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第三十六話 姉と受難

今月三本目

 現在のオレのステータスも確認できたところでオレは改めて服を着て先生の元へとやってきた。


「どうやらできたらしいわね」

「はい。確かにオレは飛躍的に強くなれたと思います」

 ステータスを見ても一目瞭然。強くなったことは間違いない。これは自信を持って言えるが…


「ですがこれで悪魔が倒せるのでしょうか?」

 強くなったことは間違いないがそれでもやはりまだまだ足りないと思う。だって



 レベル:110 魔力:3500 攻撃力:5500 魔攻撃:3300 防御力:4400 魔防御:4250 敏捷:4000 運:100



 レベル:1 魔力:350 攻撃力:550 魔攻撃:330 防御力:440 魔防御:425 敏捷:400 運:100



 ステータスの数値が上がっていない。むしろ下がっている

 運を除いたすべての数字が十分の一になってるんだからふざけてるにもほどがある。レベルが1になっているからきっとレベルアップしやすさは格段に上がっているはずだ。だからきっとレベルが上がれば格段に強くなれるようになったと思う。

 そもそもオレがこの世界に来た時のステータスが



 レベル:1 魔力:12 攻撃力:18 魔攻撃:14 防御力:21 魔防御:19 敏捷:16 運:28



 これだ。

 圧倒的にステータスの数値が違うんだからレベルアップさえできればきっとすぐにでも元の数値以上のステータスは手に入る。

 だが現在オレはレベル1。しかもこの一年間で手に入れたステータスまで低くなってる。今のオレに討伐できるような魔物を見つけることは苦労する。それにみたところ全身の筋肉量も減っているようだし、今のままであの悪魔に勝てるとはとても思えない


 せっかく強くなったのにこんな後ろ向きなことを言いたくない。だが事実だし、命のかかっていることだからきちんと聞いておきたい。


「まぁ、難しいでしょうね」

「………そうですか」

 うん。分かってた

 はっきりと言われるのは嬉しい。ちゃんと現状を理解することはとても大事なことだから

 でも…


 やっぱキツイな…


 分かってた。

 今のオレでは悪魔には勝てない。もっとレベルアップしなくてはいけない。だけどそんな時間がオレにあるのか…?


 イカンな

 現状を正しく理解することは必要だが必要以上に暗くなる必要はない。

 無理やりでも前を向かなくては…


 そうさ。

 強く離れたのだからここからさらに強くなればいい。強くなって悪魔をも倒せるようになればいいんだ。

 今はダメでも来た続ければ必ず超えられる。

 だってオレは人間をも超えて新人類になったんだ。やってやれるさ


「そうよ。あなたならできる」

「へ?」

 オレ、声に出してた?


「別に声に出てたわけじゃないわよ? ただ顔に出ていただけ」

「…そうですか?」

 そんな分かりやすかったのかオレ…

 恥ずかしく思っていると


「えぇ。わかりやすかったわ。現実の重さや苦しさを真正面から受け止めつつ、その重さや苦しみにあえぎながらもなんとか自分の心をなだめて前を向こうとしてるところとか共感できるもん♪」

「……………………………………そうですか」

 ヤッッッバイ。メッチャクチャ恥ずかしい…ッ!

 自分の内面を見透かされているこの感じ。母さん、ではないな。もしもオレに姉がいればこんな感じなのかもしれない…





















 先生にひとしきりからかわれた後で相談すると今までと同じ訓練ではもうこれ以上の成長は見込めないらしく、新しい訓練法の準備が必要らしい。

 オレはいつも通りの装備に身を包んで型の練習をこなして今の体の具合を確かめてから魔物討伐に向かうことにした。

 今はその型の練習中なんだが…


「何だこれ…」

 オレは驚いた。軽いんだ

 頼もしいと思っていた。思っていたが長時間の持久戦になれば悪影響が出そうだとも思っていた重さを持つハルバードと鎧と盾が今では半分くらいの重さに感じる。

 軽く振るってみても風切り音が今までよりも鋭く聞こえた。


「…面白い」

 軽く振るうだけでこんなに違うのなら全力で振るえばどこまで違う? 足運びや個室会を含めればどこまで変わっているんだ?

 興味深いので徹底的に今の自分の力量を調べ始めた。



 あれから一通り型の練習を終えてから一息ついて魔物討伐に出発することにした。

 ホントは徹底的に、とことん気が済むまで練習に時間を割きたかった。だが優先順位を間違えてはいけない。


 今日中に魔物討伐する。これは決定事項だ

 オレは悪魔に命を狙われている以上今すぐに強くならなくてはいけない。そのためにレベルを上げる必要がある

 レベルを上げるには魔物討伐が必要。だから今すぐに魔物討伐に赴かねばならない


 以上が型練習を徹底的にやり込めない理由だ。練習をし過ぎたせいで肝心の討伐ができませんでしたなんて話にならないようにしなくてはいけない

 だが練習不十分と考えるとやはり不安に思う。


 だから今からするのはあくまで来る悪魔との決戦に向けての準備。

 練習の一環なのだと己に言い聞かせる。


 そうだとも

 あの時、盾で受けたときの悪魔のあの強さ

 悪魔の気まぐれに幸運が重なって生き残ることができただけのあの出会い。

 あの時の絶望感に比べたら多少の準備不足なんてなんてこともない


 不思議なことで考え方一つで驚くほど気持ちが落ち着いた。

 勿論不安に思う気持ちが消えたわけではない。だがそれよりも己が為すべきことや生き残るために必要なことをやろうとと思えるようになった。

 この気持ちのまますぐに出発しよう。





















 なんて思いながら出発したんだっけか?

 今現在オレは



『マーダーエルダートレント LV80』



 赤い斑点が所々についているトレントと戦っている。



 出発したオレだがさすがに悪魔のいる方向にはいく気になれずにその反対方向へと足を運んだんだが、そこで出会ったのがこのトレント。

 マーダー、殺人の名が示す通りにこのトレントは人間や人型の魔物を殺すことが好きなのか一軒家が収まりそうな太さを持つその幹や枝に自慢気にぶら下げられている()()を見た。


「胸くそ悪い…」

 吐き捨てるように言う。

 自分が仕留めたであろう死体をくくりつけるその所業からは命に対する敬いも生きるために食うために殺すと言う敬意もない。

 ただ『命』というものを弄ぶような不快感があった。


 この不快感と怒りを込めてハルバードを振るう。

 轟音響かせながら振るわれるハルバードにその身を斬られたトレントが咆哮を上げながら黒いモヤを打ち出した。

 バックステップを踏んで躱したオレだが一つだけ躱しきれなかった。いや、脚にもう一発もらってるから二発分もらったな

 この触れた感触と魔力から察するに闇属性魔法。闇属性魔法は相手に状態異常を与える魔法が多いと聞く。きっとこの魔法もそのたぐいだと思うんだが


「オレには効かねぇよ」

 伊達に『健康体』なんてユニークスキルは持ってるんじゃねぇよ?

 多少なりともダメージを与える魔法なのかとも思ったがどうやら純粋に状態異常を与える魔法だった。つまりこのトレントは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()

 トレントの悪趣味な()()()()()()から察するにオレもその胸くそ悪い()()()に使おうとしたわけだ…ッ!


「ブッ殺す」

 うん。いい感じに怒りが高まり、力がみなぎってきたッ!




 漲る力を足の筋肉繊維一本一本、指先までに詰め込んでから大地を蹴って接近する。

 周囲の空気がまるで見えない壁のような抵抗でオレを行かせまいとしているが歯を食いしばってその抵抗を突き破る。

 勢いそのままにハルバード、槍を持つ斧を構えて


「【剛突撃】」

 その顔面に突き刺してやった。


 悲鳴のような咆哮を上げつつ反撃しようするトレント。


「遅ぇよ」

 吐き捨てつつオレはハルバードを、魔法触媒、魔法使いの杖の役割も持つハルバードを握りしめて発動させる。


「『アースピラー』、『ストーンブラスト』、『アイアンバレット』」

 無詠唱で発動可能になった土属性魔法を立て続けに三発喰らわせた。

 トレントの奥深くに突き刺さったハルバードを基準に鋭い円柱がトレントの身体を突き破り、無数の石礫と鉛玉が食い破った。



『レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました』



 どうやら仕留めたらしい。

 だが、今はそれよりも


「よう。腕試しに来たのかい? 残念だったな」

 分かってる。何の意味もない

 仕留めたトレントを回収するついでに趣味の悪いアクセサリーにされていた冒険者風の遺体を回収するなんて何の意味も意義もない。ただの気やすめだとわかってる

 でもせずにはいられない。


「お前さんの腕では通用しなかった。残念ながらそれは事実だがせめて埋葬くらいはしてやるよ。何かの縁だしな」

 だってそれが人としてやるべきことだと思うから

 死者も労われず、ないがしろにするような人間になってしまえばオレはきっともう家族の前に出られなくなる。そんな気がするから例え偽善だとしても気やすめだとしてもやる

 きっとこうすることがいいことなんだと思うから





















 死者を埋葬するにもこんなダンジョンで埋葬してしまえばきっとその骸はアンデッドに使われる。

 ゾンビかスケルトンかゴーストは知らんがこのまま埋葬してしまえばまた死者の尊厳はないがしろにされる。

 魔物討伐を生業にしてきたはずなのに今度は自分が討伐される側になる。こんなことはあってはならないから亡骸をアイテムボックスに収納してしかるべき場所で埋葬する。コレがきっと一番コイツにとっても幸せなことのはずだ。


 そんなことを想いながら収納して少し時間がたった。

 その間オレは



『デスマンティス LV60』



『ハリケーンビー LV30~55』×30



『チャージビートル LV80』



『ギロチンスタグビートル LV1』



 虫系魔物を討伐しまくった。

 このあたりは虫系の魔物が多いのか? いや、違うな。


「あのトレントか」

 あのトレント、このあたりの主だったのか?

 周囲に隠れていたであろうトレントが一斉に逃げ出し始めた。

 特に見逃す理由もなかったので追いかけるとそのトレント達の樹液を求めていたであろう虫系の魔物たちが立ちふさがり、向かってきたので対処した。



 赤黒い鎌を持つカマキリが嵐のような連撃を繰り出してくるが速度を重視し過ぎで一撃の威力は低く、盾で簡単に防げたので盾で鎌の一本を弾きつつ斧でもう一本を斬り裂く、がら空きになった胴体に体当たりをぶちかまして、サバ折りしつつジャーマンで投げ捨てた。

 最後はその顔面を盾で潰してやった。


 その名の由来だろうか? 蜂の群れが一糸乱れぬ動きで螺旋を描きながら、まるで竜巻のように迫ってきていた。

 だからオレはその群れの動きを呼んでちょうど激突するように土の壁を展開。勢いよく激突したハチの多くがその後に続いていたハチに踏みつぶされて壁の染みになった。一匹一匹が野球ボールほどの大きさを持つハチだから染みの大きさもそれ相応だった

 残りのハチも石礫の魔法をはじめ様々な魔法でそのほとんどを討伐してから残り少なくなったハチをハルバードで全滅させた。


 そうやってハチの魔物を全滅させたと思ったら今度はバランスボールほどの大きさを持つカブトムシが音すらも置き去りにしてこちらに激突してきた。

 たまたま盾を取り出していたからギリギリ構えることが間に合い、クリーンヒットを防ぐことはできた。だがそれだけだった

 致命傷は避けられただけでそれでも身体がはじけ飛びそうな衝撃を食らって、跳ね飛ばされた。

 口の中、のどの奥に違和感を感じて吐き出してみると血が大量に出ていた。

 やはりステータスが下がった影響かかなりのダメージを食らってしまったらしい。

 それでも何とか立ち上がってハルバードを構えるオレが見たのはスプリングショットのように体を後ろに大きく引き付けて、突撃体勢を整えるカブトムシだった。

 向こうから来てくれるのならありがたい。そう思って集中

 カブトムシの動きをよく見て、その動きに合わせて斧を振るい、カブトムシを両断にした。


 ポーションを呑んで回復しつつカブトムシを回収したオレは一息つこうと思ったんだが大きく息を吐いたその時に

 猛烈な嫌な予感がしたのでその間に従って走るとカブトムシよりも一回り大きいクワガタのさなぎを見つけた。

 あめ色に色づき、時折動くその姿から今にもさなぎから羽化しようしているのであろうことが伺えた。

 その前にと思いハルバードを振るったんだが、遅かった。

 奴はすでに羽化を完了させており、オレが見たのはいかにも「これから羽化しますよ」と言いたげにアピールする()()()だった

 田から真っ二つになろうとも関係なくオレに襲家勝ってきており、オレはそれに動揺した。オレはさなぎから羽化する前に斬ったと思っていたからな

 結局土属性魔法で滅多打ちにすることでさなぎの方は対処したんだが、ぶっちゃけた話、オレは奴の手のひらで踊らされていただけだった。

 羽化したばかりの虫がしばらくの間その場を動かず、翅が完全に固まり、色づくまで待つのは地球でもあることだが奴も場合も同じようで羽化したばかりだからこそ時間を稼ぎたかったらしい

 逆に言えば石礫で滅多打ちにすることで動かなくなったのはその間でほしかった時間が十分稼げたからにすぎなかったんだ

 そうして完成されたのは先ほどのカブトムシとよりも一回りほど大きいクワガタムシ。抜け殻を滅多打ちにしたことで少々気が緩んでしまっていたオレの胴体をそのギロチンのようなハサミで両断しようとしてきた時はホントに血の気が引いた。

 しかし、ふたを開けるとまだまだ新しい体に慣れていない状態だったようで案外簡単に討伐することができた。




 思い返してもかなり戦えてると思う。だがまだまだ足りない

 悪魔を倒すには今までの、進化する前のオレを超えることは当たり前。最低限でもその二割増しのステータスは欲しい。


「だからまだまだ終わるわけにはいかない…ッ!」

 ホントは疲れてる。

 もう家に帰ってゆっくりしたい。だが今よりももっと強くなりたいから頑張ろうと決めてもう十分回復できた身体の調子を確認して移動を開始した。





















 なんて考えてたこともあったっけな…

 オレは今



『ヒポグリフ LV80』



『ホブゴブリンライダー LV90』



 空から馬と鷹を混ぜ合わせたような魔物を駆るゴブリンと戦っている。


 ウマの骨格と下半身を持ち、上半身が鷹で構築された魔物。グリフィンと似た姿だからその近縁種か進化前なのかもしれない。

 そんな魔物。ヒポグリフが馬が付けるような人を乗せるための道具。馬具を着けて空を駆ける。まるで走るように空を駆けるその姿はカッコイイ

 これでその背に乗せているのがいかにも勇者や騎士だと言わんばかりの奴なら英雄譚に出てくる言うな一幕なんだろうが、残念ながらその背にまたがり、手綱を引いているのはゴブリンだ


 オレと変わらないくらいの体躯を持ち、生意気にも質のよさそうな軽装に身を包んだゴブリン。特に槍が素晴らしい。馬上槍と言うのか? 馬に騎乗した状態で存分に振るうことができるサイズの槍が握られていてヒポグリフの動きに合わせてこちらに攻撃を仕掛けてくる。


 人馬一体という言葉を体現したような戦い方にオレは手を焼かされた。

 特にヒポグリフの後ろ脚。馬の蹄のようになっている脚から繰り出される鋭い蹴りには肝が冷える。まともに喰らえば鎧越しでも腹に穴を空き死んでしまう。

 そう思える威力があった。


 だがそんな相手でも努めて冷静さを失わないように心がけ、少しずつでも相手の引き出しを全部開けさせて奥の手も何もない状態しつつ石礫の魔法でヒポグリフの羽を傷つけ続けて、やがて飛べなくした

 そんなオレに心底怒り狂ったようでヒポグリフはゴブリンの制止も振り切ってこちらに迫ってくる。


 なら、もういいよな?



「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」



 我慢を重ねてきた狂気と怒りを最大限に振り絞り、ただ全力でハルバードを振るった。

 ゴブリンごと切り裂けた

今月分はこれにて終了予定ですが書き溜めたらまたまとめて投稿するつもりです

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