第二十話 治療と後悔
編集完了。今回は短いですが必要なことだと思っています
あれからオレは無事に家に到着した。
したんだが…
「まさか家に着いてすぐに気絶するとはね」
「…面目ない」
やれやれと言わんばかりにため息を吐く先生に頭を下げて謝罪する。
どうもオレは家の門をくぐったと同時に気を失ったらしい。まぁ、命がけの闘争を数回潜り抜けて帰ってこれたという達成感と安心感がギリギリで踏ん張っていた緊張の糸を斬ったんだろう
そんなオレを先生は寝室まで運んでくれた。
そしてオレは今
「じゃ、これを銜えてね」
先生に言われてオレは差し出された布を口に詰めて歯を食いしばった。
「じゃ、行くよ? せーのっ!」
「ン~~~~~~~~~~~~~、~~~~~~~~~~~~~~~ッッ!!」
猛烈な痛みに耐えながら歯にもっと力を込めて食いしばった。
「やれやれ、やっと終わったわ。あとはポーションで何とかなる」
「フー、フー、フー、フー、フー、…」
痛い。
めちゃめちゃイタイ
なんでオレ、こんな痛い思いしてんだっけ? ポーション?
「君が悪いんだよ? 骨折を治すには骨が折れたその時に強力なポーションを呑んで直すかそれとも骨が変な方向にくっついたりしないように骨を正しい位置に動かしてからポーションを呑むしかないんだからね?」
「ハー、ハー、ハー、ハー、ハー、…はい」
そうだった赤鬼との戦いのときにオレは腕を骨折していた。あの時は暢気にポーションを呑んでる時間がなかったから骨折の事は放置してたけどその治療をしてたんだった。
あまりの痛さに忘れてたぜ。
「ホントは超高位のポーションであれば骨折も病気もすぐに直せるんだけど流石にそこまでの超高位ポーションは私でもそんなに数がないからね」
だからこの方法しかないの。と先生は言う。
もともと骨折したオレが悪い。だからそれはいい
「つ、次、次はもっと、強くなるっス…」
「お! いいね、その決意。嫌いじゃないよ」
とりあえず今日はもう寝な。また明日から鍛えてあげる
先生はそう言い残して部屋から出た。
一人残されたオレはこの痛みに耐えながら寝れるか? と疑問に思いながらも自分の現状が知りたいので鑑定してみた。
《松田太一》種族:人間 性別:男 職業:戦士・魔法使い・格闘家 年齢:24歳
レベル:70 魔力:120 攻撃力:160 魔攻撃:110 防御力:140 魔防御:140 敏捷:125 運:87
《装備》精療の包帯 回復のギプス 癒しの肌着 鋼糸のズボン 革のベルト 安眠靴下 上質な下着 風のイヤリング
《魔法》水属性魔法:中級 土属性魔法:中級 火属性魔法:中級 無属性魔法:中級
《スキル》斧術:上級 体術:中級 剣術:中級 杖術:初級 瞑想 索敵 気配探知 潜伏 気配隠遁 魔力操作 気力操作 上級鑑定 アイテムボックス 超感覚 詠唱破棄
《ユニークスキル》健康体
《称号》絶望に抗いし者 豪運の持ち主 熟練の斧使い 修行者 求道者
あれ? 赤鬼と戦う前からレベルが上がってる?
「もしかして赤鬼が死んだのか?」
オレは見てないがリナが言うにはオレが気絶した後にオークが乱入して手負いの重傷だった赤鬼に狙いを定めていたらしく、赤鬼もそれに応戦していたようだがその時に赤鬼が死んだのか?
そしてそこまで赤鬼に重傷を負わせたオレにもそのための経験値が入ってレベルが上がった。のか? 赤鬼の死体を見たわけでもなければオークが赤鬼を食ってるところでも見たわけではない。だから断言はできない。できないんだが
「その可能性が高いか…」
なんだろう…。胸になんかモヤモヤした気持ちがある。
オレは生き残った。
生存競争に勝った。
オレは勝った。勝ったはずなのに…
「なんでこんなにモヤモヤするんだ?」
スッキリしない。
もう少しで出てきそうなのに出てこないようなもどかしさと焦燥感を感じる。この気持ちは一体何なんだ? 分からん…
だがこれと似たような気持ちを依然、どこかで味わったような気がする。それは言ったどこでいつ、どんな状況で味わったんだったか?
瞳を閉じて
ゆっくりと記憶をたどっていくと、段々…―――
『ついにこの日が来た…ッ!』
『松田先輩。気合入ってるっスね』
『当たり前だろ? 高校最後大会。しかも相手は前回オレを負かしたやつなんだぜ? オレがアイツを倒すためにどれだけ練習してきたと思ってんだよ』
『ウッス。松田先輩は部の誰よりも早く道場に来て練習していましたし、誰よりも練習に打ち込んでいました!』
『その成果を今日見せてやる。あいつを倒してこの大会を優勝してやるぜッ!』
『カッコイイっすよ松田先輩ッ!」
あぁ、そうか
『…は? え? あれ…?』
『? どうかしたんですか? 松田先輩…え?』
このモヤモヤは
『いったい何があったんですか?』
「えっと。君、誰?』
『なんでアイツが、アンタらの主将がいないんですか?』
『アンタらって君ね。ちょっと失礼じゃ―』
『先輩。この人って去年のヒトじゃないですか?』
『? 去年? …あぁ、なるほどね。うちの「元」エースと五分に渡り合ってた準優勝のヒトね』
『…「元」?』
この感情は
『あいつなら今年の初めに引っ越したよ。親の転勤だって言ってたかな?』
好敵手を失った喪失感と悔しさと寂しさだ
「あー……。最悪の寝覚めだ」
そうだ。
思い出した。
あれは高校3年の時、もう部活も引退する間近で参加した最後の大会。
オレはその大会にかけていた。オレは家庭の事情で大学には進めないからこの高校がオレが柔道に打ち込める最後の機会。
だから悔いのないようにしたくて朝から晩まで練習に練習を重ねた。燃える情熱のままに行動して日々成長していく自分に酔いしれながら毎日ひたすらに強さを求め続けた。
そこまでオレが頑張れたのも目標があったからだ。具体的でわかりやすい目標。2年の時の同じ大会でオレを負かしたやつを超えると言う目標があったからそこから一年間。オレは頑張り続けた。頑張り続けることができたんだ
「でもアイツは…」
いなかった。
最後の大会にアイツはいなかった。
どうやら親の仕事の都合で引っ越したらしい。
結果。
オレは優勝した。圧勝だった
部活のみんなは祝ってくれたし、母さんや京香も応援はしてくれたけど…
「虚しかった…」
悲しかった
寂しかった
もどかしかった。
後味がとても悪く、とても喜べなかった。
あぁ、だめだ
「また泣けてきちゃった…」
視界がにじみ、目尻から零れ落ちていくのがわかる。
そうだ。こんな気持ちになるからこの記憶は頭から消去してたんだった。
「でも今回の件で思い出した」
そうか。オレはまたあの赤鬼と戦うことを心のどこかで期待してたんだ
もっともっと強くなることで今度こそあの赤鬼を倒せる。そんな日が来ると期待していた。
「でも、もう来ねぇんだな…」
そんな日は
そんな思いがとっくに消去したはずの思い出を復活させやがった。
嫌だな…
どこまでも気分が沈んでいく。ただでさえケガしてるのにメンタルまで崩してたら眠れるものも眠れないよ
その後眠ってるのか起きてるのか自分でもよくわからない時間を過ごしてると夜が明けたようで陽の光が窓から差し込んできた。
「寝た気がしねぇな…」
寝不足なのか体が重く感じながら起き上がると自分が相当寝汗をかいていたことを思い知った。
なので気分をかけるためにもシャワーを浴びたいんだが…
「この腕ではなぁ…」
包帯やギプスで固定された腕をなでながら独り言ちる。あれ?
「痛くない」
ギプスで腕の肘から先が包まれているので全く見えない。だが触覚がはっきりとあり、手を握ったり広げたりしているのははっきりと感じられる。
「治ったのか?」
少々信じられず、包帯を外してファイティングポーズをとり、折れたはずの腕でストレートパンチを繰り出す。
風を切る音が響き、確かに空気をたたいたオレの腕。痛みはない
「治ったっぽいな」
出来ればすぐにこの腕の包帯もギプスもとって腕を介抱したいんだがさすがに専門家の先生に許可を取ってからの方がいいな
オレはそう思い直し、一旦諦めた。
しかし治ったかも? という期待はオレの沈んだ気持ちを立て直してあまりあったようでテンションが上がったオレは気持ちを落ち着けるためにも筋トレをすることにした。
昔の映画で見た片腕腕立て。日本にいたころではできなかった筋トレができるようになっている事実に昔以上の成長を実感しつつ負荷をかけていない方の腕に影響が出ないように気を着けつつ筋トレをつづけた。
「で、その結果今に至ってるわけね。この筋トレおバカ」
「すみません」
怒られた。
まぁ、汗だくになるまで筋トレを続けていたらそうも言われるか…
「もう腕の方も大丈夫だからギプスも取っちゃうね」
と先生は言ってあっさりとオレの腕は解放された。
握る。放す。掴む。捻る。回す。そして
「殴る」
空気をたたき、突き出される拳。もう痛みがどこにもない
「完治しました」
まさか骨折が一晩で治るなんてね
ポーション、スゲェな
ますます
「オレが作れないことが悔やまれる」
「? あぁ、ポーションの事? 君も一応修行すれば作れるようにはなるよ? でも私ほどの腕前になるのはまず無理と思って?」
オレのつぶやきに返す先生。
そう。オレにはポーションを制約するような薬学と錬金術への才能がない。女神さまから説明された才能のランクで言えばDよりのⅭがいいところらしく、それ相応の練習と研究がなければとてもポーション製作は無理らしい。
ちなみに先生はSよりのAらしく、生前も含めて相当数のポーションを製作していてくれていて今もオレを支えてくれている。
でも…
「先生にはとても感謝してますし、先生のポーションがあるから生き残れていることもわかっています。でも、いやだからこそ、そんな先生の教えを受けているにもかかわらずその教えをものにできない自分が不甲斐なくてしょうがないんです」
本音を言うオレに先生は少し驚き、そして呆れながら
「君、傲慢ね」
といった。
傲慢、ね。わかってるさ
オレ一人でできることなんてたかが知れている。何もかも一人でできるはずがないこともわかっている。分かってはいるんだか…
「オレ一人で何でもできるわけじゃないことはわかっていてもオレがこの世界と地球の運命を握っているのならそれこそ何でもできる無敵のヒーローのようになりたいんです」
憧れてしまうものはしょうがない。
何でもできる無敵のヒーロー
そんなものになれるのならきっとこの先の修羅場も鉄火場も余裕で乗り越えられる。そう思えるから憧れる。
でも
「オレももう社会人ですのでそんな夢物語ができるはずもなく、自分にできることを最大限伸ばすことに集中すべきなのもわかってはいるんです」
そう。
これはゲームでも何でもない現実。一度失敗すればコンテニューもなく、セーブもロードもできないやり直し不可能の一発勝負。
オレが負けて死ねばそれだけで母さんも京香もみんなが死んでしまうかもしれない。そんな土壇場であり、正念場だ
余計なリスクなんて背負わずに己の長所を伸ばして伸ばして伸ばしまくることが正解の近道。これはオレもよくわかっている。伊達に受験も試合も面接も経験していない。
理想と現実。この両方が見えているからこそ苦しい。
心と頭が一致しない。
クソッたれ…ッ!
バンッッ!!
背中がジンワリと熱くなってくる。
あぁ、オレ先生に背中をたたかれたのか
呆れられたのか? それとも怒られるのかな?
ついさっきまで頭と心の中を埋め尽くすような考えや感情が一気にリセットされ、一気に気持ちが沈んでいると
「どっちも大事なの」
先生がオレの顔を両手で抑え、決して俯かせずに逸らせないように固定する。
「理想? 結構なことじゃない。そもそも文字通りに世界を救おうなんてそれこそ妄想や理想の類の事でしょ?
無敵のヒーロー? カッコイイじゃないの。どこに恥ずかしがるような要素があるの? アールピーナの人々を救って地球にいるみんなも救う。どこからどう見ても文句のつけようもない無敵のヒーローじゃない。それを目指して何が悪いの?
現実を見て、自分の長所を伸ばす。当たり前の事でしょ? 異世界も地球も関係ない。よりよく稼ぐために、より裕福になるために、より幸せになるためみんながやってる事でしょ? 恥じることでも悩むことでも何でもないじゃない。普通の事よ」
重ねて言うわよ? と先生はオレの目を覗き込むように顔を近づける。オレと同じ日本独特の瞳に吸い込まれそうになるオレに先生は
「君は間違ってない」
と言ってくれた。
ストンと胸に落ちる物があった。
空回りを続けていた思考がようやくまともに動き出していくことを感じた。
頭にかかっていた霧が晴れて光明が差してきている。そうだ。オレは今、子供のころに見ていた特撮や日本にいた時から好きだったアニメの主人公のようにヒーローになれる位置にいるんだ。
成れるはずがない。それはおかしな考えなんだと心の奥底に沈めていたこの熱い気持ちを解き放ってもいいんだ
いかがだったでしょうか?
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