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第七十一話 決意の朝と痴話げんか?

おそらく今年最後の投稿です。

皆さん、よいお年は

 はい。もう皆さんお察しの通りでございます。

 男としてきちんと通すべき筋を通して、改めてリナにプロポーズをしました。

 これでオレもめでたく既婚者か・・・。なんだか感慨深いな。

 地球にいたころのオレは仕事に追われ、家族のことが心配で嫁さんのこととか気にしてられる生活じゃなかった。だからこそ家庭を持つことに少なからずあこがれを抱いていたから嬉しい。

 だがその嬉しさと同じくらいに怖さもある。

 当然だ。ホントにリナを愛しているからこその恐怖だ。

 オレが強くなければこの最愛の人を失うかもしれない。今までさんざん生存競争しておいて何を当たり前のことを、と思われるかもしれない。

 しかし、怖い。

 自分の命を懸けて、目の前の敵を倒せばよかった闘争の舞台とは全く違う。

 いつどこから不意に現れる()()()に自分の最も大切なものが害されるかもしれない可能性。これを考えただけでもう足元からガラガラと音を立てて崩れていくような、とにかく言い表しようのない恐怖が襲ってくる。

 うん。もうこの恐怖だけでどれだけオレがリナに惚れてるかがわかるな。そう思うとこの恐怖にも照れくささがあるが、問題はこの恐怖を克服するためには今まで以上に強くなることはもちろん。場合によっては自分自身の命を守ること以上にリナを守れる立ち回りや力の取得をする必要がある。

 昨日までの予定では今日中に屋敷の掃除を終わらせた後で奴隷の購入に赴く予定だったが奴隷の購入はしばらく後でもいいかもしれない。今最も優先すべきはオレ自身のさらなる力の向上。どこまで強くなればいいのかなんてわからない。一寸先は真っ暗でまるで手掛かりがない。漠然と強くなろうとしたところでろくな結果になろうはずがない。

 だがそれでもやろう。もしここで強くなるを選択せずにいつの日かこんなに大切な女性(ヒト)を失うことになろうものなら、オレは絶対にオレを許せないだろうから


 必ず強くなる。この愛おしいヒトのためにも


 一人でこっそりと心の中で深く誓いを立てて、オレはまだ腕の中で眠っている愛おしい人をそっと、それでいて力強く抱きしめた。



「さて、これでやっと我が家の朝食が終わったわね。もう世間では昼食。それも遅めのだけど」

「「すみませんでしたッ!」」

 空になった皿を前に先生の放った一言にオレとリナはそろって謝罪した。

 あの後、オレは眠っているリナをひたすらに堪能しつつ、起きたリナと・・・。ピロートークというのか? 二人でベッドからも下りないでずっとイチャイチャしていたらあっという間にお昼になっていた。

 さすがに腹が減ったということでベッドから降りて、リビング(仮)へと向かうとそこにはすっかり冷めきっていた朝食らしきパンにサラダ、スープにソーセージが置かれていた。


 もう気まずくて気まずくて味のしない冷えた食事を終えたところだ。

「まぁ、いいんだよ? その指輪を見る限りどうやら太一君もようやく気持ちに踏ん切りをつけたみたいだし? これで立派な夫婦になったわけだから? その初夜とかで盛り上がるのも無理はないと思うよ? でもね? 昨日言ってたよね? 今日は改めて引っ越し記念でパーっとやろうってさ? 別にいいんだよ? 一生に一度の記念すべき日だもんね。それはもう一生の思い出になる時間を過ごしたんでしょうけど、できればこの約束は覚えていてほしかったなぁ~。なんてね」

「本当にごめんなさい」

 スラスラと出てくる言葉の数々。マシンガントークというには言葉一つ一つの勢いは弱く、言葉を(つむ)ぐスピードも遅い。

 だが言葉が重い。

 こう、胸の奥にズシンと来るんだ。

 これは言葉に込められた感情のせいでそう感じるのか? それとも長生きしてるが故の貫禄によるものなのかはわからない。だがむやみやたらに怒鳴り声をあげるよりもこっちの方がオレには怖く感じる。

 リナも同様のようで縮こまってしまっている。ここは男のオレが前に出るべきだと判断して改めて先生の様子を窺うが、だめだ。どうすればこの空気を換えられるのかが全く分からない。

 自分の対人スキルのなさを悔やみながらも重苦しい空気の食卓はまだまだ続く。

 うん。もうここで言おう。もうごちゃごちゃ考えるよりも行動した方が早い。

「先生。リナ。ちょっといい?」

 二人の視線がオレに集中する。

 決意が鈍らないうちに言葉にしてしまう。

「実は今日はこの屋敷をきれいに掃除した後に奴隷を買いに行く予定だったんだが、変更してあの洞窟を攻略してしまいたいんだ」

 二人の表情が怪訝(けげん)なものに変わったが構わず続ける。

「もうすでに七十五階層も攻略完了してしまってるから残りはもう四分の一だし、一応ギルドマスターに依頼されていた仕事でもあるんだから早く片づけたいんだ」

 嘘は言ってない。うん。嘘は

「で、ホントは?」

「昨日改めてリナと結ばれて、リナを本当に愛おしいと思ったんだ。だがそれと同時に自分はこのままでいいんだろうかと思うようになった。単純な力ならついてると思うがこのままの調子でオレはこの愛おしい女性(ヒト)を守れるのだろうか? 仮に、仮にだぞ? オレがもしこの女性(ヒト)を守れなかったらオレは自分を許せるのか? こんな疑問が今朝からめぐってるんだ」

 先生の問いかけに言葉があふれ出てきた。

 目をつむり、改めて自分の気持ちに向き合う。言葉にすることでだんだんと自分の気持ちを俯瞰で見れるようになってきた。

「いや、違うな。不安なんだ。好きだから、愛してるから不安なんだ。リナは確かに強くなってる。でもオレの方が強い。これはオレにとって誇らしいものだ。愛してる女性(ヒト)を守れるなんて男冥利に尽きるというものだから。そして、オレにそんなことができるのかが不安なんだ」

 我ながら情けないと思うよ。

 不安になったからなんて理由で愛してる女性(ヒト)のそばを離れる選択肢を取るなんてバカとしか言いようがない。

 もしそうやって自分が離れている間にリナの実に何かが起こったときはどうするんだと我ながら思う。うん。もうほんとにバカな選択肢だ。

 それでもこの不安を取り除きたい。

 もっともっと強くなってこの不安を蹴散らしたい。

 この誘惑を抑えられない。強くなれればほんとにこの不安を排除できることを知っているから

 オレが離れている間にリナに身に何かが起こるのではないのかという不安もあるくせにその不安は都合よく見ないようにしてるんだからもう目も当てられない。

「オレってこんなに憶病だったのかな? 今とてもとても不安なんだ。怖いんだ。リナが大切だ。愛してるからこそ怖いんだ。大切だからこそ失ってしまうことが怖くてしょうがないんだ。もしそうなってしまう可能性がわずかにでもあるのであれば自分の命を危険にさらしてでも強くなってその可能性をつぶしてしまいたいんだ・・・」

 言い終わってようやく気が付いた。いつの間にか目線が二人から離れて下を向いている。

 自分の内面に向き合っている間に自分の胸の内が見えてきたんだけど、そこにあったのはリナに、オレの大切なものに手を出そうとする敵に対する憤怒と憎悪の炎だった。

 ドス黒く週に存在するものすべてを燃やさんとする炎はオレが以前、火属性魔法を極める際にイメージした火のイメージには似ても似つかないものだったが不思議なことに戸惑いといった感情はなかった。

「タイチ?」

 リナに呼ばれて顔をあげると

 バチン! と勢いよく両頬を両手で挟まれた。

「タイチ、アタシもね? タイチのことを愛してるわ。だからタイチの気持ちもわかってるつもりよ」

 噛んで含めるように

 自分自身の気持ちを整理しながら口を開いていくリナ。

 その瞳はいろんな感情の色が入り乱れ、膨張し、飽和しそうなくらいに膨らんでいるが決して破綻することがなく一つの芸術品のようにきらめいていて、こんな状況でも見惚れてしまっている。

「でもね、自分一人で背負おうとしないでッ!」

 と突然叱られた。

「タイチがあたしのことを愛してくれてるのは分かった。でもそれなら『一緒に強くなろう』が続くべきじゃないの? なんで『自分が強くなって守るから』とでも言いたげな言い方なの?」

「も、もちろんリナにも強くなってほしい。だがまずはオレが強くなってリナをきちんと守れるようになってだな――」

「だからッ! そこが間違いなんだってばッ!」

 頬を抑えている両手に力を込めて起こるリナ。

「前にも言ったでしょ? アンタがあたしのことを大切に思ってくれているようにアタシもあんたが大切なのよッ! あたしのためにアンタに無理をしてほしくないのよ・・・」

 言ってて自分の感情に収拾がつかなくなったのか段々と尻すぼみになっていくリナの声。


 オレに大切に思われてうれしいという喜び。


 そんなオレに自分のことで負担をかけさせて申し訳ないという罪悪感。


 もう少し自分を頼ってほしいという不満。


 無茶なことをしようとするオレに対する怒り。


 自分を弱いもの。守るべき者としか見てもらえないことへの悲しみ。


 これらの感情が膨らんで、せめぎ合ってしょうがないんだろう。

 わかるよ。オレも地球にいたとき、オレ達兄妹を養うために昼夜とはず働いた母さんに対して同じ気持ちを抱いていた。家事や勉強を頑張って少しでも母さんの負担を減らそうとしていたっけ・・・

 あぁ、そうか・・・

 母さん。こんな気持ちだったか?

 地球、日本にいたときにちょうど今リナが言ったような言葉をオレが母さんに訴えかけたことがあったよな・・・

 あの時、母さんはこんな気持ちだったか?

 ふと胸に広がる郷愁(きょうしゅう)と家族への想い。

 胸が締め付けられる思いをしながら今のリナの気持ちを想う。

 ツライ思いをさせてしまったと思う。謝るべきだとも思う。

 でも何に対して謝る?

 オレが自分の身を危険にさらすこと? でもこれは仕事の関係上、今に始まったことではない。確かに今のオレは第一にリナのことを考え、リナのためにも強くなろうとして危険を冒そうとしている。これは仕事とは別のオレの個人的な理由によるものだ。でもそれって謝るようなことか? 愛してる女のために危険を冒すことくらい日本でもあったことだと思うんだが?

 リナに何の相談もしなかったこと? 確かに愛し合った仲にもかかわらずこんな大事なことを一人で決めたことは謝るべきかもしれない。でも何の相談もしなかったわけではないぞ? そもそもホントに何の相談もする気がないのであれば食事の後で二人にわざわざ言う必要もない。食事の後でこっそりと抜け出やるとを全部やろ終えてから事後報告すれば十分なのだから。言わば今このやり取りが相談そのものだ。だからこの考えは的外れだと言わざるを得ない。

 リナを守る対象としか見ないこと? これのどこが謝るべきところなんだ? 愛してる女を守りたいと思うことなんて男として当たり前のことじゃないか。それにステータス的にもオレの方がリナよりも強いし、どうしてもリナを守ろうとする方が自然だと思うんだが? 確かにリナも最初に出会った頃より強くなった。ここに関しては議論までもなく一目瞭然だと思う。だがそれでもオレの方が強い。これは事実だ。別にリナの努力を否定する気もばかにする気も全くないが事実なので仕方がないとしか言いようがない。

 謝るべきだとは思う。でもどこに対して謝るべきなのかもわからないようでは謝ったとしても意味がないと思う。そんな中身のない謝罪でリナの気持ちに向き合えるとも思えないからな。


 ここまでの思考にものの数瞬で事足りたのもレベルアップの恩恵かと頭の片隅で考えながらもリナの様子を窺う。

 まだ怒ってる。というよりオレの反応を待ってるんだろう。

 オレの顔をまっすぐ見据えるリナ。まだ顔は赤いし、目元も腫れているが、オレはこの顔をきれいだと思った。むき出しの感情。まっすぐで純粋な想い。

 生存競争にも通ずる。なにか生き物として尊いものが現れている気がした。

 さて、そろそろ答えを出さなくてはいけない。この尊いものに見合う答えを出さなくてはいけない。

 オレの出す答えは・・・

「リナ・・・。 お前の努力を軽んじ、何の相談もなく決めたことは謝る。でもオレはこれを曲げたくない。できれば受け入れてほしいと思っている」

 最低の答えだ。うん。

 我ながらそう思う。

 結局考えた仮設のどれか一つに絞ることもできず、もし外れてさらに怒らせてしまうことへの恐怖で二つの候補を入れ、さらに妙な頑固さまで入れてるんだから始末に負えない。正式に夫婦になれると思った次の日に破局の危機なんて成田離婚どころの騒ぎじゃねぇぞ・・・?

 言い終えてメチャクチャ公開しつつも目線だけはまっすぐとリナを見据える。

 目を背けない。

 これだけが今のオレがリナに、この尊い宝物にできる誠意なんだから


「・・・・・・」

「・・・・・・」

 沈黙が続く。

 オレが言葉をかけるわけでもなくリナが何か話す様子もない。先生はそんなお見合い状態のオレ達に呆れたのかすでに食べ終わった朝食の後片付けに入っている。後で恨み節に付き合わされないよな・・・?

「タイチ」

 リナとはっきりあっていた目線にさらに力がこもる。

 目線で続きを促すと

「いやよ」

 結論をズバッと言ってきた。

「だってそうでしょ? タイチの言いたいことは十分わかってるつもりだし、そもそも急にそんな無茶を言い出したのはアタシのためよね? 一人の女としてここまで誇らしいことが、嬉しいことがある? 少なくともアタシにはないわね。でもね? あなたがアタシを愛してるようにアタシもあなたを愛してるわ。あなたがアタシを心配してくれてるようにアタシもあなたのことを心配するわよ。だって愛してるんだもの。それなのにあなたはアタシのことを置いて一人で危険なダンジョンへと移行としている。そんなのふつう止めるでしょ? 自分の愛してる男性(ヒト)が命の危険に乗り出すなんていやに決まってるじゃない」

「・・・うん」

 マシンガントークで矢継ぎ早にまくし立てられたが内容はきちんと聞こえた。これもレベルアップの恩恵だろうがとても恥ずかしい。こんなに面と向かって愛してるなんて言われたことがないんだから嬉しいのと同時にメチャクチャ恥ずかしい・・・!

 要するにリナはオレがリナのことを愛してるようにリナもオレのことを愛してくれてるからオレが危険なことをするのが嫌だと言ってるんだな。

 その心情は嬉しい。嬉しいからとても困る。

 オレはもっともっと強くなりたい。今のままではこの愛おしい女性(ヒト)を守れるかが不安なんだ。

 オレが弱いせいでオレ自身の実が危険にさらされるのはある意味慣れた。今までの生活でいやというほど学ばされた。強くなければ自らの生きる権利も主張できず圧倒的強者にすべてを蹂躙(じゅうりん)されるということを学ばされた。だから自分が弱いせいで自分自身の身が、命が失わされるかもしれないというのは慣れたし、自業自得だと吐き捨てる自分もいる。

 でもだからこそオレが弱いせいで愛する女性(リナ)に危険が及ぶのがマジで許容できない・・・! 

なにがなんでもその原因を排除しておかないと安心できない」

「・・・タイチ」

「ん?」

 え? なんでリナ赤くなってんだ?

「全部聞こえてるからよ?」

「え?」

 先生、今なんて?

「だぁかぁらぁ~。全部駄々洩れだったわよ? 太一君の心の叫び」

「NO・・・」

 マジでか・・・

次の投稿はたぶん一月の十日だと思います。正月休みを利用して書き溜めるつもりですのでもしかしたら一月限定で二回以上投稿する可能性もあります。が、結局どうなるかは結果次第なので結論は次の投稿の際に書きます。

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