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第二十六話 訓練

書き直しました。

 さて、いかにも最終話のような幕引きをしたわけだが当然のことながら人生は物語ではないのだからこれからも連綿と続いていく。

 先生がオレの新しい装備の具合を確かめるために用意してくれたのは何時ぞやのゴーレム。しかも現在のオレのレベルに合わせている上に以前よりも上位種ばかりで編成された群れだった。

 鑑定してみると



『ロックゴーレム LV90』



『アイアンゴーレム LV95』



『メタルゴーレム LV95』



 と出ていた。

 油断することなくハルバードを構えて挑むオレだったが


 あっさり片付いた。


「あれ? なんかオレ、一気に強くなったのか?」

 なんかもう、豆腐とは言わないけどハルバードを振るうたびにどのゴーレムもあっさりと斬り裂けたし、貫くこともできた。

 特にメタルゴーレム。その名の通りに鋼でできてるはずなのに全力でハルバードを振るうと見る見るうちに凹み、斬られ、打ち倒されていた。


「流石にアダマンタイト相手じゃメタルゴーレムでも役不足ね。でも、これ以上のゴーレムを出すとなるといろいろ手間が…」

 先生がブツブツと何か言ってる。

 とりあえずハルバードを全力で試せるのはまた後日だな。今はとにかくこの重さに慣れるためにひたすら素振りから始めるか





















 なんて考えてたのが昨日のこと。

 今日は朝起きてから食事以外はただひたすらに素振りをした。

 今日一日だけの付け焼刃に何の意味がある。なんて自分の中の弱音やめんどくささが囁いてくる。でもやる。

 千里の道も一歩から

 今日この日だけハルバードを振るっても意味がないのかもしれない。でも今日の子の頑張りはきっと明日の自分の財産になる。

 そして明日の自分が明後日の自分への財産を作る。

 きっとこれの繰り返しが素晴らしい自分や素敵な未来を手繰り寄せる手段なんだと思うから



 ひたすら振るい続ける。腕や肩だけでなく全身が燃えるように熱くなり、汗が滝のように流れても続けた。

 息が乱れ、どうしてもハルバードの軌道がイメージと違ってくる。

 戦斧ならこんなこともなかったのに…ッ! と悔しさと怒りがわいてくる。がその二つの感情を押し殺して無理やりもう一つの感情を奮い立たせる。

 オレはもっともっと強くなれる。もっともっともっともっと己を磨ける。

 そんな感情を己の中から見つけ出し、懸命にハルバードを振るう。



 もちろんハルバードなのだから斧のように振るうだけでなく槍のように突くことも練習する。

 そうしているうちにだんだん普段とは違う個所が筋肉痛になってきた。

 おそらく慣れてない動作で普段は使わない筋肉が切れたんだ。この痛みこそが自分が成長している証拠。そして目的のスキル習得が近づいてる証拠だと自分に言い聞かせながらハルバードを振るった。



 流石に空腹になったのでいったん休憩を入れる。

 まずは頭から冷たい水をかぶり、身体から大雑把でも汗を落とす。燃えるように熱かった身体に冷たい水が一気に涼を入れるがまだまだ体の奥から湧き上がってくる熱には勝てないのかすぐに熱に負けて身体が火照ってくる。

 しょうがないからもう一回自分の魔法で冷たい水を用意して頭からかぶる。


 何度か繰り返したおかげで身体の熱も冷めて頭も回るようになった。自分でも気が付かないうちに素振りに熱が入りすぎていたらしい。

 今更ながらちゃんとただし姿勢で素振りができていたのか

 刺突の動作に変な癖がついていないだろうかを思い返しながら食卓へと向かった。



「あら。そろそろだとは思ってたわよ」

 ちょうどできたわ。と先生が言った。

 先生が用意してくれたのは皿に山のように盛られたステーキだった。

 その原始的で本能を打ち抜くような肉の香りが鼻を抜けた瞬間に腹の音が轟いた。と同時に今日この日の素振りだけで切れた筋肉から痛みが響いてきた。

 腹の音を聞かれたはずかしさよりも筋肉痛の痛みが勝ったオレはいそいそと席に座って挨拶もそこそこにステーキを頬張った。


 脂身の少ない赤身肉のステーキ。

 柔らかさよりも肉の繊維をかみ切る歯ごたえと噛むたびにあふれ出る旨味が魅力的なステーキを次から次へと咀嚼して、嚥下していく。

 飲み込まれた肉が胃の腑に落ちていく感覚も楽しみながら喉が渇いたら水を流し込み、時々別の皿に盛られた野菜サラダを頬張って口の中をリセットさせてからまたステーキを食べる。


 皿に山のように盛られたステーキがあっという間になくなってきた。

 だが先生がまた新しい皿を持ってきてくれた。

 どうやら使われている肉が違うようで今度の肉はまるで砂肝のような歯ごたえだった。ステーキなのに焼き鳥を食ってるような感覚になるが単純に食える量が増えてるし、焼き鳥の中でも皮とねぎまに続いて好きな部位だから問題ない。

 ワイルドな歯ごたえがあって旨味があふれ出てくる。先ほどのステーキとは歯ごたえも旨味の質もまるで違うから面白い。


 次の皿のステーキはレバーだった。

 サクッと一噛みするとトロリと溶けていく。

 先ほどまでのステーキとは全く違う食感で面白く、味の方も全く違う。苦みのある甘味。と言えばいいのだろうか

 まず舌先に届くのは苦みでほどなく甘みが感じられる。スイカに塩を一つまみ加えると甘くなるように苦みがあるから甘みが強調されている。

 美味い。


 そしてメイン。なのだろうか明らかに今までの肉とは存在感が違うステーキが出てきた。

 まず柔らかさが違う。

 ナイフを当てると何の抵抗もなくスルリと切れる。

 そして舌にのせるとス、と溶けた。

 肉の味が口いっぱいに広がって、旨味で脳みそがぶん殴られたような衝撃がきた。

 ホント、今まで食ってきた肉で断トツでうまい。

 一口、一口を味わうようにゆっくりと堪能し、この素晴らしいステーキのすべてを食い終わるころにはもう十分腹が満たされていた。





















「あれ? 筋肉痛が治ってる」

 むしろ力がみなぎってきてる気がする。

 美味いもん食ったから元気になったのか?


「違うわよ。太一君が食べたお肉はドラゴンの肉よ。今の君に必要な栄養や滋養効果抜群の部位ばかりを食べたから体がそのすべての栄養を吸収したのよ」

 筋肉痛が治ったのはその影響。と先生は教えてくれた

 ドラゴンの肉だったんだ…。オレが食った肉


 うん。


 ドラゴン、狩ろう

 こんなうまい肉のためなら命かけてもいい。

 我ながら単純もいいところだとあきれてしまう。

 だってホントに美味しかったんだ。今まで食ってきた肉の中で群を抜いて美味かった。また食べたい

 そのためなら苦労できる。ツラいことも悲しいこともうまい肉があれば耐えられる。

 この先どんな恐ろしい魔物がいようともその魔物を倒せばこんなうまい食い物が食えるのなら乗り越えられる。

 そんな気がする。

 だから戦える。命だって懸けられる。

 そのためには力がいる。

 というわけで練習再開。



 午後からの訓練はハルバードではなく盾の練習。

 先生にまたゴーレムと出してもらってひたすら攻撃してもらう。

 躱すことはできる。

 だが躱さずにこの攻撃を冷静に見極め、盾で受ける。もちろん馬鹿正直に受け止めるわけではない。攻撃が盾に触れた瞬間を感じ取って、その力に逆らわずに流す。

 浅すぎると流せない。逆に深すぎると盾はもちろん、オレ自身にもダメージが来る。だからそうならない絶妙なバランスとタイミングを見極める練習。


 攻撃を受けるたびに反撃したい衝動に駆られるがそれを抑えつつひたすらに防御の練習に打ち込み続ける。もちろんワンパターンにならないようにゴーレムを変えながら、だ

「やっぱり打撃と同じようにはいかないか…」

 先ほどまではひたすらゴーレムに殴りかかってもらっていたが実戦で相手が打撃だけで来てくれるなんて保証はない。ので斬撃や刺突の攻撃もしてもらっている。ゴーレムに斧や剣に槍を装備させてから繰り出される攻撃を一つ一つ見極めて防御し続ける。



 まずは打撃。こちらは大体できるようになった。なんというか柔道で相手の袖をつかむための組合に通じるところがあるから割とアッサリと打撃を盾で受け流すことができるようになった。盾だけに集中できるのであれば盾を使って反撃も十分できるはずだ


 次に斬撃。こちらはまだまだ修練不足。打撃を比べて力が一点に集中するので油断すると盾に負担がかかる。正面から受けるのではなく側面へと回り込んでを滑らせるように受ける。一瞬でも迷えば命取りになりかねない受けを強いられる。


 最後に刺突。これはある意味で一番いやな攻撃だ。力が斬撃よりも一点に集中するから受ければそれだけで盾に負担がかかる。下手をすれば盾を貫く攻撃だってある。幸いこの練習ではこの盾を貫けはしない。でもそうなる可能性が一番高い攻撃であることが盾越しから感じる手応えで分かる。

 内心冷や汗をかきながら練習に打ち込み続けた。



 防御だけではなく反撃も練習。

 まずは打撃。こっちはすぐに形になった。もともとできそうではあったから割とアッサリと出来るようになった。試しにハルバードも構えて盾だけに集中できないようにしたが何とか形になった。盾で殴る。もしくは盾を叩き付けるようにすることで盾でゴーレムを打倒できた。


 次に斬撃。こっちは少々手こずった。オレ自身が斧という斬撃武器を使うからオレがされたらいやなことを試しているうちに何とかそれらしい形にはなれた。まだまだ打撃と比べると数段劣るがそれもあと数日練習すれば形になるだろう。


 最後に刺突。コレが一番厄介。というよりもう刺突は盾で受けるのではなく躱すことに集中するのがいいかもしれない。刺突は力が一点に集中するからその一点に当たればそれだけで怖い威力ではある。だがその反面その一点さえ躱せればそれだけで無効化できる。もしくは

「この盾の一番分厚い部分で受けるかか…」

 今更ながら盾もそのすべてが均一な厚みではない。

 頑丈さの追求と受け流しのしやすさに摩耗や変形などに際してのコストカットなどの理由で中央が一番分厚く、隅にいく程薄くなる。

 もちろんすべての盾が同じではないだろうがオレが見た盾はみんなそんな形だった。

 その形を生かして盾で一番防御力が高い部分で受けることを狙う。か…

「難しそうだな…」

 出来れば強いのかもしれないが少しでも狙いがズレると下手をすれば盾を貫通して装備していた腕まで貫かれる可能性がある。あまり多様できる戦法ではないな

 さて、どうしたものか…





















 盾の練習を終わらせれば次は体術の練習。もちろんハルバードや盾に鎧なども含めた完全武装状態での走り込みも含めた体術の練習。

 実戦においては体術を使うからと一々武装解除や鎧の事を考えていられるとは思えないからこその重量負担だ。

 そんな状態の走り込みはもちろんつらい。ツラいけど日本の自衛隊でも完全武装状態の走り込みはやってるはずだからオレが投げ出すわけにはいかない。

 自衛隊員が背負っているのは日本国家の安全かもしれないがオレが背負ってるのは日本どころか地球はもちろんアールピーナも含めた二つの世界の命運だ。だから投げ出すわけにはいかない

「いや、違うな…」

 オレみたいな一般市民がいきなり世界の命運を背負うとか、実感がわかねぇよ。

 それよりももっとオレにふさわしいものがある。それは


「家族、友達…」


 単純だと言うやつはいるだろう。

 浅はかだとあきれる奴だって出てくるだろう。

 だがオレには何にも代えがたい大切なものだ。


 女手一つでオレや妹を育ててくれた母さん。ロクに化粧もおしゃれも出来ずに自分の人生も楽しめずにオレ達のために身を削って働き続けてくれた母さんに恩返しがしたい。母さんの努力や苦労は決して無駄ではなかったのだと証明したい。


 オレと一緒に育ってきた京香。物心ついた時から一番一緒にいた時間が長い妹。ツラい時も楽しい時も悲しい時も嬉しい時も一緒に味わってきたオレの半身と言ってもいい妹。そんな京香が幸せになれずにその生涯を終えるなんて絶対にあっていいことではない。


 シンちゃん。子供のころに仲が良く、言っときはその縁も斬れたはずだったのにどんな偶然かまたオレと縁ができた友人。同じゲームで遊んでやり込んだ。思い出なんてそれだけで別にどこかに遊びに行ったわけでもなければ学生時代に同じ青春を送ったわけでもない。でも決して狭くない世間で一度は完全に斬れたはずの縁が結べたのは奇跡というほかない。そんな軌跡を結べた相手を大切に想うのは当然だろ?


 ほかにも学生時代にお世話になった先生や仕事先でよくしてくれたお得意様等々いろんな人がいてくれた。できればその人たちにも良き人生であってほしい。

 だからオレは





















 なんか結構、クサいこと言ってた気もするがそんなことよりも練習。鎧を着た状態で走り込みを割らせてからそのまま体術も鍛え続ける。

 盾を装備したゴーレムに防御を固めてもらってからまずは気力も魔力も使わずに殴る蹴るを繰り返し続ける。

 空手とも柔道もまるで違う手応えに困惑ところもあるがそれでもどうすれば模索しながら練習を続けた。



 そうしてるうちに日が暮れてしまったので先生が用意してくれた夕食を食べて湯船で汗を流すと一気に眠気が襲い掛かってきた。

 もうすぐにでも寝てしまいたかったが今まで散々体を鍛えてきたから次は頭の鍛えなくてはいけない。

「というわけでお願いします」

「まぁ、アタシも根なのでいいならいいけどさ」

 そしてオレは先生と将棋を指すことにした。


 なぜ将棋? そう言われた気がするのでもう一度オレの職業を思い出してほしい。



戦略家(ストラテジスト)』・・・自信も含めて周囲の状況をつぶさに観察し、最も味方を多く生かせるように動けるものが就ける職業(ジョブ)。魔力と体力の回復に多少の補正があり、思考関連のスキル習得条件が緩和される。



 これだ。

 戦略と言われると歴史や軍略の本でも読めばいいのかと身構えるがそもそもこの将棋やチェスといった盤上遊戯は戦略を学ぶために考案されたものだ。

 後々競技化され、今ではすっかりその面影はなくなってはいる。だが原型は最も手短に戦略を身につけられるためのものだ

 だからやる。


 日本にいたころは将棋もチェスも詳しくはない。娯楽が溢れていた現代社会においてその中の一つに過ぎない将棋やチェスをピンポイントでやり込んでいる奴の方が少数派だろう。

 オレはというと幸いなことに母方の祖父のおかげで一時期はかなり将棋の駒に触っていたころがある。だから今でも一応全部の駒の動ける位置というものはわかる。

 だがそれだけで別に定石を知っているわけではない。なんか、じいちゃんが居飛車とか高飛車とかいろいろ言ってた気がするが所詮は子供のころにじいちゃんから小遣いをもらいたくってやっていただけの将棋。アレコレ知っていろと言う方が無理がある。

 だからまずは手探りでやっているんだが


「まさか先生も全く知らなかったとはね…」

「申し訳ない。一応、私たちの前の転移者が広めてくれているから私も少しだけ触ったことはあるんだけど…」

 申し訳なさそうに身を縮ませる先生に気にするなと手を振るオレ。

 まぁ、自分でも言っていたが結局はたくさんある娯楽の一つだ。必ず知っていなきゃいけないなんてことはない。

 それに駒と盤が揃っていれば自分一人だけで指すことはできる。

 オレがそういうと先生は逆に闘争心に火が付いたのかもう一局申し出てきた。ので、遠慮なく相手してもらうことにした。





















 流石は賢者というところか

 あれから数回先生と将棋を指したが二回目ですでにコマの動かし方を憶えたようであっという間にオレと対等にさせるようになった。まぁ、オレの実力が大したものではないのが一番大きな理由だと思うが

 とにかく二回目でもう対等にさせるようになったので全力で戦略というか動作すべきかを考えられた。どこをどう指せばオレに有利になるのか相手の狙いや目的の分析に相手が差したいであろう手の予測、そして自分の取るべき手段の確認と考察。

 考えなくてはいけないことが多く、長考してしまう。だが確か公式のルールでは一手における制限時間があったはずだ。それに実戦においても悠長に考えてられる時間もないのはよくあること

 つまりどれだけ思考を素早くまとめて次の手が打てるのかを試されている。


 ヒリつくような緊張感のある頭脳戦というのか?

 とにかく先生と数回指した後はオレはその将棋盤をもらったのでひたすら一人で指し続けた。

 まずはどこから出すべきか

 王将(オレ)を護るために金将や銀将でまずは守りを固めるべきか?

 それともそうされる前に飛車や角行(最強の駒)が動かせるように場を整えることに専念すべきか?


 眠気に耐えられなくなるまで指し続けた。

4月13日書き直し更新完了。本日はここまで

次回の更新をどうかお楽しみに

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