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《Liberty of Life》  作者: 魚島大
4章 He only requires that you try/ただ、挑戦することだけを望んでいる。
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42話 Girl of the shaft of light/光芒の少女

 なんかすごいことになってしまった……! というのが、ぼくの気持ちだ。率直に言って。だって、誰が内政プレイヤーの本拠地に呼ばれるなんて思うだろう!?


「スヴェン、これは大物になるな……」


 我が朋友ハヤトは他人事のようにつぶやいているが、この男もそれなり以上の有名人である。魔法と剣を高レベルで使いこなし、団長でありながらいの一番に敵に突撃していく姿勢は支持を集めており、またそのルックスは云々……。


 大体好評価である内容がこんな感じ。悪評はというと、首を突っ込んでくるとか、喋り方が気に入らないとか、まぁ誰にでもありそうなものだ。まぁその、首を突っ込んでくるということに関しては否定ができないけれど。まぁそれも個性だよね。


「半分くらいお前が巻き込んでいることを忘れるなよ。ハヤト。スヴェン君はお前みたいに自分から突っ込んでいくタイプじゃないことぐらいはわかる。ただ、なんだ。首は突っ込まないが周りが見えなくなることはあるようだな。そこはお前と似ている」


「そんな冷静に分析しなくていいぜ、まったくよ……」


 うげ。なんだか冷静にラート氏によって分析がされている。これは一体どういうことだ。まさかラート氏はプロファイラーだったのか。


 冗談はともかく、ぼくたちはそんな風に騒ぎながら馬車に揺られて皇宮へ進む。どうやら馬車に乗っているのはNPCのようで、ぼくらの騒がしい話についてくる気配は感じない。内政プレイヤーのNPCはぼくら一般で使われるNPCとちょっと違いがあると聞いたけれど、実情はどうなんだろう。


「それにしても、大変なことになったわね……」


 と、クリアミラがぼくの横でため息をつく。享楽主義者で笑い上戸とはいえ、彼女はここにいる面子の中では一番の常識人だ。ぼく? こんな派手なことをやらかすような男のどこが常識人なのかね。それくらいの自覚はある。正直、彼女にも迷惑をかけたかもしれない。それを口に出すとクリアミラは怒りそうだからやめておくけれど。


「まぁねぇ……さすがに、人が襲われそうになったら何とかしたくなるよねぇ……」


「妖精さんの場合は単にお人よしなのだと思うけれど? その辺の自覚はあるかしら」


 きりっとした切れ長の眼が、ぼくを見る。……一言で言ったら美人である。これから会いに行くお姫様のように、「絶世の」とか、「千年に1人の」とか、そういう枕詞はつかないけれど、クリアミラも現実にいたらまずお近づきになれない美人なのは間違いない。


「ちょっと? 聞いてるの?」


「聞いてるよ。……ぼくも、そのあたりの自覚はあるから」


 ぼくも男だから、無意識に比べるのは許してほしい。それにしても、ぼくの周囲、顔面偏差値高すぎじゃなかろうか。リアルを知っているのはハヤト──尊人だけだけど、それにしても……。うん、ぼくの地味さ具合が目立つね。


「ならいいけど……あんまり動きすぎて変なのに付かれないようにしないといけないかもね」


 うぇー。そういうのは勘弁してほしいなぁ。


「そろそろ皇宮に着きます。それ以降は案内のものが参りますので、門前で待機願います」


 全く話題に出さなかったから言いにくい。今の今まで城門を複数抜けてきているけど、この街どんだけでかいのか。さすがは内政プレイヤーの本拠地というべきか。川を広げて引き込んで河運にするとか普通考えないと思うんだけど、その点どうだろう。


「ま、それなりに勉強するとかすれば、できるんだろうが……さすがに内政プレイヤーがどんな風にLoLをしてるのかはさすがに俺にもわからん」


 ま、そうだろうね。


 今日の天気は晴れ。少し乾燥しているけれど、すっかり春めいてきて、気温も暖かい。空に目をむけてみると、青々とした空間。それがすぐに掴めるような、そんな気がした。ぼくはこの世界では空を飛ぶことができる。そのことが、ルクレーシャ皇女との縁を引き寄せたと考えると、ハズレ種族というのは、やっぱり違うかもしれないと思った。


 ひときわ大きく、明らかにこれまでとは防備の違う城門の前でぼくらは降ろされる。送迎馬車はいずこへと走っていき、ぼくらの前から消えた。


「さて、なんかすんごいことになっているわけだけど……ここで待ってればいいのか」とハヤト。さすがのこいつとはいえ、驚きの色は隠せていないようだ。……ぼくが原因じゃないぞ。ぼくが……。悪気はないのだ。


「ふむ……。それにしても、すさまじい防備というか、なんというか……」としげしげと城門を見、これまで超えてきた城壁を思い出しているのか、何か感慨深い表情になっているラート氏。彼からは驚きは見られない。わりと鉄面皮なので心中は驚いているのかもしれないが、実際はわからん。


「すごいねぇ、さすがは内政プレイヤーかな……」


 赤毛のエリアスはこの状況に驚くというよりも、ここまでしてのけたルクレーシャ皇女の方に意識を裂いているようだ。まぁねぇ、冒険者である彼女よりも大分華奢だったしねぇ……。


「妖精さん、あなたある意味すごいわよ。何せコネができてるもの」とクリアミラ。いやぁ、別にぼくにそういう意図はないのだけどね。


 あーあー、空は青いなぁ。

 

 ぼくがそういう風に意識を別のところへやりたいと願っている間に、城門の横の小さな扉が開き、マントを着た壮年の男性が現れた。うーん、いかにも案内役の風格を備えている。

 

「お待たせいたしました、こちらへどうぞ」


 あれ。貴族っぽい割りに言葉遣いは丁寧だ。ギャップ?


「おぉい、行くぞ、スヴェン」


 ぼくが思考を飛ばそうとしたところ、ハヤトがぼくに声をかけた。どうやらぼくの様子に気づいたらしい。


「あ、ごめん」


 案内人に案内され、城門ではなくその横の小さな扉から中へ入る。石と煉瓦を積んだ荘厳な城だ。城門の裏側には中庭が広がり、色とりどりの花が咲いている。防御能力は大丈夫なのだろうか。聞いてみよう。


「ここの防御は大丈夫なのでしょうか、今度は防衛イベントを行うと聞いていますが」


「殿下にお聞きください。私はただの政務官にすぎません」


 さすがにNPCには応えられないかな。まぁ別に明確な答えがほしかったわけじゃないから構わないけどね。


「細かな質問はすべて殿下が承ると聞いておりますゆえ、今しばらくお待ちください」


 中庭を抜け、階段を上がる。螺旋のようにぐるぐるとあがっていき、4階の扉で政務官は立ち止まった。


「こちらに殿下がおいでです」


 ぎい、と重い音を立てて扉が開く。


 ふわり、とかすかな香りが薫った気がした。


「ようこそ。お待ちしていました」


 吹き込んできた風に、長い金糸が揺れた。


「私が、アグボンラオール皇国代表、ルクレーシャです」


 さぁ、中へどうぞ? そう、促す声にぼく達は夢遊病者のようにふらふらと部屋へ入った。


「まずはお礼を言わせてください。先日の襲撃にあなたがたが対処してくれたおかげで、私も、難を逃れうることができました。ありがとうございます」


 ゆっくりとした動作で、彼女は頭を下げた。


「あ、えーと。その、助けられて良かったです。怪我は、ありませんでしたか」


 おお、あのハヤトが気後れしている。珍しいこともあるものだ。ルクレーシャ皇女は、わずかに微笑みを浮かべている。何を考えているのかはいまいちわからないけれど、ぼく達を呼ぶのだから、悪い話ではないのだろう。


「はい。あなた方のおかげで、問題ありませんわ」


 にっこり。


 光芒とした美貌から繰り出される微笑は、ハヤトをも照れさせるものであったらしい。


「そりゃ、よかったです」


「それで、一体なぜ我々をここに呼んだのですか、皇女」


 ラート氏が軌道修正を行う。やっぱりこの人はこういう役回りをやるものらしい。そういうところを見込まれてハヤトの補佐についているのだろうが、それにしてもハマリすぎである。


「今度の防衛イベントの話です。あなたがたには、今いる街を防衛して頂きたい。第3の街は、もっとも北に位置する町。敵の攻撃がもっとも熾烈になるであろう場所です。だからこそ、最大戦力となりえるあなたがたが必要というわけです」


 皇女は、座るいすの後ろに手を伸ばして巻物をとった。しとやかさを感じさせる仕草だが、言い知れぬ迫力があった。


 地図には現在の皇国の大まかな位置関係と、防衛陣が描かれていた。確かに、ファレストピークは一番北に位置している。


「1から5の街を基点として、五角形に陣を構築します。私のいるこの皇宮は、あなた方のいるファレストピークの南東。2の街テトラパッカとちょうど中間点にあります。実際には私も前線に出ますので、ここは余り関係ありませんわ」


 さりげなく付け足された一言に全員が度肝を抜かれた表情をしたが、皇女は何も気づかなかったかのように話を進めた。


「街というより、国そのものを要塞化するのが目的です。そのために、北の地は重要になりますから、よろしくお願いします、皆さん」


 あれよあれよといううちに話が決まってしまったが、頼られるということは、好意的感情を起こすものだ。みんな、やる気の顔。


「それで、ですね。私が前線を視察する際に、護衛を頼みたいのです。『翼の人』に」


 ……ぼく!?


「スヴェンに?、ですか」


「ぼくに……?」


 皇女は、「レベルではないのです」と続けた。「私が、スヴェンさんならば任せられると、そう思ったから……お願いできますか?」と。


 ぼくの近くまで、彼女が寄ってきた。近くで見られると、正直、自分が別世界に紛れ込んでしまったのではないかと思わせる。少なくとも彼女は、魅惑的な女性だ。


「私は、あなたに守ってほしい」


 あ、これは無理だ。断れない。


「……わかりました」


「よかった。ありがとうございます。スヴェン」


 ルクレーシャ皇女は、気が抜けたようにふわりと微笑んだ。もしかしたら、ほかの人たちは、ぼくに隠れてその笑みを見られなかったかもしれない。


 言い換えよう。彼女は魅惑的だが、同時にかわいい。


 



ここまでお読みいただきありがとうございました。次回投稿は未定ですが、気長にお待ちくださいませ。ブックマーク800件突破ありがとうございます。自分のペースで恐縮ですが、これからも頑張ります。

それでは、次回43話でお目にかかりましょう。

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