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赤いランドセル

作者: 吉田 明人

 いつものように教習所に向かっていた。別に買うものはないが、ショートカットのために商店街を通る。そうすると、たとえ教習20分前に家を出たとしても、余裕を持って受講できる。昔の姿は知らないが、ここの商店街は寂れて見え、シャッター街と呼ばれるにふさわしいほど活気がない。さび付いた看板、壊れかけた掲示板、昨日あった閉店を知らせる貼り紙はどこかへ行ってしまった。そんな疲れ切った景色の中では、ランドセルの赤い色は私の注意を引くには十分だった。

 厳密には、赤いランドセルを持った男だ。茶色のコートを着た中年くらいの男は、左手でランドセルをつかんで私と同じ方向へ歩いている。周りには小学生くらいの児童は見当たらないから、持ち主は彼で間違いない。当たり前だが、つかんでいるだけで一切ランドセルを背負うようなそぶりは見せないし、児童用のランドセルを持って歩いているということに対して人目を気に留めているようにも見えない。とはいっても、見ているのは私と、わが物顔で本棚を路上に置いている本屋の主だけだが。

 私は退屈だったので、この面白い光景を推測し始めた。彼はきっと児童を標的とした凶悪殺人犯で,今は被害者からの戦利品を自宅へ運んでいるのだ。人気があまりないこの商店街はうってつけに違いない。私は、凶悪犯の目撃者となり、逮捕に貢献したことを自身の輝かしい歴史とするのだろう。こんなとりとめのない妄想は500mも歩くと消えた。

 結局彼の正体は、親戚のためにお古のランドセルを譲りに来たおじさん、といったところだろう。私の視界から、3つ目の曲がり角で彼は消えてしまったが、その方向は、たしか民家が多くあるところだ。商店街を抜け、信号待ちをしていると、あることを思い出した。

今日は、春分の日だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミステリーなのかな?、と思わせておいて意外な展開でした。 こういうオチも逆にアリですね。 ほのぼのしてて良かったです。
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