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第八話 目覚めと解体

   チュンチュンチュン


 どこからか小鳥の声が聞こえてくる。

 肌に伝わってくるのは土の冷たい感触と太陽の温かさ。

 あぁ、だんだん寝ぼけていた頭が回ってき…ん? 寝ぼけて?

「ヤッベッ! 寝ちまったッ!」

 カエルを切った後で安心して寝られそうな場所を探そうと思ったのによりにもよって斬ったその場で寝ちまってたーーーーーーーッ!!!

 オレのバカヤロー! たまたま無事だったからよかったけどもし魔物に見つかっていたら即死だったじゃねぇか!

「つか、よく無事だったなぁ」

 五体満足だった。

 これも『豪運の持ち主』の効果なのか? 今オレの周りには魔物の影もない。もう昨日というべきか? 確かそんなに遠くないところにスライムがいたはずなんだけど今はいないのか? 何はともあれオレは五体満足で異世界生活の一日目を終えたようだ。

 よかったよかった。


「しっかし、なにが起こったんだ?」

 確かカエルの首を切り落として、オレがハシャいでいたら突然目の前が真っ暗になって訳が分からないまま気を失ったんだっけか?


「頭いてぇ…」


 脳髄(のうずい)で鐘がバカでかく鳴り響いてるみてぇだ。クラクラする。


「カエル倒したしレベルは上がったのかな?」

 ステータスを確認。



《松田太一》種族:人間 性別:男 職業:無職 年齢:23歳

       レベル:49 魔力:42 攻撃力:78 魔攻撃:46 防御力:76 魔防御:75敏捷:59 運:87

《装備》鉄の剣 鉄の斧 革の防具 鋼の額当て 無地のTシャツ 丈夫な黒ズボン アウトレジャーブーツ 普通の下着

《魔法》水属性魔法:初級 ウォーター

《スキル》体術:初級 杖術:初級 斧術:初級 中級鑑定 アイテムボックス

《ユニークスキル》健康体

《称号》絶望に(あらが)いし者 豪運の持ち主 見習い斧使い



「おかしいだろッ!!!」

 いったい何が起こったんだ! たった一日でレベルがこんなに上がるなんて寝ている間にどんなことが起こったんだ? 

 …ん? え? あの、もしかして…。

「いきなりレベルが上がったから倒れたのか…?」

 カエルを倒す前はオレのレベルは10だった。

 あれからいきなり39もレベルが上がったからその負荷に耐えきれなくてオレは倒れたのか? まぁ、偶然石を当てただけでレベルアップするような世界なんだから最初から最後まで自分の力で倒せたらそりゃ大幅にレベルアップできるのも納得だな


「なんかいきなりスキルも変化してるし多分そうなんだろうな」

 鑑定スキルが中級鑑定になってるし、ていうか。あれ?

「このユニークスキルて何? こんなのなかったぞ?」

 鑑定スキルじゃ見られなかっただけ? それともこのレベルアップで覚えた?

「なんとなく前者のような気がする…」

 そもそもオレがこの世界に行く人間に選ばれた理由が健康体だからな。

 最初から持っていた方が自然だろう。

 それが中級鑑定で見られるようになったってことだな。

「一回全部鑑定してみるか…」

 中級鑑定になって色々見られるようになったこともあるけど。

 そもそもオレ、自分が持っているスキルの効果をハッキリとは知らないんだよな。

 今まで文字から何となく効果を予想していただけだし、タダでもオレは弱いのに自分の性能の把握できていないなんてありえないだろ。

 とにかく確認してみよう。



「う~ん」

 ステータスを鑑定してみた。ほとんどがオレの予想通りの結果だった。魔攻撃が魔法の攻撃力だったり運が文字通り幸運(ラッキー)だったりとかはそうだ。問題は称号とユニークスキルのほうだった。



《絶望に(あらが)いし者》・・・絶望的状況に陥り、それでもあきらめずに生還した者に贈られる称号。危機的状況に陥れば陥るほど自身の全ステータスに補正がかかる。レベルアップに際しに多少の成長補正あり



 まずはこれ、確かにな。確かにレベル300なんて恐ろしい怪物に文字通り命を狙われたんだから絶望的と言って当然の事だろう。

 そこで普通は自分の命をあきらめるやつがいても何らおかしくないだろう。

 だがしかし、オレはあきらめなかった。自分の命はもちろんあの状況を脱出することもあきらめなかった。

 そして無事に生き残った。

 生還したんだ。

 多分あれでこの称号が取れたんだろうな。

 しかし、この称号の効果がすごい。

「要するに火事場の馬鹿力的な効果にレベルアップしたときにステータスの伸びしろが上がる効果があるてことか」

 これって典型的なチート効果だよな? オレって女神のおかげで普通の人よりもレベルアップの効果が高いらしいけどそれとは別に補正がかかるってことだろ?

 ますます大器晩成型になってきた。この世界の平均的ステータスとかは知らないけどもうこの時点で普通の村人よりオレって強いんじゃね? 

 女神の話ではこの世界の人間のレベルの上限は500までらしいからまだまだ俺より強い人なんていくらでもいそうだけどこのままレベルが上がればいずれその人たちよりも強くなれる。


 フ、フフフ…ハハハハ。アッハハハハハハ!

「最強の冒険者にオレはなるッ!」

 男なら誰でも一度は自分が伝説の勇者になったり世界の平和を守る英雄になることを夢見たことあるはずだ。そうだろう?

 ぶっちゃけオレは今その時の続きを見ているみたいな気分だ。

 現実の厳しさに打ちのめされて、現実ってものを目の当たりにしてそんな夢なんてとっくの昔に忘れたはずなのに。

 今はその時の夢が、理想がハッキリと思い出せる。

 この世のどんな理不尽にも絶対に屈しない最強の戦士。

 あらゆる困難を乗り越えて雄々しく笑う勇敢な英雄。

 今オレはそれになれる世界にいるんだ。

 このことに興奮しないヤツがいるか? いやいるわけがねぇッ!

 やってやるぜェええええええええええええええええッ!!!!


「さ~て、次の称号はっと…」

 上機嫌で次の称号を鑑定。



《豪運の持ち主》・・・幸運を超えた超ラッキーに恵まれた者に贈られる称号。幸運のステータスに大幅の成長補正があり、幸運に恵まれやすくなる。



 うん。だいたい予想通り。あれだけ幸運に恵まれるなんてもはや奇跡としか言いようがないもんな。

 しかし、あくまで『幸運に恵まれやすくなる』だけだからな。いつまでもオレにとって都合がいい結果がもたらされるわけでもないんだろうな。

 良いことがあったら必ず揺り返しが来るモンだ。調子に乗っている内に幸運にそっぷを向かれてしまわないようにこの称号はできるだけ持っているだけにしておきたい。

「気を付けよ…」

 結局今はそれしかできない。調子に乗らずに謙虚(けんきょ)にひたむきに強くなっていこう。

 押忍(オス)



《見習い斧使い》・・・斧を使い始めたものに送られる称号。斧を装備時に若干のステータス補正あり。



 これも予想通り。まんまゲームの序盤のキャラが持っていそうな称号だ。ゲームだとここから一人前や師範代みたいに上位の称号を持つヤツも出てきたけど。

「このまま斧をメインウェポンにしていけばいつか称号が変化するのかな?」

 なんせ『見習い』があるんだ『一人前』くらいはあるはずだ。

「ていうか。このままずっと見習いのままなんて嫌だぞ」

 せめて一人前にならないとなんか胸張れないもんな。

「さて、次はいよいよ…」

 メインディッシュ。というかユニークスキルを鑑定する。

「なんか絶対にいい効果があるはずだもんな」

 中級鑑定になってようやく見ることができるようになったいわゆる隠しスキル。絶望に(あらが)う者に続くチートの匂いがプンプンするぜ。

「それじゃあ早速いってみようか♪」

 どんな効果かな♪ どんな効果かな♪



《健康体》・・・この世に生を受けてから20年以上無病息災であり続けた者が持つユニークスキル。全状態異常に対して極めて強い耐性を持つ。病気等にはほとんどかからなくなり訓練が必ず血肉になる。あまりに条件が厳しく保持者がほとんど存在しなかったため効果の詳細は不明。



「う~ん?」

 微妙だな~。なんとかわかるのは状態異常にムチャクチャ強くなったのと鍛えれば鍛えるほど必ず強くなれるってことだろうけど、なんかそれ以上にも効果がありそうだな。でも、

「詳細が不明って…」

 なんかすごい肩透かしを食らった気分。


 いや~、わかるよ?

 地球で、それも長寿の国日本でも20年の間ズ~ット健康であり続けるなんて本当に一部のジッチャンバッチャンくらいだったし、それを魔物なんて化け物たちがウヨウヨいるような世界でやれるヤツなんてそんなにいやしないってことはわかるよ?

 とんでもなく条件が厳しいのはわかるけどさ。

 それでもせめてどんな効果なのかぐらいわかんないの? 中級鑑定スキルじゃ見られないだけ? もっと上位スキルになれば見られるか?

 中級鑑定の上だから上級鑑定スキル?

 本当にあるかわかんねぇけど

「動く理由にはなるな」

 とりあえずこれからの方針に上位鑑定スキルの獲得が加えるか。

 何をすれば鑑定スキルが鍛えられるんだ?

 目に映るいろんなものを全部鑑定すればいいのか?

 よくわかんねぇけどたぶんそれでいいはず。

 それから


「レベルアップってこんな感じなのか…?」


 あんまり地球にいた時と変化がないと思うんだが

 別に体型が変わったわけでもないし、『ち、力があふれてくる…!』みたいなこともないんだけどな。

 レベル50未満だから変化も微妙なだけか?

 これからレベルを上げれば上げるほどどんどん変化が表れていくのか?

 もしくは日本で筋トレを続けていくことで腹筋が割れて胸板が分厚くなっていくような感じで戦闘なんて激しい運動による体形変化と同じような塩梅で変わっていくのだろうか…

「分からんな…」

 とりあえず

「今からやるべきことは…

 1、拠点になる洞窟などを探す

 2、レベルアップのおかげで自分の身体能力がどれくらい上がったのかの確認

 3、鑑定スキルアップのためにいろんなものを鑑定

 4、レベルアップのために魔物を倒す

これくらいか?」


 あっ、アイテムボックスにある叡智の書。

 あれも確かめねぇとな。いつまでもアイテムボックスの肥やしにしておくには惜しすぎるし…

 とにかく

「いつまでもここにいても仕方がないか」

 ていうか。

 カエルの帰り血が気持ち悪い。

 いい加減洗い流したい。あ、そういえばいつかのテレビで紹介されていたな。


「カエル肉って食えたんだっけ…?」


 確か、鶏肉と白身魚を足して2で割ったような味なんだっけ?

 テレビで言ってただけで自分で食ったわけじゃないけど。

 アイテムボックスにある食糧だけで生き残れるかわかんねぇし出来るだけ現地調達できたらいいんだけど

「カエル。カエルかぁ…」

 生粋の日本人としてはカエルなんて食べる習慣はなく、自分で言ったことではあるがドン引きもいいところだけど…

「これも生き残るため…」

 テレビ番組で紹介されていたカエル料理は白身魚と鶏肉に近い味だと言っていたんだし、調理過程さえ見なければ普通に食えるはずなんだ。うん。食えるはずなんだ

 六月ごろに池で大合唱をしている日本の梅雨の風物詩は今は忘れろ。忘れるんだ。オレ…



 なんて一人で懊悩していても状況が良くなるはずもなく、仕方なく切り替えて改めてカエルの状態を見てみたが…

「ちょー血まみれ」

 余裕がなかったから仕方がねぇけど、もう背中とかグチャグチャだ。骨も見えてる。

 正直こんなのじゃあ食欲わかない。でも

「ゼータク言ってられない。か…」

 仕方ない。もっときれいに倒せなかったオレが悪いんだから仕方がない。

 ホントはすぐにでも体を洗いたいけど、どーせカエルの解体作業でまた汚れるだろうからな。

「ナイフでやるか」

 斧はこんな作業には不向きだろうし、


「え~と、皮の剥ぎ方はどうやるんだ?」

 解体なんてやったことないぞ? 理科の授業でのカエルの解剖も映像を見ただけだしな。

「あっ。今使えばいいじゃん」

 叡智の書。

 早速アイテムボックスから取り出した。あ、一応手は洗ってあるぞ? 本を触るんだし

「う~ん。パッと見そんなにスゲェアイテムには見えねぇんだけどなぁ」

 茶色い革表紙に金の刺繍(ししゅう)が派手になりすぎない程度に施されている。

 別に地味ってわけじゃないんだけど…。

 なんだろう…。

 鑑定結果程のスゲェ効果があるようには見えない。

「ま、とにかく使ってみよう」

 本を開いて全ページをめくってみる。


  ぺら、ぺら、ぺら・・・・・・・・・


「なんだこれ…」

 思わずつぶやいた…

 あまりの情報の多さにめまいを起こした。わけじゃない。

 むしろその逆

「何にも書いてねぇ…」

 全部白紙だ。文字の一つもない。

 真っ白だ。

 本じゃなくてノートなんじゃないのか? ホントに何も記載されていない。純白のページが始まりから終わりまで延々に続いているだけだ。

「あれの解体どーすんだよ…」

 カエルの死体を見て思わずぼやくと…


  パァアアア…ッ!


 本が光りだした。


「…は?」

 ぽかんとしていると

  パラパラパラパラ…

 本がひとりでにページをめくってやがて一枚のページで止まった。

「いや。あの。そのページも空白なんですけど? え?」

 なんか真っ白だったページに文字が出てきた。

 自分でもわけがわかんねぇけどジンワリと文字が浮き出てきたんだよ。まるでたった今、書き記されたみたいにな



「前言撤回。これとんでもねぇアイテムだ」

 パタンと本を閉じてオレは言う。

 本に浮き出た文字はそのまま文章になった。

 『レッサーホーンフロッグの解体法』なんてわかりやすいタイトル付きで、しかも文章だけじゃなくどんな原理なのか動くマンガ(四コマ風にコマ割りされているのにそのコマ一つ一つが動いて一つの物語になっていた)や映像付き(某動画サイトにでもあるような画面の中心にある再生ボタンらしきマークを指で押すことで動画が再生されていた)でとことんわかりやすさにこだわったような方法がビッシリと書かれていた。

 おまけに最後のページにはこの叡智の書の使い方まで記されていた。

「要するに叡智の書を開いて調べたいことを言えばいいわけか」

 一言にまとめるとこうだった。

 そして本を閉じるとページに書かれたものは全部消えちゃうみたい。

「また全部白紙だ」

 鑑定に一日一回って書かれていたがどうやら本当らしい。

「金の刺繍が消えちまってる」

 正確に言えば刺繍の輝くような金色が消えて黒になっている。たった一つだけの違いのはずなのに見た目の地味さがグッと増している。

 もうそこら辺の古本屋に並べられていても何の違和感もないな。

「とりあえず。このカエルの解体を終わらせるか」

 エ~ト確か、首を切り落としているからその切り口から刃を入れて肉と皮を分ける。と、それから次は、…



「う、うっぷ…」

 吐きそうと言うかもう喉仏までせり上がってきた()()をどうにか喉奥に押し戻そうとしているが冷や汗なのか普通の汗なのかもわからないような汗が全身からにじみ出てきている。

 鼻の奥にツンとした刺激臭がしてきて苦しい…ッ!


 心臓がバクバクうるさい。耳の奥までキーンと痛くなってきて回りの音も聞こえなくなってきている。


 鼓動が全身を震わせている気がする。手足が震えてまともに立っていられずにその場にへたり込んだ。


 心なしか視界までぼやけてきやがるよ…。しんどい。苦しい。怖い。もう帰りたい


 胸の内からあふれてくる感情と体の異常に気が狂いそうになる。でも何とか呼吸を繰り返してこの異常が収まってくれるまで耐え続ける。

 今までだってつらいことを耐えることはやってきたんだ。それが大きくなっただけでやることに変わりはない。

 自分に言い聞かせ続けて何とか耐え続ける。ほんの一瞬だけでも気を抜けば気が狂いそうになりながら



「お、終わったぁ~」

 その場にへたり込んだ。いや、もともと土下座のような体勢だったから仰向けに転がっている。視界はクリアになった。空がよく見える。耳も聞こえるな。風の音や風に揺られる草の音がよく聞こえる。何とか耐えきることができたらしい


 あれからずっとカエルの解体を続けていた。カエル自体の大きさがそんなになかったというのもあってそんなに時間もたってねぇはずなんだけど

「異常に疲れたな…」

 主に精神的に、だっていきなり臓物がグチャァアアってのは…


「ウップ…」

 思い出してしまった。臓物の色に生暖かさを思い出してまた気分が悪くなる。

 別に倍増や臓物に気持ち悪さはないんだ。焼肉でのホルモンとか普通に好きだし、サンマの内臓(ワタ)は秋の味覚の代表格だと思う。

 だが日本育ちで特にジビエに関わりを持っていなかったオレにはチョット刺激がアレすぎた…。桜鍋とか牡丹鍋とか食っていたら少しは違ったのだろうか? いや、普通に社会的に生きていればすでに加工された肉が手に入るだけで今回のようなショッキングな光景を見ることはなかったと思う。特にない棒の中身を思い出すと今でも吐きそうだ。

 しばらく肉は食いたくねぇ…

 精肉に携わってる人って毎日あんなショッキングな体験や光景や映像を見聞きしてるんだろうか。敬意しかないよ。ホント、マジで…

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