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第二十四話 決着と決意

書き直しました。

 さて、



『オーガバーバリアン LV100』



 改めて見てもやはり強敵だ。

 剣というべきか鉈というべきかその丸太のような太さを誇る腕、そこから繰り出されるであろう腕力をこれでもかと生かせるような武器が二本。

 そんな益荒男(ますらお)がクマの毛皮を纏ってこちらをにらんでいるんだ。

 もしもこれでが日本でのことならオレは多分失禁していたと思う。


 だがここは異世界だ。

 雨の日も風の日も決して休まず己を鍛え続けてきた歴史積み重ねてきた異世界のアールピーナだ。

 だから負けない。

 いくら怖かろうが絶対に負けたくない。


 そう己を奮い立たせるオレを見ていた赤鬼が



「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」



 雄叫びを上げてこちらに踏み込んできた。





















 最初から全身全霊の一撃なのか赤鬼が砲弾の方にこちらに接近しつつ左右両手で持っている剣をそれぞれ大きく振りかぶって同時に振りかぶってきた。

 というか

「ここにきて…ッ!」

 スキル『俯瞰の目』の効果が切れやがった。

 持続時間を把握しきれてなかったオレの不注意。突然視界が切り替わり、今までまるでゲームのように上から見下ろすように周囲の情報を逐一見れていた状態から引きはがされたことで混乱したオレに容赦のない一撃が撃ち込まれた。



 バカが調子に乗った。

 これはその報いなんだろう。

 でも運がいいことに

「生きてる…」

 せっかく新調した盾がもうぶっ壊れたがそのおかげで骨折もせずに生きてる。これはホントに運がいいよ。マジで


 だから


「死んでたまるかァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 無理やりにでもテンションを上げて己に気合を入れまくる。

 スキル『咆哮(ハウル)』、『集中』、『狂化(バーサク)』を同時に発動させてから『強撃』のスキルで威力を上げて

「【兜割】ッ!」

 戦斧を振るった。



 オレが放った一撃を赤鬼は双剣を両方使って防御していた。

 せっかくの一撃が防がれたことを嘆くよりもオレの一撃が赤鬼に完全な防御を選択させたことを喜ぶべきだろう。

 スキル『狂化(バーサク)』のせいか尋常ではないほど身体が熱い。文字通りに身体が火になったようで今すぐにでも赤鬼に飛び掛かり、その血でこの熱を冷ましたいと叫び狂っている自分がいる

 しかし、スキル『集中』のおかげかそれとも『俯瞰の目』の恩恵がまだ残っているのかどうにかその熱に飲まれないで済んでいる。


 これ以上間違いをするな。

 相手は知性のない獣ではなく、今この瞬間も冷静にオレの力量や周囲の状況をつぶさに観察するほどに頭が回る(れっき)とした戦士だ。

 オレが全身全霊で挑んでもなお足りないかもしれない誠の強者だ。

 そんな奴相手に間違いなんてできるはずもない。

 オレは胸の内に燃え盛る()()()が徐々に大きくなってくるのを感じた。





















 あれからどれだけ時間がたったんだろう。

 もう数時間経過してるようにも感じるがほんの数秒だと言われてもオレはあっさりと信じただろう。

 集中しすぎて時間の感覚があいまいになっている。

 そんな自分に少し不安も覚えるが今は


「オラァッ!」


「ガァアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンッッッッッ!!!!!」


「舐めんじゃねぇッッッ!!!」


 この撃ち合い、いや殴り合いというべきか? ドツキ合いを続けたい。



 双剣の止まらない連撃を戦斧で冷静に見極めつつ防ぎ、呼吸の合間のほんの一瞬の隙を付いて戦斧を振るう。


 赤鬼が攻撃していた双剣を両方交差させてオレの戦斧を受け止めるからそのまま反撃させないように赤鬼本人ではなく持っている双剣の一本に狙いを定めて戦斧を振るう。


 振り下ろし、斬り上げ、袈裟斬り、逆風、振り下ろし、横薙ぎ。赤鬼に反撃させないために両足の親指で地面をつかむように踏みしめつつ戦斧を振るい続ける。

 体重移動で少しでも一撃の威力と速度を上げるために文字通りの命がけのこの状況でオレは自身の殻をブチ破って今この瞬間にも成長しているのを感じた。


 成長していく充実感と万能感に酔いしれる間抜けの隙を付いて赤鬼が反撃してくる。これまでの鬱憤を晴らすための容赦のない攻撃の数々。

 対処一つ間違うだけで命に係わる尋常ではない緊張感に否応なく身が引き締まる思いだがそんな瞬間にもわかる程の成長があった。


 戦斧を振るうたびに、己の成長を実感するたびに微かに感じた筋肉が切れる感覚。疲弊して千切れる筋肉の痛みをも忘れさせるほどの達成感を充実感と万能感があったのは違いない。

 だがそれだけではない。

 振るうたびに感じた痛みがすぐに感じなくなった。これがユニークスキル『健康体』の効果なのだろう。筋肉痛がすぐに治る。しかも痛みが消えるだけでちゃんと成長もしてるんだからこれはありがたい。少なくとも戦闘中に筋肉痛でパフォーマンスが落ちることがないんだから



 そうして戦っているうちに


 バギン


 と音を立てて赤鬼の武器が壊れた。

 そのころには赤鬼もオレも満身創痍。お互いに立っていることがやっとではある。

 赤鬼はクマの毛皮も含めて傷だらけで今も血があふれ出ている。オレも手足のしびれや全身の倦怠感に何度かいい一撃をもらったので骨にひびは入ってるはずだ

 そんなオレ達は赤鬼の武器に視線を落としたのち、すぐに目が合った。


 凪いでいた。


 とても今の今まで命を賭した死闘を繰り広げていた相手とは思えないほどにその瞳には剣呑とした雰囲気がなかった。

「受け入れるのか?」

 オレの言葉に赤鬼がうなずいた。

 赤鬼が、魔物が言葉を理解したことに驚いたが、違うな。知識として()ってるんじゃない。オレの気配から察しただけなんだろう。

 オレも何となく察して斧を構えた。


 まるで居合切りのように腰の大きく回して腰だめに斧を構える。

 狙いは首。無駄に苦しめることもなく一瞬で首を切って落とそう。そう思っての行動だ

 こうしてる間のオレは無防備に見えるのはず、少なくとも今赤鬼に飛び掛かられたらひとたまりもないのに赤鬼は何もしない。逃げもしなければ向かってくることもない。

 ただ微かに笑ってこちらを見ていた。


「【断頭斬】」


 静かだった。

 ホントに何の物音もなく斧が降り抜かれ、首が落ちた。





















『レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました』



「あー、うるせぇ…」

 なんて言うかもう立ってることすらシンドい程に疲れた。なんとか回収できるものだけ回収してからいつも通りに周囲を警戒しつつ家へと帰ってるんだが

 もうなんか

 何もかも投げ出したくなるほどに疲れた。

 具体的に言えばもうこのまま大の字になって寝たい。

 そんな文字通り命すらも投げ出しそうになっている自分に喝を入れつつ重い足取りで家を目指すオレ。

 そんなオレを狙う魔物がいないわけがなく何度か魔物が現れたんだが…


「アイツここいらの主か何かだったのか?」

 現れる魔物がオレを、というよりも



『王熊の威光毛皮』・・・秘宝級アイテム。群れを率いてあらゆる敵を退け、己の(つがい)や子を護り、群れを護り続けてきたクマの魔物『キングベアー』を一騎打ちの果てに打倒したことで王としての威厳や風格が宿った毛皮。非常になめらかで肌触りがよく、身に纏ったものにスキル『威圧』を付与する。



 コイツだな。

 赤鬼との戦いで血を失い過ぎたのか妙に肌寒く感じ、暖をとる目的でこの毛皮を毛布のように纏ってみたんだがこのおかげで魔物に襲われずに済んでいる。

 なんか、安心感もあって…


(あった)けぇ…」


 手足がその指先が凍えそうなほどに寒かったのにジンワリと温もりが広がっていく心地よさがあった。なんかそのせいか余計に眠い…

 オレは微かに子供のころを思い出しつつ森を歩き、家へと帰っていった。





















「で、また家に着いた途端に爆睡なのね」

「申し訳ありませんでしたッ!」

 先生に決して笑っていない笑顔にオレは土下座した。

 そう。

 あれから無事に家に到着したオレは安心感もあってそのまま玄関で気絶するように寝たんだ。また先生に抱えられて布団まで連れて行ってもらえていたようで起きたときはパンイチで布団の中にいたよ

 そしてちゃんと服と来て今に至る。


「まぁ、あの毛皮から察するに相当な死線を潜り抜けたことはわかるわ。だからそこまで口うるさく言うつもりはないけど命は大事にするのよ?」

「もちろんです」

 オレだってわざわざ命の無駄にするような真似はしたくない。

 死ぬのは怖いし、母さんや京香にも会いたいんだ。だから死にたくない。

 今回にしたって半ば意地になっていただけで普通なら逃げの一択だっただろう。


 だがそんな死線を潜り抜けただけの価値はあった。

 具体的には赤鬼の武器をはじめとした戦利品の数々だ。特に…



『折れた蛮勇鬼の剛双剣』・・・秘宝級アイテム。己の命を賭すことそのものに喜びを見出し、彼我の実力差すらも考えずに格上の相手をも下してきた鬼が己の膂力を存分に振るえるようにあつらえた双剣。現在は二本とも折られており武器として使用することはできない。



 これだ。

 赤鬼が使っていた双剣。

 戦いから死に方まで何もかもがオレの脳裏に焼き付いて離れねぇ。多分下手をすればオレはあの赤鬼のことを一生忘れることはないんだろう



「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~…」

「な、なんですか先生?」

 なんか突然メチャクチャ大きなため息をつかれたぞ?


「君、今自分がどんな表情(カオ)してたかわかる?」

「カオ?」

 え? なんか変だったのか?

「ほら」

 呆れた表情で先生が渡してきた鏡を覗き込んでみると

「う、う~ん…?」

 そんな変な表情してたのか? よくわからん

「ま、もう普通になってるし分からないならそれでいいよ」

 やれやれとでも言いたげな様子で先生が肩をすくめた。

 ホントになんだったんだ…?



 はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~…

 やれやれね。

 アタシはもういろんな感情がぐちゃぐちゃに入り混じった頭をスッキリさせたくて息と一緒に吐き出すつもりでため息を吐いた。

 二度。今日だけで二度もついた。

 一度目は自分の生徒の前でこれ見よがしに吐いてしまった。

 そのせいで生徒に驚かれたし、混乱もさせてしまった。

 自分もまだまだ先生として未熟だと思う。でも仕方なくない? とも思う


 アタシの生徒、松田太一君は問題児だ。

 魔法や武術に関することには意欲的で積極的で非常に勤勉ではある。だが探索家や探検家として最も重要な「慎重さ」という一点においては全くできてない。

 危険を敏感に察知して回避することが全くできておらず、避けようと思えば避けられたはずの苦難や危険に直面していることもよくあるのよ。


 本当ならいつ死んでもおかしくないのにそれまで培ってきた魔法や武術にその場の運も味方に引き付けて何とか生き残ってるの

 そのこと自体はとても嬉しいし、そんな彼を交配に、アタシの後輩にできたことはとても誇らしいことよ。でもだからこそ彼にはもっと自分の命を大事にしてほしい。


 だって彼はもしかしたらこの世界への最後の転移者かもしれないから


 十八人。

 アタシ地震や歴史の中で確認できただけの転移者の人数。

 きっと本来ならこれよりももっと多数の人々がこの世界を救うために来たはずなんだけどこの世界のバランスは依然として壊れたまま

 神々に直接選ばれ、力を授かったにもかかわらずにこの結果。そのうち神々から見放されてアタシたちの故郷の地球を含めて見捨てられる可能性もある。

 そんな状態でこの世界にやってきたアタシたちの一番の後輩の松田君。彼がその最後の転移者になるかもしれない。

 彼が死ねばもうそれで打ち止め。もう次はない

 アタシはそんな考えもあって彼を指導している。


 もちろん彼にそんなことは教えない。

 だってそのせいで逆に魔物討伐を嫌がり、この家に引きこもるようになられても困るからだ。アタシもその先代たちもみんな魔物討伐はやっていた。

 それくらいこの世界を救うには必要なことだし、魔物も討伐できないような奴にはこの世界は救えないと思うから


 でもそのせいでアタシは一人で悩んだり苦しんでいるんだから何だかバカみたいではある。

「でもアタシは…」

 この世界が好きだ。

 この世界で紡いできた縁が好きだ。

 こんなアタシとつながりを持ってくれた多くの人々が好きだ。

 そして地球にもいた家族も好きだ。

 アタシがこの世界に来れたのもそれまで地球の家族がアタシを護ってくれたからだから恩義もある。

 だからこの世界を救いたい。それが地球を、つまりはアタシの家族も守ることにつながるから、例えこの身を魔物に近いナニカに変えてでも救いたい。


「だからこれからも君を鍛えるよ…」

 ホントはアタシも一緒に戦えればそれが一番だったんだけど、もうそれはできない。だからせめてあたしがこの世界で積み重ねてきた「知識」と「経験」が役に立つように鍛えるよ

 そんな自分がやはりどこか卑怯に思えて苦しく思うのに目を逸らしつつ改めて心に誓った。

4月13日書き直し更新完了。本日中にまた更新予定。

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