第四十一話 小鬼と豚鬼
今月二本目の更新。
「お前ら全員を殺さないといけないんだッッッ!!!!!!」
燃える気持ちを吐くように告げて駆けだしたオレが最初に向かったのはオークデューク。オレの存在に気づいた護衛が間に割って入るが構わず斧を振りかぶるオレの視界にはそばに立てかけてあったステッキを手にしてから石突の部分をこちらに向けるオークデュークの姿だった。
やはりオレの見立て通りあのステッキは杖の一種だったようで何かしらの魔法を準備していた。
だから
「発動前に潰すぜ。『フレアストライク』ッ!」
火属性上級魔法を繰り出した。
繰り出された火属性上級魔法は寸分たがわずオレの思い描いた軌道を描く。だが防がれた。
「まぁ、それがお前さんの存在意義なのかもしれないけど…」
普通。燃え盛る炎の球を自分の身体で受け止めるか? それで燃やされてるし
そんでそんな奴に守られたオークデュークの取った行動はステッキの石突から光線を出す魔法だった。まぁ、それが正しいんだよ? お前がその魔法を準備していたのはオレの魔法の前だからな。でもやっぱり自分の事を体を張って守ってくれる部下の回復や支援を優先させろよと思ってしまうオレはおかしいのかな?
護衛、仲間の一体が燃やされたことで残りの護衛もこちらへと向かってきた。
遅くないかと思うが残りの護衛達もオレ以外にオークデュークの命を狙う敵が来ないかの警戒をしていたのでただ無駄に突っ立っていたわけではなさそうだ。
そして意外なのはゴブリンウォーロードもオーガパラディンもコボルトブレイブもこちらに攻めてくる気配がない。
武士道精神でも持ってるのか? 魔物のくせに?
「ま、オレにとって都合がいいんだからそれでいいか」
もちろん油断するつもりもないがな
さて、改めて状況の確認だ。
まず目の前にはオークデュークの護衛三体。そのうち一体はオレの魔法で燃やされていて今はオークデュークに回復魔法をかけてもらっているのでしばらくの間は戦線復帰はしてこないはず
残りの二体は全くの無傷。だがさすがに自分たちの仲間が燃やされた相手に無策で突っ込むようなへまをするような間抜けではないようで攻めてこない。
今もその身を覆うほどの大きさを誇る大盾を構えつつ動こうとしていない。このままではせっかく与えたダメージが回復されて元の木阿弥になっちまう。
だから
「今は攻めるしかねぇッ! 【剛力断】ッ!」
斧を振りかぶって思いっきりぶつける。
オレの攻撃を防いだ護衛の体勢がほんの少しだけ崩れたのを確認してから畳みかける。
「魔闘法。オラァッ!」
チャクラを練り上げることで威力を底上げした攻撃を叩き込むとまた少し二つの大盾の間に隙間ができた。
この二撃でオレが物理攻撃でこの護衛を突破する。そう思わせておいて
「いまだッ! 『アースピラー』ッ!」
護衛の意識をオレに向けたところで石柱で串刺しにしてやった。
断末魔を上げることもできず、絶命したことを知らせるレベルアップの音声を聞きながらオレはもうすっかり回復しきれた残る一体の護衛の攻撃を盾で防いだ。
「ぶぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
仲間が殺されて怒髪天を突いたのか護衛らしい盾すら捨てて攻撃に集中している。
両手で剣を握りしめて雄叫びを上げながらこちらを攻めてきている護衛。その護衛の陰に隠れるようにステッキをこちらに向けるオークデュークを確認してから
「【兜割】ッ!」
残りの護衛オークの脳天をカチ割るつもりで斧を振るい
「『アイアンウォール』」
土属性魔法で鉄の壁を作り、護衛オークの後ろに配置することでオークデュークの魔法を遮った。
いつもの癖なのか盾を持っていた腕が一瞬動き、防御がワンテンポ遅れた護衛オークの体勢が崩れた。本来ならここで攻め切りたいんだが…
「流石にここまでくれば手を出してくるか」
やれやれとため息でもつくべきかゴブリンウォーロードもオーガパラディンもコボルトブレイブがそれぞれ武器を構えながら護衛オークを庇うように立ちふさがってきた。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」
鼓膜を破く勢いの咆哮を上げたゴブリンウォーロードが先ほどまでの棒立ちがウソのような素早さでこちらへと迫る。
まるで地震そのものが一本の槍になったような軌道でこちらへと迫ってくるゴブリンウォーロードが突き出してくる槍の一撃に盾を噛めそうになるが、無理だッ!
盾ごと押し切られる。そう確信できるほどの一撃だった。躱したいが残念ながらそんな時間がない。もうすぐそこまで迫ってきた槍の穂先をしっかりを見つつオレは盾を置構えて
「【柳流し】」
何の抵抗も手ごたえもなく通り抜けた槍におまわず唖然としたであろうゴブリンウォーロードに斧を振り下ろすがさすがは歴戦の戦士。
槍で受け流しやがった。だが
「『フレイム』 ガッ!」
受け流されたことで近くなったその顔面を燃やしてやろうと火属性魔法を発動させるがオレの行動を呼んでいたのかゴブリンウォーロードはオレの魔法よりもワンテンポ早くその場から離れ、そのついでにこちらに蹴りを食らわせてきた。
まるでアクロバットのような軽快な動きで繰り出された蹴りでこちらの頬を打ち据えられて魔法の狙いもそれてしまった。
そんな隙だらけのオレをゴブリンウォーロードが逃がすはずもなくこちらへ攻め込んできた。ここで一気に仕留めるつもりの大振りならその槍を斬り裂くつもりの斧の一撃が震えるのだがゴブリンウォーロードが繰り出してきたのは基本的な突き刺し。
槍を握った初心者がまず練習するような突きの動作。オレ自身もハルバードのために手の皮がむけて血が出て、肉刺ができるまで練習し続けてきた基本中の基本の動作。
そんな超基本的技がオレの命を狙ってきている。斧で防ぐには体勢が崩れていて難しい。ならば
「『アースピラー』」
オレとゴブリンウォーロードを遮る壁として設置した石柱の魔法。これで体勢を立て直しつつ幾分か時間が稼げるはずだが
ガツンッ! ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
見る見るうちに石柱が壊されていくので体勢を立て直すことで精いっぱいだった。
回り込むよりも破壊した方が早いと判断されたのか? まずは一撃銜えられる音がしたと思えばすぐに息も吐けないほどの連撃の音がした。
そしてすぐに石柱が壊されたがこちらも体勢を整えることはできた。
「『ストーンバレット』」
石礫の魔法を繰り出し、ゴブリンウォーロードに弾かせる。もちろんダメージを与えられるのならその方がいい。だがそれよりもこの魔法をゴブリンウォーロードに弾かせることで生じる隙を付いて斧の一撃を当てる。こちらの方が与えられるダメージが大きい。
オレのそんな考えを見抜いたのかゴブリンウォーロードはオレの魔法を兜で受けた。
オレの石礫はゴルフボールほどの大きさがある。そんな大きさの石礫を十数個発射するのだからもちろん兜だけで受けきれるわけもなく上半身を中心に至るところを打ち据えたはずだがゴブリンウォーロードは全く意にも介さずにこちらに槍を突き出してきた。
そんな一撃を斧で受けつつ反撃を試みるが
「きれいだ」
ホント、自分の命を狙ってきている相手に向ける言葉ではない。だがその技術には称賛しかない。こちらの攻撃を柄のしなりを利用して受け流しつつ攻撃を仕掛ける。
一切の淀みもなく行われたこの一連の動き。一体どれだけの研鑽があったのだろう。恵まれた才能だけではなく気の遠くなるような努力の果てにたどり着ける領域であることが察せられた。
本来人間とは相いれない魔物。それも低級であるがゆえに数が多く、それ相応の被害を人間に与え続けてきたゴブリンに敬意を持つなんておかしな話だと思う。だがそれでもこの磨き上げられた「武」には敬意を払うべきだと思う。
だからこそ
「お前を超えてやる」
ゴブリンウォーロード、コイツの「武」を超えたくなった。
何度も斧を振るい、こちらに迫ってくる槍を躱し、防ぐ。
一歩間違えれば命にかかわる。まさに極限状態なのに
楽しい
今まさにこの一瞬でより強くなっていくことがわかる。自分という存在がアップロードされて行き、より上の存在へとなり上がっていくのがわかる。
その万能感、全能感ともいえるこの感覚にオレは酔いしれそうになっていた。
最初のころはゴブリンウォーロードの技や技術の引き出しの多さに驚かされた。受け流し一つとっても柄のしなりを利用する以外にも本来なら攻撃の時の動きを利用したり、足さばきや体捌きで躱す技術にも舌を巻かされた。
だが見れた。
優れた技術だからこそ何度も何度もこの目に焼き付けるように見ることができた。そしてみることができた端から自分でもできるようにしてみた。
もちろんオレがまねたからと言っていきなり極められるはずもない。だがゴブリンウォーロードの技術の片鱗だけでもモノにすることができた。この技術は今後も磨き続けていつの日かオリジナルのゴブリンウォーロードをも超える。
そう決心するころには
「オレの勝ちだな」
「………………………………………フッ」
ゴブリンウォーロードの槍が折れ、その場に座り込んでいたゴブリンウォーロードの首を斬った。
レベルアップの音声が遠くで聞こえるが今そんなことよりも
「次はお前か」
オーガパラディンかオレの問いに答えるように剣を抜き放ち、こちらにゆっくりと歩み寄っている。
あちらの方から時間をかけてくれると言うのであればこちらは様子するか? いや
「先手を取る」
「!」
一息でオーガパラディンの元へと踏み込んでから斧を振るうオレに意表を突かれたオーガパラディンが剣で受けた。
やはりオーガパラディンはオレがここで後手に回ると思っていたらしい。確かにオレは基本的に相手に先手を譲りがちだ。
それは相手の力量や奥の手の有無をギリギリまで見極めたいからだ。こちらから攻め込んで罠にハメられたんじゃお笑いにもならない。だから相手の事をより深く知るために先手を譲ってしまう。オレが先手を取るのは不意打ちくらいだ。
そんなオレが先手を取ったのだからオーガパラディンはさぞ驚いたことだろう。だがオーガパラディンはゴブリンウォーロードとの戦いを見ている。それはつまりオレの手の内があり程度見抜かれていることに他ならない。
そんな相手に先手を譲ったところで手に負えなくなりそうだ。オレだって相手を観察してから不意打ちを仕掛けて自分と同等か少し上の実力を持った奴だって仕留めたんだから…
さて、そんなわけで先手を取ったのだからこのまま一気に
「!」
「押し切るッ!」
もうここで仕留めるつもりで斧を振るい、オーガパラディンに一切攻めさせない。
つもりだったが
「!」
嫌な予感がしたのでその場から飛びのくとオレのいた場所、それも頭に近い位置に光線が通り過ぎた。何事かと光線の出所を見てみると見てみるとオークデュークが杖をこちらに向けていた。
なるほど。これはオレが油断していた。相手は魔物なのだからいつまでも一対一にこだわってるわけがないのに無意識でも「目の前の相手だけ見ていればいい」と思っていたオレが悪い。
そして悪いと認めたからこそもう油断しない。微かに感じる怒りや失望と言った感情をも消えるほどに集中してからスキル『俯瞰の目』を発動させる。
まるでゲーム盤を上から眺めるような感覚でオレ自身を中心に周囲の状況を見る。
オレと真正面から打ち合っているオーガパラディンとそんなオレ達を観察しているコボルトブレイブ、そしてオレに不意打ちをしてくれたオークデュークのそれぞれの位置が見える。
コボルトブレイブはまだ動くつもりがないのか武器を噛める様子もなし。わざわざこちらから手を出して参戦させるのは愚策か? 特に今はオーガパラディンもまだ仕留めていない。わざわざ敵を二体に増やす理由もない
オークデュークは護衛オークもいなくなったことでようやくしりに火が付いたのか? 先ほどまで余裕しゃくしゃくと言った様子でのんきにティーカップでお茶を飲んでいたくせに今では立ち上がってこちらの様子を窺っている。
だがまだまだ余裕はあるらしく無駄に優雅に気取った動作が見られる。まるでゲームを楽しんでいる英国紳士のようだ。実に気に食わない
そして現在オレと真っ向から対峙しているオーガパラディン。オークデュークの横やりが意外なのか微かな同様な見て取れた。
どうやらオーガパラディンとコボルトブレイブはまだタイマンバトルにこだわってるようだがオークデュークはそんなこだわりはなくオレを仕留めようとしている。…のか?
いや、結局は魔物だ。そんな気骨があるとは思わない方がいい。ピンチになったら化けの皮が剥がれるんだ。そう思っておこう。うん
さて、状況整理は大体こんなもんだろう。問題はココからどう動くかだな
オーガパラディンと決着をつけるのを優先すべきか? だがそれはまたオークデュークの横やりや妨害を受けることになる。今回はオーガパラディンが動揺してくれたからこうして考える時間が手に入ったが次からもこうなる保証はない。
オークデュークから先に始末する。これならその後は余計な妨害に頭を悩ませる心配はなくなるし、武士道ゴッコをしているオーガパラディンやコボルトブレイブだけに集中できる。
だがそのためにはオーガパラディンに一時背を向けることになる。そんな致命的な隙を見逃す相手には思えない。
さて、どう動くべきか…?
数瞬考えて、オレが出した結論は
「!」
「テメェだ! オークデュークッ!」
オークデュークの討伐優先。
妨害されないようするのはもちろん真っ先にタイマンバトルを台無しにしたコイツは多分、オーガパラディンとコボルトブレイブがやられたら真っ先に逃げる手合いだと思う。
そうなったときはオレは多分コイツを追いきれねぇ。もしもコイツがダンジョンコアでも持って逃げたら最悪もいいところだ
だからそうなる前にここで叩く。
いきなり自分が狙われたことに驚いたオークデュークだったがすぐに冷静になったようでステッキで地面をたたいた。土属性魔法か? このオレ相手に?
「舐めてんじゃねぇよ。『ハードロック』」
踏みしめる脚で土属性魔法を発動。『ハードロック』の効果は地面の状態を固定化させる。これによって走るのに影響が出なくしたり、相手の土属性をはじめとした地面を起点にした魔法を防ぐことができる。
オークデュークもこの魔法を知っているのか舌打ちしながら慌てて別の魔法に切り替えようとするが
「流石にそんな時間は与えない【兜割】ッ!」
それよりもオレの斧の間合いに入れたので脳天めがけて斧を振るった。
振るわれた斧は寸分の狂いもなくオークデュークの脳天を捉えた。が、
「そこまで簡単ではないか…」
なんとオークデュークはステッキでオレの斧を防いで見せた。
とてもオークとは思えないほど細く小さい、人間に近く体躯。だがそれでもオークなのだろう腕力は持っていたようでまるで剣のようにステッキを構え、こちらの斧の一撃を防いで見せた。
いや、違うな
「光属性魔法『フォトンブレード』か? 武器に纏わせるとは器用な奴だ」
よく見るとオークデュークのステッキにうっすらと光が覆われている。これは多分、光属性魔法『フォトンブレード』。
本来であれば使用者の魔力を光の剣に変換して武器として使用できる魔法。魔法でありながら闘技も使用可能という魔法の中でも変わり種なものだがどうやらオークデュークはその魔法を己のステッキに纏わせている。それも無駄に範囲を広げるのではなく、ステッキの周辺に圧縮させるように展開しているようだ。
そのおかげで魔法の強度そのものが引き上げられ、ステッキに耐久と合わせて仮にも幻想級に数えられるレオルドの一撃に耐えて見せた。これはホントにすさまじく、ひとえにオークデュークの魔法技術とステッキの品質の良さが起こしたものだ。だが…
「そう何度も使える手段でもなさそうだな」
こうして至近距離で見るとよくわかる。今この瞬間も刻一刻とステッキは悲鳴を上げている。つまりは…
「今が好機【剛力断】ッ!」
膝から身体を延ばしてほんの少しだけ己とステッキとの間に距離を開けてから一気に闘技で叩きつけた。
流石に二度も防ぐことはできなかったようで思いのほか軽い手応えでステッキは砕かれ、オークデュークは深い切り傷を受けることになった。
悲鳴を上げるオークデュークの脳天に斧を振り下ろし、今度こそ止めを刺した。
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