彼女達の食糧事情
「あんた、なかなかやるわね! 見直したわ!」
「……レナ……凄い……」
冒険者ギルドを出た後、僕は二人の称賛を受けながら町を歩いていた。
「上手く行って良かったよ。あの受付の人がセラの事情を知っていたってところも大きかったけどね」
謙遜するが褒められて気分は悪くない。
「そういえば、あの人の名前聞きそびれちゃったな」
「名前って……なんでそんなもの気にするのよ? あんたやっぱり……」
セラがカータの体を掴んで僕から距離を取るが、カータは少し迷惑そうな表情をしている。
「やっぱりってなんなの? お世話になったし、名前ぐらい覚えていた方がいいかと思っただけだけど……」
「ホントかしら? 大体胸にネームプレートがついてるんだから、あんたなら気付いたんじゃないの?」
「え……? どうだったかな、気付かなかっただけかな?」
「ええ、ネームプレートは女神教の紋章が刻んであって、冒険者証と一緒で身分証明も兼ねたものだから付けてないってことはないはずよ」
「そっか、なら次に会ったときに確認すれば良いか……」
気を取り直して歩みを進めることにする。
今、僕達は宿屋とは違う目的地へと向かっている。
何故、僕達がすぐに宿に戻らないのかというと、「ご飯を食べに行くわよ」というセラの発言を受け、彼女達がいつも朝ごはんを食べているという場所へと向かっているからだ。
「ところで、どこに食堂があるの?」
「食堂ね、そういう所に行ければ良いのだけどね……」
少し含みのある言い方をして、目を伏せるセラ。
「カータも久しぶりにハンバーグでも食べたいんじゃないの?」
僕はセラの態度を疑問に思ったが、すぐに顔を上げて上機嫌にカータへと話しかける姿を見て、気のせいかと思い直す。
それにしても、ハンバーグか……。
「カータはハンバーグが好きなんだね」
子どもっぽいというか、カータが聞いたら怒るかもしれないがすごく似合っている気がする。
「……うん……まあ……」
しかし、何故かカータの返事は歯切れが悪い。
とてもじゃないが、好きな物の話をしている表情には見えない。
「カータ、どうしたの? 元気ないけど……」
「ふふふ……カータはね、私の作るハンバーグが好きなのよ! だから、店で売っているのはあまり美味しく感じないんじゃないかしら?」
へえ、セラも料理するんだな……
「そんなに美味しいのなら、僕も食べてみたいな」
「いいわよ。もし借金の返済が終わったら、好きなだけ食べさせてあげるわ! カータも嬉しいでしょ?」
「……うん……まあ……」
なんでだろう……カータがあまり乗り気じゃないような……。
「全く! 子供っぽいモノが好物だってバラされたからといって、機嫌悪くすることないじゃない」
「……別に、そういうのじゃない……」
そう言ってカータは目を反らした。
そういうことか……。大人っぽく見られたい時期って奴なのかもね。
そんな会話をしながらも、大通りを抜け、路地裏と言っても差し支えない場所へと僕達は入っていた。
隠れた名店のような場所にあるのかな? なんか凄く楽しみになって来たよ。
「着いたわよ!」
セラの声と共にたどり着いたのはパン屋だ。しかし、入口は見当たらない。
パン屋であると分かるのは、パン特有の香ばしい香りが漂ってくるからだ。
キョロキョロと周りを見渡すが、やはり入口は見つからない。もしや地面にでもあるのか? と下を見るが、流石にそれはないと思い直す。
「どこから店に入るの?」
「……店の中、入らない……」
僕の質問にカータが淡々と答える。
フードのせいで彼女の顔は見えない。
どういうこと?
入らなければパンを買えやしない、じゃ……。
嫌な予感がしてきた。
カータとセラの視線の先には大きな密閉型の籠がある。
いやいや! そんなまさか……!
「……パン、買えない……」
そっか、「買わない」じゃないんだね……。
僕は分かりたくもない真実にたどり着いてしまったよ……。
「パンが買えなければ、捨ててあるパンを、食べればいいじゃない!」
セラは誰に言っているかも分からない言い訳をして、籠の蓋を勢いよく開け放つ。
中には袋に包まれたパンがたくさん置いてあった。
……これ、明らかに、ゴミと混ざらない様に置いてあるよね? しかも、朝ご飯の分だけじゃないよ、この量は……。
不意に顔を上げパン屋の窓を見ると、ふくよかなオジサンがカーテンの隙間から、こちらを覗き込んで涙ぐんでいる。
オ、オジサン。なんて、奇麗な目をしてるんだ……。
僕と目が合うと、オジサンは何も言わず、ハンカチで目元を押さえながら、サムズアップのサインをする。
あなたって、あなたって人は……!
「美味しいわよ! あんたも早く食べなさい!」
「……レナ……食べないの……? ……おいしいよ……」
そんなオジサンに気付きもせずに、パンを貪り食う二人。
僕は静かに二人へと近付き、恐る恐るパンへと手を伸ばし、ゆっくりと口元に持っていきかぶりつく。
あ、温かい……! そして、美味い……!
後は僕も二人に倣って、その温かい温もりを貪り食うだけであった。
オジサン、ありがとう……気のせいか、塩味がきついな……。
僕、お金が貯まったら、オジサンにお礼を言いに行くんだ……。
そう心に誓った僕だった。
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