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第九十五話 英雄参上

急に仕事が忙しくなったせいで予定通りに投稿できませんでした。

 轟轟と燃え盛る戦火。

 立ち上る黒煙。

 数キロは離れてるはずのこの距離でも聞こえる悲鳴。怒号。

 それをかき消す勢いで轟く魔物の咆哮。

 まだ街から数キロは離れているはずのオレ達にまで届いてる情報だけでもこれだけある。うん。地獄絵図だ。

「スタンピード……」

 ダンジョンから魔物が溢れたんだ。

 もう手遅れ。こうなってしまえば後にできることは

「行くぞ」

 一人でも多くを救うこと。



「ぬぅうううううううんッ!」

 儂、ガハルドの自慢の斧が儂等の街を破壊する下手人であるリザードマンの一匹を切り裂いた。

「お前等ッ! 怖気づくんじゃねぇぞッ! 今こそ儂等ドワーフの屈強さを見せるときじゃッ!」


「「「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ! 我等ドワーフ。岩窟と大地の戦士なりッ!」」」」」


 儂の鼓舞に戦士の皆が奮い立つ。が、しもうた。鼓舞に夢中になりすぎて近くの敵に気づけなんだ。

 儂等ドワーフの倍の背丈を持つカマキリの魔物。その青光りする窯がゆるりと振り上げられ―

 ―きる前に頭を矢で打ち抜かれよった。


「皆さん。いいですね? 我らの盟友であるドワーフの皆さんにばかり負担を懸けさせてはなりません。彼らが岩石と大地の戦士なら我らは森の戦士です」


「「「「「我らの盟友のため、我らの誇りのためにッ!」」」」」


 決して大声ではない。にもかかわらず戦場で朗々と響く言霊に毅然と答えるエルフ衆。ともに酒を酌み交わし、稽古場で汗を流した仲である彼らの正確無比な矢の雨が魔物の頭を狙い、多くの魔物に致命傷を与えておる。

 しかしエルフ衆の弓では貫けぬ装甲を持った魔物たちもおる。が、こ奴らこそが儂等ドワーフが相手取るべき手合い。硬い装甲を手にした代償に機敏な動きができぬ鈍重な奴らに斧を叩き込む。

 エルフ衆が弓だけでなく短剣や長槍をもって応戦しておる。儂等も懸命に斧を振り回し、多くの魔物を討ち取り応戦するが…




「さ、さすがに疲れたわい………」

「ド、ドワーフの戦士長ともあろうものが情けない姿ですねガハルド」

「…そ、そういうお主も矢が尽きておるし、膝がガクガク震えておるぞ? エリッシュ」

 斧を杖代わりに身体を支える無様を笑う友に儂も皮肉で返す。

 これまで幾度も躱してきたやり取り。じゃがそれもこれで最後かもしれん。そう思うと悔しく、そして悲しいわい…

「多すぎじゃ…」

「老骨にはいささか酷ですな…」

 ウンザリじゃと言う儂に同意しつつも笑顔で返す皮肉屋(エリッシュ)

 魔物の数が多すぎる。

 儂等も相当な数を討ち取ったはずじゃが、いかんせん。地を埋め尽くすほどの大量の群れを討ち取るには及ばなんだ。

 じゃが時間は稼げた。

 儂等戦士の中でも経験の浅い若い衆に守らせている儂等の家族が逃げられる程度の時間は稼げたはずじゃ。

「さて、そろそろかの…?」

「最後の相手があれですか。いささか皮肉ですね…」

 儂とエリッシュ。二人ともどこか清々しい気持ちで儂等の命を奪う敵を見つめ―

「―シッ!」

 ―ておったのに突然現れた人間がその敵を真っ二つにしてしもうた。



「ひどい…」

 街の惨状を改めて見たリナの感想。うん。オレもその感想に同意だ。ホントにひどい。


 まず具体的に言って外壁。最早無事な部分を探す方が難しい位にボロボロだ。特に街と森の境界に建てられたであろう壁に至ってはもうあったのかも疑わしいレベルで破壊されている。まぁ、普通に考えて危険な魔物が生息している森に対する防衛施設がまるでないわけがないので壁があることは確実()()()と思う。

 そう。もう思う、想像することしかできないんだ。あまりにも破壊されすぎていてもう原型なんてわからない。想像することしかできないんだ。

 次に家屋。すでに避難はされているのかさすがに現在進行形で家に人がいる気配もないが逆に屋内部に魔物が潜んでいたり、大型の魔物によって踏みつぶされていたりする。もしかして市役所のような公共施設であろうか? 街の中心にあるひときわ大きな建物には多くの魔物が押し寄せているがそれを必死に食い止めているのは背の低い立派なひげを蓄えたおっさんと童顔の少女、それから耳の長い美男美女だった。あれがドワーフとエルフなんだろう。

 ファンタジーにおいての定番ではドワーフとエルフは不仲に描かれているがともに苦難を乗り越えようとしている様子。何の躊躇もなく互いに背中を預け合おうとする姿勢を見ればこの世界においてそんなことはないのだとわかる。

 しかし、おそらく籠城戦をしているであろう集団からポツンと孤立している場所に数名のドワーフとエルフを確認。その周囲にはおそらく彼らの仲間であろう亡骸と魔物の死体が散乱していた。

 うん。今まで散々魔物を討伐しておいて、それもついさっきまで盗賊とはいえ同族であるはずの人間を殺しておいて何を言ってるんだと我ながら思うが中々に()()ものがあるな。うん。

 さて、こんなことを想ってる間にいかにも古強者といった貫録を持つドワーフとみ目麗しいエルフが討ち取られる寸前になっている。

 いろいろ謎な部分も多いがまずは人助けからだな

「行ってくる…ッ!」

 返事も待たずにあの二人の元へ…ッ!



「大丈夫かい?」

 儂等にそう尋ねる人間。

 屈強な戦士じゃ。まずこれが儂の抱いた感想。目を引く(きら)めきを放つ黄金の鎧。決して下品な印象はなくむしろこんなこの世の地獄のような戦場において引き寄せられるような神々しさを醸し出しておる。

 その鎧に合わさっておるのが純白のマント。風に揺られ、はためく姿は童のころに夢に見た英雄を重ねさせる。

 しかし、それほどの鎧やマントをもってしてもその手に持っておる斧の存在感に勝てん。

 身の丈ほどの大きさはあり、荘厳な獅子を思わせるレリーフがある片刃の戦斧。その斧から放たれる威圧感。圧倒的な強者としての威厳と風格。

 儂はすぐに悟った。

 ()の戦斧には神が宿っておられるのじゃと

 そんな神の斧を握りしめておられるのは赤い髪と浅黒い肌が特徴的な偉丈夫であった。種族の特徴として背丈の低い儂等ドワーフからすれば見上げるほどの巨漢。しかし決して鈍重ではない。このことは

「オッラァ!」

 一瞬で距離を詰め、敵を一刀両断にしたことから明らかじゃ。

「彼はいったい…?」

 呆然と疑問を口にするエリッシュ。

 かくいう儂も開いた口がふさがらん。

 彼の御仁は儂等の近くにおった魔物のすべてを蹴散らして急に儂等を小脇に抱えた。

「こ、こりゃ! 何をするかよッ!?」

「は、離してください…ッ!」

 儂等はそれぞれ抗議しつつ降りようともがくが、なんぞコレッ!?

 儂はドワーフの種族性ゆえに背が低い。しかし儂は長年戦士としてそして本業の鍛冶師として己を鍛え上げ続けておった。当然それなりに筋肉もあって重い。儂自身もそうじゃが屈強にして勇猛たる儂等ドワーフの戦士。その武具もそれ相応の重量がある。結論から言って儂って相当重いはずじゃ

 なのにこの御仁は儂だけでなくエリッシュまで小脇に抱えよろめきもせん。まるで儂等ドワーフの戦士たちが総力を結集させて討ち取ったミスリルゴーレムにつかまれた時のようにビクともせん。

 ドワーフの中でも力自慢で腕相撲負けなしの儂でもこうでは華奢なエリッシュではどうすることも出来まいよ。

 儂等二人まとめて同じ小脇に抱えておるのは片手を開けて斧を扱うためであろうがハッキリ言ってこれは異常な光景じゃ

 そんな儂の想いはそっちのけで御仁は一目散に走りだした。

 どこへ行くのか?

 なぜ儂等だけ抱えていくのか?

 疑問が尽きないがそんなものは御仁が走り出した瞬間に街の中央にある儂等のとっておきの施設。「中央総合施設」に着いたことで終わらせざるを得なかった。

「ここでしっかり守るんだぜ? 『聖母の福音』」

 御仁は何かを言った。その瞬間

「こ、これは…」

「ハ、ハハハ。これは何かの夢ですかね…?」

 暖かく優しい光。それはまるでいい陽気の春の日差しのように心地よいものであった。その光が辺り一帯に広がったと思えばついさっきまで傷だらけであった儂やエリッシュはもちろんこの施設に逃げ込む際に傷を負ったのであろう者たちやココを守っておったであろう戦士たちの傷や疲労まで癒してみせよった。

 いろいろ起こりすぎて普段冷静で物静かなエリッシュが壊れたように現実逃避するように力なく笑っておる。

 かく言う儂も決して冷静ではない。きっと儂もエリッシュのように力なく笑っておるのだろう。最早自らがどのような表情をしておるのかもうかがい知れん。

 しかし、儂はそれよりも

「うん。これで大丈夫だな」

 儂等の様子をじっくりと見つめ

「後は任せな」

 猛々しく、見ておるだけでなぜか全身が奮い立つような気合が湧き上がってくる文字が描かれたマントを翻す背中から目が離せなんだ。



 やれやれ。これで大丈夫かね?

 イマイチ不安が残るがひとまず街の住民を一か所に集めなければ何も始められない。

 だがしかし、今市役所(仮)にいない人々はそれぞれこの街を守る戦士であることは世界眼で分かっている。しかも今オレが助けたドワーフとエルフはそれぞれの種族の大将であることも確認した。なんで大将が孤立していたのか疑問だがそれはあとで解明すればいい。

 とにかくまずはこの二人から運んだんだが、なんで施設防衛の戦士は無反応なんだ? 普通、オレのような得体のしれない部外者が来れば何かしらの反応はあってもよかろうに

 まぁ、反応がないわけじゃなくて、ただ単にいきなり現れた大将二人と部外者(オレ)に驚いているだけだと思うが…

 まぁ、何はともあれ攻撃されないのであればそれでいい。早速次の戦士たちを回収しよう。とその前に傷だらけの大将二人を回復させるか。

 そう思って最近すっかり出番がなかった光属性魔法で回復させた。ついでに防衛線に参加している方々と市役所(仮)に避難されているはずの街の住民たちにも効果が及ぶように範囲を拡張させた。これで戦闘によって受けた傷やけがはもちろん避難中にケガをした人がいても問題ないはずだ。

 突然の光に驚いたが聞こえるが、今はそんなことどうでもいい。

 それよりも重要なことがある。

 二人を運ぶ時に近くにリザードマンの死体があった。

 オレの事前調査によれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 この原因を調べなければならない。

 だがそれよりもまずは人命救助が先だ。もしもこのスタンピードが人為的なもの。黒幕的存在がいたとすれば人質となりかねない住民は一か所にまとめていた方がいい。

「うん。これで大丈夫だな」

 やるべきことははっきりとしたし、回復魔法効果範囲にいたすべてのドワーフとエルフは完全に回復できたのも確認できた。

「後は任せな」

 ドワーフとエルフそれぞれの大将に言う。

 引き受けると

 戦場に残った戦士たちも含めた人命救助。そして突然起こったであろうスタンピードの謎の究明。やることは多く、難しいが

「やってやろうじゃねぇか」

 オレは小さくつぶやいた。あぁ、難しいからこそ燃える。思えばあの森では基本的控えに回っていた。カウリア族の戦士たちを育てるためのこととはいえ、そろそろ一戦士(いちせんし)として爆発してもいいよな?



 さて、市役所(仮)に街の住民全てを避難させるために散策を開始している。

 探知魔法で周囲の情報には困らない。

 それによると魔物のレベルは思ったよりも低くレベル100に至っている奴も数える程度しかいない。これなら余裕だと思い早速リナに連絡。しかしリナはもう勝手に参戦していたらしい。

 まぁ、別に何かしらの指示を出していたわけじゃないんだし、別にそれでもかまわないけどもう少し自分の身を大事にしてほしい。

 まぁ、リナに心配をかけたオレが言うのも変かもしれないが…

 魔法でその様子を見てみるが全く問題なし。危なげもなく魔物を討伐し、人々を救出できている。もともと一族を率いてあの森で生き延びていたんだ。

 むしろオレよりも人を守りながらの戦いの経験は豊富なのだろう。

 そう納得させてオレはオレの戦いに集中する。といっても敵が弱すぎるので専ら住民を回収しつつ回復させるのが主になっている。

 そして、

「やっぱりこれはおかしい…」

 という結論に至った。

 なぜかと言うとオレが今まで倒した魔物を含めてこの街にいる魔物と討伐された魔物の種類はリザードマンを筆頭に蛇系統と劣竜(レッサードラゴン)が主だった。

 虫系統にトレント系統もいるが全体のほんの一部に過ぎない。本来であればこっちが多いはずなのになんでだ?

 そしてその疑問は森からいきなり上がった火柱が教えてくれた。

 まるで天を突かんばかりに伸びる業火の柱。その炎で森が焼き払われ、奥地にいた魔物の姿があらわになってくる。

「ドラゴン。それも土属性のアークドラゴンか…」

 ファンタジー定番のドワーフにエルフと続いて今日はやけに定番の種族と出会うもんだ。



『アークタートルドラゴン LV700』



『シールドドラゴン LV300』×10



『ロックドラゴン LV450』×5



『エルダーワイバーン LV700』×4



『グレートワイバーン LV600』×7



 以上が森から現れたドラゴンの内訳だった。

 まずはアークタートルドラゴン。カメの特徴を持った体長二十メートルは超えてる大型ドラゴンが姿を見せた。

 そして詳しく調べるとこれだけのドラゴンが隠れていた。あ、いや。ワイバーンは亜竜であってドラゴンではないか…

 オレにもよくわからんがワイバーンをはじめとして恐竜に似ていて名前にドラゴンとついていない魔物は亜竜に分類され、ドラゴンと区別されているらしい。

 理由は単純で亜竜とドラゴンではドラゴンの方が圧倒的に強く、亜竜は一芸に秀でてはいても攻撃力と防御力とスピードの基本スペックでは負けているらしい。

「解りやすく言えば単純に強いのがドラゴンで何かしらの特技が強いのであれば亜竜と憶えていればいいわけだ」

 さて、普通であればここは絶望すべき場面ではあろう。

 常識で考えればドラゴンに亜竜が群れを成しているのであれば考えるまでもなく災害そのものであり、人にどうにかできるような代物ではない。

 だがオレはそうと理解していてなお

「ワクワクしている…ッ!」

 今まで人助け優先で戦っていなかった。

 盗賊の始末は『作業』であって決して『戦い』と呼べるものではなかった。

 だがこのドラゴンたちであればオレが戦う相手にふさわしい。血沸き肉躍る闘争に色めきだっている自分がいる。

 そろそろ開放してもいいかもな。

「…行くぞ」

 戦いの始まりだ…ッ!

本日はもう一本投稿する予定です。

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