第八十八話 夜襲
少し早いですが遅くなるよりマシだと思い、投稿します。
まず最初に現れたのはトレント系上位種の魔物が率いる魔物の群れだった。群れの主はいかにも歴戦の古強者という風格でここはさっそくオレが出るべきかと思ったんだが、
「なぜビビる…?」
背中に背負ったレオルドとストレージに入れておいたスカーレットを握りしめて意識を切り替えた瞬間に歴戦トレントが急に立ち止まり慌てて後ずさりを始めた。
『クアッドトレント Lv390』
ここで鑑定したんだが、うん。強いね。文句なく強いよ。だがあの洞窟の最奥での修羅場を潜り抜けた今の感想はそこまで強くは感じないのが本音だ。
もっともこれはオレだけの感想で気配で力量を察知したらしいリナが相当緊張していた。ダンジョンコアを破壊し、随分強くなったリナでもこうなんだ。ほかの連中の反応なんてお察しなもんだろ
そう思ってたんだが…
「いきなりかよチクショウッ!」
「ビビってんじゃねぇよッ! お供も全部まとめて薪にしてやるぜッ!」
「まずは罠の出番だぜッ!」
なんと戦意喪失どころか怖気づきもせずに果敢に挑もうとしている。
罠の出番だと言っていたやつがいたがその言葉通りにトレントの群れがさらに一歩進んだ瞬間、
ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンン……ッッ!
突然現れた巨岩がクアッドトレントを追い越して進んでいた下級トレント達を押しつぶした。
「魔法? いや、違うな…」
あれだけの大岩で攻撃するには少なくとも上級以上の土属性魔法でなければ辻褄が合わない。そしてそれだけの大掛かりの魔法が展開されていればオレが気付かないわけがない。
となればあの大岩は…
「投石機か…」
確か投石機ってんだっけ?
岩の向きから射出方向を逆算して…
見つけた。辺りの森に紛れ込ませる形でしっかりとあったよ投石機。目視で四機あるね。今次弾装填の真っ最中の機体を除けば三機がトレントを狙ってるわけだ。しかし、疑問が残る。
『まずは罠の出番だぜッ!』
カウリア族の戦士たちの一人はこう言った。罠だと
つまりあの投石機は人力で作動したんじゃなくトレント達の何らかの動作で作動したということになる。そのからくりはいったい何なんだ?
もしも地雷みたいにある特定の場所に足を置くことで作動するタイプならうかつにモンスターを進められないし、オレも突撃しにくいんだけどなぁ…
なんて考えていたら大岩で押しつぶされていた下級トレントがなんとか這い出てきた。どうやらあの大岩で決定打にはならなかったらしいが、これも変だな。
あの大岩はこのオレが上級土属性魔法と思えるくらいの威力があった。普通トレントに限らず下級の魔物に対しては中級の魔法で十分致命傷を与えられるし、上級であれば属性的相性を考慮に入れても即死、または致命傷で当たり前のはず
トレントと土属性魔法との相性はよくも悪くない。であれば上級クラスの威力を誇る大岩で十分討伐できているはずなのになんであのトレントは生きている? しかも瀕死でもなくすぐにこちらへと向かってくるだけの余力まであるなんて異常だ。
なんて思っていたがすぐにその原因が分かった。
『執念の樹魔人 Lv607』
こんな奴が隠れていた。
名前にもあったがいかにも人間の体を樹木で構成したような風貌だった。生意気にも樹皮でできているらしい魔法使い然とした服に身を包み、その中で一層存在感のある杖を掲げていた。
その杖から魔力が放たれているんだが、この力の雰囲気、見覚えがある。そうだ。キャリーが降霊術を使った時に似ている。
しかも下級トレントの名前も『リビングトレント』といういかにもアンデッド系魔物へと変わっていた。つまり、あの大岩で下級トレントの討伐はできたがその後すぐにあの木人形が降霊術でアンデッドとして復活させたわけだ。
「おい、これってアイツが原因じゃねぇか?」
「な、舐めやがって…ッ! まずはあいつからだッ!」
「遠距離組下がれッ! 近接戦闘組、突撃準備ッ!」
無茶だな。
今にも突撃しかねない戦士たちを見てオレはそう判断した。そしてこのことは薄々あいつら自身の承知している。なぜなら本人のテンションを現している尻尾が丸まっている。
憧れの姐さんを奪った憎きアンチキショウの前で意地を張ってるのもあるんだろうがこいつらにとってはこれも日常なのかもしれない。
「だとしてもオレがいる以上は誰も死なせないがな」
さぁ、余計なお世話をしようか
『クフフフフフ…フッ!?』
自分がどうなった分からないか? 別に知らなくてもいいんだぜ?
ただお前の腹に『槍』が突き刺さって地面に縫い留められただけなんだからよ。
ストレージから一本の槍を取り出し、まさに槍投げ、昔に見たオリンピック選手と同じ投げ方を意識して投げられた槍は簡単に音を置き去りにするだけでなく、周りの空気をも巻き込んで燃やし、一つの流れ星になって木人形を貫いたんだ。
誰の槍がだって? オレですが、何か?
ついでに
「『フレアサークル』」
クアッドトレントのみを炎の壁で閉じ込めた。トレント系統は一部の例外を除いて火属性が大の苦手。どうやらクアッドトレントはその例外ではないらしくその巨体をもってしても抜け出せないでいるようだ。
よし、これで準備オーケー
「リナ。あの木人形。任せてもいいか?」
「…え?」
オレの言葉にいまいちピンと来ていない様子のリナ。間抜けなその表情もかわいいと思えてしまうのだから我ながら骨抜きにされたと思う。
思わず苦笑いがこぼれるのを堪えつつさらに声をかける。ただし今度は周りのみんなに聞こえないように小さな声で
「強くなった自分。見せたくないか?」
家族に
オレの言葉にようやく理解が追い付いたのかにやけそうになる頬を抑えようとするリナ。
そうだよな。
リナはもともと一族の族長の一人娘だった。ただでさえ血筋ですでに特別なのにリナには才能があった。ほかの戦士たちとは比べ物にもならないほどの圧倒的才能があった。
その才能は過酷な環境に置かれたリナを存分に押し上げ続けた。ふと振り返れば他とみんなとは残酷なまでに実力差を開かせるくらいには
もちろんその実力はリナ自身が努力の結果身に着けたものだ。それはむしろ誇らしくもあっただろう。だがしかし、だからと言ってそれは孤独感を感じない理由にはならない。いくら気のせいだと言い聞かせても命がけで守ったみんなからの視線の中に恐怖や警戒の色があることに心が抉られないわけがない。
だからリナはそんな自分よりも圧倒的に強いオレに惚れた。自分を普通の女の子として扱い、自分と同じかそれ以上の化け物での見るような目で見られても柳に風といった風体で構えているところに惚れて、こうして夫婦になっている。まぁ、自分で言うの恥ずかしいがきっかけはどうであれ今はそれぞれ夫婦として絆を育めていると思っているんだがな。
そんなことを考えているうちにリナはどこか嬉しそうな空気を醸し出しつつ木人形へと突撃していく。戦士たちもそんなリナの後姿をどこか懐かしそうに嬉しそうに追いかけながらトレントへと突撃していく。
あぁ、そうか。こいつらがここまで強くなった理由。それはもちろん自分や一族のみんなを守りたいという思いなのは間違いない。だがそれと同時に自分たちが不甲斐ないばかりに重荷を背負わせてしまったリナへの贖罪と今度こそ本当の意味で背中を預けてあって戦いたいという決意があったからなんだな。
なんだかリナの夫として、オレまで誇らしく思えるよ。
さて、そんな奴らがオレが取り囲んだトレントには目もくれず残ったトレントに攻勢を仕掛けた。つまりこういうことだ。「お前の考えは知らんが従ってやる。その代わり結果を見せろ」本人たちのホントの気持ちなんてわからない。だってオレ、あいつらの名前も知らないんだもん。
だからオレはそう判断する。
お前を家族として認めたんじゃないんだと言われたと解釈する。なぜならオレだったら認めないからだ。
日本に残してきた妹の京香に彼氏ができていてもうすでに入籍していたんだとしても、俺はその男を家族だなんて、義弟だなんて絶対に言わない自信がある。
親バカならぬ兄バカだと笑えばいいさ。
だがこれは譲れない。
たった一人の妹だぞ? たとえその妹本人が連れてきた青少年であろうがハイそうですかなんて言えるわけがない。
だからオレはあの戦士たちの気持ちもわかるつもりだ。否定しない。
そんなオレにできることは…
「ただ、見せることだけだ。オレはお前たちの敵じゃない。お前たちの大切な家族を連れ去るに組むべき敵じゃないんだと証明し続けることだけだ…」
それはとても難しいことだ。
人の気持ちを変えるなんて並大抵のことではない。これは日本でよく身に染み付いていることだ。
でもだからこそやる価値がある。
本人の前では絶対に言えない。ただただオレがリナを愛しているから、だ。
なんて恥ずかしいことを考えている間にも状況は動いている。リナは串刺しにされた木人形と戦闘を開始し、戦士たちも弓使いの矢がトレントに命中し始めた。
そんな状況でオレはというと
「『アースバインド』『グラビティ』『パラライズ』『ドントムーブ』」
土がまるで鞭のように隆起しクアッドトレントに絡みつき、クアッドトレントへ働きかける重力を倍に引き上げ、体の自由を奪い、最後に動くことを禁じた。
「消費魔力は、……うん。思ってたほどじゃないな。オレなら数日間ぶっ通しで持続可能だな」
今まで大して使ってもこなかった魔法もあるからもっとガンガン消費すると思ってたんだがな…
「じゃ、やろうか」
オレの号令で新入りのモンスター四体がクアッドトレントに群がった。
「後は任せるぜ? キーパー」
一緒に連れてきていたキーパーにそう告げてオレはオレでもう一つやるべきことをやる。キーパーもキーパーで任されたことがうれしかったのか少し間をおいて雄叫びを上げた。
察するにオレの言ったことの意味を咀嚼するのに時間がかかったってところか? まぁ、やるべきことをやっててくれればそれでいいんだが…
そのやるべきこととは要するに引率だ。もう懐かしくもあるが今のキーパー達を育て始めた最初の相手もトレントだった。そのトレントに魔物の牙を埋め込んで動きを封じてからキーパー達に倒させたんだ。
あの初陣があって今のキーパー達があるんだ。だったらまず新入りのこいつらにもその初陣を潜り抜けてもらおう。そうすれば少なくともあんな赤ん坊も同然のゴミステータスは改善されるはずだ。
なのでやらせるわけだがその分、安全配慮はしっかりとすべきだ。なぜなら今その初陣の相手を務めさせているクアッドトレントはキーパー達の時よりもずいぶん格上の相手だ。つまりちょっとした油断で反撃を食らえば今の新入り達ではあっさりと死ぬ。その時に最も早く新入り達を守れるのキーパーだ。最古のモンスターでありオレのモンスターの中で一番の壁役だ。こと『護る』に関してはあいつに任せておけば問題ない。
それよりもオレにはやるべきことがある。
それはこの戦場の全体を把握し、より必要とされる局面に向かうことだ。
今回の戦闘においてオレはあくまでも奥の手としてあるべきだ。この村はカウリア族のみんなが作った村だ。その村を守ろうとするやつらもいる。
であればオレがやるべきことはそんな奴らに自分の気持ちを貫ける力をつけさせることだ。
ここでオレが手を貸し、魔物たちを蹂躙したとしてもそれは一時しのぎにしかならない。それでもあいつらの手に余るようなら助けるのが当たり前だが…
「あ、これ。オレの出番、ないな」
全く問題がなかった。
リナはもうオレの投擲槍で串刺しになっていた木人形に止めを刺していたし、戦士たちもとっくに最後のトレントを討ち取って戦利品の木材を運び入れ始めている。
モンスターの方はまだ手間取ってるようだが…
「まぁ、これだけ魔力を注いでいれば大丈夫だろう」
新入り達とオレとの間に微かにつながっているパス。このピアノ線よりも細く、あまりにも頼りない線をゴン太のケーブルにするイメージで注ぎ込んでいる魔力とその魔力を全身に無駄なく覆い包むイメージを送り込んでいる。
そのおかげもあってか貧弱極まりない新入り達の攻撃でも十分ダメージを与えることができている。割合は大体二割を超えつつあるか?
「できれば全部やらせたかったんだが、そうもいかんだろう」
もうほかのみんなは終わらせてるんだ。いつまでもオレやモンスターたちの都合に付き合わせるわけにもいかない。
「キーパー」
新入りたちとは比べ物にもならない。歴戦の重みを醸し出しているバカでかいパイプのようなパスでつながっているキーパーに命令を出した。
声なんて届くような距離じゃない。
そもそもオレは明確な指示も出していないのにキーパーには伝わったようで寸分違わずオレの意思に沿って行動を起こす。
新入り達に被害が出ないように気を下りながらクアッドトレントに接近して、大剣を一振り。
たったこれだけの動作でクアッドトレントは一刀両断にされ、決着がついた。




