第八十二話 社会人の義務とケジメ
お待たせしました。
「じ、獣鬼ですと…?」
目を見開き、脂汗をにじませてうろたえるギルドマスターにさらに詳細な情報(嘘八百)を並べる。
「あぁ、オレが潜れた最奥層では鬼の角にそれぞれ動物の身体的特徴を持つ人型の鬼。獣鬼がいた。それもこんな武器防具で武装した集団が、な」
オレは破損したミスリル製の武具(品質の悪い)を並べる。
オレの並べた武具にさらに目の色を変えるギルドマスター。この反応を見ればこれがどれだけの異常事態かがわかる。
これは間違ってもエレファリアンやミノタウロスのことは報告できそうにないな。獣鬼でこの反応ということはそのさらに上位存在であろう連中のことを報告しても信じてもらえる可能性は低い。
しかもその裏を取るために洞窟に行かれてもあの洞窟はオレがほぼ全滅させてしまったから問題の魔物がいるかどうかも不明なうえに今ならこの町の冒険者でもコアの破壊ができる可能性もある。
もしそうなればせっかくオレが鬼と取引した意味がない。
オレとしてはそこそこな報告でギルドがビビッてしり込みしている間に洞窟ダンジョンが勢力を整えていい感じに共存してくれると助かる。
「では、詳しい報告を…」
まぁ、これはこれでウザったい報告に時間がとられるからダルいんだけどな…
結論としてギルドはあの洞窟ダンジョンを危険度SSSという最上位危険ダンジョンとして認定したらしい。名前も『鬼と巨人の地下王国』へと変えるらしい。
そしてオレの処遇は冒険者ランクSという非常に高い位と『鬼殺斧』と言う物騒な二つ名、それからダンジョンに関するいろんな権利が与えられた。なんでも最上級冒険者にもなれば二つ名はザラで、それぞれの得意分野では貴族以上の発言力を持つ冒険者もいるらしい。
そういえば先生も元冒険者で賢者だったんだからきっと二つ名や得意分野を持っているはずだ。あとでどんな二つ名を持つ専門家だったのか教えてもらおう。
なんて考えながらギルドマスターの発表を聞いていると、このギルドの古株らしい冒険者に絡まれた。
「おう兄ちゃん。どんなインチキ使ったか知らねぇが調子にのギャァッ!!?」
鬱陶しいのでボコりました。
ガラ空きの顎に右アッパー一閃。革鎧を着こんだゴリマッチョなおっさんは足が宙に浮くどころではなく、一回転半を決め頭から地面に落ちた。
「ま、マジかよ…」
「アイツ、ゲルバさんをワンパンしたぞ…? ゲルバさんといえばこの町でも指折りの実力者、『熊殺し』の異名まで持っている方なのに…!」
「少なくともそれなりの実力はあるわけかよ」
なんてひそひそ声が聞こえてくると思えば
「失笑であるな」
「な、なんだと?」
「貴殿はあの一撃を見てそれなりと本気で思っておるのか? であれば失笑物である。あの御仁にとってあの一撃はほんのあいさつに過ぎない。本気であればゲルバ殿の首から上は引きちぎれていたはずである」
「は、はァッ!? ンなわけあるかよ。適当フカしてんじゃねぇぞッ!?」
オレの攻撃を評価していている奴もいる。か…
オレとしては今の攻撃が見えていたことを評価したい。さすがに相手を殺さないためにスキルの『手加減』と『不殺』を使うのはもちろんステータスでも加減して殴っていた。
あの森ではもちろん洞窟下層の連中にはこんな拳じゃ何のダメージも与えられないだろう攻撃だった。なのにこの町の冒険者でも古参だったであろうおっさんが呆気なく倒された。
うん。やっぱりあの洞窟にはそこそこ回復で打ち止めさせてもらおう。オレが与えたダメージが癒えてしまえばいつスタンピードを起こしてもおかしくない。
オレはギルド内の声を聴き流しながら今後の計画を組み立てた。
「ただいま」
「…お帰りなさい」
さて、覚悟を決めて帰ってきたがやっぱりリナ怒ってるな…。
まぁ、仕方がない。新婚ほやほやの身でありながら新妻を放置して仕事にまい進したんだ。うん。二本であれば一部の人間には褒められるかもしれないが大多数に人々には白い目で見られること間違いなしだな。
言い訳はしない。する資格もない。
「ごめん。もう大丈夫だ」
ただ謝ろう。
もうしばらくの間はダンジョン攻略するつもりはない。
ここからは家族サービスに専念しよう。ご機嫌取りというわけではないけどこれで許してもらいたい。
「あのね? タイチ」
リナはため息をつきながら
「あたしはアンタが好き。アタシの一族をみんな助けてくれてメチャクチャ強くてどんな無茶な状況でも絶対にあきらめずに戦い続けたアンタが好き。愛してるわ」
真正面から言ってくる。
うん。コレ、何の拷問?
い、いや。嬉しいんだよ? こんなに愛してくれるなんてさ
でもオレは日本人だぞ? こんなに熱烈に愛を語られたことなんてねぇっつの。あんまり言いたくねぇけど非モテを舐めないでくれ。日本にいた二十年以上でモテたことねぇよ・・・
……いかん。だんだん悲しくなってきた。
「…アリガトね。正直ここまで真正面から愛してるなんて言われたことないからこんな感想しか言えないけど嬉しいよ」
包み隠さず言おう。
自分の伝えたいことをキチンと伝えよう。「言わなくてもわかるだろう」なんて昭和臭くて言い訳がましいことは言いたくない。
「オレもリナを愛してる。当たり前じゃん。だって今回オレがこんな無茶をしたのは好きなお前を護れる力がどうしても欲しかったからだ」
言おう。ホントのことを
これを言えばリナを言い訳に使ってるように思われるかもしれない。
それが原因で嫌われる可能性もある。
「もちろんそれを理由にして妻にすると決めたばかりの女性を置いて戦場へ行くなんて言語道断だとオレも思う。でも不安だったんだ」
それでも言おう。
ホントのことを
オレの本心を
「愛おしいと思うからこそ、大切だと思えるからこそ不安に駆られたんだ。リナを失うのが怖くて怖くてしょうがなかったんだ・・・」
情けないことだと自分でも思う。
女々しいと我ながら呆れる。
こんな気持ちを聞かれたら軽蔑されると思う。
だがそれでも言うと決めた。オレにできるオレなりのケジメなんだから
でもやっぱり恥ずかしいッ!
もう顔から火が出そうなほどに恥ずかしいッ! コレ、絶対に顔が赤くなっているよ・・・
でも仕方ないじゃん。だってそうだろう? 好きだからこそかっこつけたいじゃん?
リナのことが好きだ。そして好きな相手だからこそカッコつけたい。好きな女性にはいつだってカッコイイ自分を見せていたい。カッコ悪いところを見せたいなんて思うわけがない。
でもそのせいでその好きな女性に心配をかけたりするのもいいわけがない。
だから言った。
なんかもう言ってしまえばスッキリしてしまった。
「タイチ…」
おや? リナの様子が…
だんだん顔が赤くなっていく。
どうやら照れているようだが、オレの情けない心情の白状になぜときめく? え? リナってもしかして駄メンズ好き? 情けないやつが好きなの?
「えっとね? タイチにそう思われているのはとても嬉しいわ。でもそれはアタシにも言えることよ? アタシだってタイチのことが好き。好きだからこそこんな無茶をしないでほしい」
真っ直ぐにこっちを見る。
オレもその気持ち、リナの想いをしっかりと受け取るためにリナの曇りなき眼というべき目の輝きをしっかりと見据える。
「それにアタシだって戦える。アタシはタイチにただ守られるだけの女じゃないわ。このことはタイチもよく知ってるでしょ?」
自分の胸に手を当ててほほ笑むリナ。
確かにリナは強くなった。
装備はしっかりと充実し、扱う槍術は流麗な舞を思わせるほどに洗練され、ダンジョンコアを破壊することで進化してなれた高位獣人族・牛種もどうやら強い種族のようだし、もっと頼ってもいいかもしれない。
だがしかし
「うん。リナが強いことはよく知っている。でもオレは自分でリナを守りたかったんだ。男だから自分の愛する女性を自分の手で守りたかったんだ」
古臭い考え方かもしれない。
もしかしなくてもリナの頑張りを否定する考え方かもしれない。
でもオレはそうしたかった。
自分の愛する女性を自分の手で守りたかった。
でも…
「でもリナの気持ちも少しはわかったつもりだ。もうこんな無茶なことはしない。もっと頼らせてもらうよ。ゴメン…」
心配をかけてゴメン。
自分勝手なことをしてゴメン。
リナの気持ちも考えずにゴメン。
「で、もう仲直りできたの?」
「まぁ、なんとか…」
「次こんな事したらこんなもんじゃ済まさないからね」
「…ハイ」
ステータス的には勝ってるはずなのに、勝てる気がしない。惚れた相手の怒っていますよアピールの目つきには…
「で? これからどうするの?」
先生に投げかけられた言葉にオレは以前から考えていたことを話すことにした。
「セミリタイヤしようと思います」
あくまでセミ。適度に働いて自分の時間を多めに確保する生活をする。
具体的にはリナへの家族サービス。今回の洞窟ダンジョンへのアタックでいらん心配をかけたリナへの謝意ももちろんあるが、何より一番の理由は嫁とイチャイチャしながらのんびりと暮らしたいというオレの願望だったりする。
次に魔法研究。一応は自分の使える魔法へと知識は持っているがあくまで最低限のことでそれ以上のことは知らないことが多い。これをきっかけにいい加減自分の使える魔法や魔術について腰を据えて研究しようと思う。
さらにこの機会に手に職をつけようと思う。一応先生に薬の知識を教えられてはいるんだがあくまで応急処置程度のレベルであり、本楽的に薬を調合できるわけじゃない。せっかく賢者に教えてもらえる立場なんだから習得しておいて損はない。ないんだができれば鍛冶を習得したい。
もうね。ストレージの中にウンザリするレベルである素材を活用できる方法が欲しい。この町にある職人ギルドに売りつけるのも一つの手であろうが残念ながら町の様子を見るにオレの持つ素材を有効利用できるだけの腕を持つ職人はいないっぽい。衣食住のどれをとっても町の需要を満たせているのか疑問を抱かせるところがある。
だから一番いいのはオレを含めた仲間全員が生産職を身に着けるのが理想的。そのためにもあきれるほどの時間がとられる冒険者業からは一旦前線を引くべきだ。幸いにも洞窟ダンジョン攻略とその情報で莫大な金は手元にある。しばらくは何もしなくともどうとでもなる。
以上がオレの考えであり、そのことを先生やリナに伝えた結果。
「まぁ、いいんじゃない? 私もいい加減この町にどれだけの結尾と実力があるのか詳しく調べたかったし」
「アタシも問題ないかな。特にやるべきこともないし」
先生もリナも了承してくれた。
さて、ここからオレのスローライフが始まる。・・・のか?




