41話 Beer-Splash!/派手に騒げ!
説明回。会話多め。
お祭り騒ぎ。まさにその一言が似合う状況だった。ぼく達も、そしてLoLの掲示板も。まるで爆発でも起きたような騒ぎだった。本来ならお姫様の演説はもう少し続くはずだったが、妖魔の襲撃を受けて中止された。それは当たり前のことだったけど、あれだけ派手なことをしたら事態がとまっているわけがない。ぼく達が戻ってきた《ライディーン》の拠点では、そう、例えるなら優勝した後のビールかけのごとき様相を呈していた。
「やってやったぜ! おい見たかあの観衆の驚いた顔をよ!」
ハヤトはずーっとこんな調子だ。コーラのような炭酸飲料をがぶ飲みし、気がついたらぼくの頭にぶっかけてくる。こんなことをされてはこちらだってハヤトに思い切り振った炭酸飲料をぶつける位当たり前のことになる。あとはもう、男集団が馬鹿騒ぎだ。
「あそこまで派手にやってのけると、皇国側から何らかのアクションがあるだろうな。一気に有名人だぞ、スヴェン君」
正直なところ、あれは戦いの高揚に呑まれていたというか……いやまぁ、かっこいい言い方をすればそうなるのだけど、実際のところは、テンションが馬鹿上がりしていたというのが正しい。ある意味、心ここにあらずだったというわけだ。ぶっちゃけ、冷静になってみると、少し後悔している。
「そんなに有名になるとは思いたくないなぁ。ぼくはこれでも地味かつモブで通っているのだけど」
というぼくの言葉に、ラート氏は苦笑いを浮かべた。派手な行動をしたのはぼくだけど、あれはテンションが上がった結果であって、いつものぼくではなかったのだ。本来ならば、こういう派手な役はぼくではなくハヤトがやるようなことで、ぼくはそれを見て1人で笑っているのが基本だったのに、どうしてこうなった。……まぁ、つい体が動いちゃったんだろうなぁ。あのお姫様が美人だったからというよりは、もうとっさにだよね。誰も動けない──動けるのがぼくだけなら! そんな感じだった。
「スヴェン、正直なことを言うと、半妖精を引き当てた時点でもう地味じゃない。派手な人生ならぬゲーム生になるぜ?」
「ヴぇー。勘弁してくれよハヤト」
ぼくののんびりゲーム生活が……。嘆いてても仕方がないのは分かるけれど。まぁ別に無茶苦茶なことにはならないだろうし、掲示板だってなんだかんだすぐに別の情報に流れていくだろうから大丈夫大丈夫。
「それにしても何であんなところにモンスターがいたのかしら?」
誰しも疑問に思っていただろうそれをクリアミラが口に出す。その瞬間、どちらかというと緩かった空気はピシリと引き締まった。
「内政プレイヤーには時折刺客が送られるとの噂を聞いたことがある。恐らくそれだ」
ラート氏ならずとも、《ライディーン》のメンバーは情報に通じている。それに、レベルが高いから、ぼくらが知らない裏話を知っている可能性が高い。
「それに加えて、今回のイベントはストーリーライン+全種プレイヤー連動型だからね。イベントの正式な開始はまだだけど、前哨戦は既に始まっているってわけ。貴女も告知をみたでしょう?」
「ええ……」
エリアスとクリアミラの会話はこちらにも漏れ聞こえてきていたが、ぼくにはいくつか疑問符があった。傍らで炭酸飲料をがぶ飲みしているハヤトに聞いてみる。
「全種プレイヤー参加ってのは?」
「告知まだ見てないんだったな、スヴェン。内政、生産、一般が全員参加するってことだ。防衛線イベントだ。北から怒涛のように敵が攻めてくるぞ」
「なるほど、ファンタジーよろしく戦争するつもりか」
「大体あってる」
誰かが、「スヴェン君の発想物騒なんですがそれは」とかつぶやいた気がするが気にしない。気にしないったら気にしない。
ぼく達が守る場所は恐らくこの樹の街だ。北側と西側にぐるりと二重の城壁ができている。妙にそちらだけ厳重だと思っていたけど、それが理由だったのか。
「ストーリーラインに関わってくるってことは、これから色々動き出すって事。普通に俺たちも冒険者をやってていいわけじゃないのさ」
「つまり?」
「北になんであそこまで敵が集中しているかわかるか、スヴェン。ファンタジーの典型的な敵があっちにいるからさ」
なるほど。ストーリーってのは、それを倒しに行くって事か。
「今すぐじゃないし、ぶっちゃけ魔王ってのはクソ強いらしい。トップ集団とガチでやりやって引き分けたからな」
ラスボスがそんなぽんぽん出てきて恥ずかしくないんですか?
冗談はともかく、トップ集団はあの、あれか。西の騎士団連中?
「そうだ。引き分けた理由はただ単純に向こうが強かったのと、特定まで体力は減らしても、すぐに回復されるという理由らしい。掲示板にもスレが立ってるぞ」
ハヤトがそう言ってこちらにホログラムを飛ばしてくる。そのホログラムの画面には、『暫定ラスボス魔王強すぎワロタwwwwwワロタ……』というスレッドが立っていた。これ掲示板立てた人特定されるんじゃないの?
「いや、魔王自体にレベルが足りていれば挑めるらしい。……ただし倒せないってだけだ」
なるほどね。大体のことは理解した。それで、イベントそのものは一体全体どういうことなんだ?
「簡単さ。今内政プレイヤーが広げた人類の勢力範囲に満々たる妖魔の大軍団が攻めてくるってわけさ」
「それがストーリーの始まり? 随分とど派手なことで」
「燃えるだろ? 人類存続をかけて戦えるんだぜ。ゲームにログインしている全員が協力してな」
ハヤトは気炎を上げている。楽しくて仕方がないような笑いが口元にはあった。ハヤトは昔からこういう趣旨のゲームが好きだ。正確には男性には受けのいいゲームということだけど。ぼくだって、こういう趣旨は嫌いじゃない。男なら誰しもヒーローになりたがるものだし、こういうのもいい。
「君はそういうの大好きだからな」
「お前は違うのか?」
「君ほど熱中していないけど、嫌いじゃないよ」
『演説のときのあの戦ってた連中ライディーンだろ?』
『ラートニキの声相変わらずカッコヨスギィ!』
『エリアスネキの大剣ほんとすこ』
掲示板のうち、《ライディーン》専用掲示板には、そんな風な文面がたくさん乗っていた。ぼくのことは《ライディーン》の美名に隠れてそんなに表現されていないと思っていた。だけれども、どうやらそんなことはなかったらしい。
『あの飛んでたやつってライディーンメンバーじゃないよな』
『翼が出るような種族ライディーンに所属してないはず』
『新規に入ったらハヤトニキが紹介してくれるはずだけど、紹介がないからメンバーじゃないね』
『それでも仲良さそうだったぞ』
『リア友いるだろ、そいつじゃね?』
『そういや、半妖精らしいな』
『今調べてきたけど、半妖精って翼が生えるらしいぞ。特定のレベルを超えると、だが』
『じゃあそいつだな』
あれっ。知らないうちにぼくの存在までもが明るみに出ている。なぜだ。これじゃ静かにプレイができないかもしれないぞ。
そんな風にぼくが自分の今後についてどうしようか思案をしていると、驚きの表情でライディーンのメンバーがぼくたちのいる部屋に飛び込んできた。
「ハヤト! ライディーンの幹部と、えーっと『翼の人』を皇女殿下がお呼びだ!」
「えっ」「は……?」「なんだって?」「ええ!?」
言葉は違うけれど、部屋にいたぼく達の口全員から驚きの言葉が漏れ出た。《ライディーン》はもともと今回のイベントに向けて召集がかかっていたけど、まさかぼくにまで来るとは。
「あら、出世したわね。妖精さん」
「冗談言っている場合か、君もだ!」
軽口を叩いているクリアミラにそう言い返して、ぼくは追加の情報を彼に要求した。
「で、皇女殿下はどこで会うって?」
「皇宮だ。この街から東に行ったところにある。この町の入り口には馬車が待機しているぞ」
「えらい早いんだな。アスカル、留守は任せる。ラート、エリアス、行くぞ」
「ぼくもか。……クリアミラ、ついてきて」
「仕方ないわね……」
ここまでお読みいただきありがとうございました。次回の更新は未定ですが、気長にお待ちください。それではまた次回42話でお目にかかりましょう。




