第八十八話 夜襲3
流石に三連続投稿は初めてです。どうせなら区切りのよさそうなところでと思ってやりました
グルルルルルルルルルルルルルルルルルルル
猛獣の唸り声が聞こえる。
『カオスマンティコア LV500』
この唸り声はコイツのものか?
それとも…
「こいつらのものなのか?」
まず体が大きくなっている。ついさっきまでオレと大して変わらないくらいだったのに今ではオレが軽く見上げている。体長およそ三メートルほどといったところか。それもただ身長が伸びただけなんてものではなくより筋肉豊かに、猛々しくなっている。
「顔といい。まるでミノタウロスだな」
「「「「「「「「「「ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンッッッッッ!!!!!!!!」」」」」」」」」」
一番のツッコみ所はここだな。
もともと角以外は人間と変わらない風貌だった戦士たちがメキメキメキメキと音ともに今ではそのまま牛の顔に変わっている。
顔だけじゃないな。足も牛、いやミノタウロスのそれと同じ蹄に変わっている。鑑定してみると人間形態だった時の二倍の攻撃力と防御力、魔防御を持っていた。しかも…
「なるほど。あの防具はこの時を想定していたわけだ」
初めて見た時からずっと疑問だった。戦士たちの防具。鎧は背中に二つの盾が括り付けられ、肩に当たる防具はなく胴鎧がやや大きめのものだったが、今では胴鎧がまるで腹巻のようになり、背中に括り付けられた盾はちょうど肩を守る防具になっている。
どうやらこの鎧は最初から今の状態になることを考慮しての防具だったらしい。だとすればこの鎧はここ数日で拵えたものではないはずだ。胴鎧と肩盾をつなぐベルトの細工はいかにも伝統の職人芸と言わんばかりの工夫が見て取れた。
戦士たち全員ができているところを見るとこの変身は種族固有スキルの可能性が高い。だがそうならなんでリナは習得できていなかった? そしてなんでオレが鑑定してもこのことを見抜けなかった?
オレはリナのステータスを何度も確認していた。だが今の戦士たちが使っているであろうスキルに心当たりがない。そして戦士たちのステータスも何度か鑑定したのにこんな効果をもたらすスキルに身に覚えがない。
単純にオレが見逃していた?
いや、違うな。断言できる。オレはこの鑑定スキルで何度も命を救ってもらっている。そんなオレが鑑定から得られる情報を見逃すなんてありえない。
流石に今あれこれと考えるわけにはいかないが…
「いずれハッキリさせないとな…」
さて、もうすっかりミノタウロスのような外見になってしまった戦士たち。ステータスも大幅に上昇しているがそれでもレベル500の魔物に勝てる見込みは十分とは言えない。その原因は…
「デカくなったせいで武器が使えないなんてな……」
間抜けにもほどがある。
もともと装備していた武器は体が大きくなったせいで普通の剣がやや大きめのナイフくらいに、使い込まれた槍もやや長めの短槍ほどになっている。
今までの経験が生かせず、このスキルが使えるようになってから短剣や短槍のスキルを身に着けてるようじゃとても間に合わない。
「そんな付け焼刃のスキルじゃ通用するような甘い化け物じゃねぇからな。この森に巣食う連中は…」
それでも武器が全くないよりはマシだろうがぶっちゃけ大して差がねぇ。
「むしろ全力を込められる分素手の方がマシなのかも…」
いきなり攻撃力ステータスが二倍になったんだ。今まで頼ってきた相棒が急に頼りなく感じられしまうのかも…
「でもこの問題は深刻だ」
いくらステータスが大幅に向上しても素手ではあのレベルの魔物を相手取るのは厳しい。
「そこで」
ストレージ開放
「受け取れ。お前らッ!」
解放されたものが一直線に戦士たちへと飛び、その手の中へと収められた。
『牛頭鬼の大剣』・・・希少級装備品。牛頭鬼の大きさに合わせた大剣。牛頭鬼の怪力で耐えられるように極めて頑丈に作られている。
『牛頭鬼の大斧』・・・希少級装備品。牛頭鬼の大きさに合わせた大斧。牛頭鬼の怪力で耐えられるように極めて頑丈に作られている。
『牛頭鬼の戦槌』・・・希少級装備品。牛頭鬼の大きさに合わせた戦槌。牛頭鬼の怪力で耐えられるように極めて頑丈に作られている。
『牛頭鬼の大槍』・・・希少級装備品。牛頭鬼の大きさに合わせた大槍。牛頭鬼の怪力で耐えられるように極めて頑丈に作られている。
『牛頭鬼の大盾』・・・希少級装備品。牛頭鬼の大きさに合わせた大盾。牛頭鬼の怪力で耐えられるように極めて頑丈に作られている。
あの洞窟で得た戦利品の数々。どれも今の戦士たちにぴったりの逸品だ。大きさはもちろんだが何よりも強すぎないのが好都合。
身の丈に合わない武器を与えてもどうせ今のオレのように使いこなせない。
強くなった今でもオレにはレオルドもスカーレットも恵まれすぎている。自分でもいまだに身の丈があっているとは思えない。
ステータスは十分に規格外なオレでもこうなんだ。戦士たちにもいい影響を与えるとは思えない。
「だからこそのこの武器だ」
牛頭鬼シリーズは頑丈。これ以外に特別な効果は一切ない。ステータスが向上するわけでもなければ相手を弱体化させるわけでもない。ただ折れず、曲がらず、壊れない。これだけだ。
そしてそれこそ今の戦士たちにとって最も重要な効果だ。まさに痒いところに手が届いている。
「さぁ、行って来い。これで勝てるだろ?」
各々に最適な武器を得た戦士たちが全力を込めて振り抜き、カオスマンティコアを斬りつけている。
大剣を渡された戦士が翼を切りつければ、その隙を付いて死角から刺し貫こうとするカオスマンティコアの尻尾を戦槌を渡された戦士と大斧を渡された戦士が挟み込むように攻撃し、見事に切断して見せる。
これに逆上したカオスマンティコアが二人の戦士に襲い掛かろうとするが大槍を渡された戦士がその顔面を捉えた。
「だが力不足」
二倍にした攻撃力でもカオスマンティコアの防御力は突破できなかったようで貫けていない。しかし、カオスマンティコアの意識は槍の戦士に向けられたようで爪による斬撃を向けられるが間一髪で割って入った盾を渡された戦士が庇った。
「文字通り全力で防御に徹してもあれかよ…」
盾自体は無事だが相当の衝撃だったようで盾に寄り掛かるように膝をついている。その隙を付こうとカオスマンティコアが回り込もうとすればその勢いを利用して槌の戦士のフルスイングがカオスマンティコアの顔面を打ち付けた。
槍の刺突で貫くことはできなくても槌の殴打で陥没させることはできる様でカオスマンティコアの鼻がが殴られた形に凹んでいた。
「これはどっちかというと戦士たちのステータスの差か」
槍の戦士より槌の戦士の方が攻撃力は高そうだしな。
さて、獣にとって大事な感覚器官である鼻を潰されたのは相当頭にきたらしく脇目も降らず槌の戦士へと飛び掛かるカオスマンティコアだったが
「いい加減学べよ。『アイアンバインド』」
オレの土属性魔法で足をからめとられたカオスマンティコアはあっさりその場に倒れ伏した。
いきなり倒れたカオスマンティコアにほんの一瞬戸惑った戦士たちだったがすぐに凶悪な笑みを浮かべたと思いきや各自各々の武器を振りかぶり、一気呵成に攻め立てた。
「「「「「「「「「「ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンッッッッッ!!!!!!!!」」」」」」」」」」
勝利の雄叫びにしても随分デカすぎないか? なんて言うのは野暮かな?
それにしても…
「このあたりっていつもあんなに強い魔物がいるものなのか?」
「いや? ちょっと今日の魔物の強さは異常だな…」
オレのつぶやきが耳に入ったらしい。戦士の一人が考え込み始めた。
それにしてもあの戦士たち、多少はオレが手助けしたとはいえレベル500の魔物を討伐したぞ。今の今まで特に気にしていなかったが、冷静に考えればおかしいぞ。
「なんでこれだけの強さがありながら人間の軍に追われた?」
今までロクに軍人も見かけてはいないが人間がそこまで強いのか?
今この集落にいる戦士たちは全員元の故郷が襲われているとき、熟練の戦士たちや老兵が逃がした新兵、新入りだったはずだ。
つまり、少なくとも今ここにいる戦士たちと同等かそれ以上にこの集落にいる全員を逃がすために奮戦した戦士たちは強いことになる。
たった十人かそこらでレベル500の魔物を倒せるような連中。そんな奴らを責められるほど人間の軍は強いのか?
オレが今まで出会ってきたこの世界の兵士や冒険者って言えばグランツぐらいだが、あいつはそこまで強くなかったよな? 結構オレ達があれこれ世話を焼いていたはずだ。その結果奴は新人類に進化出来てはいた。だがそれでもあいつが十人いたとしてもレベル500の魔物を討伐できるとは思えない。
「謎だ…」
「? 何が?」
不思議そうにオレの顔を覗き込んでくるリナに別にと誤魔化すオレ。だって言えるわけないじゃん? リナたち一族の故郷を滅ぼした相手のことを考えてたなんて…
さて、そんなこんなで夜の明けて清々しい朝日が差し込んできた明け方。一時間も前には警戒に当たっていた戦士たちも今ではせいも近も尽き果てた様で倒れるように眠っている。
「まぁ、無理もないけど…」
仮にも自分たちより圧倒的に格上の存在と命を懸けた生存競争に明け暮れたんだ。その負担は想像を絶するものがある。オレにも経験がある。オレもこの森で生活していたころ。自分と同等かそれ以上に強いやつと日々、闘争に明け暮れ続け、先生の家。もしくはメイカーが作ってくれた巣にたどり着くのと同時に糸が切れた人形のように倒れ込み、泥のように眠った。
うん。わかる。わかるよ、お前たちの気持ち…
「だがしかし、邪魔なのには変わりない。寝るんならせめて自分の家で寝ろ」
面倒だから門を潜り抜けた瞬間に寝始めた戦士たちを土属性魔法で移動させる。家の場所は村人たちに案内させた。
寝始めた戦士たちの中には常習犯もいる様で、そういった輩はソイツの身内らしき人物に引きずられて行ってた。
随分雑な扱いだがオレの仕事が一つ減ったと思えばグッジョブと引きずっている人にグッドサインでも送るべきだろう。
「あ、もしかしたらこれって一気にレベルが上がったせいか?」
なんせレベル500の魔物だもんな。たとえ十人がかりだったとしてもその一戦で得られた経験値は尋常ではなかっただろうし、一気にレベルアップしたせいで気絶するように寝た可能性も十分にある。
さて、戦士たちへの感想はここまで
それと同じくらい重要な案件がある。それは…
「この武器、どうしよう……」
アイツら、置いてっちまったよ…
オレとしてはもうこの武器、戦士のみんなにあげるつもりだったから今更ストレージに入れ直すのもねぇ…。
仕方ないから武器を壁に立てかけるようにしておく。そのあと各自各々好きなものを家に持って帰るなり扉のすぐそばに武器保管用の倉庫を作るなり好きにしてくれと思いながらその場でもすぐに手に取れるように整理した。
さて、整理は終わった。もうあとは集落のみんな自分たちのいいようにやるだろう。
戦士たちの出番は終わった。残った数少ない戦士たちが朝の見張りと職人(の妻だった女性たち)の手伝いに駆り出されている。
「なるほど。夜の見張りが戦士たちの最大の仕事。その後、夜の襲撃の時に得られた魔物の素材を回収するのは職人たちや朝の見張りを担当している戦士たちなんだな」
一回目の襲撃で得られた素材、二回目の襲撃で得られた素材はすでに回収されている。だが三回目の襲撃、カオスマンティコアの素材はまだ未回収。
まぁ、無理もない話だ。討伐直後に一気にレベルアップした反動でフラフラになり、寿命をすり減らすような闘争明けによる疲労で素材の回収もままならなかったようだ。
しかしだからと言ってカオスマンティコアの素材をあきらめる理由にもならない。戦士たちが回収できないのであれば職人たち自身が自分たちの仕事の材料である素材を回収すればいいだけの話。
かと言ってか弱い女性に推定数百キロはあろうカオスマンティコアを運べというのも無理な話。そこでまだ残っている戦士たちに運ぶのを手伝わせるというわけだ。
うん。何もおかしいところはない。あ! そうだ
「ついでにこれも分けておこう」
洞窟で得られたミスリルをはじめとする希少金属数種類。
「こ、これは助かります。ですが私の腕ではこれほど貴重な金属の加工は…」
申し訳なさそうに言う鍛冶師志望の未亡人が申し訳なさそうに言う。しかしそれも想定内だ。
「それもある程度手助け出来かもしれない。とにかく工房に案内してもらえるか?」
ほかにもいろいろ面倒見たいところはあるが今後のことを考えると最も優先すべきところはココだな。
「ここが私の工房です」
「へぇ…」
思いのほかちゃんとしてるんじゃないか?
別にオレは鍛冶について何か知ってるわけじゃないが作る品物やその工程においていろんな種類のハンマーがいることとどんなに火力を上げても壊れない炉がいることはわかる。
故郷を追い出され、その際に今亡き夫が残してくれた一振りの槌を握りしめて逃亡生活、幾星霜。そんな中新しく手に入れた新たな集落で一から新しく作ったのであれば十分立派といえるであろう鍛冶工房が出来上がっていた。
「ひどいものでしょ?」
どうやら鍛冶師未亡人的には全然満足のいかない出来らしい。
「スマンがオレは鍛冶に関しては素人でな。この工房のどこがどうひどいのかもわからん」
同意を求められても困る。素人だもん。
オレの返答に面食らった様子の鍛冶師未亡人。やはりオレが何かしらの知識や技術を持っていると思っていたようだがそうではない。
「え、え~、と……。先ほどの手助けというのは………?」
「オレなら魔法でどこまでも火力を上げることが可能だ。何ならお前さんと力を合わせることで炉に火を入れることもなく金属を望む形に成型できるかもしれない」
要するに鍛冶作業において最優先されるのは火の強さだろ? であれば火属性魔術が使えるオレなら力になれるはずだ。
「……それすごいですね…」
ほんのわずかではあるがにじみ出ていた落胆が啞然に変わったな。
ではさっそく…
『スキル『鍛冶・初級』を習得しました』
結果はこれで察すべし
次回の投稿もお楽しみに




