最初の依頼
宿を出た僕は届け物の依頼主の所へと向かった。
排水溝掃除は汚れそうだから後回しにした。
「すいません。クエストを見て来たんですが」
依頼書を見せると、依頼主の男は僕をじろじろと見回す。
「……全く、全然、依頼を受けに来ねえと思ったら、こんな若い姉ちゃん寄越しやがって」
ねえ、ため息を吐きながらも、僕の体をじろじろと見ているのは気付いているんだよ?
それに、誰も依頼を受けに来ないのは、報酬が少なすぎるのが原因だよ。銅貨一枚って……子供のお使いじゃないんだから。
「まあいいや。この箱を町はずれにある、妖精の集落っていう食堂まで持って行って、店長に渡してくれ」
そう言って、「給料三ヶ月分ですか?」と訊きたくなる様な小箱を手渡される。
なるほど、安い報酬の理由は届け先が近すぎるからか……まさしく、初めてのおつかいレベルだ。
「大した事ねえから、驚いただろ? まあ、訳あって俺はあそこに行けねえんだ。頼んだぜ姉ちゃん」
そう言うと、依頼主は僕の体から目線を外し、奥へと引っ込んで行った。
女の子は男の視線に敏感だっていうのは本当の事だったのか。すっごく、気分が悪かったよ。僕も男に戻ったら気をつけないと。
まあ、戻れるかなんて、分からないけどね……。
とりあえず、早く目的地に向かおう……。
自虐的な思考を抑え込み依頼主の家を出る。
僕はフェアリーコロニーのある場所を尋ねながら目的地を目指す。しかし、何故か店の名前を口にすると、男には変な目で見られるし、「君がいるなら俺も行こうかな?」とか、良く分からない事を言われてしまう。
そうこうしていると、三十分もしない内に、目的地にたどり着く事ができた。
やはり近い。何故わざわざ銅貨一枚とはいえ、お金を出してまで他人に届けさせるのかが全く理解できない。
店はログハウスのように木で造られており、華美な装飾は無いものの、雰囲気的には清潔感と偉容さのあふれる家、といった感じであった。
外の看板には〈ようこそ!妖精の住処へ……〉と書かれており、外観だけでは、ここがどんな店なのか全く想像がつかない。
ここ本当に食堂だよね?
良く見れば店の入り口の所にもう一つ看板が置かれており、〈妖精のオムライス魔法を添えて――〉とか〈翅の羽ばたきと妖精のコーヒー〉とか意味の分からないことが書かれていた。これは料理名のようなので、間違いなく食堂ではあるようだ。
ただし、少しコンセプトが、普通とは違うのだろう。
そう自分を納得させ店のドアを開けると、チリン……とドアに付けられた鈴が涼しげな音をたてる。
店内を見ての第一印象は「森」であった。
店の中のインテリアはほとんどが木製で、机は大きな樹の幹をぶった切ったような円柱状でありながら、天然の樹のような歪な形で模られており、椅子は机を小型化したデザインだった。
天井を見上げると葉っぱが敷き詰められており、照明が隙間から洩れるさまは、あたかも森林浴をしているような気分になる。
観葉植物も飾られているのだが、それは決して店の雰囲気を壊さない絶妙な配置になっており、あまり芸術が分からない僕であっても、センスが良いと感じてしまう程だった。
一瞬で異世界に来たような気分の中、店内を一歩踏み出すと横から鷹揚な声で迎えられる。
「よくぞ来た、偉大なる人間よ……」
意識外からの出迎えに驚き、僕を迎えた人物に顔を向ける。
どんな店員だよ、そんな大仰な出迎えをするのは――って!
店に来たのが僕だと気付いた瞬間に、営業スマイルは砕け散り店員の顔は驚きに変わった。
「レ、レナ!? なんで、ここにいるのよ!」
それは紛う事なく、金髪ツインテールの美少女、セラだった。
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