第四十二話 大鬼と犬鬼、そして誕生
今月三本目の更新。
オークデュークを仕留めた。これは実際にレベルアップの音声が聞こえることからもわかる。
だが一切気が抜けねぇ。なぜなら
「わざわざ待っててくれたのか? 仲間意識が薄いのかそれとも武人気取りか?」
「………………………………………………………………………………………………………………………………」
まだまだ敵がいるからね。
さて、状況の確認だ。
まずオレはこの森から出るために修行の仕上げとして、そしてこの世界の住民であるリナたちのためにダンジョンの一部を『解放』させるためにここに来た。確証こそないがこの二年間この森で命がけの闘争を繰り広げてきたものとしてかなり強い心当たりだ。
その心当たりの裏付けとしてこの場所には
『ゴブリンウォーロード Lv:800』
『オーガパラディン Lv:810』
『オークデューク Lv:805』
『コボルトブレイブ Lv:830』
コイツ等がいた。
一体一体が尋常ではない力の持ち主。本来であれば明確な上下関係でもなければ違う種族同士では殺し合いを始めるはずの魔物がこんなにも徒党を組んでいる。
これはホントにあり得ない事なんだ。
そのありえないことが起こる何かがある。それは確定してるんだ。オレはそれこそがこの森を形成しているダンジョンの一つのコアであると睨んでいる。
そんなわけでこの四体と交戦中なわけだが現在はゴブリンウォーロードとオークデュークの二体は討伐できた。
残るは二体。オーガパラディンとコボルトブレイブの二体のみ
この二体は魔物のくせにやけに一対一にこだわっており、オレがオークデュークを仕留めるまで決して仕掛けてこようとしてこなかった。
魔物のくせにかなり違和感があるがまぁ、オレにとって都合がいいからそれでいい。そう思うことにしよう。うん
以上が現状だ。
そして件のオーガパラディンはこちらの様子を窺いながら剣を構えたままにじり寄ってくる。
その顔には油断も焦りもうかがえない。残念だ
ここで油断の一つもしてくれていればその油断をついて余裕を持って対処もできたのに…
なんて思っている間にもオーガパラディンが寄ってきたのでこちらも斧を構えて応対する。
もちろんこんな状況でも視界の端にはコボルトブレイブを捉えて離さない。確かにこの二体は一対一にこだわっており、おそらくはコボルトブレイブもオレがオーガパラディンと戦ってる間には何もしないんじゃないかと思う。
だが相手は魔物だ。
世界のよどみから生まれたこの世の害悪であり、駆除すべき害獣。
そんな存在に武士道や騎士道があるなんて思う方がおかしい。
それらしき行動をとったからと言って気を許してはダメだ。
オレはこのことをこの森で学んだ。
だから油断せずにコボルトブレイブにも気を払っている。
だが当の本人は全くそのつもりはないのかこちらをただ観察するように見ているだけで何かをする気配もない。
そんなコボルトブレイブとは真逆にオーガパラディンは先ほどまでがウソのように猛然とこちらに攻め込んできた。
パラディン。聖騎士の名にふさわしい業物の剣を小枝のように軽々と振り回し、こちらから攻撃を繰り出す隙も与えてもらえない。
強引に繰り出そうにもオーガパラディンの剣戟はこちらの急所を的確に狙ってくるため、下手に防御を解いたら致命傷を負わされかねない。
とはいえ、このままやられっぱなしなのも癪だし、埒も開かないので
「勝負に出るか。『アースピラー』ッ!」
まずは足元を崩すことでオーガパラディンの隙を作り出そうと思ったんだが
「ガ、ぁぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼あああああああああ」
「なに?」
驚かされた。
オレの魔法は確かに発動した。オレがよく使う土属性魔法『アースピラー』。石柱を作る魔法でオレから見て右側に周囲の土を集めてから石柱を生成。配置した
つまりオーガパラディンからすれば足元がいきなり崩れる上に自分のすぐそばに石柱ができるから剣を振るどころではなく、隙ができる。はずだったのだが
驚くべきことにオーガパラディンは九に足元がおぼつかなくなったにもかかわらず的確にこちらの首を狙った斬撃を繰り出してきた。
しかし
「流石に無理な姿勢だったな。【シールドバッシュ】」
流石にいきなり足元を崩されてからオレの首を的確に狙った斬撃が飛んできたのは驚いた。
だがしかし、やはり無理はしていたようでその体勢を大きく崩れ、盾で防いだオレにすぐに追撃に移れないようになっていた。
そこでオレは盾を持つ腕や肩を固定するイメージでそのままタックルするようにオーガパラディンに盾を叩き付け、石柱に押し込んだ。
ここだな
「『ファイヤーアームブースト』、『アクアジョイントクイック』、『ヘヴィプロテクト』」
勝機はココだと判断して自己強化魔法を重ね掛けする。
まずは腕力を強化する火属性魔法『ファイヤーアームブースト』。腕を覆うように火に包まれる。温もりは感じるが暑くはない不思議な火に包まれ、力が湧いてくる
次に敏捷性を高める水属性魔法『アクアジョイントクイック』。胸の中心から水が広がり、この身を覆うかと思いきや、沁み込むように消えていく。しかしそれは視覚的に見えなくなっただけで魔法の水は今のオレの身体の内部にある。より正確に言えば全身の関節部やその軟骨を覆うように展開され、より素早く動け、身体に負担がかからないようになった。
最後にこれから繰り出す技の反動を抑え、身体に負担がかからないようにするための土属性魔法『ヘヴィプロテクト』を発動させる。橙色の魔力が装備している防具を覆い、全身を包み込むように展開された。腕に感じる温度がどこか遠くに感じるようになり、今のオレの身体の防御力のステータスが増したことが分かった。
オーガパラディンがいまさら行動を起こそうとしているが
「遅い。【魔纏豪烈斬】」
気力を消費させて発動させる闘技に更に魔力で覆うことで威力を跳ね上げる特別な闘技。『斧術』スキルが最上級にまで成長したことで使用できるようになった闘技が確かにオーガパラディンを捉えた。
レベルアップの音声をどこか冷めた感情で聞きながらオレはすぐに意識を残るもう一体。コボルトブレイブに集中させた。
改めてコボルトブレイブを観察する。武器は剣と盾。どちらも勇者が持つにふさわしいような聖なる力を感じさせるもので一目で業物だとわかる。
そして鎧は軽装。心臓部分や首など急所は覆われているがそれ以外の装甲はないにも等しい軽さ重視の装備。いや、コボルトブレイブは人間とは違って毛皮という自前の防具を持っているからあれで十分なのか
であればあれは軽さと防御力を高水準で両立できている状態なのだろう。まさに勇者と言わんばかりの風体でどこぞのゲームにでも登場するような印象だった。
そんな勇者がこちらへ敵意むき出しの視線を向けている。
今の今までこちらに手を出そうとしてこなかったのは隙を窺っていたからなのか? それとも別の理由でもあるのか
その答えはオレにはわからない。
コイツ等は魔物だ。世界の負の感情から生まれた負のアルファメスが形となって表れたこの世に災いをもたらす存在であり、決して生かしてはならない存在。
そんな連中に「情」や「粋」なんてあるはずがない。
そうさ。魔物なんて連中に仲間の敵討ちなんて気持ちがあるはずがない。
ましてや仲間の気持ちや信条を汲んだわけもないんだ。
しかし、いくら考えても答えが出てこないものにいつまでも気を配っていても仕方がない。
そう切り替えて斧を構えると同時に
「!」
コボルトブレイブに懐に踏み込まれた。
構えていた斧の柄を利用してコボルトブレイブの剣を受けつつ膝蹴りで距離を開けようとするが盾で防がれた。
流石にここまでの手は読まれている。
そして多分次の手も読まれてるとは思う。だがほかに打つ手がない。
「『ファイヤー』」
その顔面に火をつけてやろうとしたオレだが躱された。
首を横に振り、オレの魔法を躱す動作と勢いをそのままにコボルトブレイブはその身をひるがえし、横薙ぎを振るってきた。
狙いはオレの腕。まずは斧を持てなくすることが狙いなのだろう。うん
「舐めるな」
そっちが体勢を変える隙があったのだからオレも出来てもおかしくねぇだろ?
コボルトブレイブの動きに合わせるように、真正面から向き合えるように体勢を入れ替えたオレは今度は斧の刃で攻撃を受けた。
鍔迫り合いのような形で斧と剣を打ち付けたオレとコボルトブレイブ。空手チョップの要領で繰り出した斧の一撃はお世辞にも威力が高いとは言えずこのまま一息にコボルトブレイブを押し込める一撃ではない。
だがそんな一撃でもコボルトブレイブの一撃は止められた。
コボルトブレイブの剣は近くで見るとやはり聖剣と呼ぶにふさわしい雰囲気があった。決してお飾りと言われるようなものには出せない凄味もあった。
そしてそのうえで言える。
オレの斧、レオルドの方が上だ。
元々感じてはいたその想いはこうして打ち付けたことでそれは確信になった。
あとはレオルドのポテンシャルを生かした一撃をコボルトブレイブに叩き込めればそれで終わる。
そう確信したオレは
「『アースクエイク』」
オレの前方、つまりコボルトブレイブの立っているその場所に地震のような揺れを発生させる魔法を発動した。
あくまで発生させるだけで決して威力があるわけではない。
だが急に足元が揺れるとどんな生き物でも動揺はする。ましてや完成度の高い武術を扱うのならほんのわずかな揺れでも許容できなくなるものだ
予想通りに動揺して隙を出したコボルトブレイブに容赦なく斧を振るい、斬り裂いた。
軽装も毛皮も何もかもを斬り裂いて致命傷を与えた。
だが
「……………ウソだろ」
致命傷のはずだ。
肩から腰にかけて大きく切り裂いて盾を持っていた腕に関してはもうほとんど動かすこともできないはずの重傷のはずなのに死ぬどころかその場に仁王立ちしている。
だがそれ以上に
「何なんだろうな。そのうつろな目は」
そう。うつろなんだ
本来ならオレに敵意を向けるはずのその眼には敵意どころか何の感情も読み取れない。まるで底の見えない穴でものぞき込んでいるかのような言い知れない不気味さがあった。
ま、とにかく仕留めるか。
そう思い、斧を振りかぶってから気づいた。
コボルトブレイブの背中にナニカがいた。
ソレを認識した途端に全身の毛が逆立ち、すぐに飛び退いてしまった。
恐怖?
危機感?
不安?
それら全部は当たり前、それ以外にも途轍もなく大きな感情に支配されて踏み出すことができない。
とにかく今は自分の回復に努めるべきだと判断したオレはストレージを開き、ポーションでも取り出そうとしたんだが
「ア…、アァ………」
「ぐ、………ォオ、が」
「ン……、ご………」
何とオレのストレージから這い出てくるものがあった。
そしてよく見るとそれには覚えがある。というか、コイツ等は
「ゴブリンウォーロード。オークデューク。オーガパラディン…」
見間違うはずもない。
つい先ほどまで命を懸けて闘争を繰り広げてきた相手だ。
オレに斬られ、焼かれ、うがたれた傷口もそのままにストレージから這い出てくるその姿は正にゾンビというにふさわしく、思わずドン引きした。
そんなオレにお構いなしにストレージから這い出てきた三体。いや、元三体というべきか? ゴブリンウォーロードとオークデュークにオーガパラディンが何かに引きずられるようにコボルトブレイブの元へと向かい
「あ、アァ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼ああああああああああああああああッッッ!!!!!!」
「グ、ゲぇ、エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ嗚呼ああああああああああああああああッッッ!!!!!!」
「アぐえ、ぼろろろろろろ炉露露露露露露炉ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!」
この世の物とは思えないような気持ち悪い叫びをあげながら元三体の身体が融けた。
体毛、皮膚、脂肪、筋肉、内臓、神経、血管、骨格に至るすべてが泥のように融け落ちてコボルトブレイブへと流れ込んでいった。
コボルトブレイブも骨格に至るすべてが泥のようになっていき、オレはまたソレを見ることになった。
ソレはまるで水晶玉のように透き通るような球体で美しいものではある。だがその美しい球体から感じるのはむき出しの敵意。
いや、殺意だな。今こうして向き合ってるだけで尋常ではない気迫のようなものも感じる。そしてそれは決して敵意や殺意なんて言葉だけで語られていいものではない。この世のすべての悪感情すべてを煮詰めて凝縮したかのようなドス黒いものを感じた。
仮にも二年間この森で命がけの闘争を生き抜いてきたオレがビビるくらいにはヤバい気配を漂わせている球体。
多分その正体は
「ダンジョンコア…」
これしかねぇだろうな。
そんなダンジョンコアにいくつかの魔石が吸い込まれて行った。数は四。多分…
「ゴブリンウォーロード、オークデューク、オーガパラディン、コボルトブレイブ…」
アイツ等であろう魔石。魔物の核であり力の源でもある石がダンジョンコアに吸い込まていき、やがてダンジョンコアがまるで液体のように魔石を取り込んだ。
すると四体分の泥の中からいきなり骨格が現れた。
まるでスケルトンのようだと思ったがすぐに違うと確信できた。普通であれば人間の骨格であることが多いスケルトン。しかし今回現れた骨格はどう見ても人間の骨格ではない。
この二年間ほど倒してきた魔物を解体してきたオレが知ってる中で一番近いのは…
「コボルト?」
そう。犬と人間を掛け合わせたような存在。コボルトに一番近い。しかしコボルトともまた違う…
まずはその骨の太さ。オレが知ってる最大級のコボルトの骨格でもここまで太くはなかった。骨の一本一本が太く、大きい。
そんな骨を覆うように筋肉が見る見るうちについていき、それに伴うように内臓や神経なども張り巡らされて行き、止める間もなく完成されていく。
ダンジョンコアがオレを殺すために誂えた魔物が
「グゥゥウウウルゥウウウウウウァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッッ!!!」
天地に響けと言わんばかりの方向が轟き、そいつは誕生した。
『獣魔王 Lv:1000』
規格外の存在感と威圧感を振りまいて
四本目は少なくとも今日は投稿しません。
もう少しストックを蓄えてから投稿するつもりです。




