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第百一話 帰宅と昇格と海の街

本日二本目。

趣味に興じれるのが楽しくてしょうがない今日この頃

「だからな? もう気にする必要はないんだよ。いきなりゴーレムやらアンデッドやらドラゴンやら現れて自分の目の前で殺し合ったり鼻息まで聞こえそうな距離で複数体佇んでいたりしてたんだから取り乱すのは当たり前だろ?」

「ですが、監視なのに…ッ!」

「ま、ニイチャンにとってどうでもいいことかもしれねぇけど、アタイ等は手前(テメェ)の仕事も満足にこなせなかったのは事実だからな…」

 オレの慰めにエルフ監視員は後悔と罪悪感が溢れる表情で追い詰められた声で振り絞るようにつぶやく。見たところ泣いてはいないようだがその一歩手前といったところか

 ドワーフ監視員はブスッと不機嫌顔。しかしオレに声をかけられそれに返答する際には作り笑いを浮かべいた。それはもう見ていて清々しいとすら思えるほど見え透いている作り笑い。

 その作り物の笑顔の裏にはいろんな感情が渦巻いているのが見て取れた。

 怒り。

 失望。

 悲しみ。

 断片的には感じ取れてもその全容を知ることはオレにはできない。


 そもそもオレとこの二人の関係性は表向きは夫婦。しかしその実態はドラゴンをも容易に倒せるほどの戦闘力を持つオレを監視するためにエルフとドワーフの二種族それぞれから選出された監視員。

 オレもそのことに気づいていて二人もこのことを知っている。まぁ要するに仮面夫婦なわけだ。一応結婚というものにあこがれをもっていた身としては決して愉快なものではない。

 だがそれと同時に自分たちでは手も足も出ないドラゴンを簡単に、それこそ片手間に討伐して見せた部外者(オレ)の戦闘力を脅威と判断し、できるだけ親密な関係を作って友好的にありたいと願う(やっこ)さんの気持ちもわかる。

 仮にもリナという妻がいるオレに対してこのような策を用いた二種族の長達には思うところもある。当然その策に乗った当の本人たちにも、だ。

 …この一ヶ月の間にオレなりにこの二人の人柄は見てきたつもりだ。だがいい加減本人たちと腹を割って話すべきかもしれん。

 そう思いながら帰路に就いた。



 翌日。無事街へと到着したオレ達はそれぞれ仕事と修行に向かうことにした。

「では行ってまいります」

「行ってくるぜニイチャン」

 二人はオレのモンスターたちに関しての報告。

「タイチ。アタシも行ってくるね」

 先生と二人で留守番してくれてたリナは今日もダンジョン調査へ先生はすでにエルフたちと薬学の研究に赴いている。

「…あれ? オレはどうしよう…」

 やることがないぞ?

 昨日いろいろ考えていただけに肩透かし喰らった気分だ。

 …まぁ、鍛冶修行の続きをすればいいか



「おおう。お主か。スマンがあと数日はこの工房も使えんぞ」

「え?」

 なぜ?


 理由を聞けば師匠を含むこの街全ての職人たちが集まって近況を報告しつつ新作の発表する集会があるらしい。

 オレにも参加資格があるか聞いてみたが資格を得るには自分で製作した武具を店に並べて多くの人々に自分が鍛冶職人だと認知してもらわなくてはならないらしく、オレにはその資格がなかった。

 作った武具は全部ストレージに仕舞い、昨日全部おいてきたもんな…。少しくらいは残しておけばよかったか?

 でも売るのはなぁ…。だってまだ自分でも未熟とわかる部分がある品を他人様に見せるなんて抵抗あるからなぁ…。


「今年はお主が持ってきたミスリルやドラゴンの素材を用いた品も多く用いられるであろうし、おそらく例年よりも時間のかかる集会になるじゃろう。その間ここは閉めねばならぬし、スマンがお主の修行に付き合えんのじゃ」

 許してくれと頭下げる師匠にオレは問題ないと告げた。

 まぁ、ホントは問題があるんだがな。

 これからどうしよう……



 結局復興がほぼほぼ完了したこの街を散策することにした。

 ワイワイガヤガヤと活気に満ちており、大通りには残る復興に従事しているであろうドワーフとエルフがそれぞれの仕事内容や他愛のない世間話に花を咲かせていたり、そんな人々をターゲットにしているであろう屋台も多く出ていた。

 試しに買ってみる。

「こ、これは救世主さま。こんな屋台の出会い料理で申し訳ありませんが…」

「その呼び方やめてくれよ。あとオレが食べたいから買うんだ」

 オレの言葉に屋台の主人が涙目になりながら料理を出す。

 見た目はフライサンド。ハンバーガーのバンズにコロッケによく似た揚げ物が挟まっている。上げた手なのかまだ油のはじける音がしてパン越しに揚げ物の熱が伝わってくる。

 会計を済ませてさっそく一口。

「お、お代なんて受け取れませんよ。救世主様から受け取るなんて罰当たりな…ッ!」

「いいから受け取れ。オレを犯罪者にする気か」

 さっさと食べたいんだよ。


 普通、食い物屋でこんなこと言うか? と思うようなやり取りの後どうにか感情を受け取らせて歩きながら一口。

 うん。微妙。

 いや、この世界の基準では結構いい線言ってると思うよ? 挟まってる揚げ物は肉の揚げ物だった。イメージとしてはカツサンドに近いな。肉体労働者向けに作られていてとても濃い味付けで食べ応えも十分にある。

 でもオレって日本の食事で舌が肥えてるからな。それにこの世界は農業もまだまだ発展途上もいいところなのも知ってるし、そんなオレの下に合う食べ物なんてそこまで多くはないだろうさ。期待しすぎはよくない。

 味の評価だが、パンそのものに使われてる小麦は決していい小麦ではないな。噛んでいると妙に歯の間に挟まる気がするし、香りも悪い。触感もボソボソしていて不味い。

 揚げ物に使っている油も決して質がいいとは言えないな。動物性の油か? やけにジトジトしてる上に油の味の主張が強い。肝心の肉の味との調和は全く取れていないな。

 肉の品質は悪くないが逆にそのせいで揚げるときに使われてる油や小麦の質の悪さがはっきりとわかってしまうのが残念極まりない。

「そういえばオレがこの街にやってきたのはリナが言ってるあのダンジョンで手に入るらしい素材手当だったな…」

 正直鍛冶修行やエルフ監視員とドワーフ監視員のことがあって忘れてたな。

 まぁ、オレの鍛冶スキルも伸びてるし、そろそろ修行を打ち切って農業改革に本腰入れてもいいかもしれないな。

 道具も自分のものが一式揃ってるからもうマイホームでも鍛冶修行はできるし…

 しかし、その時はエルフ監視員とドワーフ監視員はどうなるんだ? この一ヶ月でオレ達が暮らしている家も一応はドラゴン討伐の報酬の一環でもらったものでマイホームと言える。

 であれば、この家の留守を守ってもらうために残ってもらうべきなのか? しかし、表向きだけとはいえ夫婦になっている者同士が離れて暮らそうとするのはどうなんだ?

 これも話し合う必要があるな。

 なんてことを考えつつオレは足を冒険者ギルドへと向かわせた。



「ようこそいらっしゃいました。S級冒険者『鬼殺斧(おにごろしのおの)』タイチ・マツダ様。早速ですがギルドマスターがお呼びですのでよろしければこちらへ来ていただけますか?」

 冒険者ギルドに着いた途端これだ。

 無表情。何の感情も見えない全くの無の表情で一気にまくしたてたエルフ受付嬢が両手を前に組んで日本の接客業のお手本になれるようなきれいなお辞儀を披露したと思えばすぐに踵を返して案内しようとしてくる。

 一つ一つの動作が洗練されていて仕事ができる受付嬢という印象。しかしその動作の奥にある性質を見ていくと別の印象が出てくる。その動作ができるようになるまでにこなしてきたであろう動きの特徴から見るとアイツは…


「元暗殺者、か…」


「ッ!」

 おっと聞こえた様だぞ。まぁ、普通であれば見抜けないだろうからね。オレも散々暗殺系の能力を持つ魔物と殺し合い続けてきたからそれに通ずる技術を持ってるこのエルフ受付嬢の正体を見抜けたんだし

 うん。明らかに警戒してるな。腕を若干広げるようにしつつ肘をまげて服の中にゆとりを持たせている。おそらく袖口にナイフでも仕込んでいるのだろう。察するに現職に就くまで現役の暗殺者だったと言う手合いか?

 やれやれだ。世界がこんな危機的状況なのに当の住民たちはまだ暗殺なんぞでどこぞの国の要人を殺して、いらない混乱を起こしてるのか? それとも殺さないとどうすることもできないような病原菌のような害悪しかないゴミクソでもいたのか?

 いずれにしてもやっぱり魔物を討伐し続けてもどうすることもできない。か…

 これは気合を入れ直さなくてならないな。

 まずは食糧事情から改善していこう。

 衣食住を改善させないことには人々の幸福はありえないだろうからな。


 さて、では意識を現状に戻そう。こっちの出方でも見てるのか? エルフ受付嬢は微動だにせずに警戒し続けている。

 だが彼我のレベル差を考えてほしい。ぶっちゃけ小突いただけで重傷負わせそうな戦力差がオレ達にはあるんだぜ?

 それに早く用事も終わらせたいし、ここは…


「ッ!」


 (やっこ)さんの間合いに一足踏み込んでその耳元に


「オレを殺したいのならドラゴンですら即死させられる猛毒を準備しな」


 小声でささやく。

 さらにエルフ受付嬢が見える位置で袖口からナイフを取り出す動作をする。と

「…………」

 脂汗を流す元暗殺者エルフ受付嬢の出来上がり

 察するに自分の隠していた過去を見透かされ、切り札をも見破られ、圧倒的なまでの格の違いをこれでもかと見せつけられたことによるショック、それからそんな格上相手に喧嘩を売るような真似をした自分の迂闊さへの後悔とオレの反応に対する恐怖が入り混じってると判断すべきだな。

 まぁ、計画通りなんだがな。あの慌てようから察するに(やっこ)さんはホントに暗殺者のようだ。しかも魔物を相手にしていたのではなく人を相手に暗殺を実行していた本物の暗殺者。

 そんな輩からすればその正体を見破ったオレは邪魔でしかないのだろう。まだまだ現役にしろ、すでに引退していているにしろ隠していたいことを見破ったオレのことはとても看過できないのだろう。

 であればオレが取るべき行動は


「さて、ギルドマスターの元へと案内してもらおうか?」


 白々しく

 これ以上ないくらい白々しくのたまうオレ。

 別に気にしてないし、だれか言うつもりもねぇよ。と、こんなことを伝えたつもりだ。別に察してくれなくてもいい。と思っての発言だ。

 察してくれたのかどうかは知らん。だが気にしていても仕方がない。受付嬢もそう判断したのか案内に戻った。

 オレに感づかれたことで開き直ったのか今度より強く暗殺者の癖が出ていた。



「というわけで今後君はSS級冒険者に昇進してもらうよ。あとここにはいないが君の奥さんもS級冒険者として活動してもらうことにしたから」

「どういうわけだよ」

 この街のギルドマスター、ドワーフリスペクトか知らんが立派な(ヒゲ)を蓄えたエルフから言われたことにオレはツッコミを入れた。

 元暗殺者エルフ受付嬢に案内された執務室にいたカイゼル髭というのか? 中世ヨーロッパの英国紳士が蓄えていそうな立派な髭を弄りつつ

「いやぁ、僕もね? 最初君の話を聞いたときは眉唾だと思ってたんだよ? だってそう思うじゃないか。ある日いきなり彗星のように現れて誰にもまねできないような偉業をこなして実に大量の希少素材を持ち帰ってきたなんて誰が信じられるの?」

 いきなり死んだ魚のような目で尋ねてきたギルドマスターに思わず顔をそむけた。

 まぁ、注目されること承知でやっちゃことだし、何なら注目こそが目的でもあったからむしろオレにとって都合がいいことではある。

 だがこれでも随分自重した方なんだぜ? あの町に持ち込んだ素材はせいぜいミスリル。それも鍛冶修行を全く積んでいないズブの素人に過ぎなかったオレでも明らかに質が悪いとわかる程度のものと獣鬼(じゅうき)までの魔物の素材だ。エレファリアンを筆頭にまだまだストレージにたっぷりと仕舞ってある素材も鉱石も出せていない。

 まぁ、ダンジョンの形跡から考えてせいぜいオークを討伐出来れば上等ぐらいのようだったし、これでも十分多すぎることもわかってんだがな。


 さて、思考の脱線もここまでにして現状に戻ろう。

「でもね? 君の実力はもう見たよ。あのドラゴンの死体はあの眉唾の話を現実のものにするには十分なものだった」

 思い返すように目を細めるギルドマスター。

 そういえばこの人。オレがドラゴンの死体を提供したあの場にいた気がするな。師匠の方に注目していたからすっかり忘れてた。

「しかも君。一度に複数体もドラゴンを倒してただろ? 普通もっと弱いドラゴンを一匹でも倒せれば、それはもう大騒ぎになるのに君の場合は…」

 また死んだ魚の目に戻るギルドマスター。

 ていうかこの世界にまだドラゴンを倒せる実力者がいたことに驚く。この世界の最強冒険者とかか? 異世界転移という不公平(チート)のオレとは違って正真正銘のナンバーワンなのだろう。そしてオレはそんなナンバーワンを軽く超える働きをしたらしい。


 ……。………。


 不思議と罪悪感も優越感もない。

 確かにオレは自分のことはチートだと思うし、あらゆる面で優遇されていると思う。地球。日本ではあくまで平凡な一般市民に過ぎなかったオレが世界ナンバーワンなんて称されるほどの働きができている時点でそれはもうチートとしか言いようがない。


 だがそうだとしてもそれを罪悪感に思うことはない。だってオレはこの世界最大規模の最強最高難易度を誇るダンジョンで一年以上もの間、恐ろしい魔物を相手に生存競争を生き抜いたからだ。その間に何度も死にかけたし、そのたびに持っているあらゆる手段と知識を生かして困難を潜り抜けてきた。オレにはその実績と誇りがある。


 そして優越感がないのは心のどこかそれを当たり前だと思っているからだな。オレはもともとは人間であった。だがさっきも言った実績と誇りの結果。今のオレは超人種という人間の上位種とでも言うべき種族になっている。

 人間がサルに勝てる要素があっても誇ることがないように超人種(オレ)人間(ヒト)に勝ってもそれは当然のことで誇ることではないと心のどこかで思ってるからか? 別に見下してるつもりはない。だがこれもそれを当たり前のことだと思っているからだろう。正直自分でも自分の心のうちはよくわからない。


 でも仮にそうだとしても反省する気はない。こちとら仮にも世界の命運を預かっている身だ。不正(インチキ)不公平(チート)だ言われようが関係ない。

 オレはオレ自身の命と大切な家族や友達の命を守りたい。日本に置いてきた母さんや京香、シンちゃん。この世界でできた家族のリナ。そしてリナの家族であるカウリア族のみんな。オレはこの全部を守りたい。世界が滅亡してしまえばその大切なものが全部壊されてしまう。

 それは嫌だ。

 だからオレは戦うし、不正(インチキ)不公平(チート)も遠慮なしに使う。守るためなら自分のプライドなんて知ったこっちゃねぇし、良心の呵責も抵抗もまるでないからな。



 さて、また思考が脱線したがもともとの話題はオレがSS級冒険者とやらになったことだったな。

「実は申請そのものは君がこの街に住み着いてからしていたんだ。さすがに僕の独断でSS級冒険者に任命することはできないからね」

 ここでギルドについて少し解説。

 今オレがいるここは言ってしまえばチェーン店のようなもので冒険者ギルド本部そのものはこの世界で唯一の完全中立の土地『バランライブラ』という土地に構えているらしい。

 ギルドという大きすぎる力を持った組合が自然と肩を寄せ合いこの世界のあらゆる国の庇護を受けられない代わりにあらゆる国家の法と秩序と思惑にも縛られない完全自由中立の土地には冒険者ギルドを始め、商業ギルドに職人ギルド、農業に薬品のギルドまで多種多様な組合が存在するらしい。

 そんな組合は各国様々な都市や町村に支店を構えている。

 その支店の一つがここだ。


「君が拠点を構えているあの町のギルドマスターと僕は昔馴染みでね? 二人で話してすぐに君をSS級冒険者に昇格させることにしたんだけどそれでも足りなかったんだ。なんせSS級冒険者に昇格させるには少なくとも三人以上の推薦が必要だったからね」

「じゃあダメじゃん」

 ていうかあいつと昔馴染みだったのね。オレをS級冒険者にした小太りジイさん。そこまでしわくちゃのおじいちゃんという印象ではなかったはずだが、長寿で有名なエルフが()()()()と言っている時点でそこそこ年寄りと考えた方がいいかも…

 それはそうと話しを聞く限りではオレをSS級冒険者に昇格させることができなさそうに思えるんだが? まぁ、別にそこまでなりたいわけでもないからいいけどさ?


「ところがどっこい。なんと君とは何のかかわりあいもないはずのギルドマスターの一人が君のSS級冒険者への昇進に協力してくれることになったんだ」

「いや、なんでだよ」

 おかしくない?

 オレとは何のかかわりもないんだよね? なんで面識もないオレの出世に協力するんだよ。なんか裏があるんじゃねぇの?


「まぁ、それには一つ条件があったけどそれはまた後に言うとして」

「いや、今言えよ」

 もったい付けんな。それとやっぱり条件、ていうか裏があるんじゃねぇか。しかもこの口ぶりから察するにオレへの了承もとらずに安請け合いしたんじぇねぇの? このエルフ…

 しかし、そうなると何を条件に出した?

 これがこのエルフに対して出した条件であれば別に問題もない。もともと自分でやろうとしたことだからオレが気にする必要がまるでない。そもそもギルドマスターの仕事の領分でのことだ。オレにできることもないのだから気にしていてもしょうがない。だが問題がないわけじゃない。それはオレに対して条件を出している場合だ。

 オレに対して条件を出したのであればそれ冒険者の領分。つまり魔物退治や護衛などが主だろ? 一つの街の冒険者を取り仕切るギルドの大将がわざわざ何の関わりのないオレに言うなんて何か非常事態でも起こったのか?

 この街の時のようにスタンピードでも起きたのか? それでオレにどうにかしてほしいと?

 でもだとすればおかしい。なんでこのエルフはもったい付けた? 普通に考えてそんな状況であればいやでも参加せざるを得ないのだからそんな情報が入ってきた時点でS級冒険者のオレに言えばいい話だ。

 クソ、分からん…

 オレの思考とは別にエルフもオレの反応に判断を改めたのか結局言うつもりらしい。いいぞ。早く答えをよこせ。


「一度自分のギルドに来て実力を見せろ、てさ」


「…それだけ?」

 オレの確認にうなずくエルフ。

 ホントか? ホントにオレの実力が知りたいだけなのか? たったそれだけの理由で全く見ず知らずのオレをSS級冒険者に推薦するのか?

 組織の長としてこの判断はどうなんだ?

「もちろんこれには理由もあってね? 実は…――」



 結論から言うとやっぱり面倒ごとがありそうだ。

「じゃ、君はこれから冒険者ランクSS級。二つ名も『鬼殺斧(おにごろしのおの)』から『竜戦鬼(ドラゴンオーグル)滅殺斧(デストロイアックス)』に変更。君の嫁さんもS級冒険者に昇進。二つ名は『水槍鬼姫(みなやりのおにひめ)』を与えることにしました。では先ほどの条件。よろしくお願いいたします」

「…わかったよ。半分はふざけんなと思ってるけどな」

 嫌味の一つでもぶつけさせてくれ。

 実際は半分どころか全く納得できていないんだ。

 何が納得できないかというと(くだん)の見ず知らずのギルドマスターがいる場所がバリバリの海に面している場所。

 当然ながら海に関する依頼を主に取り扱うギルドだったが、実は海底にダンジョンがあったことが確認され、それからほどなくしてスタンピードが起こったらしい。

 しかも同時に複数のダンジョンでスタンピードが起こったようでその数はおよそ常識では考えられない数と規模があり、すぐさまギルド所属の全冒険者で防衛ラインを形成し、一人でも多くの住民を避難させる体制が整えられたが絶望的状況だった。

 しかし幸運なことにそのスタンピードであふれた魔物たちはお互いに敵対関係にあるらしく、あふれ出たそばから互いを食い合い、殺し合う。そのおかげで港へと向かう魔物は少なく、いたとしてもすでに傷を負って弱っている魔物しかいなかったので今のところ人的被害は抑えられているらしい。

 しかしそれでも魔物対処に追われているせいでその町の特産品である乾物を作るための漁業が全くできず、魔物の超大量発生の根本的な解決もできず、このままで街やその住民が干上がってしまう。

 漁師たちとその手伝いをする冒険者。沖へと繰り出し大型の海の魔物討伐に挑む冒険者チームとそのチームを支える船乗りたちでにぎわっていた港町が壊滅の危機に瀕しているらしい。

 それをオレ達にどうにかしてほしいようだがぶっちゃけた話、勘弁願いたい。オレは主に陸戦が主で水中戦はせいぜい森の湖での戦闘経験が数回あるだけだ。海上戦の経験に至っては全くなく、自前の船も持っていない。

 こんな状況でどうやって戦えと? と聞いてやりたいし、実際に聞きもした。だがオレの活躍を知っているギルドマスターたちは何か奥の手を隠してるんじゃないのかと疑っている。

 そして奥の手がないにしてもSS級冒険者になったオレが行くことでもし数多くの魔物が攻めてきてもより多くの人々を逃がせるのではないかと期待されているようだ。

 いやいやふざけんなと言ってやりたいのは山々だが、残念ながらそうも言ってられない。冒険者としてももちろんだがオレの本業から言ってもここで知らん顔をするわけにはいかない。

 本音を言えばここで磨いた鍛冶の腕を生かしつつ本格的に農業革命に乗り出すつもりだったがこうなっては仕方がないので引き受けた。

 最悪の場合。船は丸太船かその丸太をくり抜いて作るカヤック風の船にしよう。

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