~ワイノモイネンへの追悼~
ワイノモイネンがいかに極悪か、そこから始まる。
フィンランド叙事詩、カレワラの主人公、ワイノモイネン。
神話の世界でもっとも極悪、あのゲルマン神オーディンさえも凌駕する。
魔女ロウヒはワイノモイネンを毛嫌い、口も聞きたくない様子。
そんなあるとき、女剣士テレーズがやってきて、ワイノモイネンに見初められてしまう。
ワイノモイネンを大嫌いな詩人の魔法使い、ヨウカハイネンは、ワイノモイネンに魔法勝負を挑み、負けてしまう。
しかたなく妹アイノをさしだすが、アイノは母親に無理やり結婚させられそうになり、兄を恨みながら投身自殺。
そんなときに極悪じじい、もといワイノモイネンは、テレーズを見初めてしまった。
テレーズは何も知らぬまま、雪原へそりを進めていった。
金髪美女のテレーズは、分厚い毛皮のマントを羽織り、腰には細身の装飾たっぷりの鞘入り剣を装着していた。
そりをおりたテレーズの足取りは軽く、剣士らしさをちらつかせている。
テレーズに主人はなく、いわゆる傭兵として生計を立てていた。
古代の北欧では首長に仕えていたら充分だった。
テレーズは足元に豪奢な飾りのついた剣を見つけ、拾った。
「そ、そこは触っちゃいやん」
テレーズはびっくり仰天して剣を落としてしまう。
「いててて、おい姉ちゃん。たいっへん失礼だぞ、いきなり落とすやつがあるか」
「ふ、ふざけるなっ。剣がなぜしゃべる」
剣は自分で起き上がり、小さく飛び跳ねながら説明をはじめる。
「オレだってなあ、こんなになりたくてなったんじゃ、ねえや。じつはな、ワイノモイネン知ってるだろ」
「ああ。あの、超極悪で、魔法と金にものいわす、いやなジイさんだな。名前くらいは知っているが」
「あいつに呪いをかけられてしまった」
テレーズは、あんぐりと大口を開け、呆れていたようだ。
「何だよその顔。ほんとだぞ、ほんとだからな。それが証拠に、魔法を封じられてんだ。なあ、助けてくれよ」
「あたしがか。いったいどうやって助けたらいいんだい」
「わからん」
テレーズは握りこぶしを作ると、剣を殴った。
「ほんとだよっ、どうしたらいいか、オレも知りたい。なあ、あいつんとこ連れてってくれ」
「あいつって、誰よ」
「決まってるだろ、ワイノモイネン。あのくそじじいンとこいって、かけた呪いを解かせるしか方法はねえよ」
テレーズは疑わしそうな眼差しで剣をにらみつけている。
「信じてくれよ、姉ちゃん」
「その姉ちゃんはやめてくれ。あたしはテレーズ。まあ、連れて行くだけならいいでしょう」
とんでもない相棒を拾ってしまったものだ、とテレーズはため息をついた。
・歴史家タキトスによる記述から大公の存在があるようなので、アイスランドにのっとって「首長」がいるということにしてみた。
ただし魔女ロウヒの存在があったり、ワイナモイネンが最高の権力者だったことを考えると、ワイナモイネンが王であった可能性も否めない。