第四十六話 決着
2026年最初の投稿です。
獣魔王を斬った。
薪を割り
兜を割り
岩石を割り
とうとう丘まで割れるようになった斧術に乗せて放たれた力は獣魔王をしっかりととらえて、切り裂いた。
オレは勝ったんだ。
もちろんうれしいことだし、ホントなら今にも飛び跳ねて喜びを爆発させたいんだが
「残念ながら、そうも言ってられないんだよな……」
レオルドを杖代わりにして何とか立ち上がる。やべぇな。膝がガクガクして気を抜いたらそのまま倒れそうだ。
そんな体に鞭を打ってなんとか前へと進む。
前へと進む。そうしないといけないんだ。だって…
「お前を壊さないと終われないもんな。ダンジョンコア…ッ!」
そう。なんとムカつくことにダンジョンコアは無事だった。
もちろん無傷ではない。
その証拠に前は見ただけで身の毛がよだつ様な存在感だったのに今ではこちらへ敵意を感じる程度に収まっている。
例えるのなら前までが大型ダンプカーがオレの事を轢き殺そうと迫ってきてるのに対して今ではせいぜい原チャリ程度が向かってきてるようなものか?
もちろん脅威である。危険なものであることには違いない。だがそれだけだ。獣魔王を作り出すことにその力を多く費やしたのだろう。今のうちに壊しておかなければきっとまた獣魔王のような強力な魔物を生み出す。いや、きっと今度は獣魔王以上の魔物だって生み出せるようになるのかも知れない。
「さっさと壊そう」
すぐにでも壊そう。
そう思うからもうすっかり重くなった体を引きずって何とかたどり着いた。レオルドを振れば当てられる位置にまでやってきた。
もう気力も魔力もほとんどない。チャクラに至ってはスッカラカンも同然だ。本音を言っていいならもうこのまま倒れて寝てしまいたい。それくらいしんどい
だがそれでも無理をしてでも今、壊す。
オレはそう自分を鼓舞して、意を決してレオルドを振りかぶったが
ドゴン! と音を立ててダンジョンコアが独りでに動き、オレを攻撃してきた。
「最後の最後で頼れるの己の身一つというわけか…」
上等だッ!
ボーリングの球が独りでに動き、こちらを攻撃してくる。
今のダンジョンコアはそんな状態だ。
もうこちらには魔法も使えず、闘技も使えない。そんなオレには十分命の危機になる。頭に直撃すれば命にかかわるのだからな
だが…ッ!
「二度も食らうわけねぇだろッ!」
これくらいの的に当てる練習なんてこれまで散々こなしてきたっつーの
オレの思いを乗せたレオルドの一撃がしっかりとダンジョンコアを捉え
叩き割った。
その瞬間
魔力? 気力? チャクラ?
そのいずれとも違う力の本流がほとばしり、オレは飲み込まれた
痛みはない。
苦しみもない。
疲れ果て、気を抜いてしまえばその場に蹲って寝てしまいそうなほどに疲れていたからだが温泉につかったような
骨の奥まで疲れや不純物が溶け出して洗い流されていくような感覚とともに軽くなっていく体に熱く燃え盛るナニカを詰め込まれていく…
「何だったんだ? 今の…」
まるで夢のような感覚だったが…
「力が…」
あふれ出てくるみたいだ。
ついさっきまで力を使い果たして倒れそうになっていたのに今でははち切れそうなほど心身ともに充実している。
あれ?
というか…
「ここ、どこだ?」
なんか知らん場所にいた。
足元は砂浜か? 白い砂があたり一帯を覆いつくし、なだらかで何もない地平線を築いている。
空を見れば星空だった。
満天の星空。雲一つない空に様々な星がきらめいて、まるで吸い込まれそうな美しさがあった。月も見当たらずただただ星がちりばめられていてどこか寂しい印象もある。
「うん。マジでどこだココ?」
少なくとも森ではなさそうだな。でもなんでオレはここにいる? 少なくともオレはこんな場所は知らない。
そしてなんだ? この静けさは…
音一つない静寂。
オレ以外に生物がいないのかと思わせられるほどに静かで逆に耳が痛くなってくる。さて、どうしたものかと考えてると
「よう。後輩」
「!」
突然声をかけられた。
驚いて思わずその場から飛びのいてしまった。
なんだ? いったい誰に声をかけられた? 男の声だった。少なくとも知り合いではない。凄腕の暗殺者? 油断から声をかけられた? 少なくとも隠密系のスキルは持ち合わせているかなりの熟練者のはずだ。冷や汗をかきながら声をかけてきた方への向いてみると
人がいた。
知らない奴だ。
オレと変わらないくらいの背丈を鎧で覆い、斧を背負っているその姿は戦士そのものだがそれであの隠密性があるのか?
オレがいつでも引き抜けるようにレオルドに手をかけると突然奴は笑い出した。
「まぁ、悪くない反応ではある。まだまだ青いが悪くはない…」
「…何の話だよ」
何が面白いんだ?
まぁ、こうして間をおかれることで冷静になれたよ。そしてあんたの正体もわかった。察しがついた
「オレを後輩と呼ぶってことはあんたも先生と同じか」
「先生? 俺以外にもお前に接触したやつがいたのか?」
「あぁ、坂本真理って人と会ってる。オレの魔法の先生だ」
ホントはほかにもいろんなことを教わっているけど念のためにぼかしておくか。
「そうか。ちなみにお前は女神さまにあったことは?」
「ありますよ?」
もう二年ほど前になるのか。確か…
「「眼鏡をかけていてひっどいクマを持っていた美人」」
あぁ、やっぱり
先輩の顔も「納得」と書かれているよ。あとは安堵か?
さて、そろそろ聞かないとな
「あぁ、言わなくても大体わかる。ここはどこかとかそんなところだろ?」
先輩に言われたので頷く。
ついでに先輩が何でいるのかとかオレに何の用なのかとかも聞きたいな。
「ここはいってしまえばあの世とこの世の中間地点の一つ。日本人に分かりやすく言えば三途の川みたいなところだ」
「てことは先輩もやはりそうなんですね? あれ? てことはオレもですか?」
いつの間に死んだんだ?
「違う違う。確かに俺は死んだけどお前は違うんだよ」
「あぁ、よかった…」
ホントによかった。
知らないうちに死んでたとか死んでも死にきれねぇよ。ホントに
ではなんでオレはここにいるんだ?
「お前、ダンジョンコアを壊しただろ? あれはこの世の負のアルファメスの結晶みたいなもんだから転生者の身体を通して正のアルファメスに反転させる必要があるんだよ。
言っちまえば俺達の身体はアルファメスのろ過装置みたいなもんだな。そんでその過程で正のアルファメスを少しだけその身に蓄えることができるんだ。
少し、とは言ったがそれは全体から見ればの話で一生き物が持つには破格な量。その量に応じて体そのものを作り替えることができる。
要するに『進化』するんだよ。ゲームみたいだろ? その恩恵は身体能力の向上はもちろんのこと。まだまだ発現できてなかった魔法の発現にスキル進化などなど多岐にわたる
お前の場合はスキル進化。俺がここにいるところから察するにメイン武器は斧で「斧術」スキルも持ってるんだろ?」
「あ、はい」
いろいろ一気に言われて理解が追い付かねぇよ。要するにダンジョンコアを破壊した恩恵の一つでオレはここにいるのか?
「俺も斧をメインに使っていた冒険者でな? 俺の場合はこの世界で斧の師匠にも恵まれて技術を学び、やがて俺の流派を興すことができたんだよ。
その流派の全部を今からお前に叩き込むから死ぬ気で取得しな」
「よろしくお願いします」
マジか。斧の師匠。オレが一番欲しかった奴じゃね? 先生はあくまで魔法が専門だからせいぜい素振りとかを教えてもらうことが精いっぱいだったよ。
ここでこの先輩から技術を教われば今以上に強くなれる。
そう思うとワクワクした気持ちを抑えきれないな。
「下がるな! 戦闘で前衛が、最も破壊を持つ斧使いが腰を引かせてどうすんだッ!」
「踏み込みが浅い! 次の一撃なんて考えるな。今この一瞬の一撃ですべてを決めるつもりで振るわんかいッ!」
「斧は剣と比べて一撃の破壊力に優れている。確かに取り回しや扱いやすさでは剣に劣っているやもしれんがそれを補って余りあるほどの利点もあるんだ! その利点を知れッ!」
「敵に集中するのはいいがそのせいで周囲への警戒を怠っていれば世話ねぇぜ? 意識を二つに分けるんだよ。一つは敵との高いに、もう一つは周囲への警戒といった具合にな」
「確かにお前はこの世界にやってきてそれなりに修羅場を潜り抜けてきたのかもしれないがまだまだ甘い。もっともっと強い奴ならいくらでもいる世界なんだから妥協をするな。強くなり続けろ」
「確かに斧、それも俺達が扱う戦斧は超接近戦を仕掛けられると扱いにくい。だが別にできないわけじゃない。それに別に斧にこだわりすぎる必要もねぇだろ。こうすりゃいいんだよッ! アァ? 蹴り技になんか文句でもあるのか? 馬鹿か? 俺達がやってるのは試合じゃねぇんだぞ? やったもん勝ちの生存競争だろうが」
「卑怯卑劣が嫌い? 大いに結構じゃねぇか。強ければ手段も選べるだろうな。だがそうじゃねぇんなら手段を選んでいられねぇ。逃げようが裏をかこうが勝てればそれでいいんだよ」
スパルタだった。
先輩の稽古はひたすら実践稽古で何度も斧を振るわされた。
それも実践そのまま。一歩間違えればこの稽古で死ぬのではと思わされる稽古だった。
流石に最初は腰が引けていた。だって実践ということはオレが先輩を殺してしまうかもしれないんだ。ゴーレムを使った稽古とはまるで違う。
そりゃオレだって考えたことはある。この世界を生きていけばいずれは盗賊や山賊なども殺すときがあること。
結局その時が来ないとちゃんと覚悟を決められるのかもわからないという結論になった。だがその覚悟にしてもあくまで治安改善や身の回りの安全保障のために同族を殺す覚悟であっても流石に練習で相手を殺してしまう覚悟はねぇよ。
だが驚くべきことにここではいくら切られても死ぬことがないらしい。
先輩曰く、
「ここは三途の川みたいなもんであの世でもこの世でもないからここでいくら傷ついても大丈夫なんだよ」
とのことだった。
とても不思議ではあったが実際にオレが先輩に斬られても痛みは感じても血が出ることも死ぬこともなかった。
もちろん痛い。文字通り切られたのだから痛いに決まっている。斬られた箇所が燃えるようだったし、下手をすれば斧を持ってる腕に力が入らずに落としてしまいそうになる。
だがやがて慣れた。もともとあの森で命がけの闘争を繰り広げてきたんだ。ケガの一つや二つなんて当たり前だったから慣れる。
あ、ちなみにオレが振るっている斧はレオルドではない。レオルドと同じ大きさと重さではあるがよく見ると細かい部分が違う上にレオルドの意識もなかった。このことにして先輩は
「ここに来たのはお前だけであってお前の仲間は別だ」
とのことだった。
残念に思うと同時にオレはレオルドを道具ではなく、仲間として認識していることがわかり、なんだが嬉しくなった。
先輩の稽古はとにかくスパルタでこの二年で培ってきた自信は傷つけられていかに自分が足りてなかったのかを思い知らされた。
だが楽しい。
足りなかったパズルのピースがぴったりとハマったような感覚と乾いたスポンジが水を吸収するような感覚を同時に味わいながら刻一刻と自分がさらに強くなっていくこの万能感に酔いしれた。
あぁ、楽しいな。
今この瞬間が、この戦いが
命を懸けた闘争が楽しくてしょうがないッ!
いや、何を考えてるんだよ。
これはあくまで稽古だ。命のやり取りをしてるわけでもないんだ
でも楽しいなぁ
ホントに楽しい
時間の感覚が曖昧になり、ただただこの稽古に夢中になっていたんだが突然先輩の斧が割れた。いや、違うな。オレだ。オレの一撃で先輩の斧が斬れたんだ
「仕上がったな」
「………………はい」
お互いに肩で息を継ぎながら言葉を交わす。
仕上がった。確かに今のオレはこれまでとは比べ物にならないほどに斧の扱いに精通した。今まで頭上を覆っていた暗雲が一気に晴れ渡り、斧の真理とでもいうべきか何かを悟ったような気がする。
あと一歩。
あともう一歩で何かに至れる気がする。
そしてそのあと一歩は何をしたらいいのかもなんとなくわかる
「そうだ。それでいい」
「!」
考えが見抜かれたことに思わず息をのんだ。
しかしオレの考えが正しいのならあと一歩になすべきことは
「それでいいんだよ。俺は文字通り死人。もうすでに死んだ人間であり、女神に頼まれて後輩の教育を担ったに過ぎない。この身もそのためだけに用意された器に過ぎず、ここで朽ち果てようとも一向にかまわん」
淡々と説明してくれる。
「だから」
でもさ?
「俺に止めを刺せ。文字通りにお前の全身全霊の一撃で、だ」
残酷だぜ?
オレは決してやさしい人間ではない。赤の他人がどうなろうとも基本的には対岸の火事であり、知ろうともしない。
多少の顔見知りに不幸があればそれなりに同情はしても何かしらをするつもりもなく、周囲が見舞いや募金をするときに付き合いでほんの少しだけ参加しながら心の中では罵詈雑言を吐くような人間だ。
別に人の心がないとか、人を思いやる気持ちがないとかではないんだ。
実際に身内やそのまた身内がケガをしたと知れば詳しいことが知りたくて仕方なく、もしも入院や通院などで金が必要なら貯金からいくらか用立てるくらいは平気でする。
子供が生まれたり受験に合格したと知ればお祝いに花や万年筆などのプレゼントをウキウキした気持ちで送る。
思春期や反抗期で家を飛び出したと聞けば地理的にいないであろうことがわかるんだが、それでも万が一の可能性を考えてオレの家の周辺を探し回らないと気が済まない。
それくらいには身内に対して情がある。
結論としてオレは決してやさしい人間ではないが情や情けがないわけではない。そんな人間だと思っている。
そんなオレに
「俺に止めを刺せ。文字通りにお前の全身全霊の一撃で、だ」
それは残酷だぜ?
別に指導してくれたから身内だなんていうつもりはない。ただただ面倒を見てくれた先輩だ。感謝はしているし、程度にもよるがこちらから何かするのに否はない。
でもいくらなんでも殺せってのは…
気が重い
やりたくない
でも…
「わかりました」
やらなくちゃいけない。
ため息も胸中に渦巻くいろんな気持ちも吐き出すように大きく息を吐き、肺の中を空にしてから体の隅々にまで行き渡るように深く大きく息を吸う。
やるからには全力。
わざわざここまで来て指導してくれた先輩がもう二度と来る必要もないほどに会心の一撃を繰り出さなければならない。
覚悟を決め、今オレが持てるすべての技術と力を斧に込めて
解き放った。
―ありがとよ
どこかでそんな言葉が聞こえたような気がしつつ稽古の疲れか。それとももうここにいる意味がなくなったからなのか急に意識が遠のいた。
二本目もすぐに投稿します。




