第九十九話 武器とアンデッド
本日二本目。
「も、申し訳ありません。このような手間を…ッ!」
「……スマンかった。ニイチャン」
自分の不甲斐なさに震えながら謝罪するエルフ監視員とバツが悪そうに顔を背けようとしたが思い直したのかしっかりとこちらの目を見て謝るドワーフ監視員。
どうやら二人はロックゴーレムが複数体いて殴り合ってるのを見たあたり、つまりだいぶ最初の方で気を失ったらしい。
「気にする必要はない。オレも自分の仕事をしただけだ」
であればキーパーに作った武器もその製作に使った道具も見られていないな。
よし、隠そう。ぶっちゃけ、バレても構わないと思っていた。それだけキーパーの武器がやばい状況で今すぐにでも取り掛からないとまずい状況だったからだ。
結果、いい武器ができた。それをこの二人の監視員に見られててもいいと思っていた。だが現実はこの二人は暢気に気絶していてオレの作った武器はおろかキーパーすら見ていない。
ならば利用しよう。それを
「気にしなくていい。普通であればあれだけの光景を見れば気絶の一つもするだろう。オレの方こそ配慮が足りなくてすまなかった」
いい人を演じて決してキーパーやキーパーに渡した武器を作るために使った道具のことを聞かれないようにしよう。
鍛冶の修行をしてたった一ヶ月のにわかに過ぎないこのオレが伝説級なんて作れた道具だ。もしこれが鍛冶にその生涯をささげた本物の職人が使えば神話級。いや下手をすれば幻想級にまで手が届くかもしれない。
それ自体は喜ばしいことだが安易にヒトに力を与えることに抵抗を覚える。
今の現状でも己の力におぼれて盗賊にまでなり下がった輩を知っている。まだオレがこの世界にやってきて二年足らず、自分で言ってて悲しくなるがその間に壊せたダンジョンコアの数も十個前後。まだまだ世界の均衡は崩れているままなはずなのにそんな輩がいる。
こんな現状でこの道具を世間に公表などしてしまえばそれを求めての戦争と手にした国が生み出した非常に強力な力を持つ武装を施された軍隊による虐殺と殺戮によってあまりにも多くの悲劇と憎悪が生まれるのが目に見えている。
そうなればますます負のアルファメスが増えてしまう。
だから隠そう。
ちょうどキーパーも新しい剣の試し切りでここにはいないんだし、隠し通すことはそこまで難しくない。運がよかった。
「さて、これで全部だな」
「すごい…。何この光景……」
「なるほど…。あんな加工法があるのか…」
隠すことは難しくはない。だがその代わり別のことに驚いてもらう。
さっきまで殴り合いを続けていたゴーレムたちに武器を持たせた。だがすでにアイアンゴーレムに進化するまであと少しというところまで来ている個体までいる以上。普通の鉄製の武器ではだめだ。それではぶっちゃけ素手の方が強い。
であればミスリル製の武器でも持たせた方がいい訳だが進化寸前とはいえ同じロックゴーレムの中でそこまで装備に差をつけていけない。
そこでロックゴーレムに与える武器全部にミスリルを微量加えている。そうすることで普通の鉄製よりもずっと強い武器になる。
しかし気になる。
ドワーフ監視員にはあの武器の内容がバレたらしい。
一応見た目は普通の鉄製の武器に見えてるはずだ。間違ってもミスリルの特徴である銀色はどこにも見えない。
鑑定系スキルでも使われたのか?
違うな。オレに全く気取られずに使えるわけがない。どれだけステータスに差があると思ってるんだ? もしそんなことしようものならオレの世界眼で分かるはずだ。そして何の反応もなかった。
にもかかわらずバレた。なぜ?
「アタイ、あの剣を作った鍛冶師の娘だよ?」
「あぁ…」
納得。
あの不出来なミスリルの剣を作った職人の娘。幼いころから武具を見続けてきたから眼力が鍛えられてきた。と
しかもこの口ぶりだと…
「鍛冶のノウハウは知ってるわけだ」
「…まぁ、所詮は女の身。親父殿から一切鍛冶については教わらなかったけどな……」
さみしそうに悲しそうに笑うドワーフ監視員。
口ぶりから察するにドワーフでは男であることが鍛冶師になることの条件なのだろう。日本でも昔からある男尊女卑の考えからに通ずるものがあるな。
…気に入らない。生まれた時からすでに覆しようのない要素でその人の人生に何かしらの制限をかけようとするのが気に入らない。
本人の努力ではどんなにあがいても変えることができないものを盾にその人を攻撃しようとするその輩が気に入らない。
その時の攻撃する側の顔が目に浮かぶ。
意地の悪そうな、性根の腐ったような笑みを張り付けてどうすることもできない攻撃に打たれる人を見下す下卑た笑みが脳裏に浮かんで腹立たしいッ!
だがしかしッ!!
胸くそ悪いが分からなくはない。
鍛冶は大変な重労働。いくらレベルが上がり化け物のような体力が身についているオレでも武器一つ制作するのに息切れしたり汗だくになってることがある。
現にキーパーの武器を作ったばかりの現在。オレの身体には芯の奥にズシンとのしかかるような疲労が残っている。回復魔法で疲労回復は可能ではあるが傷や呪いとは違って効き目が悪い魔法でゴリ押そうとすれば無視できない魔力消費がある。
格下相手であればもちろん問題ないが同格相手であればまず不利になることは避けられない。そんな相手がウヨウヨいるとは思えないがここはこの世界で最大規模を誇る最強のダンジョンの中だ。油断していい道理がどこにある?
さて、話を戻して、だ。
規格外というほかないスペックを誇るオレでもこの様では普通の職人では文字通り命がけというほかない苦行であることは目に見えている。であればより腕力と体力に恵まれている男が鍛冶場に立つのは自明の理と言える。
戦場に立ち、みんなを守るのも男でありその戦士たちを生かすための武具制作を行うのも男であればおのずと男尊女卑の考え方に行き着いても仕方がないと言えるかもしれない。
あぁ、仕方ないだろうな。理解できるとも
だが納得はしないッ!
地球、日本でもあった忌べき風習である男尊女卑の考え。地球ではどんなに努力してもかなわない場合はどうしてもあった。きっと何人もの人が悔し涙を流したことだろう。
だがここはレベルやステータスといったゲームの要素をたっぷりともった世界だ。オレが元居た地球よりも身体能力の問題は解決できる。もしオレが挙げた理由で女性に鍛冶が教えられないのであればレベルさえ上げれば克服できる可能性は大いにある。
もしドワーフ監視員が望むのであれば、その時は…
さて、また一つ企むことを決めたオレはそんなことをおくびにも出さずにエルフ監視員とドワーフ監視員を連れて地下へ
そこには
『『『『『『『『『『『『『オォオオオオオオオオオオオオオオォオォオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!』』』』』』』』』』』』』
ゴーレムとは違い、各々違う武器を手に文字通りの殺し合いを続ける多種多様のアンデッドと
『『『『『『『『『『『『『ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!』』』』』』』』』』』』』
アンデッドを迎え撃ちつつ自分たちも殺し合うアリの群衆がいた。
「グォオオオオぉオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンッッ!!」
ついでに一匹の鬼熊と
「ブルゥホォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンッッッッッ!!!」
一匹のバトルホースも大暴れしている。
「「あふぅう……」」
また二人が気絶した。
「順調のようだな。サリー」
『……………………………』
オレが声をかけたサリーは声を出さない。まぁ、もともとスケルトン系統の進化だ。むしろ叫べているスケルトンたちの方が異常なのかもしれない。
それにサリーとなら意思疎通もできる。
オレとサリーとの間にある魔力パスを通じて思念が伝わってくる。
「あ? オレに合わせたい奴がいる?」
『………(コクリ)』
サリーの案内に従っていると
「あ、主よ…」
そこにいたのは一匹のグールだった。
《名無し》 種族:ハイグール 性別:男性 職業:魔法戦士・剣士 年齢:一ヶ月未満
レベル:20(レベルMax) 魔力:320(+1500) 攻撃力:440(+2800) 魔攻撃:300(+1500) 防御力:430(+3500) 魔防御:350(+2800) 敏捷性:460(+2000) 運:49(+100)
《装備》鉄の剣 鉄の盾 エンプティーデッドアーマー「ケイン」
《魔法》無属性魔法:中級 闇属性魔法:中級 火属性魔法:初級
《スキル》日光耐性 魔力操作 気力操作 剣術:中級 盾術:中級 金剛力 堅固 身命 機敏 意思統一
《称号》闇の眷属 大樹の加護を受けし者
《信頼度》100%
なぜか見覚えのある。というかまんまケインを着ていた。
「で? これは一体どういうことだ?」
何かの悪ふざけか何かなのか?
「こ、これには理由がございまして…」
ひとまず聞いてやろう。
話をまとめるとこのグールはレベルが上限に達したにもかかわらず進化できず、かといってケインのように最終進化系の称号も成長限界の称号もなくまだまだ進化可能なはずなのになぜ進化できなかったらしい。
それでも進化できないのならと懸命に技術を磨き、スキルを鍛えていたところケインと意気投合し、今では鎧のケインをグールが着こむことでグールは足りないステータスを、ケインは至れない技術をそれぞれ補い合っているらしい。
しかし、ここ数日あるグールが衝動に駆られるらしく、その衝動というのが…
「血が飲みたいと…」
「も、申し訳ありません。食欲も睡眠欲もないアンデッドのみでこのような衝動に駆られるなど…ッ!」
後ろめたそうに、申し訳なさそうに頭を下げるグールに気にするな伝えつつもオレは考える。
血を飲みたい。つまりは吸血したい。
これってまるで…
「お前、吸血鬼にでもなるのか?」
「わ、わかりません…」
居心地悪そうに身じろぎするハイグールに少しから買い過ぎたかと反省。
「で? 血ってオレのでいいのか?」
「…ハイ」
嘘のつけない奴め
「……………………………………………………………………………………………………………………」
「…………………………………………すみません。できれば女性。それも清らかな乙女の血が欲しいです」
無言で見つめ続けていたらプレッシャーに感じてたであろうハイグールが白状した。
最初からそうすればよかろうに
しかし乙女の血か…
「運がいいのか悪いのか…」
いるね。ちょうど。
罪悪感はあるがエルフ監視員とドワーフ監視員から少しばかり血を失敬した。
この二人が処女なのはぜひ嫁にとオレに二人を進めてきたエルフとドワーフのおっさんたちから聞かされていたから助かったぜ。
さてこれで十分だとは思うが
「足りるか?」
「その確認のためにもぜひ…ッ!」
おおう。
ニンジン目の前にぶら下げられた馬のように鼻息荒くして…
なお与えてみても量が足りないのか進化せず、結局オレの血と大量の強化魔法を受けたうえに新しい剣を受け取った瞬間進化できたのだった。
実はわたくし、書籍第一巻から「進化の実」のファンだったのでアニメ化を楽しみにしていたのですがわたくし的に言わせてもらえば「ありふれた職業で世界最強」のアニメと同じパターンで原作を端折りすぎていると言わざるを得ません。一ファンとしてあの出来はどうかと思います。憤慨です。




