コルウェイの森にて、 ――違和感を抱えて――
真っ黒な夢から覚めたレナは……。
このまま行けるか? と思った瞬間、体が重くなる。
「カータ! 僕はセラの所に行く! 指示があるまで出てくるな!!!」
思考より先に言葉が出ていた。
元々の作戦ではカータをセラの元へ向かわせる手はずだった。
しかし、そうしては行けないような気がする。
理由などない――直感だ。
カータ一人残すことの危険性は間違いなく大きい。
しかし、隠れている彼女は見つかる可能性は低い。
ブッシュウルフは魔力の臭いに敏感だが、嗅覚は人並みだからだ。
これもおじいさんから教えてもらった情報である。
迷ってる場合じゃない、セラの元へ急ごう。
僕は、ただ森を駆け抜けた。
最初は僕を追いかけてきていたブッシュウルフも、何体かを切り捨てたところで諦めたようで、途中から僕は一人だった。
真っ赤な映像がフラッシュバックする。
血まみれの球体。そこから伸びる金色の糸。
断続的に浮かぶヴィジョンに気が狂いそうになりながらも、それから逃れるように、息を切らせて必死に脚を動かしていた。
どれくらい走っただろう? 体は疲労感を訴え、肺は酸素を欲し、脚は感覚を失っていた。
そんな中、遠くの方に微かな希望の光を見つけた。
居た……セラだ……!
服がボロボロになり、脚はガクガク震え、自らの肩口を抑え、頭や腕、腹、脚と至るところから、血が噴き出し、へたり込みそうになりながらも――彼女は生きていた。
「セラ!」
安堵の余り、思わず彼女の名前を叫んでしまう。
彼女の状態は決して良くないし、普通なら安堵なんてしない。
しかし、頭にチラつく最悪なヴィジョンが今の状態が最良なのだと僕に訴える。
「レナ、来てくれたの……?」
セラは僕の顔を見て、安心したように微笑む。
その刹那見えてしまった。最悪な事態へと至る光景が……。
ブッシュウルフの牙が彼女の首筋を目がけて、そのか細いつながりを断とうと近付いて行く。
スローモーションのようにゆっくりと、しかし確実にセラの命の危機が迫っていく。
僕とセラの距離は、まだ十メートル近く離れている。
間に合わない?
頭の中にヴィジョンが広がって行く。
目の前でセラの頭と胴が分かれ、それを見た自分は叫ぶ。
彼女の体が貪られる光景を目にしながらも、必死に自分の持てる術を総動員しセラの治癒を行う。
これは僕の記憶じゃない……!
いや、どういう意味だ?
自分で、自分の思考が分からない。
叫んでいる自分の声は僕の妹の声に良く似ていた。
僕のモノではない記憶の海を漂いながらも、セラの首元に鋭い牙が襲いかかろうとしている現実は変わらない。
諦め。
その二文字が僕の頭を急激に侵食し支配して行く。
……いや違う……支配するのは〈俺〉だ……!
諦めない!
僕の思考を……〈俺〉が塗りつぶす。
〈俺〉は……諦めない!!
塗りつぶされた視界が徐々に明るくなっていく。気が付くと、手元にある〈俺〉の剣がウルフの体を深々と刺し貫いていた。
間に、合った……?
自分でも何が起こったのか分からない。
すさまじい疲労感。
頭が働かない。
倒れたい。
セラを守るという意志で、その欲望を捩じ伏せる。
「セラ……魔法を使え……。〈俺〉が時間を稼ぐ……」
眠い。
「あんた……! 大丈夫なの!?」
「〈俺〉の事はいい……十秒だけ必ずお前を守り抜く……。だからお前は〈俺〉を信じてろ……」
ぼーっとする。
「さあ……駄犬共……お前らの生の、最後のダンスに付き合ってやるよ……!」
熱っぽい。
剣を振るう。
寒い。
ウルフを切り刻む。
頭が痛い。
蹴る、殴る、捩じ伏せる。
つらい。
風が舞う。
踊る相手がいなくなった……。もう我慢しなくて良い……。
目に映った最後の光景は〈俺〉に駆け寄る少女の泣き顔だった。
泣かないでくれ。
見たくない……でも、見たかった……。
そこから〈俺〉の思考はプッツリと途切れて、暫く目を覚ますことはなかった。
見ていただいてお分かりになったかも知れませんが、今回時間遡行が起こりました。
「何だそれ! チートだ!!」と思われるかも知れませんが、実際そんな便利なモノではありません。
これは、ドラ○エでいう時○砂に近いです。使用するにしても、様々な制限があります。
それにこれは、強敵に対してはほぼ意味を成しません。
例えば、レナ達がドラゴンと戦ったとします。ドラゴンに勝てるはずもなく全滅します。
戦闘前に戻ったとしても勝てません。逃げるという選択もできますが、強敵相手には難しいでしょう。
読んで下さり、ありがとうございます。
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