第十話 確認結果と覚悟
「スンゲぇ…」
学校でやってた体力測定みたいに自分の身体能力を確認してみた感想だ。うん。ホントにありふれている。めずらしさの欠片もない。
「でも仕方なくない?
ダッシュ力はどう考えても学生時代の倍以上。
握力はオレの腕くらいの太さはある枝を握りつぶし、ジャンプしたら自分の身長以上は軽く跳べた。
いきなりこんな身体能力を身に着けちまった時の感想なんて持ってねぇよ」
ホントいきなりオリンピック選手にでもなった気分だよ。いや、オリンピック選手の身体能力とか知らないけど
身体能力だけでなくボクシングや剣道に空手や柔道などの一人稽古もやってみた。
ボクシングではシャドウをやってみると風を切るような音が聞こえた。試しの某国民的ボクシング漫画でも言われていた脱力やリラックスをイメージにしやってみると風切り音がより鋭く、拳に感じた空気の抵抗もより少なくなってくるように感じた。
次に剣道。柔道部として練習していた時に視界に入っていた剣道部の素振りを思い出す。蛙の首を切るときにも使っていた鉄の剣を構えて振り上げる。確か剣道部の後輩に教えているところも見た。確かその時は…
「竹刀の先で天井を突き刺すようなイメージで振り上げて足の動きに合わせて振り下ろす。だったか?」
柔道も元々は剣術から派生した柔術が土台になっている。確か一番重要なのは体重移動。腕の力だけで振らずに体重も載せて勢いよく振るのが重要だったはず
次に空手。これも柔道部の時に視界に入ってきた空手部の稽古を思い出してやる。腰を落として右手を大きく引き、左手を前に出してから呼吸を整えてから引いた右こぶしを突き出すッ!
「確かもっと引手を意識するんだったか?」
某史上最強の師匠に弟子入りした元イジメられっ子の少年漫画で出てきた空手家曰く、「空手の突きとは引手と突き手が滑車でつながれてるイメージで同時に打つ」ものらしい。腰の回転も意識しながら試してみるとボクシングの時とはまた違った風切り音が聞こえた。
最後に柔道。これは一人稽古が最も難しいものだったがボクシングのシャドウと同じ要領で相手をイメージしてみると久しぶりとは思えないほどに足運びと腰回しにキレがあった。今の俺ならオリンピックの柔道選手に交じっていてもそこそこいい成績が出せる気がする。
「まぁ、でも結局はイメージだ」
やっぱりきちんと試合の一つもやってみないとハッキリとしたことは言えない。でも強く慣れた気はする。今はそれだけに胸を張っておこう。うん
さて、ここまで身体能力が変化したオレだがなぜか鑑定スキルで調べてもステータスの数値に変化がない。身体能力が上がったのなら数値の上昇しているものだと思うがなぜか変化がない。
あ、でもスキルはなんか一つ増えてた。
《超感覚》・・・野生のカンを含めた六感を大幅に上昇させるスキル。感覚器官が集めてくる情報量が膨大に増えるため発動者はまるで時間の流れが遅くなったようにも感じる。
これだ。
これってチートじゃない? 要するに一流のアスリートが経験する『球がとてもゆっくりに見えた』とか、武術の達人が『相手の動きが止まって見えた』みたいな。そういう『ゾーン』ていうの? そんな状態に自分の意識で慣れると言うことだろう?
それはとんでもない価値がある。オレもそんな一流のアスリートや武術の達人のようになれるのだと思えば夢が膨らむと言うものだ
「でもイマイチ実感がわかないんだよな…」
物は試しとさっそく発動させているつもりである現在だがなぜか特に普段と変わらないように感じるんだがこれはステータスに表示されてるけどまだ発動していないのか? それともオレが鈍いだけ?
「なんとなくその両方な気がするな」
そもそもオレはこのステータスやらスキルの操作方法初心者だ。いきなり万全に使えるとは思えないし、いきなりすごいスキルを身に着けてもすぐに制御できるとは思えない。
そしてオレは平和な日本で多少格闘技を鍛えただけの一般人だ。いきなり一流アスリートや武術の達人のような技術が身に着くはずがないし、いきなりそんな人物たちと同じような体験ができるはずもない。
こう考えると使おうと思っても使えない。使っているはずなのに普段とあまり変化が感じられないんだとしてもしょうがないのかもしれない。
「まぁ、それはそれで置いといてだ。問題はなんでステータスに数値に変化がないかだ」
気持ちを切り替えてもう一つの疑問。
《松田太一》種族:人間 性別:男 職業:無職 年齢:23歳
レベル:49 魔力:42 攻撃力:78 魔攻撃:46 防御力:76 魔防御:75敏捷:59 運:87
《装備》鉄の剣 鉄の斧 革の防具 鋼の額当て 無地のTシャツ 丈夫な黒ズボン アウトレジャーブーツ 普通の下着
《魔法》水属性魔法:初級 ウォーター
《スキル》体術:初級 杖術:初級 斧術:初級 中級鑑定 アイテムボックス 超感覚
《ユニークスキル》健康体
《称号》絶望に抗いし者 豪運の持ち主 見習い斧使い
念のためにもう一度鑑定スキルで調べたオレのステータス。うん。何度見直しても超感覚のスキル以外に変化がない。
水を飲むまで別に何もなかったはずなのにいきなり身体能力が上がったんだ。これが魔法の効果でなくて何なんだ?
「でも現実にオレのステータスに変化がない。これは一体…?」
てっきりゲームのアイテムやバフのようにステータスの数値に変化があるものだと思っていたんだが
プラシーボ効果。偽薬でも飲む本人が本物だと思って飲めば効果が出ると言った思い込みなのか? でも実際にオレの身体能力は上がっている。それにオレはこの効果の事も知っているから思い込み一つでここまで劇的な変化もしないと思うんだが…
謎だ
「もしかしてこの『超感覚』てスキルを覚えるのに力を全部使ったとかか? それならステータスに何の変化もないのは納得できるけど…」
肝心な効果のほどはわからないがそれでもスキルを憶えることはできたんだから魔聖水の効果はあったんだ。だが鑑定結果によればスキル習得にステータスの向上効果があるとされていたからてっきりステータスも向上するんだが…
ステータスを向上させる効果があって、その効果分も使ってこの超感覚のスキルが習得できたのであればそれ相応に強いスキルであってほしんだが今ではその効果のほども不明。か…
ちょっと、いやこれの結果はかなり…
「凹む…」
せめてどれほどの効果があるスキルなのかわかれば…
「まぁ、気にしていてもしょうがない…」
切り替えよう。うん。就職の時と同じだ。
どれだけその会社との面接に時間をかけてなけなしの金を払ってスーツをクリーニングに出しても面接に堕とされることはあった。
そしてそのあとでさっさと切り替えて次の面接先を決めないとマジで生活できなくなるからどんな未練や後悔があっても切り替えられるようにしてきたじゃないか
それと同じだと自分言い聞かせる。胸の奥がとても痛いけど
胸の奥の痛みと悲しみ向き合い続けてしばらくが経った。
まだけっしてかなしみがきえたわけではないがそれでもなんとかおりあいはつけられた。
さて、ではそろそろ日も傾いてきたようだし、今日の寝床でも探すか。て、あれ?
「…なんだ? この音は…」
なんか耳の奥にキーンと耳鳴りみたいな音が聞こえてきた。てか。
「あれ? え? なに?」
なんかいろんな音が聞こえてきた。小鳥のさえずる声や水の流れる音。どこからか聞こえてくる動物の息遣いにゾクッと体が震えた。いや、音だけじゃねぇ。
「な、なんなんだ。これ…」
視覚。聴覚。嗅覚。味覚。触覚のゼンブのセンサーが大きくグンと跳ね上がった。
視覚は湖の向こう側の樹の葉っぱの状態がはっきり見えた。虫に食われている部分とほんの少しだけ変色している部分などがはっきりと見える。
嗅覚はまるで自分がイヌになったみたいに感じる。湖の水の香りや土の香りと木々の香りに混じって鼻に入ってくる獣臭やカエルの血の臭いが混ざっていて、いい匂いにヤな臭いの両方が鼻に刺さってきてちょっとツライ。
味覚。口の中に残る血の味や土の味を追い出す圧倒的な魔聖水の味が口いっぱいに広がる。まるでもう一度飲んだみたいだ。なんか得した気分♪
触覚はまるで自分が裸になったみたいに全身に風を感じる。太陽の温かさや湖から吹いてくる風の冷たさの温度差の大きさに驚いてしまう。日向と日陰で5℃以上温度が違うなんて言われているけど似たようなもんなんか? 詳しくは分からんが。
正直それよりも問題なのは聴覚だ。
聴覚は今まで耳に入ってこなかった音が次から次へとドンドン入ってくる。聴こえすぎるくらいだ。目で見た範囲ではいないはずなのに動物の息が近くに聞こえてきて落ち着かない。そしてオレが最初に感じた耳鳴りがだんだんと大きくなってきている。
もしかしなくてもこれは…
「超感覚の効果か…?」
今発動したのか? なにがきっかけだ?
別にオレは今発動させようなんて思っていないし、必要な状況だとも思っていない。にもかかわらずなぜ今発動した?
今オレがやっていたことなんて自分の感情や気持ちに向き合っていたくらい…
「瞑想? 集中?」
多分これが超感覚発動のトリガーなんだ。
そうとわかればさっそく試す。
考え事している間にいつの間にか効果が切れていたようだし、もう一度発動させるためにまずは瞑想からやってみるか
「いや、瞑想も要するに自分の内側に意識を集中させることだ。ならば最初から集中した方がいいな」
ではさっそく試す。
身体の余計な力を抜いて目を閉じる。
意気を大きく吸い込んで時間をかけてゆっくりと吐く。心臓の音がゆっくりになっていくことを感じつつ集中を高める。
柔道の試合の時。緊張をほぐしたり集中するときによく使っていた方法。これを使って心の雑念を取り払っていき、目を開けると
世界が、広がっていた。
目に飛び込んできたのは陽の光。その眩しさに目を閉じそうになるが手をかざして何とかその光を抑えようとしていると次第に瞳がその光に慣れて、その雄大で穏やかな自然の風景が見えた。
「不思議だ。ついさっきまで普通にいたはずなのになんでこんなに感動しているのだろう」
不意に泣きそうになってしまった。
日の光を受けて青々と生い茂っている草花。その一つ一つが蒸しに歯を食われていたり花粉を無視に運んでもらっていたりしている奴も居ればオレや魔物にだろうか踏みつけられて今にも萎れてしまいそうな奴も居る。だがそのすべてが今も生きようと懸命になっている姿には胸を打つものがある。
そんな草花の近くを流れる川。草花の良きれる水を運ぶだけでなくその中に数多の命を内包していて今この瞬間にも命を産まれ、死に、次の命へとつないでいく。命の連鎖であり循環がそこには会ってこれからも続いていく。これが尊いと言わずして何と言うのかオレにはわからない。
木々が、風がオレの周りにある自然のすべてが輝いて見える。いや、今までとは比べ物にならないほどにいろんな情報がオレへと流れ込んできてその万能感と優越感に酔いしれていた。
「すごすぎる。超感覚」
なんかあれからしばらくすると効果が切れたのか流れ込んでくる情報量が少なくなり、あれほど感動できた風景が普通の日常の風景になってしまった。
「いや、まだこの森を日常だと思えるほど住んでもいないんだけどな」
でもそれほどに普通に戻ってしまった。残念ではあるがこれからいつもあれほどの感動を味わいながら流れ込んでくる情報を受け止め続けると考えるとこの方がよかったのかもしれない。
「絶対に心が持たないだろうからな」
素晴らしい感動が味わえたけどあれを四六時中感じていたら心が壊れるかもうこれから先何を見ても感動することができなくなってしまっただろうからな。
オレは感動の余韻と安心をかみしめていた。
んで、超感覚の感動をひとしきり噛みしめたんだが
「何なんだ? この音は」
正直言ってウザい。
超感覚使用時にはその音以外の情報量が膨大過ぎて反応できなかったけどいい加減気になってきたよ。
耳鳴りのような音がする。いや、耳鳴りと言うよりこの音は
「アラームか?」
なんか目覚ましとかタイマーとかを連想させる音なんだよな…。仕方がない。
「調べてみっか」
ホントはいい加減、今日の寝床とか探したいんだけどな
音のなるほうへと向かってみる。方向は向かい側ほどじゃないけど湖の近くの森の中。
「見た限りじゃ特に魔物は見当たらないが…」
まぁ。視界を遮るものが多い森の中じゃ見ただけで見つける方が難しいか。
腹をくくって森へと入ってみる。音の鳴るほうへと進む。もちろん周りへの警戒は怠らない。
ガサゴソ
林の中を忍び足で歩く。木々が生い茂り視界は悪い。隠れる場所ならいくらでもありそうだ。
「いつ魔物が襲い掛かってくるかわかんねぇ…」
腹をくくりはしたが怖いもんは怖い。忙しなくあたりを見渡して警戒を怠らない。目は魔物を警戒するのに使って耳はこの謎の耳鳴りの音を拾う。もちろん耳で魔物の気配を探すことも忘れない。
「つか、ホントにいい加減にして。どんだけデカくなるのこの音」
もう騒音て言ってもいいくらいになってんよ? 辺りを警戒して神経質になってきているから余計にイライラする。
索敵に集中できねぇじゃねぇか。ったく。
「もう警戒やめて一気に走るか?」
ここまで音が大きくなったんならもういい加減発信源が近いだろう。集中できていない索敵を続けていつまでもチンタラとしていたら余計に魔物が寄ってきそうだし。
もうそうしよう。うん。なんかめんどくさくなってきた。
というわけで走った。何度か石に躓きそうになったし、凹凸に足を取られそうになったが何とか転ばずに走り抜けてこの耳鳴りの発信源に到着した。
「…なんだコレ?」
家だった。結構ちゃんとした小屋だった。
「…入」ってみよう
言葉が途中で終わったのはなんか見えない壁にぶつかったからだ。思いっきり鼻を打った。めっちゃ痛い。思わずその場にしゃがみ込んでしまった。
「なんだよコリャア」
パントマイマーみたいに見えない壁をペタペタと触る。感触からして透明なガラスを触っているような感じだ。それが家を中心に球体状にすっぽりと覆われているっぽい。
『問題です』
「…は?」
なんか鑑定スキルを発動させたときに出てくる透明なボードがいきなり出てきてこう書かれていた。
いったい何なんだ?
『アメリカの首都は?』
「ワシントン」
常識だろ?
『モーツァルト、ベートーヴェン。この二人と肩並べれる人物は?』
「シューベルト」
音楽家つながりだろ?
『日本で一番有名な戦国武将は?』
「織田信長」
戦国武将ならこれだろう。
ピンポーンピンポーン! ファンファーレが鳴り響く。
「今度は何なんだ」
いきなり大きな音を出さないでほしい。耳が痛い。
『おめでとうございます! アナタは私と同じ「転生者」もしくは「転移者」であることが確認されました。よってこの家の相続権を獲得しました。どうぞお帰りなさいませ。ご主人様♪』
「………………」
呆然自失。
いや、その…は? なに? いきなりどうなってんの?
「なんなんだ? この家は…」
キィ…
なんか閉じていたはずの扉が開いた。それと同時に家の周りを覆っていたはずのナニかが消えた。今ならあの家の中に入れるのか…?
「つか、入って大丈夫なのか?」
なんかわけわかんねぇモンが出てきたし、オレとしては逃げたい気持ちがデカいんだが。でも、ここで逃げていいもんか? よくわかんねぇけどこの家を好きに使って言い的なことを言ってたぜ? 運が良ければここがオレの拠点になる。超感覚みたいなすげぇスキルが覚えられる魔聖水が手に入る湖の近くの生活拠点。
逃げずに踏みとどまる理由には十分以上だ。
「仕方ねぇ。もう一度腹くくるか」
パァン! と両手で頬を張って気合を入れ直してから
意を決して家の中に入っていく。
「こんにちは。お邪魔します」
………返事はない。留守?
「いや、違うな」
カンだけど。とにかくここが何なのか調べてみよう。
「しかし、なんだろうな。今のオレの状況ってどー見てもドロボーだよな」
これで緑色の被り物でもあれば完璧だな。うん。
「よし! ここに住もう」
オレはそう決心した。
結論から言ってココは理想的な拠点だった。雨風が凌げるだけでなく日本風の部屋もあり、まるで一人暮らし用のアパートの部屋のようだった。
まずは玄関。普通に日本風で靴が脱げるようになっていて靴箱に室内用のスリッパまで完備されていた。しかも鑑定してみるとこのスリッパは経年劣化しないように魔法が込められたマジックアイテムであることが分かった。
そして廊下。フローリング風に床になっていてトイレに風呂とつながる洗面台への扉と二つの部屋へとつながる扉があった。壁や天井も日本のアパート風になっていて実に見慣れている。
風呂やトイレも一人暮らしだと考えると十分すぎるほどに立派だった。あえて不満があるとすれば風呂釜の大きさにはオレには少し小さいところ。だがそれは日本にいたときも感じていた不満なのでここで暮らす分には問題ない。
それよりもシャワーまでついている風呂に水洗式便所と実に日本的風呂にトイレで感動できた自分にあきれるやら納得するやらで複雑な気持ちになった。
一つ目の部屋。ここは和室のようで床が畳だった。思わず寝転んでしまったよ。畳の匂いが鼻に届いて涙があふれそうになった。
あのまま横になっていれば大泣きしてしまうと思ったオレは上体を起こして回りを見てみると押入れがあった。もしかしたらと思って開けてみるが残念ながら布団は入ってなかった。しかし着物みたいなちゃんちゃんこのような服が一着入っていた。かなり大きくオレでも十分は切れるものだった。
コレが何なのか鑑定で調べてみると搔巻布団という掛け布団であることが分かった。
「こんな布団があったんだ」
オレ、全然知らなかったよこんな布団。しかもこれもマジックアイテムらしく、いくら使っても綺麗な状態を維持し続けると言う効果とスリッパのように経年劣化しない効果が込められているらしい。
二つ目の部屋。こっちはどうやら書斎のようで所狭しと並べられた本棚に敷き詰められた本があった。背表紙にタイトルが書かれている本もあれば番号が振られているだけの本も無秩序に突っ込まれていて混沌とされている。
そしてかなり使い込まれているであろう机があった。まるでテレビで紹介された高価なアンティークの机のように金持ちの屋敷に置かれていても違和感がないような立派な机には一冊の本が置かれていた。あとはきれいさっぱりに掃除されているようでこれは少々意外だった。
「てっきりこんな本棚なんだからもっと机の上も散らかってそうなのに…」
しかもその置かれた本のタイトルが
「日記、て…」
日本語で書かれてるな。つまり、そういうことか
「オレの先輩が遺してくれた家か…」
納得と寂しさが一緒くたに湧き上がってとても切ない気持ちになる。
納得は言うまでもない。女神の説明にもあった。オレ以外の人々もこの世界にやっていることは知っていた。そして命がけの闘争をしているのであれば死ぬ奴だっていてもおかしくはない。
そしてこの世界で懸命に生き続けてその生涯に幕を下ろしたやつがいたとしてもおかしなところない。むしろ生きて生きて生き抜いた先輩に敬意を払うべきだ
だがこの寂しい気持ちもまた本物。オレよりもこの世界を見てきた先達がいたのにもうその人には会えないんだと言う事実。おそらくこの世界において特殊と言うか異常な身の上であるはずのオレと同じ存在の奴も居たと言う安心感もあったはずなのにそんな奴にはもう会えなあいんだと言う絶望が混ざり合ってこの寂しさになっているんだ。
「でも、いやだからこそ」
こんな家を作れる先輩であればきっとオレよりも知恵があって何とかこの世界を、引いてはオレ達の地球を守ろうと必死だったのだろう。
そんな先輩が成し遂げられなかった仕事をオレが引き継ぐんだからとんでもないプレッシャーではある。当然だ。自分がこれからやろうとしている仕事の難しさとそれに伴う苦しみや痛みを想像しただけでゾッとする。
だがそれでも、いやだからこそ
「逃げるわけにはいかない」
ホントはすぐにでも逃げだしてしまいたい。
そんな難しくて怖いことなんてせずに母さんや京香が待っている家に帰ってテレビでも見ながら熱々のから揚げででも頬張っていたい。
でもオレが頑張らなくちゃその母さんも京香もみんな死んでしまうから
そんな未来は絶対に嫌だから
オレはここで頑張らなくちゃいけない。
だから
「受け継ぐよ。アンタが遺してくれたすべてを




