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第百二話 社会人としての義務とケジメ

本日三本目。

これだけ一気に投稿すればそれなりにストックも減ったのでまた書き溜めます。

 さて、引き受けることを決めたからには色々片付けなくてはいけないことがあるな。

 まずは…



「そうか。鍛冶の師としては残念じゃわい。お主であれば儂を超える鍛冶師になれるじゃろうが同時にこの街を救ってくださった戦士としてのお主であれば人助けのために動くのも道理よな」

 残念そうに、名残惜しそうに言う師匠。普段は無口で不愛想。指導の時の怒鳴り声と失敗作を作っちまった時の拳骨は相当痛いものだったが、指導そのものは丁寧で自分が長年磨き上げてくれたであろうその技術をまるで惜しむことなくオレに伝授してくれた師匠。


 しかめっ面がデフォルトで最近やっとそれ以外の表情を見せてくれたのにオレが冒険者の依頼を受けてもうすぐこの街から離れることを伝えたらいきなり年齢(トシ)相応の老人のような、好々爺として表情を見せてくれた師匠にオレはなぜか胸にこみ上げてくるものがあった。

「この一ヶ月、大変お世話になりました。師匠のおかげでオレにも鉄の声が聞けた気がします」

 鉄の声、これは師匠が一番最初に教えてくれたことだ。武具となる素材ときちんと向き合って、そのうえでその素材に一番向いている姿を見極めること。言うは易し、行うは難しのことわざをこれでもかと体現した教えだ。

 だが師匠が懇切丁寧でありながらも厳しく指導してくれたおかげでオレにも鉄の声が聞こえるようになった。気がする

 あくまで気がするだけだ。たかが一ヶ月程度しか修行を積んでいないオレがいきなり鍛冶の奥義に達することができるわけがない。

 たがそれでも上達した。このことだけは間違えようがない。たとえ気がするだけでも鉄の声が聞け、高品質の武器を打てた。この事実は変わらないし、変えようがない。

 それも全部師匠のおかげだ。

 だから礼を言おう。

 義務とか

 社会人としての常識とか

 人付き合いを円滑にするための儀式とか

 そういうメンドクサイ建前は抜きにして、一人のヒトとして礼を言おう。


 このヒトのおかげでできることが増えた。このことはオレのこれからの障害に大きな財産になるはずだ。師匠から教わった数々の技術。これはこれから手に入る多くの素材を素晴らしい武具に加工し、多くの使い手に渡り、この世界を救うための一助になるだろう。

 つまりそれはオレの大切な家族の母さんや京香。それにリナやその家族のカウリア一族を助けるための手助けになってくれたということだ。

 だからお礼を言おう。

「ありがとうございました」

 一人の弟子として

 一人のヒトとして

 万感の思いを込めて


「お主の性格であれば最早放っておいても修行を続けるじゃろう。であればここではなくもっと広い世界を見て回り、様々な技術を習得するのじゃ。縁があればまた何か作ろうぜ」

「あぁ、それはいいな。絶対また会いましょう。師匠」

 なんかいいな。この感じ

 あと腐れなくハッキリとしてるのにこれで縁が切れるような物悲しさもないこの感じ。

 またきっと会える。うん。今はただそう信じよう。

 そしてそれが実現できるように努力しよう。魔物を討伐し、ダンジョンコアを破壊して善のアルファメスを増大させていこう。

 そうすればきっとこの人とまた会えることにつながるはずだから



 さて、まず世話になった師匠へのあいさつは終わった。次はやっぱり…

「存じています。長達からうかがっていましたので」

「まぁ、ニイチャンはこの街で骨を埋めてくれるわけじゃないもんな。しゃーない」

 コイツ等、エルフ監視員とドワーフ監視員だな。

 エルフ監視員は冷静。表情帰る必要性も感じませんよと言わんばかりの無表情。本人も言っていたがエルフとドワーフそれぞれの長からオレが依頼を受けたことを聞いていたのだろう。ギルドの依頼内容をなんでこの街の長達が知っているのか疑問だが、多分ギルドマスターがすでに権力者たちへの話し合いは済ませていたのかもな。

 ドワーフ監視員も別に取り乱していない。エルフ監視員と比べると納得やらほんの少しのさみしさやら読み取れる程度には表情も動いているがコッチも取り乱す様子もないな。うんうん。めんどくさそうな反応が返ってこなくてよかったよかった。


 さて、そろそろいい加減に腹をくくるか。

「で、どうだった?」

 オレの問いかけに疑問符を浮かべるエルフ監視員とドワーフ監視員。確かに端折りすぎだったな。でも…

「この一か月間。同棲しててどうだった?」

 誤魔化させないよ? こっちも覚悟を決めて話してるんだ。具体的に言えばこの家を含めたいろんな問題への解決策を複数用意するくらいには

 オレの突然の問いかけに驚く様子のエルフ監視員とドワーフ監視員。オレは二人がエルフとドワーフそれぞれが監視のために送り込んだ嫁であること知っているし、このことは二人も知っている。

 最初のころは普通に家政婦でいいんじゃないのかと尋ねもした。だがこの策にはオレへの監視と同時にエルフとドワーフはそれぞれオレと友好的関係であると街の住民たちに知らせるために宣伝のためでもあることを説明された。

 そういうものかと納得もしたし、この問題で一番被害者と言えるリナも理解を示したのだからオレがどうこう言う問題じゃない。

 だがいい加減決着はつけるべきだ。オレはこの世界のアルファメスのバランスを戻すためにこれからもっと多くの人々とかかわってくるだろう。その時いちいちその場所で嫁を増やしていい訳がない。不誠実もいいところな上に単純に面倒も見切れない。


「オレも自分の力は規格外だと思ってる。特にレオルドやクリムゾンを使った時の強さはおよそ人間の枠組みから外れていると思ってもいる」

 このことは誇りでもある。オレがこの世界で文字通り命のやり取りを経て身に着けたものだ。誇らない方がおかしい。

 だが同時にこれを口に出すのは苦しくもある。自分がいかに人間離れしているのか、そんな自分が仮に地球に変えることができても母さんや京香が受け入れてくれるのか、こんな疑問が脳裏にちらつき、突き付けられる気がして苦しい。

 この力を得るまでの道のり。それを乗り越えた誇りやこの力で助けた人々の感謝の言葉で誤魔化すことはできる。でもオレは不安もあるし、怖くもある。

「そんな力を一個人で持っていればそれは脅威にしか見えないだろうさ、特にオレの人柄を知らない人々からすれば恐怖でしかないだろう」

 そんな自分の心押し殺しながらエルフ監視員とドワーフ監視員の目をしっかりと見据えて言葉を紡ぐ。この力はオレの誇りでもあり、そして同時に業でもあるのだから誰かに泣き言なんて言えない。

 なんてことを頭の隅で考えつつ二人の様子を観察する。エルフ監視員はうんうんと(うなづ)いた、そのことに気付いて慌てている。どうやら無意識でうなづいたらしい。

 ドワーフ監視員は拗ねたような表情を浮かべている。自分の思っていたことを見抜かれて悔しいのか、それともただの反抗心か知らないが否定してこないところを見るとやはりエルフ監視員と同様に思っている可能性が高い。

「でもお前さんたちはこの一ヶ月で少なからずオレの人柄には触れたはずだ。それでどうだった? 少なくとも理由もなしに力を振りかざすような真似をする手合いではないことは示してきたつもりなんだが」

 エルフ監視員とドワーフ監視員の反応は少し悲しいが仕方がない。

 そう割り切って話す。

 一ヶ月。文字にしてしまえばたった三文字であり決して多いとは言えない日数。

 たったこれだけの日数でオレを信じろと言う方が無理があるのかもしれない。でも言う。だってこれ以外にオレは味方だと言える証拠がないからだ。

 そして言われた二人の反応は…


「「……………………………………………………………………」」


 無言だった。

 エルフ監視員の方は思いつめるように唇をかみしめながら目線をオレから逸らしつつ押し黙った。肩にも力が入り、オレからは見えないがきっと手も握りしめているのだろう。

 ドワーフ監視員の方は何か言おうとしているのか口を開けるが結局声を出すことができず金魚のように口をパクパクさせるばかりだった。エルフ監視員と違って目線はコッチによこしてくるが結局声にも出せないせいかそれとも考えてるからなのかよく目線を外す。

「ごめん。追い詰めたね」

 この反応から察するにこの二人はオレの力を危険視していても同時にオレ自身の人柄にも触れているから判断できかねているといったところだろう。まぁ、そうであってほしいと希望的観測も含まれている気がするが…、いやこれは卑怯だな。含まれている気がするんじゃなくて含まれてるんだ。うん。


「まぁ、オレが言いたいのはだな。もう無理に夫婦のふりをする必要はねぇんじゃねぇのか? ということだ」

 オレの発言に驚いた様子のエルフ監視員とドワーフ監視員。まぁ当然だ。お互いに夫婦のふりをしていることを知っていたとしてもいきなりこんなことを言われれば驚くに決まっている。

「もちろんこれは二人に魅力がないとかいう問題じゃない。そこは勘違いをするな」

 続ける。間を置かずに

 それはオレの考えを伝える前に二人に遮られたくないという理由とここでフォローを入れておかないと変な逃げ口実を与えそうだからだ。自分に魅力がないから夫婦のふりをやめたいということか? とかね

「まず、スピネル。お前さんはエルフの種族性ゆえかとにかく顔がいいね。初めて見たときは一瞬森の妖精かと思ってしまった。それに性格の方も真面目で誠実。実に好感が持てる人物だと思うぜ?」

 ただ単に一言だけでは伝わらないだろうから二人についてそれぞれどう思っていたのかを語ろう。まずはエルフ監視員のスピネルから

 そう思って伝えたんだが、言われた本人はエルフ特有の長耳の先端まで真っ赤になって俯いていた。心なしか頭から湯気まで出てる気がする。照れているらしい。

「次にフェルミナ。お前さんはドワーフ特有の背丈の小ささが魅力さ。あ、別にオレが幼女趣味(ロリコン)とかそういう話じゃないぞ? とにかく小柄なお前さんがすこぶる元気でありながらちょっと生意気そうな口をきいているのに少しだけ元気をもらえた気がしていたんだ」

 どこか妹の京香を思い出させてくれた。これだけでオレにはとても嬉しいことだった。まごうことなき本心を伝えた結果。

 ドワーフ監視員ことフェルミナは

 うぐぐぐぐぐぐ! とか変に呻きながら近くにあったクッションに顔を押し付けている。どうやら照れているらしい。



 結論から言って夫婦のふりは継続されることになった。

 二人にそれぞれ伝えたところ、最終決定権は族長にあるからということでエルフとドワーフのそれぞれの族長の元へと赴いたオレ達は族長らを交えた計五名の話し合いの結果。

 エルフとドワーフ、それぞれの住民たちの安心のため夫婦のふりそのものは継続。しかし、お互いのために監視員それぞれがこの街の家を管理する家政婦のような働きをする。

 表向きは冒険者としてなすべきことを成すためにこの街から離れるオレのために荒事に向かないスピネルとフェルミナをこの街に残ることを選んだというストーリーを流すらしい。

 ザックバランすぎないかと思うがあくまでこれは大筋であって実際に流すストーリーはこれにさらに脚色するらしい。

 それは別にいい。もともと二人と夫婦のふりをしていたのも街の住民たちにいらない不安や恐怖を与えないようにするためだったんだから

「でも本にするのは違くないか…?」

「え、え~っと…」

「諦めなよニイチャン。何なら劇にだってなるんだぜ? アタシら、どんな改変されるんだ?」

 オレの発言にどう返答すべきか悩むスピネルを差し置いてどこか透き通った眼で言うフェルミナ。いや、違うな。眼は透き通っていたが次の瞬間全身からすすけて雰囲気が噴き出してきた。

 しかし、オレが劇の題材になるのか…。

 ダメだ。全然イメージが付かない。

 まぁ、まだ鍛冶修行を終わらせていないし、この街のダンジョンにもほとんど足を踏み入れてもいないんだ。いずれこの街にも戻ってくる。

 しかし、その時に今回の本や劇が出回っていると考えると今からでもげんなりとしてしまう。

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