長く暗い三日間 ――二日目――
一人奮闘するレナと、セラの様子に違和を感じるカータは……。
昨日は嫌な夢を見た。
セラが泣いていて、それを見た自分が悲しんでいる夢。
変にリアルだった……。
でも、そのおかげで早起きして森に行けた。
森の浅い所にはもう薬草がないようで、少し深い所へ向かうことにする。
ない、ない、ない!
早く探さなければと焦り、仕方なく縋るような思いでゴーラの地図に頼る。
見つけた、群生地だ! 本物だったのか……?
目的の薬草をかなり多めに採集し、帰ろうと踵を返すと、僕の前にあるモノが立ちふさがった。
リングベア――出会いたくない魔物が出て来た。
本来、一人で相手をするような魔物ではない。
強さ的に例えると、ブッシュウルフが二十頭いても、リングベアが圧勝する程だ。
近くに全然魔物がいないと思ったら、こいつがいるからか……。
リングベアは縄張り意識が強く、侵入者を絶対に許さない。
自身か敵かのどちらかが死ぬまで戦い続けるので、冒険者の間では、こいつの縄張りの地図が出回って注意喚起している。
そうか……こいつの巣の地図だったってことか。
やっぱり、騙していたんだな!
僕は怒りをこの魔物にぶつけることにした。
二時間もの死闘の末、なんとか倒すことができた。
ブッシュウルフの件以来、僕は体の調子がすこぶる良い。
勇者の力の影響か、確実に以前より力を増しており、間違いなく女になる前よりも強い。
もし以前の僕なら、リングベアに出会って、二秒で即死だっただろうから。
もしかしたら、僕の勇者の力は覚醒しつつあるのかもしれない。
帰ろうとした所で、新たな問題が発生する。
迷った。
地図はさっきの戦闘でボロボロになってしまったのだ。
ふざけるな! こっちは急いでいるんだ! こうなったら、朝まで出口を探し続けてやる……!
今日見た夢のこともある……早く帰って安心させてあげたい。
◆◇◆
今日も朝からセラがおかしい。
今日は無理にでも外へと連れ出そう。
私が手を引っ張ると彼女は暴れ出した。
まるで、癇癪を起こした子供のように。
それでも無理矢理引っ張ると――
パシン!
一瞬何が起こったのか分からなかった。
ジンジンとひりつく頬。
叩かれた……。多分、セラと出会ってから今までで、初めてのこと。
ハッとして、私に抱きつくセラに「ごめんね……! ごめんね……!」って謝られる。
頬はもう既に痛くないのに……涙があふれる。
それを見たセラに「ごめんね……痛かったね……!」って、泣きながら、再び謝られた。
違うよ、痛くないよ、っていう言葉がどうしても出てこない。
私達はしばらく抱き合って泣いていた。
また夕食。
最悪っていう言葉は、昨日の状態じゃなかった。まだまだ甘かった……。
最後の一線。
それだけは超えなかった。
それだけ……。
男達の手が、セラの体の至る所を弄んでいる。
私の見間違いであって欲しい――下着の中にまで、手を差し込まれているように見える。
何より嫌なのは、セラが嫌がっていないのだ。
心の底から喜びに震えるような恍惚の表情をしている。
そして、唇――重なっている。
男嫌いなはずのセラがそれを受け入れ、口をもごもごと動かしている。
それを受け入れる彼女の口からは、艶めかしい吐息まで漏れている。
ゴーラが手を抜くと、涎でも付けていたのか、粘り気のある液体が人差し指と中指を繋ぐ橋の様になっていた。
目を反らしたい。ここから逃げ出したい。
でも、私が逃げたら……彼らが本当に、最後の一線を越えてしまいそうで……。
その思いだけが、私をこの場にくい止めていた。
ご飯。味がしない。
前食べたモノと同じ、レモンパイじゃないみたい……。
半分以上残してしまった。
吐きそう……。
宿に帰ったら、やっぱり吐いた。
夜。
セラは、ずっと起きていた。
「とうとう、明日か……」とか。
「やっぱり、そうだったんだ……」とか。
私には良く分からない言葉を、ずっと呟いていた。
セラは何で、そんなにも諦めちゃったの?
明日はお姉ちゃんが帰って来て、全て解決してくれるんだよ?
お姉ちゃんが帰ってきたら解決するよね?
明日帰ってくるよね?
私は待ってる、信じてる……!
待つのは慣れてるから……でも――もう、お姉ちゃんに、待たされるのは嫌だよ――
……早く、帰ってきて……!
まだまだ鬱展開が続きます、ご了承ください。
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