろ? あれは全部俺達が仕組んだんだ」
確かに、偶然にしては色々起こり過ぎていた。ということは、初日の寝坊も薬でも盛られていたのかもしれない。
「それでな。その断片をセラに見せて、あたかもお前がセラ達を裏切ったように思い込ませたのさ。まあ、薬も使ったみたいだけどよ」
「お前ら……!」
僕は相手を射殺すような気持ちで鋭い視線をぶつける。
「良いねぇ、その顔……! セラも最後は喜んでやがったぜぇ……! 自分の体を触られることをよぉ!」
あの時見えたヴィジョンを思い出し、僕の怒りが膨れ上がっていく。
あれは、やはり夢じゃなくてカータが見ていた光景だったのか!
それに、あれが現実だったってことは……!
セラの体が弄ばれる光景が僕の頭にへばりついて離れない。
「というわけでよ。あり得ないとは思うが、お前が戻ることで正気に戻られると困っちまう訳よ。だが、もう既に馬車もなくなった……。つまり、お前が間に合う可能性は万に一つもないってことだ!」
何がおかしいのか、三人は下品に高笑いする。
人の神経を逆撫でる男達の声で、既に頂点にあった僕の怒りは、ソレをあっさりと飛び越えた。
度を越した怒りに、僕の心は酷く冷静になる。
身を焦がすような冷たい怒りを抑え込みながら、男達を見据えた。
そもそも、三対一なんだ。
不意打ちを、卑怯だとか言うなよ。
「……言いたい事はそれだけ?」
言葉を発した後、急激に距離を詰めた僕は、目の前の、肩に大剣を担いだ男に全力の上段切りを打ち入れる。
彼の大剣は僕の剣を叩きつけられたところからぽっきりと折れ、そのまま彼の肩口を切りつけた。
「ぎゃあああぁぁ!!」
品性のかけらもない叫び声が辺りに響き渡る。
そのまま腹を蹴ると、骨が軋む嫌な音を立てて、十メートル程先まで吹っ飛んで行く。
着地と同時に砂埃が上がった。
これは、多分生きてる。
それと……この程度の実力ならすぐに決着が着きそうだね。
「えっ? あっ? 何だ?」
奴らの内の一人は、目の前で紙のように吹っ飛んでいった仲間が認識できなかったようで、僕と仲間の両方を振り子のように繰り返し見比べている。
そんなことは気にせず、僕は地面を蹴り、振り子人形と化した男に肉薄し、刃の横側で叩き飛ばす。
体が樹に当たって止まってしまったので、正確な計測はできないが、多分さっきの男より飛んだだろう。
こいつも大丈夫か。
殺すのも後味悪いからね……。
「お、お前……! たかが一流派の初段ごときが、こんなに強い訳ないだろ!」
その情報が漏れているってことは、ギルドが絡んでいるのかな?
「一応、段持ちって言っただけだよ。まあ、本当のことは教えてやらないけどね」
実際は最近強くなっただけだしね。
僕は最後の一人にも怒りをぶつけてやろうと剣を構える。
相手の顔が引きつるのが見えた。
「ま、待て、悪かった、許してくれ……! もう俺は何もしない!」
手を上げて、降参のポーズ。
「そんなことで許されると思っているの? 逆効果だよ、それ……。半端な気持ちで、僕に手を出したことを、死ぬほど後悔させたくなるよ……!」
僕の言葉を聞いて、男は震えだす。
「ヴァアアアアア!!!!」
やけくそになって、襲いかかって来たか……。
「やああぁぁぁ!!」
一歩踏み出し、腰の辺りを狙って剣を横へと薙ぐ。
反応できるはずもなく、彼はくの字になって飛んで行った。
速く町に行こう、急がないと……。
最後にチラリと見えたそいつの姿は、明らかに曲がってはいけない場所が曲がっていた。
あ……ちょっとヤバいかな。
まあ良いか、僕には関係ないし。
でも、一人旅をして、少しは細身の剣の使い方もマシになったかな?
走りながらも僕の頭は冷静だった。
確かに僕の脚で走っても、絶対に間に合わない。
だが、僕には間に合う確信があった。
とにかく急ごう。二人が……僕を待ってるはずだ。
夕暮れに近づきゆく太陽光を浴びながら、僕は未だ見えない街へと思いを馳せた。
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