第百五話 大海原の冒険(笑)
三連続投稿です。
意気揚々と海へ漕ぎ出して一時間弱。
オレは…
「…飽きた」
あまりの単純作業に飽き飽きしていた。
「…タイチ? 気持ちはわかるけどちゃんとしよ?」
「リナ。オレだって真面目にやってるけどやることそのものがないんだぜ? これでどうやってちゃんとしろっていうのさ」
オレの一言にサッと目を逸らすリナ。
そう。
オレ達は現状、何もすることがない。
より正確に言えば周囲への警戒を始め、やれることが全部マンリキやエンがやってくれるのでオレがやる必要がない。
一応魔法による警戒網は敷いているもののそれを維持する以外にやることがない。
水中に現れる敵もマンリキやエンの魔法で難なく討伐され、かろうじて即死は免れた魔物がいても瀕死ですぐにでも死んでしまうような状況。せいぜい手慰みに止めを刺されるか気づいてももらえないかの違いしかない。それとも…
なんて思っていたら…
「入ったらしいな」
「ダンジョン?」
「あぁ、見た目はこれまで通りの海のくせに急に魔物の反応が強くなった。しかもこの空気…」
あの森や洞窟と同じだ。
地獄の窯の中とでもいうのか? それとも蟲毒の壺の中とでも言うべきか?
とにかく空気が変わった。
「これでようやくお前らの初陣が飾れそうだぜ」
オレはそう言ってマンリキに牽かせている自分とリナと先生の三人が載っている筏とその後ろについてきている小魚に言った。
《マリン》種族:ゴーレムラフティング 性別:無 職業:無職 年齢:1日
レベル:6 魔力:16 攻撃力:25 魔攻撃:13 防御力:25 魔防御:21 敏捷性:35 運:9
《装備》無し
《魔法》無し
《スキル》魔力操作 気力操作 形状操作
《称号》大海の眷属 大樹の加護を受けし者 大地の加護を受けし者
《信頼度》100%
《チヌ》種族:マメダ 性別:メス 職業:無職 年齢:1日
レベル:9 魔力:9 攻撃力:12 魔攻撃:7 防御力:11 魔防御:8 敏捷性:18 運:17
《装備》無し
《魔法》無し
《スキル》魔力操作 気力操作
《称号》大海の眷属 大樹の加護を受けし者
《信頼度》100%
はい。性懲りもなくまた増やしましたモンスター。
弁明させてもらえれば決して無駄に増やしたつもりはない。これから海をも活動範囲内にするつもりならばマンリキのように水陸両用で活躍できる奴だけでなく水上もしくは水中で活躍できる専門のモンスターがいた方が便利だと判断した。
ゆえにこの選出。
まずキャリーと同様にキーパーのスキルによって生まれた筏型ゴーレムのマリン。実はコイツ、すでに進化しています。生まれたての頃は丸太一本をくり抜いて整えたカヤックというべき小型の船だった。
小さすぎてオレ達三人乗せることもできないほどだったが進化した今では三人で寝転んでも余裕がある程度には広くなっている。
それに伴っての新スキルは特にないがこれから順次身についていくであろうと思いたい。
次にゴブリンに次いで最弱と名高いマメダのチヌ。
まぁ見た目は日本の川にでも出てきそうなメダカそのもの。子供のころ川で遊んでいると足元にメダカがいて、それを捕まえようとしてよく転んだりしていたものだ。
そんなノスタルジーな思い出に浸らせてくれたので出世しろよという願いの込めてチヌと名付けたこのモンスター。もう少しで進化できそうだ。最弱なんだし、ゴブリンの闘鬼の時と同じタイミングで進化すると思うんだ。
「ていうか、よく思い出してみればモンスターって最初のころはどんな種族でもレベル10で進化していないか?」
ゴーレムのキーパーもアントのメイカーもドラゴンのエンもみんな最初はレベル10から進化だった。進化を重ねるうちにレベルの上限も上がっていたし、そこから種族差というべきか上限が大きく上昇した奴もいる。
しかしよく考えるとケインの時のように単にレベルだけでなく何か特別な条件で進化出来る奴まで現れてきたと考えればそのうち初期上限値レベル10以下のモンスターが現れてもおかしくはない。
そう考える段々チヌの成長に不安が出てきたがきっと大丈夫さ。うん。
何の根拠もないけどそう思う。だってこれまでも何度もクリアしてきた問題だ。だから今回もきっと大丈夫だ。うん。
なんて考えてる間にも実は魔物の襲撃があったんだがマンリキとエンの魔法で瀕死に追いやられ、マリンとチヌに止めを刺されて終わっている。
いくら瀕死に追いやられているとはいえ最弱レベルで弱いマリンたちではなかなかとどめも差し切れないため本来であればもっともたついていただろう。常識であれば、な。
しかしオレがいる。
モンスターとつながっているパスを利用していくらでも魔力供給が可能であり、魔力操作にスキルを鍛えつつ身体強化と無属性魔法の習得が容易にすることができるオレがすぐそばについていることでその常識は覆された。
限界ギリギリまで強化されたチヌの体当たりがその体のサイズと相まってライフル弾さながらに瀕死に追いやられたウミヘビ型の魔物の頭蓋を爆発四散させる。
形状操作のスキルで己を構築している丸太の一本を突き出すマリン。まるで正拳突きのように射出された丸太はカツオによく似ている魔物にめり込み、止めを刺した。
と、こんな塩梅で次から次へと魔物は表れている。しかしそのどいつもこいつもがマンリキやエンと比べるとはるかに格下。ゆえに新入り二匹の育成に専念している。
「あれ? これじゃ、別に装備を変える必要もなかったんじゃないのか?」
「別にこのまま最後まで行くわけでもないんだからその結論に至るのは早すぎると思うわよ?」
「今はあの洞窟で言うところの上層もいいところでしょ? 結論が出るのはこれからこれから」
オレのつぶやきに先生とリナから突っ込みが入った。
まぁ、このままではこの装備を選ぶまでの時間や苦労が無駄になってしまうのでぜひそうであってほしいよ。
なんて考えていたのも懐かしい。
「オラァ――――――――――――――ッ! 『ブレイクフィスト』ッ!」
水中を泳ぎながら敵の顔面を思いきりぶん殴る。
その衝撃をも利用して離脱を試みようしてるようだが、
「させるかよ」
無属性魔法と水属性魔法に風属性魔法を複合させて水中に手を創り出して敵をつかませ
「コイツで止めじゃ―――ッ! 『ピアーシングスラスト』ッ!」
殴った手とは別の手で握っていた刺突剣で頭を串刺しにしたまま急上昇して
「捕ったど――――――――――ッ!」
思い出すのは一ヶ月で一万円生活。
「何それ?」
「あぁ、懐かしいわね。あれってどうなったの? まだ続いてる?」
リナからは戸惑ったような目で見られ、先生から懐かしいものを思い出しているからか遠くを見るような目で尋ねられたので
「いや? 番組ごと終わったぜ」
「ウソッ? あの番組終わったの?」
あぁ、終わったんだよ。いきなりの黄金な伝説は、な。
そういえばあの番組のレギュラーだった芸人て今どうなってんだ? その多くは今姿を見なくなっちまってたな。
さて、話を戻して現状。
「ようやくダンジョンらしくなってきたと判断すべきかね?」
今、オレ達は洞窟にいる。
無論あの鬼系統の巣窟ではない。
実はあの後ただひたすらにまっすぐ進んでいたんだがそこにはポツンと小島があり、その中央には洞窟がぽっかりと空いていた。
某ハンターゲームの砂漠ステージに登場するナマズに似ているモンスターのイラストを思い出させる洞窟をくぐったオレ達が見たのは湖というべき水面とさらに奥へと続く洞窟だった。
まずは手始めに湖から調べてみたがなんとこの湖、食べられるどころか日本でおなじみの鮮魚に酷似している魚ばかりなんだ。
『デリシャスサーモン』・・・希少級アイテム。日本、北海道付近に生息している鮭に非常に酷似しているサーモン。その身には旨味が凝縮された脂がのっていて極上の美味。焼いても揚げても煮ても刺身でも美味い。魔物のその味をしているが故に非常に希少。
『ソフトカツオ』・・・希少級アイテム。地球を回遊する鰹に非常に酷似しているカツオ。皮も身も程よく柔らかく、火を通すことで歯ごたえが出る。見た目が海棲魔物の間で恐れられている魔物の幼体に似ていることからあまり外敵がおらず、よく肥え太った個体が多い。その脂肪を生かした調理がおすすめ。
『カーシュライプ』・・・希少級アイテム。日本で流通しているクルマエビに非常に酷似しているエビ。馬車ほどの巨体を誇り、その殻はそれ相応に硬さと厚みがあり、工芸品などの素材になる。その身は甘みと程よい弾力を持ち、焼いても揚げても煮ても刺身でも絶品。
『ジュエルクラブ』・・・希少級アイテム。まるで宝石のように輝く殻を持つカニ。その甲殻は宝飾品として需要があるがその目立つ風貌から野生で生き残るのが難しいため極めて希少。脱皮を繰り返すことで少しずつ大きく強くなっていき、大きさに比例して旨味も蓄積されていく。
『ホンメイマグロ』・・・希少級アイテム。地球を回遊する本鮪に非常に酷似しているマグロ。大海原の一角を牛耳った海の魔王の一体『フォートレスディザストマグロ』の直系種族のため外敵がほぼいない。だがしかしホンメイマグロ自身の戦闘力は無に等しく、豊富な餌と大量の魔力をむさぼって成長した個体の身は圧倒的な旨味と肉汁を誇り、魚肉の王様の異名が取れるほどである。焼いても揚げても煮ても刺身でも絶品。
『バンデッドフィッシャーの骸』・・・希少級アイテム。旨味を豊富に含んだ魚の身を狙い、時には他社が師と寝た獲物をも盗むことから嫌われているバンデッドフィッシャーの死体。その身は皮と骨ばかりで食用には向かないがその骨にはかすかに魔力がしみ込んでいる。
以上がこの湖で獲得できた獲物だ。
物は試しにデリシャスサーモンとやらを適当に三枚おろしにして皮ごと焚火で焼いてみた。味付け塩オンリーだったがそれでも三人一斉に無言で食べきるほど美味かった。
思えば川魚を覗いて久しぶりの海産物を口にした。もともと焼肉より寿司が好物だったオレには思わず涙が出てくるほどの郷愁を与え、つい何も考えずに乱獲してしまった。
そんなオレだからこそせっかく釣り上げた魚を狙ったバンデッドフィッシャーは決して許せず、湖に飛び込んで仕留めた。
しかし何の役に立たなさそうな鑑定結果に思わず舌打ちが出た。
「しかし、この湖。海へとつながってるみたいね」
「それってここから海の魔物が飛び出してくる可能性があるってことですか?」
先生が注意深く湖を観察してはじき出した結論にさっそく疑問をぶつけるリナ。
「たぶん、でもその可能性は低いでしょうね。どこでつながってるか知らないけどホンメイマグロが連れた時点で相当の大きさを持つ入り口があるはずなのにここで出た魔物はせいぜいバンデッドフィッシャーくらい。およらくここに巣食う魔物の気配を感じ取って近づかないのでしょう」
リナの疑問に立て板に水の勢いで答える先生。
オレはその声を聴きながら改めて気配を探る。
うん。確かに今のマンリキやエンにも劣らない存在感を放つ何者かがいるね。
ちなみにマンリキやエンは入り口のサイズ的に入らないのでエンは送還したがマンリキは新入りの育成のためにも残り、今では小島周辺にいる魔物の駆除に専念しているはずだ。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか。楽しみだねぇ…」
新しい冒険の予感に緊張と不安を押しのける勢いで湧き上がってくるワクワクに胸を躍らせた。




