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コルウェイの森にて ――採集――

 昨日の夕食は、最悪だった。

 夕食前のセラへのセクハラは勿論のこと、夕食に出てきたレモンパイが駄目だった。

 酸っぱいだけで甘みもなく旨みもない。

 ただのレモンを食べた方が、マシだったのではないかと思う程だ。


 歯磨きした後にも酸味が残っており、寝るときまで気分が悪かった。

 それに、あれからセラの元気がなく、偶に何かを考えるように、ぼーっとしていることが目立っていた。

 やはり、僕がカータの姉になることを、引き受けたことが関係しているのだろう。


 そして、今日の朝。

 僕が鳥の鳴き声で目覚めると、いつもセラと一緒にベッドで眠っているカータが、何故か僕の布団の中にいた。……全裸で。


 何をやっているのかを訊いたら、顔を真っ赤にして「……ゆうべはおたのしみでしたね……」と意味の分からないことを言われるし……。


 そんなことをやっていたら、セラが起きてきてこっぴどく怒られた。


 でも、何もやってないのに怒られるなんて酷くないかな? 怒られたの僕の割合が大きかったし……。

 まあ、いつものセラに戻っていたことに、少しだけホッとしたのは内緒にしておこう。


 そして、僕達はあの朝ごはんを終え、町を出発し、現在はコルウェイの森の中を歩いていた。

 昨日の話し合いで、僕達は最初に薬草四種類、木の実二種類を採集し、その後でブッシュウルフを狩ることにした。

 森の中にはブッシュウルフ以外にもいろんな魔物が生息しているので、それらを倒しながら先へと進んで行く。


「薬草はとりあえずこれで全部かな」

 

 最後の薬草を袋に入れ、一段落したことに安堵する。

 実際ここまでは特に強い魔物も出ず、なんとか無事にやって来ることができていた。

 今も会話を交えながら、僕達は先を急いでいる。


「あーあ……森の中だから、得意な魔法は使いづらいし、ストレス溜まるわ……」


 セラは攻撃系の魔術。

 特に、火を扱うことが得意なのだが、森の中では山火事などの心配もあり、なかなか思うように戦えていない。

 セラの格好はいつも通りゴスロリなのだが、スカートが短く、動きやすい服装になっている。

 おそらく、私服とクエストの時の服を使い分けているのだろう。

 魔物と戦うときに、チラチラと下着が見えそうになっていることは、僕の心の中に秘めておく。


 ちなみにカータの格好はいつも通りのローブだが、着脱可能なフードを外してある。

 外を歩くので、あった方が良いと思うのだが、カータ曰く「……あると眠くなる……」らしい。

 集中できないから外すのだそうだ。


「……私、役立たずみたい……。……セラ、速く怪我して……」


 カータはカータで、身も蓋もないことを言っている。

 もちろん本気ではないだろうが、彼女も役に立ちたいからこそこういってるのだ。


「なんで、私限定なのよ!」


 そして、セラはカータの冗談を聞き流すことなどできはしない。


「……お姉ちゃんには、怪我しないで欲しい……。……セラは、別にいい……」

「どういう意味よ! 大体、私との方が付き合い長いのに、昨日だって――」

「……セラは、お姉ちゃんに、なってくれなかった……」


 セラの文句を遮るようにカータは言葉を発する。

 その顔はどことなく寂しそうだった。

 その言葉を聞いたセラも、居心地が悪そうにカータから目を反らす。


「……そうね、私は、あんたの姉にはなれないわ」


 重苦しい沈黙が流れる。

 気の利いた言葉も、かけてあげられない。

 僕はセラとカータの事情を何も知らないから。

 その内聞こうと、タイミングを逃し続けたツケが回ってきていた。


 姉、か……。

 何故カータは、姉にこだわるのだろう?


 尋ねたいけれども、今も事情を聞けるような雰囲気ではない。

 とりあえず、話題の転換をしよう。


「それより、もうそろそろ目的の樹が見つかるんじゃない? さっきの薬草の群生地の近くにあるって話だったよね?」


 大げさに周りを見渡してみる。

 すると、小高い丘にそれらしきモノが見えてきた。


「あっ! あれじゃないかな?」


 丘の方を指差して、二人の様子を窺うが反応は鈍い。


「そうだ! もう昼時だし、せっかくだからあそこでご飯を食べようよ! ねっ?」


 どうにか雰囲気を良くしようと、笑顔で提案する。


「ええ……」

「……うん……」


 なんとか同意を得ることができたので、気まずそうな二人を急かし丘へと急ぐ。

 果たして、それは目的の薬草であった。


「これで、採集系も残り一つだね」


 しかし、その最後の採集系クエストは今までで一番厄介な所にある。

 その場所とは、ブッシュウルフの縄張りの近くにある大樹で、その大樹の実がクエストの依頼物だ。

 一挙両得といきたいところではあるが、実際はそう簡単な問題ではないのだ。


「さあ、ご飯を食べよう」


 僕は大きめのシートを敷き、朝ごはんの残りを広げる。


 何の連絡もしていないのに、今日はいつもよりパンが多めに置いてあり、昼食はサンドイッチになっている。

 僕はおじさんに感謝しつつそれを頬張る。

 中に挟まるハム、チーズ、卵、マヨネーズ、レタスが素晴らしいハーモニーを奏でている。


 夕食とは、えらい違いだ。

 あの食堂での夕食は、初日こそ空腹のおかげで美味しく感じていたが、二日目以降は粗が目立つ。

 味付けは、まばらだし、パンは硬い。メインディッシュは触感がベちょベちょしていたり、ぱさぱさしていたりして、とても美味しいとは言えなかった。


 昨日のレモンパイも、最たる例である。

 あれで宿屋一人分の代金と一緒だなんて信じられない。

 やはり、ぼったくられているのだ。

 それがお金を借りた時の契約の一部とはいえ、割り切れるモノではない。


 ああ……今日の夕食を想像して憂鬱になってきた。

 思考を打ち切ろう……。


 僕は今の幸せだけに、目を向ける事にした。

読んで下さり、ありがとうございます。

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