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コルウェイの森にて ――金の糸、歪な人形――

表現はマイルドにしておりますが、少しグロ要素があるかもしれません。

注意してください。

 このまま行けるかと思った瞬間、体が重くなる。

 魔法が切れたと理解する前に、ウルフ二匹が跳びかかってくる。

 なんとか上段切りで一体のウルフを切り捨てるが、もう一体のウルフに対しての攻撃は、昔使っていた剣の癖で間合いを測り損ねて、空振ってしまった。


 ウルフの爪で傷を負う。

 しかし、大したダメージではない。カータの魔法は活きているということだ。


 違和感。


 バフ魔法解除の条件は二つ。


 一つは制限時間。

 バフ魔法の効果時間というのは常に一定で、大体被術者が一定数の鼓動をすると解除されると言われている。

 セラの魔法だけが消えたということは、もう一つの魔法の解除条件が満たされたということだ。


 術者の身に――何かが起こった。


「カータ! 僕のことは良い! セラのとこへ行け!!!」


 僕は力の限り叫んだ。

 

 大丈夫だ、ブッシュウルフさえ出なければ立て直せる。

 こいつらは縄張り意識が高いから、他の群れのブッシュウルフがセラを襲った可能性はないはずだ。


 おじいさんから聞いたブッシュウルフの習性の一つを思い出しながら、自分に言い聞かせる。


 しかし、燃え上がった焦燥感は消えず、体は熱いのに精神が冷え切った不快な感覚が治まることはない。

頭の中で警鐘が鳴り続ける。


 こんな雑魚共は速く倒してセラ達の元に行かなければ……。彼女達を守ると誓ったんだ。


 僕はがむしゃらに剣を振るった。

 しかし、剣を振りながらも昨日のおじいさんの言葉が頭に浮かび上がってくる。


“仲間を守る自信がないのなら冒険者など止めておけ……”


 やめろ……!


“おぬしがカータから聞いていたような性格ならば、もし守れなかった場合”


 今、思い出すべきことじゃない……!


“おぬしは自分自身を……生涯、憎み続けることになるじゃろう”


 これじゃあ、まるで……!


 既にカータのバフ魔法も効果が切れている。どちらの条件が満たされたか分からず、焦燥はどんどん僕の心を蝕んでいく……。

 傷を負っても構わず、頭の中のどす黒いイメージを振り切るように、僕はひたすらに突っ込んで、ずっとずっと剣を振り続けた。


 どのくらい、時間が立ったのだろうか? 最後の一体を倒したとき、遠くで絶望に塗れた悲鳴が聞こえた。


 カータ……!


 僕は大樹に向かって走った。

 無理に剣を振るったせいで、手は震え、脚も麻痺したかのように感覚がなかった。


 それでも走った、彼女達の元へと――


 見つけた……!


 カータは無事のようだ。

 何かに向かって、懸命に治癒術を使っている。


 何をやってるんだ……?


 距離が近付くとカータの持つそれが、球体であることに気付く。

 カータは少女の名前を叫びながら泣いている。

 そして、金色の糸がその赤い球体から伸びているのが見えた。


 見覚えのある金糸。


「う、嘘だ……!」


 あの子の髪に良く似た色だ。きれいで美しい金色……。


 でも、あれは違う……!

 だって、あれには……!



 ソレ以外の部分がないじゃないか……!



 現実を受け入れることができない。

 懸命に治癒術を続けるカータを、僕は熱にうかされたようにただ茫然と見つめている。

 走り疲れた体から力が抜け、どうやっても動かない。


 ガシュッ!


 朦朧とした意識の中、カータの頭に勢いよく何かが通り過ぎたのが分かった。


 僕の目の前で少女は赤い人形になった。首のない赤い人形に――








 そこから先の記憶はない。


 というよりも、ここに来る前後の記憶も曖昧だ。

 何かを叫んでいた気もするが、なんと言ったかは全く覚えてない。


 ただ、僕の周りに、ブッシュウルフだったモノの塊が五個ほど転がっていた。


 他には首の取れた人形が一体。


 僕の心の冷静な部分が「随分バランスの悪い人形だな」と考えていた。


 二人は木の実を取りに行ったのかな?


 早く食堂に行ってご飯を食べよう。

 あの不味いご飯も……二人と一緒ならご馳走になるんだ。

 カータの姉を探したら……僕もぶん殴ってやろう。


 そして、カータの姉は自分だ。もう貴女は要らないんだと言ってやるんだ。


 カータは、喜んでくれるかな?


 セラも肩の荷が降りたら、少しは素直になってくれるかな?

 まあ、素直じゃないセラも可愛いんだけどね。


 気が付くと、先程昼食を摂った、温かさの残る丘に戻って来ていた。


 何故か胸が張り裂けそうになり、視界がにじんで前が見えなくなってくる。


 さっきまで……楽しかったな……。

 二人が隣に居ないだけで……こんなに淋しく感じるなんて……思わなかったよ……。


 ここで待っていたら……二人は戻って……来てくれるよね……?


 その時、再び暖かい風が吹いた。


 思わず目を閉じる。

 次に目を開けると、二人が前を歩いている姿が見えた。


 待ってよ……!

 

 置いてきぼりにされた子供のように、僕は必死に二人を追いかけた。

 そして、不意に訪れた浮遊感と共に、僕の意識は深く深い暗闇へと落ちていった。

レナは「信じていれば死ぬことはない」とおじいさんに言いました。

しかし、彼女達は死んだ。それは何故か?


レナはカータを大事にするあまり、彼女を信じきることができなかったのです。レナがすべき最良は二人一緒に大樹の元へ行かせることでした。


この出来事はレナの心に一生こびりついて離れることはないでしょう……。


読んで下さり、ありがとうございます。

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