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第七十話 住居確保と男のけじめ

今月からまた月二回投稿に戻そうと思います。

投稿頻度を安定できずに申し訳ありません。

 ところ変わって

「ここか・・・」

 目的地にたどり着いたオレは改めてその建物を見る。

 石造りの建築物。純白の大理石ではなくどちらかというと灰色の巨石を整形しつつ作り上げであろう色合い。灰色と聞くと純白と比べて薄汚れていて格式が数段落ちたように思われるが実際には全く薄汚れた印象はなく、純白よりも敷居が低く独特な(おもむき)のある立て付けになっている。

「ようこそ! Aランク冒険者のマツダ様。(わたくし)、この『ラウンズ不動産』の店主を務めさせていただいておりますビンセントと申します。以後お見知りおきを」

 凛ッ! 効果音の付きそうなくらいに品のある立ち振る舞いを披露し、よく通る練られた声で話す初老の男性。ビンセント。

 そう。ここは不動産屋だ。

 オレはここで一軒家を買う予定だ。

「この町での活動拠点を探している。知っての通り職業柄一か所にとどまっておくことが難しいのでそこまで豪邸は求めていないがオレ達が留守の間、警備を人に任せる予定だからそれなりの規模を求めたい」

 はい。そういう建前でまずは奴隷たちの衣食住のうち住を確保しようという魂胆です。

 もちろんビンセントに言った言葉も全く嘘じゃない。この町からあの洞窟に言っている以上。生活のための拠点は絶対必須。それにいつまでも宿屋で生活していくわけにもいかない。武器の点検や日常品の買い出しも宿屋では何か不便なことが多いし、仮にもAランク冒険者という冒険者として一流の地位についている人間が普通の宿屋で生活していることはギルド的にも非常に好ましくないらしい。

 だったらギルドのほうで住む場所を選んでくれとも思うが自分で選んだほうが愛着がわくし、それはそれでいいと思っている。

 不動産屋への紹介状も資料に含まれていたし、今この瞬間にも続いているビンセントの説明によれば持ってきた紹介状とAランク冒険者という肩書で値段が相当割引されるらしい。なぜかというと高ランク冒険者はそこにいるだけで戦争の抑止力になるうえ、わざわざ強者がいるところへやってくる魔物もおらず、結果として高ランク冒険者の拠点周辺は戦争も魔物による被害もない環境となるので例え屋敷一つ程度無料で提供したとしても十分儲けのある取引になるらしい。

 これなら遠慮なく住みたい物件を選べるというものだ。

 オレとしてはリナや先生の分の部屋を含めて六部屋以上あって日当たりのいい物件を希望している。基本的に価値あるものはオレのアイテムストレージに保管してあるので物取りの心配はない。というよりもしオレの家に泥棒が入ろうものなら正当防衛として始末してしまおうと考えている。

 一応法律も確認したがこれで問題ないことがわかっている。女神さまからの仕事という面から考えても泥棒なんてする悪人は退治しておいた方がいい。

「でしたらこちらの物件などはいかがでしょう?」

 ビンセントが広げる資料に目を向け、そういえばこんなやり取りを不動産屋でするなんて初めてだな、なんて考えながら資料に乗っている物件でどれが一番いいかを考えた。



 結局、資料で見ただけじゃわからないという理由で実際にその物件を見てみることになった。一緒に住むリナや先生も目を輝かせながらついてきてその物件を見ている。

 まず最初に紹介された物件はとある貴族が立てさせたもののその帰属が急死したことで結局だれも住むことなく売りに出された物件。一応不動産屋で管理はされているので今からすぐにでも住めるように整えられている。部屋数も使用人の分であろう部屋も含めて二十を超えている。若干数が多いがそもそも今後仲間や奴隷の数が増えることを考えるとこれくらいでもいいのかもしれない。

 だがせっかくほかの候補もあるんだからこの候補以外の物件も見てみよう。二人に意見を聞いてみたがおおむね同じ意見が聞けたので別の物件へ案内してもらうことにした。


 次に紹介された物件は町はずれに位置するきれいな小川のすぐそばの物件。もともと名の知れた錬金術師が研究のために建てた物件でその錬金術師が別の場所へ拠点を移したことで売りに出されたらしい。

 実験も行われていたらしく中には妙なシミがあったりもしたが魔眼で調べて危険がないことはわかっている。が、その実験の副産物なのであろう異臭はする。五感に優れたリナやオレにはどうにもつらいところだが、先生は目をキラキラさせている。どうやら心の琴線(きんせん)に触れるものがあるらしい。

 確かにオレもその名の知れた錬金術師とやらどんな研究を行っていたのかには興味がある。何か怪しい実験でも行われていたんじゃないのかと不安にもなるし、正直な話怖くもある。でも先生がここまで自分の欲しいものを主張することってあったか? いや、なかったね。

 普段はお調子者ぶってるくせになんでか一線を越えてこないというか、気が付けば一歩引いたところにいるという具合だった先生がこんなグイグイと自分を出すなんてなかったんだ。

 これだけでもオレ的には十分購入理由にはなる。

 しかし、ここは部屋数が少ない。

 もともと錬金術師が研究のためだけに建てさせた家なので生活のしやすさよりも研究に必要な設備に金を阻止だ結果。部屋数は研究室を含めて六部屋。そのうち五部屋が研究に必要な器具を置くための部屋や資料を保管するための部屋で残り一つの部屋も単に寝るためだけの部屋でろくな家具すらない。

 これはあくまで一人暮らし用の物件だな。先生には申し訳ないが、今のところ購入する要素は薄い。


 三番目に紹介されたのは二件目とは正反対の町はずれに位置して近くに雑木林のあるなかなかに大きな屋敷だった。もともとは人間嫌いの商人が立てた屋敷らしいがその商人が仕事中に死亡したので売りに出されたらしい。

 部屋数は十七つ、しかも地下室まであり、この屋敷を購入すれば近くにある雑木林の土地に関する権利も手に入るらしい。単純に手に入る土地の広さなら今まで紹介された物件の中でもトップだ。

 雑木林を見せてもらったが長年手入れされていたおかげかもうすっかり林業で出荷できかねないくらいに太く立派な樹木があった。

 気づかれないように木属性魔法で調べると文句なし。

 虫食いもなく繊維がぎっしり詰まっている立派で丈夫な樹木だった。

 ビンセントの話を聞きながら土属性魔法で周囲の土質も調べるとこっちも文句なしに上等な土質だった。オレの土属性魔法と木属性魔法があればここに立派な農場も建てられる。

 リナや先生も好反応でここは一番目に紹介された物件を抑えて今のところ購入候補ナンバーワンに躍り出てるね。

 しかし、惜しむらくはこの屋敷の方角は例の洞窟とこの町を挟むような形であるということ。この屋敷から洞窟へと向かう際にはどうしても遠回りになるという点だけがネックだ。


 四番目に紹介されたのはこれまで紹介された物件の中でも最安値で取引されている物件だ。これだけ聞けば住居として何か問題を抱えてるような物件ではないのか? 何か重要な欠陥を抱えている厄介物件ではないのか? と思うだろう。だがそんな様子は一切なく、街中、それも市場の近くにあることで生活において非常に便利だ。(ま、あんな閑散とした市場の近くでどんないいことがあるんだって話なんだがな・・・)建物自体にも何らおかしなところはなく、一見普通の住居に見える。だが、この物件には秘密がある。

 この物件には曰くがある。

 この物件は冒険ギルドに所属していたとある冒険者パーティーが購入したらしいんだが、そのパーティーがなぜか殺し合いを始めて全滅したらしい。

 その現場になったのがこの物件らしく、今でもその冒険者たちの魂が幽霊となってこの建物をさ迷い歩いているらしい。

 異常がこの物件にある曰くというものだが、いるね。確かに

 半分魔物化してるな。レイスになりつつあるな。そういえば魔物になりきる前の魂を見るなんてこれが初めてじゃないか?

 ふわふわと頼りなく漂う蛍のような光だが、その光に濁りのようなものが見える。多分これが魔物に変化する前兆なんだと思うんだけど・・・

 うん。どうとでもできるな。今更オレや先生にリナが生まれたばかりのレイスごと気にどうこうされるなんて思えないし、むしろそいつのおかげで格安で住居が手に入ると考えれば感謝してもいいくらいだ。

 だが、曰く付き物件ねぇ~・・・




「ではこの物件を購入させてもらいます。使用人などについてはこちらに当てがございますのでまずそちらをあたりますが、そちらがもしダメであった場合はぜひ頼りにさせていただきたいのですがよろしいでしょうか?」

「はい。購入の件は了解いたしました。使用人につきましても問題ございません。こちらで手配の用意がございますのでいつでもいらしてくださいませ」

 オレの言葉にビンセントは全くよどみのない答えを返し、凛ッ! 効果音の付きそうな凛々しい振る舞いのまま、やさしく朗らかな笑顔で返してくれたのがうれしかった。

 そして必要な書類にサインしてカギを受け取ったオレはさっそく買ったばかりのマイホームへと足を運んだ。

 購入したのは三番目に紹介された一番広い土地が手に入る屋敷だ。将来的には余った土地で農業するもよし。仲間や奴隷たちのための施設を建設するもよしで今後自分たちで好き勝手しやすいという理由で購入した。価格は十億ギル、金貨で千枚とかなりの高額だったが森で得た素材に洞窟で得た戦利品などを一部売却すればどうとでもなる金額だったので一括で支払った。

 これでだいぶ懐が寒くなったが追加で売れるものがまだまだ大量にあるので問題ない。

 あ、そうそう。戦利品。魔物が使っていた武器や防具に関しては職人の町『ゼプル』へ行き、そこで売るので効率がいいという情報が手に入った。地図で確認したところそこにはダンジョンコアの反応が数か所あったので奴隷の件は後回しにしてでも様子を直接見るべきかどうかで迷っている。

 ダンジョンコアの数的にもオレのモンスターでまだコア破壊経験のないやつもいるからそいつらからコアを砕かせて進化させようかな・・・。


 なんて考えていたらもう屋敷へと到着していた。リナに先生はそれぞれ自分の部屋を決め、そこへ家具を運び入れている。夫婦なのに別部屋なのかとリナに対して思うのだが、たとえ夫婦であろうともプライベートな空間は必要だろう。むしろ今まで正式に結婚式の一つも上げていない自分の手際の悪さを反省すべきだと自分のそんな気持ちを投げ飛ばす。

「さぁ、ここが私たちの新しい部屋ね♪」

 はい。気にしすぎでした。リナは俺たち二人の部屋を作ってましたよ。

 この屋敷の中央の奥。もともと屋敷の主人が住むための部屋であろうここに

 キングサイズというのか? とにかく大きいベッド。かなり大柄なオレやそれより少し小さいだけのリナでも十分足を延ばして寝られる大きさのベッドが置かれ、それぞれの机が置かれていた。ほかにもカーペットにはどこか草原を思わせる淡い緑色の良質そうなのが置かれていたり、カーテンにランプとそれぞれさりげなくセンスを感じさせる小物が置かれていた。

「今日からここで暮らすのね・・・」

 リナがどこか感慨深そうに言う。まぁ、リナにとってここがようやくできた自分の家なんだろう。一族のみんなは今この瞬間にも一族再建のために拠点の改築に改装を行ってるはずだ。

 ホントであれば自分もそれに携わりたいがオレのことを考えてこうして表に出さないでくれていたんだ。いい女だ。今更だと我ながら思うが心の底からリナ・カウリアに惚れる。

 いよいよオレもちゃんとしよう。うん。

「リナ。ちょっとここにいいか?」

「? いいけど・・・」

 置いたばかりのベッドに腰掛けるリナ。リナが腰かけたのを確認してオレは――

「た、タイチ?」

 ――跪いた。

 敷いたばかりのカーペットの上に膝を載せてリナの顔をまっすぐ見据える。

「リナ、受け取ってくれるか?」

 オレはストレージから手のひらに収まる程度の大きさの小箱を取り出して、開ける。そしてその木庭野の中身をリナに見えるように差し出す。

「指輪?」

 そう。この中身は指輪だ。もうわかってると思うが

「結婚指輪というものだ」

 リナが首をかしげてるのでやはり結婚指輪(ウエディングリング)の風習もないんだろう。でも問題ない。ちゃんと説明できる。

「オレの故郷で結婚。つまり(つが)いになる男女の間で渡される特別な指輪のことだ。オレはリナとホントの夫婦になりたい」

 緊張で頭の奥がグラングランするのを自覚しながらも言う。一生を左右する大事な言葉だから

「オレが死ぬまでの間のお前の人生をオレにくれ」

 気障(きざ)なセリフかもしれない。気取ってるようなかっこつけてるような言葉かもしれない。

 でもこれがオレがリナに言いたい言葉だから、言う。

「オレのホントの嫁になってほしい。これがその証だ」

 リナの手を取ってそっと薬指に指輪をはめる。改めて触ると意外に小さい手だった。今までも何回も手を触る機会はあったにもかかわらず、そのか細く華奢(きゃしゃ)な手に今まで一部族の存亡がかかっていたのかと今更ながらリナがどれだけの修羅場を潜り抜けてきたのかの片鱗が見え、ますます愛おしくなった。

 リナは呆然と自分の左手薬指にはめられた指輪をまじまじと見つめている。その表情は真顔だった。

 喜んでくれてるのか・・・?

 我ながらなかなかいい宝石が使われた、いい品物を選んだと思っていたんだが・・・

 普通、結婚指輪と言われれば大多数の人々はダイヤモンドが使われた指輪を想像するだろう。世界で一番固いといわれている宝石であるが故に使われているのだろうと思うが

 オレが渡した指輪に使われている宝石は違う。

 その名を『ピュアラブストーン』。必ず二つがそれぞれ寄り添うように同時に発見されることから愛し合う男女がそれぞれ持つべき宝石として知られるこの世界での宝石だ。

 この宝石の特徴は指輪に合うように研磨してもらう際に職人によって施された魔術にあり、オレの心とリナに渡した指輪の石がリンクしているというものだ。どうゆうことかというとオレの()()()()()によって特別なカットが施された石が内部から光るというものだ。

 ついさっきますますリナを愛おしく思ったことで渡した直後より指輪の石が内部から光を放ち、実に幻想的な雰囲気を醸し出した。

 カウリア族のみんなに押した鉱脈でとれたピュアラブストーン。これを使って作られた指輪なんだが気に入ってくれたのかな・・・?


 そろそろ沈黙が苦しくなってきたタイミングでリナの表情を見上げると、泣いていた。

「ち、違うのぉ・・・っ。う、うれしくてェ・・・っ。タイチ。やっとあたしのこと嫁にしてくれた。今まであたしの方から言ってばかりだったもん。だから・・・! だからぁ・・・ッ!」

 一瞬で頭の中が真っ白になり、パニックに陥る直前で聞こえたリナのしゃっくり混じりの声。

 聞いてるだけで真っ白になっていた頭が正常に戻り、代わりに照れやら愛おしさやらが心臓から直接脳へと送り込まれ、我慢できずに抱きしめた。

 抱きしめた胸の中から暖かい水気を感じるが正直あまり気にしていられない。オレ自身もリナへの愛おしさと庇護欲(ひごよく)でどうにかなりそうだから

 一瞬でも気を緩めると一気にこの感情に押し流されてしまいそうだ。今日はまだまだ奴隷商会へ行ってそこでこの屋敷の管理を任せる人材を見つけたりしなくてはいけないのに・・・!


「あ、あたしも・・・ッ! タイチのことが大好き。愛してます・・・ッ!」

「~~~・・・ッ!」


 もう明日でもいいかな?

次回の投稿は二十五日を予定しています。が、仕事でもしかしたら遅れるかもしれません。

もしそうなったらごめんなさい。

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