武器選び
夕暮れも近い街の中、僕は冒険者ギルドへと向かっていた。
排水溝掃除は終わった。
作業服のような物を借りたとはいえ、汚泥の臭いが自分の体に染み付いているような気がする。
現に、なんとなく周りの人が僕のことを少し避けているのではないかと感じていた。
だが、それ以上に気になることがある。
排水溝の清掃中、僕は一抹の不安を感じた。
スコップを、重いとは感じなかった。
しかし、それは最初の内は……だ。
段々と重くのしかかってくる道具に、僕は恐怖を感じた。
僕は剣を振れるのか? 僕は、二人を守って戦えるのか?
彼女達には、剣術等の心得はない。
精々セラが護身用の短剣術を身につけているというぐらいである。
僕達の討伐目標のブッシュウルフという魔物は、大したことはないとはいっても、コルウェイの森に棲息する魔物の中では最強の部類であり、生身の人間を容易く殺せる力を持つ。
もし、二人が傷付いたら「守れませんでした」では済まない。
万に一つがあってはならないのだ。
僕は、このパーティの、リーダーなんだから……。
そんな思いに駆られ、僕はギルドに剣を借りに行った。
本当は明日の朝一番で借りに来ようと思っていたのだが、少しでも武器に慣れたかったので、クエストが終わった後すぐに取りに来たのだ。
ギルドの扉を潜ると、前来たときと同じ女性が受付に座っていた。
「すいません、剣のレンタルはどこでしてもらえますか?」
「それなら、そこの部屋に剣があるので、気に入ったのがあればこちらに持ってきて下さい」
受付の横の小部屋を指差され、僕はそこへと向かう。
そこには様々な武器があった。
弓やハンマーなどもあるが、やはり剣が一番多い。
とりあえず、僕が男のときに使っていたモノと同じような大剣を持ってみる。
重い……! 僕は、こんなモノを振り回していたのか……。
使えない事もないけど、すぐに息切れしてしまいそうだ。
諦めて、元の場所に大剣を戻す。
使い慣れてなくても、使えない武器を持って行くよりはマシだ。
少し小さめの剣を探そう。
目標を定め、近場にあった少し細身の剣を手に取る。
長さはスコップより短いが、重さは同じくらいか……。
とりあえず、これにしておこうかな。
これ以上刀身が短いと、大剣との間合いの違いが致命的な失敗を引き起こすかも知れないしね。
その剣を持って受付に向かうと、そこには先客がいた。
僕が会いたくない奴ナンバーワンと言っても、過言ではない奴だ。
ゴーラ……! 嫌な奴に会ったな……。
しかし、入れ違いで用事が済んだらしく、僕に気付かずに帰って行った。
どうせ、また夕食の席で会うことになるだろうけどね。
気を取り直して、受付に近付き受付嬢に剣を借りる旨を話すと、武器のレンタル料はツケにもできるらしいので、そうして貰うことにした。
壊した場合は弁償だが、元々工房のでき損ないが置いてあるだけなので、そんなに高くないらしい。
手続きを終えて、お礼を言い、剣を持って宿屋へ向かう。
そういえばまた受付のお姉さんの名前を確認し忘れていたが、今の僕にはそんなことは些末な問題だった。
ギルドからの帰り道。僕は不安と闘っていたのだ。
この使い慣れていない剣で、彼女達を守れるのか?
答えの出ない問い掛けに僕は苦笑した。
勇者という存在であったときは実感のなかった、他人を守るという目的を、力を失ってから強く感じると言うのは酷い皮肉だと思った。
力がなくても、やらなきゃならないんだ……。きっと上手く行くさ……。
僕は思考を打ち切った。
どうせ考えても答えは出ないのだから。
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