彼女の不可解な行動
オジサンに元気をもらった僕達は(自覚しているのは僕だけだが)宿の部屋に戻り、今後の方針について話し合っていた。
セラとカータが椅子に、僕がベッドに座り、クエストの依頼書は皆で見られるように布団の上に広げてある。
ちなみに話し合いの主導しているのは僕だ。
セラ達は冒険者を志してからひと月も経っておらず、あまり作戦や計画を立てることに慣れていない。
だから、昨日の夜の話し合いで、一人旅で慣れている僕がリーダー的な役割を引き受けることに決まっていた。
「面倒なクエストはこれだけだね」
僕は布団の上の紙を一つ摘み、二人の目の前に掲げた。
その依頼はパーティ限定のクエストで、十個の依頼の中で唯一の討伐系のクエストだ。
その内容は、僕達の拠点とするメラン・コリーの町の近くにある、コルウェイの森に棲息するブッシュウルフを、五体以上討伐する(それ以上倒しても追加報酬なし)というものだった。
魔物自体はそう強いものではないのだが、ブッシュウルフは基本的に八体以上の群れで行動する。
つまり、五体以上と書いてあるが、実際は群れを討伐する心づもりでなければ手が出せない。
詐欺のような話であるが、五体より多く記載すると値段が上がるので、わざと少なく書いてあるのだ。このクエストが放置されていたのは、割に合わないというのが理由だろう。
いくら強くないからといっても、囲まれれば殺されてもおかしくない。
しかし、これをクリアすれば残りの採集系のクエストは、コルウェイの森関連のモノばかりなので、一日かければ全部まとめて一気にクリアできるだろう。
「採集系の六つと討伐系の一つは、明日朝から森へと出発して遂行する。今日の夕食が終わり次第、作戦を考えよう。それで良いかな?」
「分かったわ」
「……分か……った……」
二人の返事が聞こえるが、カータの声に張りがないので様子をうかがうと、フードを目深に被って、船を漕いでいた。
ねえ、カータ。僕の話は眠いのかな……?
フードで、眠っていることが分からないように誤魔化すカータに、空しい気持ちになりつつも、起こしておこうと思い声をかける。
「カータ? 聞いてる……?」
「……! ……き、聞いてる……!」
いや、寝てたよね……?
理由は分からないけど、もしかしたら寝不足なのかな。少し隈ができている気もするし。
「まあとりあえず、これで採集系六つ、討伐系一つの対策は終わりだ。残る三つの雑用系……今日はこれを終わらせよう」
七枚の依頼書を片付け、三枚の依頼書を改めて広げる。
一つは排水溝の掃除、一つは届け物、最後は老人の話し相手だ。
「一人一つずつで、三つの雑用系クエストの担当を分けようと思うんだけど、異論はないかな?」
二人の顔を窺い、確認する。
「私はパス」
「え……なんで……?」
セラが僕の提案を突っぱねた。
おそらく僕は少し間抜けな顔をしているだろう。
まさか断られるとは思ってなかった。
「別に理由もなくって訳じゃないわよ。悪いとは思うけど、今日は外せない用事があるの」
用事……ね。
少し無責任な気がするし納得はできないけど、理解してあげるしかないか。
カータの方を窺うと、彼女はこの件に関して特に文句はないようで、何も言わず大人しく座っている。いや、寝てるのか?
「分かったよ。それじゃあ僕が二つこなすよ。カータはどれかやりたい依頼はある?」
隣にいる、寝起きでビクついたカータに尋ねると依頼書の一つを指差す。
「……老人の……話し相手……」
カータってイメージ的にあんまり話上手じゃなさそうだけど……。
「大丈夫? 知らない人と話せる?」
カータは控えめな胸をピンと張り、拳で自分の胸を叩く。
任せろのポーズだ。
「……レナ、任せて……私、聞き上手……!」
まあ、そこまで言うのなら大丈夫か。
「分かったよ。僕は届け物と排水溝掃除にするよ。二人とも、用事が終わったら宿屋に戻って来てね。それじゃあ解散!」
話が終わるとセラはすぐさま腰を上げた。
「もう時間もないし、私は直ぐに出かけるから、朝食の残りは二人で分けなさい」
セラはそう言い残し、足早に出かけて行った。
あんなに急いで……どこへ行くんだ?
デートとか? いや、セラは男嫌いだよ? でも、時間を気にするって事は――。
って、何を考えてるんだ僕は……。
考えてもしょうがないと、思考を切り替える。
カータの方を見ると、彼女は既に出発の準備を整えて大事そうに朝食の残りをポシェットに詰め込んでいる。
彼女は自身に与えられた役割をきちんとこなそうとしているのだ。
僕は気合を入れ直し、今から行うクエストに思考を向け、昼ご飯用のパンをリュックに詰め込み出かける準備を急いだ。
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